細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『私の、息子』で吐露される、バカ息子への母親の温情。

2014年05月20日 | Weblog

5月16日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-051『私の、息子』Pozitia Copilului (child's pose) parade films hai-hui entertainment ルーマニア

監督・カリン・ペーター・ネッツアー 主演・ルミニツゥア・ゲオルギウ <112分> 配給・マジック・アワー ★★★★☆

ブカレスト市内に住む母親ルミニツアは、30になるひとり息子が定職を持たずに、妻との離婚の話も出ていて、気が気でない。

そんな時に、そのバカ息子は郊外で、運転していた車で交通事故を起こして、少年を過失致死させてしまう。最悪の事態だ。

非常に端正な演出の人間ドラマで、作為的な背景の音楽もなく、交通事故のシーンもなく、すべては冷静な会話で事態が知らされて行くのだ。

人間の心の問題を描くドラマというのは、不思議なもので、その国の体臭のような感性が自然ににじみ出てくるが、この作品もまずそれを感じる。

ルーマニアという東欧の空気なのだろうが、あのミヒャエル・ハネケ監督や、アスガー・ファルファディの「別離」のような、硬質な、あれ、だ。

原題タイトルの意味は「胎児の体勢」なのだという。つまり、母の体の中にいる胎児は、その運命も行方もほぼ決められている、とでも言うのだろうか。

見ていて、たしかに性格が気弱で繊細で暗く、意思決定の奥手な息子を見ていると、ついつい母親がテをだして、こまめに面倒をみようというのも、判らんでもない。

しかも、ブカレストという都会は、その住民の生活感覚が、われわれ日本人よりも裏読みが複雑というのか、金銭的な裏工作に神経質なのがドラマを締めつけて行く。

たしかに過失であっても、巻き込まれ型の事故での示談というのは、金銭問題よりも被害者家族との感情的なもつれが複雑であり、アタマが痛い展開なのだ。

その問題を通じて、この「バカ息子」との問題解決に悩み抜く母親の姿は、ポン・ジュノの秀作「母なる証明」に匹敵するドラマとしての厚みを見せて、実にお見事だ。

出過ぎた母を演じるルミニツアの名演技が見もので、これは父親とは違う「産みの苦しみ」が滲み出て秀逸だ。

どこの母親から見ても、9割は<バカ息子>であり、それでも<目に入れても痛くない>存在なのも、よく判る。ベルリン国際映画祭で最高賞受賞の実績も、よく判る。

 

■渋い当たりだが、文句なしのレフト・オーバーのホームラン

●6月21日より、渋谷Bunkamuraル・シネマなどでロードショー 


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