病気や事故で視力を失った「中途視覚障害者」の支援に、インターネットを活用して情報提供する「スマートサイト」が広がりをみせている。眼科医が、スマートサイトから専用のリーフレットをダウンロードして患者に手渡し、相談窓口の紹介などを行う。中高年の人が突然視覚障害になると、支援は不十分なのが実情で、患者や家族にとって大きな支えになりそうだ。(服部素子)
◆支援窓口知らぬまま
「大阪版スマートサイトの『大阪あいねっと』が、いよいよ始動するんです」と話すのは、視覚障害者をサポートする非営利団体「きんきビジョンサポート」代表の竹田幸代さん(54)。
竹田さんには苦い記憶がある。中学1年で網膜色素変性症と診断されたが、そのとき医師に告げられたのは「将来、視野が狭くなって見えなくなる」ということだけだった。「いよいよ悪くなって福祉事務所に障害者手帳をとりに行くまで」(竹田さん)、視覚補助具や視覚リハビリテーション、患者団体の存在なども知らず、25年が過ぎたという。
近年は高齢化により、緑内障や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などによる中途視覚障害者が増加。2030年には200万人に達するという予測もある。
「盲学校などとのつながりのない中途視覚障害者は、相談窓口や具体的な支援を行う施設を見つけるのはとても難しいんです」。竹田さんは自らの経験を踏まえて訴える。
◆残された視力を活用
「スマートサイト」は、米国眼科学会が05年に開設したウェブサイトが発祥。両眼とも視力が0・5以下、視野が正常の半分以下など一定の条件の患者に渡すリーフレットを、眼科医がダウンロードできるようにした。
「大阪あいねっと」は、大阪府眼科医会をオブザーバーに、府・市の視覚障害者福祉協会など9団体が連携。近く、府眼科医会のホームページを通じて利用できるように準備を進めている。
府眼科医会の医師は、リーフレットの提供とともに、視覚障害者の残された能力を最大限活用し、生活の質向上に役立つ「ロービジョンケア」など、医療面でのフォローにあたる。
ロービジョンケアは、中途視覚障害者に医療や教育、福祉などの面で支援を行う総称。残された視野や視力を使ってよりよく見える工夫をアドバイスしたり、白杖(はくじょう)などの正しい使い方を学べる施設を紹介したりしている。
「眼科医は治療には熱心だが、その後は福祉任せだといわれてきた。大都市部でのスマートサイトの立ち上げは大阪が初」と同眼科医会の岡田安司担当理事(58)は話す。
◆ハローワーク連携
日本眼科医会によると、7月末現在、全国で運用されている地域版スマートサイトは20道県。平成28年以降は秋田や富山、愛知、広島など9県でも開設され、ハローワークなどとも連携して支援分野を広げている。
22年に国内で初めて地域版スマートサイト「つばさ」を立ち上げたのが、兵庫県眼科医会。リーフレットには、音声パソコンやタブレット端末、拡大読書器の操作などを学べる施設、患者同士が交流できる団体などを掲載している。山縣祥隆理事(63)は「さまざまなサポート団体の存在を知る一助として、スマートサイトの役割はいっそう大きくなる」と話した。
「大阪あいねっと」開設へ向けて話し合う竹田幸代さん(右から2人目)ら参加団体の関係者
地域版スマートサイトの開設状況
広島県版のスマートサイト「もみじサイト」
2017.8.22 産経ニュース
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