(前回からの続き)
前回、国家権力が金(ゴールド)を国民に強制拠出させてでも集めようとするのは、インフレの危機が高まっているとき、と書きました。このあたり、個人や企業などがインフレヘッジに金を持とうとするのと違いはありませんね。
ですが・・・たしかに中国のような、自国の通貨価値の裏付けに米ドルや米国債などを用いている国々(って大半の新興国)はそのとおりだとしても、では、そのドルの発行国であるアメリカ・・・とかEUや英国や日本のように、おもに自国の国債に裏付けさせて通貨を発行している国々の場合はどうでしょうか・・・
・・・って、これも同じくインフレが契機となります。つまりその通貨発行国が通貨管理に失敗した―――インフレを制御できなくなってしまった(あるいは、できなくなってしまう可能性が高まった)―――結果、その通貨建ての国債の価値が暴落するから、当該通貨の価値を維持するためには、その減った分の価値を金で埋め合わせる必要が生じる、といった具合でしょう。そして実際、アメリカもEUも(ついでに英国も)そうなりつつあるわけです。その具体的なさまの一端が、こちらの記事に書いた、各国の中央銀行が競うように緩和的な金融政策(QE)を打ち出すという「緩和競争」に表れているといえるでしょう。
なお同記事でも述べたようにこの競争、緩和した方が「負け」であることをしっかり認識することが重要です。なぜならQEとは「インフレを起こしますよ」、もう少し具体的には「実質利回りをマイナス(=名目金利-予想インフレ率<0)に誘導しますよ」ということで「インフレファイター」であるべき中央銀行がその使命を放棄すること(≒敗北)にほかならないからです・・・っても、いまの金融界では「非伝統的」といった表現で微妙にこのへんを匂わせているものの(?)「それが何か?」といった乗り?でこれが平然と行われるところが「異次元」なわけですが・・・
しかし・・・この手のことを延々と続けて無事であるはずがない・・・って当たり前ですがこのQE、実質的には中銀による国債の直接引き受けであり、通貨増発に歯止めが効かなくたってしまうから、結局はコントロール不能のインフレを招きかねません。本当にそうなってしまったら人々は、当該国の通貨なんぞ、インフレで使い物にならないため、かわりに・・・金を復活させる、つまり金貨とか金地金を価値の保存手段とか媒介物として使うようになるでしょう。となると逆に通貨発行体としての中央銀行や政府の権限及び信頼は失われてしまう・・・
・・・って、それがマズイから、インフレ制御に失敗した(あるいは、しつつある)国家権力は、自分たちが金を独占的に保有し、国民には所有を禁止して、かわりに自分たちの通貨を無理矢理使わせようとするわけです。この場合、上記のように、かき集めた金を中銀の資産に充当することに使って、インフレで失われた自国通貨の価値を回復させようとするだろう、と考えています。