馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

黒毛和種子牛3ヶ月齢の橈骨遠位骨幹部斜骨折のdouble DCP固定

2016-08-29 | 牛、ウシ、丑

きのうは当歳馬の骨盤のx線撮影だけ。

講演の準備はずいぶんはかどった。

昼から3ヶ月の黒毛が転倒後に前肢を開いてしまうのが来るという。

神経麻痺?と思っていたら・・・

橈骨が内反している。

X線撮影したら、橈骨骨折だった。

骨幹部遠位の短斜骨折だが、骨折部は粉砕している。

変位も異常可動もひどくないが、内反方向へは動く。

離乳しようとつないで置いたら、ひっくり返っていてナス環が壊れていたので、暴れて倒れたのだろう、とのこと。

キャスト固定で治せないか考える。

治るかもしれないが、キャスト内でずれるかもしれない。下肢とちがって骨の周囲に筋肉があるので遊び無くキャスト固定するのは難しい。

キャスト固定とトマススプリントの併用はかなり良いだろう。ただ、確実性にかける。

飼い主さんは手術してでも治して欲しいと迷いなく言う。

手術台上で仰臥、プロポフォールの点滴で麻酔維持する。

気管挿管もしている。

入れるプレートの種類を考える。

LCPは考えたが、経費の点で却下。

ブロードDCPを頭側に1枚でいけるか? 子牛の骨は柔らかいし、粉砕骨折なので固定しても強度が弱いかもしれない。

体重はもう115Kgあった。

プレートを2枚入れるならナロー2枚でいけるだろう。実物大でプリントアウトしたX線画像では骨幹部はかなり細い。

ブロードとナローの組み合わせはオーヴァーサイズだ、と考えた。

入れる部位と皮膚切開はどうする?

変位はほぼ完全に整復することができた。

これならminimally invasiveでやれるだろう。

double platesにして、皮膚切開を大きくすると皮膚の癒合や感染も心配になる。

minimally invasiveでやるなら、橈側手根伸筋の下にプレートを入れるのは難しい。

橈側手根伸筋の外側に1枚。そして、内側に1枚入れることにする。

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吊るした前肢を、内反を直すように圧迫したら変位はほぼ完全に整復できているので、

そのまま骨折線をまたぐようにラグスクリューを入れて仮固定しようか考えたが骨折部が粉砕しているのでやめた

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できれば成長板をまたぐ固定はしたくないが、骨折部が遠位であり、粉砕しているので、骨端までプレートを伸ばして、骨端部にスクリューをいれなければ強度が足りなさそうだ。

で、

9穴のナローDCPを頭外よりに入れた。

骨折部の1つの穴にはスクリューは入れなかった。

DCPをminimally invasiveで入れると、骨の表面を見ながら手術するわけではないので、DCPを骨に完全に沿わせるのが難しい。

スクリューをDCPのスクリュー穴にしっかり入れるのも難しい。DCP用のドリルガイドはLCP/LHSのドリルガイドとちがって正確に位置と角度を定めることができない。

それが利点でもあるのだけれど。

子牛の骨は柔らかい。とくに骨端部は柔らかく感じた。

やはり、内側にもう1枚DCPを入れることにした。

できれば術後にキャストはしたくない。

一番遠位のスクリューやDCPの端が関節を傷つけないように。1枚目のプレートへのスクリューに当たらない位置にスクリューを入れられるように2枚目のDCPの位置を決める。

まあ、DCPへのプレートスクリューは入れたい角度に入れられる。

気をつけたつもりだが、当たってしまうスクリューが数本あった。

遠位部はひどく柔らかくて、スクリューが効かない。

橈骨はその名のとおり”撓(たわ)ん”でいるので、横からまっすぐなプレートをうまく乗せるのが難しい。

骨折部にかかるスクリューは骨折部を貫通するようにポジションスクリューとして入れた。

馬とちがって尺骨が遠位部までしっかりある。

尺骨も折れているのだけれど、橈骨の骨癒合に合わせて自然に骨癒合してくるのを期待する。

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成長板をまたぐ内固定をしたので、6-8週間後にはプレートを抜かなければならない。

できれば1枚ずつ、3-4週間の間隔をあけて抜きたい。

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仔馬の橈骨骨幹部骨折は、ブロードプレートを頭側へ入れる内固定手術がAOで推奨されている。

もちろん仔馬の体重にもよるのだろう。

しかし、横骨折や短斜骨折はプレートが折れ易いし、粉砕骨折だと骨折部が弱いので、double platesが良いだろうと思う。

今回の手術時間は2時間半だった。

新兵器があったからね。

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発症してすぐに連れて来られたことも幸いした。

時間が経って、変位がひどくなったり、開放骨折になったり、骨折部がもっと割れてしまったら、もっとたいへんな手術になるところだった。

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今日は休みだったので朝涼しい間に草刈り。

もう涼しくなったので・・・・と思ったが、好天で気温上昇。

2時間草刈りしたら疲れてしまった。

午後は会議。

今日は、この夏一番の気温だったらしい。

なんてこった。

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オラは日中ログハウスで寝てる

風が通って気持ちいい

父ちゃんが来ても

おやつ持ってないときは出てかない

 

 

 

 

 

 

 



6 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2016-08-29 21:37:13
 カラフル文字ですね。
 秘密兵器、今回も活躍したのですね。
 牛さんとおんまさんの骨はずいぶん違うものなのですね。悩ましい。
 素人ながら、ラグスクリュー出番か?とかプレートは画像下にはもっと延ばしてたわんでるとこを超えなくていいのだろか?とか、覚醒時、大丈夫かなぁ、とまるでこの牛さんの身内か?というくらい気になったりしました。
 オラ君、お寛ぎですね。無駄な動きはしない男なのですね。すっかりオトナ犬。
 まるで超大型犬のお家のようなカウハッチ。あれは安全なのでしょ?
 hig先生、やはり草刈りに特殊部隊必要でしょか。熟考の末、却下でしたけど。手術より大変?って、さまざまにすごいです。
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>はとぽっけさん (hig)
2016-08-30 05:21:49
今回のは秘密兵器ではなく、今年からの新兵器です。期待以上の大活躍をしてくれています。
牛の橈骨骨折内固定は初めてでした。練習はしてましたよ。馬では何度もやっています。でも手術前も手術中も頭もフル回転でした。それで考えた課題と思考過程を書きとめておこうと色文字にしてみました。

草刈りのためのヤギのレンタルなんてのもあるらしいですね。

相棒用のカウハッチの様なケージもあるんですが、使わなくなってしまいました。閉じ込められるのは嫌なようで;涙
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Unknown (piebald)
2016-08-30 10:38:36
 新兵器は、あの電動ドリルですか?使いやすい道具は、快適に時間短縮してくれるんでしょうね。
 子牛ちゃん、痛い思いをしちゃいましたが、良い運も持っていたようですね。
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>piebaldさん (hig)
2016-08-30 20:39:39
そう充電式ドリルです。思っていた以上に使いやすいです。

まだ安心はできませんが・・・
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Unknown (豆作)
2016-08-31 00:07:32
いやーすごいですねー。
牛の診療地帯にも、少しづつ
骨折の内固定に意欲を見せる獣医師が出ているようで
彼らが頑張ってくれることを願ってますが
私には、高い山を麓から見る思いです。
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>豆作先生 (hig)
2016-08-31 05:15:39
各地で、骨折した牛が内固定で治してもらえるようになるなら喜ばしいと思います。
われわれの年代の獣医師は環境を整えたり、応援してやってもらいたいです。せめて芽を摘んだり、足を引張ったりしないように;笑
手術で肢を引張るのはイイですけど。

台風はそちら方面がひどかったようですね。気をつけて来てください。
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