馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

蕁麻疹 urticaria

2006-05-09 | 皮膚病

以下、Equine Internal Medicineより

 蕁麻疹は、膨疹、浮腫、そしてしばしば掻痒を特徴とする馬の結節性皮膚疾患である。ほとんどはⅠ型過敏反応によって起こる。しかし、蕁麻疹は圧迫、日光、熱、運動、ストレス、薬などの免疫以外の要因によっても引き起こされる。競走前のストレス、昆虫あるいはクモなどに咬まれること、細菌感染、局所への駆虫剤、全身投与された薬剤(ペニシリン、フェニルブタゾン、アスピリン、グアイフェネジン、フェノチアジン、キニジン、ストレプトマイシン、オキシテトラサイクリン)、飼料、石鹸、保革剤、ワクチン、蛇による咬傷、吸入物、植物が馬に蕁麻疹を起こしうる。著者の経験によれば、蕁麻疹は昆虫への過敏やアトピーのありふれた徴候である。蚊がたかると当たり前のように蕁麻疹が起こる。

 蕁麻疹の起こりやすさに年齢、性、種類によるかたよりはない。病変は素早くあるいはゆっくり起こる。部位は限局することもあり全身に出ることもある。病変は盛り上がり、触ると冷たく、押すとへこみ、そして血清や血液がしみ出ることもあり、しみ出ないこともある。掻痒は様々である。まれではあるが、病変は合体して異様なパターンを形成する。

 蕁麻疹は通常認めやすいが、その原因を特定するのは難しい。急性の蕁麻疹(6週間以内)の原因は慢性の蕁麻疹(6週間以上)の蕁麻疹の原因より特定しやすい。詳細な病歴が重要である。答えるべき重要な質問は次のようなものである。

1.副腎皮質ステロイドに反応する蕁麻疹か? このことは、アトピー、昆虫への過敏性、あるいは食物アレルギーのようなアレルギー性の原因を示唆している。

2.病変の発現は全身投与された薬剤や局所投与薬と関係しているか? これは薬物反応であることを示唆している。

3.ハエよけ剤は蕁麻疹を悪化させるか、あるいは緩和するか? 蕁麻疹を悪化させるならアレルギー性の接触反応だし、緩和させるなら昆虫への過敏症であることを示唆する。

4.病変は馬を24~48時間馬房へ入れたり、別な環境へ移動すると良くなるか? もしそうなら、これは蕁麻疹が環境の原因(土、敷き料からのホコリ、乾草、飼料、止まり木の鳥の羽毛)によるものであることを示唆している。

5.病変は、馬を放牧するのを止めると良くなるか? イエスなら、蕁麻疹の原因として植物性抗原が示唆される。

6.病変は餌を変えると良くなるか? 臨床症状が改善されるなら食物性のアレルゲンや飼料から吸入されるアレルゲンが示唆される。

病変が外見上異様であったり、慢性化していたり、滲出性であったりする症例では、皮膚の生検をして結節性の疾患の他の原因を調べるべきだ。局所の組織所見は血管拡張、真皮の水腫、軽度から中程度の血管周囲への好酸球の浸潤である。血球計算や血清生化学検査は有益であることは少ない。高価あるいは複雑な診断のための検査を始める前に、可能性のあるシャンプー、クリーナー、石鹸、他へのアレルギー反応を除外するべきだ。慢性の蕁麻疹を示すすべての馬は、皮内反応を依頼する前に、飼料変更を試してみるべきであり、5~7日間別な環境へ移してみるべきだし、昆虫をコントロールするプログラムを試してみるべきだ。皮内試験はアレルゲン吸入性皮膚炎の原因を特定する上で最良の方法である。皮内試験の前1週間は抗ヒスタミン剤やトランキライザー、4週間は副腎皮質ステロイドを投与してはいけない。

 治療は、もし可能なら原因を除去することである。12時間ごとのヒドロキシジン200~400mg経口投与は、急性、慢性の蕁麻疹のほとんどの馬で蕁麻疹の腫脹を消すことに効果がある。もし、ヒドロキシジンに反応しなければ、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与のプレドニゾン1mg/kgが短期間(1週間以内)は有効かもしれない。

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Eqintmed_1  Equine Internal Medicine。

馬の内科学の教科書。臨床家が使いやすいようにも編集されている。

POSを基本概念として取り入れているから。

POSは欧米では獣医臨床教育にも取り入れられているのだ。

馬の臨床家は手元におくべき本かもしれない。

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S.I.先生、こんなもんでどうでしょう?


5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大変ためになりました。蕁麻疹はよくみるものでは... (S.I.)
2006-05-10 11:08:46
大変ためになりました。蕁麻疹はよくみるものではありますが本当に原因を特定するのが難しい病気だと思います。また、環境を変えること(厩舎、食餌の変更)は厩務員さんのご理解がなければなかなか難しく、すぐに治すことを要求されてしまうためステロイドと強肝剤でとりあえず抑えることが先決になってしまっていました。しかしやはり原因を特定しない限り再発を繰り返してしまいます。今後は厩務員さんに蕁麻疹とはをしっかり説明し協力していただいて、今回のフローチャートをもとに原因追求を心がけていきたいと思います。
hig先生有難うございました。
蜘蛛を食べると、蕁麻疹になると聞いたことがあり... (スー)
2006-05-10 21:06:32
蜘蛛を食べると、蕁麻疹になると聞いたことがありますが本当でしょうか?

蕁麻疹になっても、特に治療はせず様子を見ていたら治ったのですが、やはりなにかしら治療を施した方が良いのでしょうか?
(原因は、多分昆虫か植物だと思うのですが)
獣医さんがすぐに来てくれないこともあり、処置に迷います。
>S.I.先生 (hig)
2006-05-10 23:09:02
>S.I.先生
 まあ、対症療法も大事です。実際にはアレルゲンを特定するというのは難しいことが多いと思います。
 USAで皮内反応で何種類もの草に過敏だと判定された馬を見ました。馬が草にアレルギーでどうするんだと思いますが、人だって米や蕎麦に過敏な人もいますよね。

>スーさん
 クモを食べてもそうそう蕁麻疹にはならないように思いますが、良く知りません。
 人でも蕁麻疹が出ても、何が原因か分からないまま治まっていることが多いのではないでしょうか。治まって、繰り返さないならそれでOKでしょう。
 薬疹とかペニシリンショックは、獣医師としては怖いのですが。
残念ながらヒドロキシジンは競走馬には使用できな... (S.I.)
2006-05-11 12:10:23
残念ながらヒドロキシジンは競走馬には使用できないようです。やはり抗ヒスタミン剤は鎮静作用があるため休養できる馬でしか使えないようですね。とても残念です。
>S.I.先生 (hig)
2006-05-11 20:43:43
>S.I.先生
 そうですか。するとやはり原因を特定したいところですね・・・・。
 

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