アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

ノルウェーのホロコースト

2016年08月03日 | バイオリン
ノルウェーでもホロコーストが行われたことは日本ではあまり知られてないと思う。私も、「希望のヴァイオリン ホロコーストを生きぬいた演奏家たち」(ジェイムズ・A・グライムズ)を読むまでは意識したことなかった。

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知られていない理由のひとつは、元々ノルウェーに住むユダヤ人の数が少なかったということで(1600人くらい)、犠牲者の数は少ない。しかし、行われたことは、公職から追放、資格はく奪などで弾圧が始まり逮捕から(はるばる移送して)アウシュビッツ送りだったので、殺された人々から見れば同じことである。

ノルウェーの中立宣言も空しく、ここに海・空の拠点を求めるナチスドイツにあっさり占領され、クヴィスリング(のちに売国奴の代名詞になった)の傀儡政権下で反ユダヤ主義が台頭した。

そのころ結成175周年を迎えたベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団というのがある。ノルウェーの作曲家といえば誰でも知っているグリーグはベルゲン市の出身で、彼が音楽監督を務めたこともある伝統オケだ。このとき記念コンサートの目玉は、オスロ・フィルのコンマスであるアーンストが、前世紀のノルウェー人ヴァイオリニストであるオーレ・ブルが持っていた名器グァルネリを弾く演目だった。

しかし、アーンストはユダヤ人だったので、彼がノルウェー国宝の楽器を演奏するという企画に抗議して、ナチの若者が暴動を起こしたので演奏会は流血の惨事になり中断。アーンストと楽器は楽屋口からなんとか逃げた。

ここまでのことがあったのに、オスロに帰ってきたアーンストはあまり危機感なく、ユダヤ人はオケから除名されることになっていたのにアーンストのすばらしい才能に惚れる人たちの抗議により現職にとどまっていた。抗議した人の中にはなんと、当の傀儡政権でクヴィスリングに次ぐNo.2だったルンデもいたというから驚きだ。ルンデはナチズムの熱烈な信奉者だったが、アーンストの芸術的才能には深い敬意を抱き、その演奏を支援することの私的な誇りは、ユダヤ人への嫌悪を覆い隠すほどだったのだ。

ノルウェーにいたユダヤ人のうち、危機を早く察知した人はスウェーデンに逃げ、留まっていた人は捉えられてアウシュビッツ行き、ほぼ二分する結果になったのだが(あとから考えればの話)、アーンスト自身はたんたんとオスロでの演奏活動を続けていた。

しかしルンデ他、ナチ内部にもアーンストの信奉者がいたため、ユダヤ人強制移送の計画が持ち上がった時は政権内部の人から彼に直接警告があり、スウェーデンへの逃亡の手引きをする(妻子や両親の面倒も見る)とまで提案があった。にもかかわらずアーンストはそれを丁重に断ってなんと逮捕作戦当日まで演奏をしていた。さらに、家族込みで助けてくれるという言質を確認しにルンデに会おうとしたが(←無謀すぎ)ルンデは謎の死を遂げていて会えなかった。

ここに至ってようやく命の危険を実感して出発、いろいろな支援者にリレーされてスパイ映画さながらの逃避行。最終的には山中を徒歩で国境越えしてスウェーデンへ。

逃亡までのいきさつを見ると、アーンストはバイオリンのこと以外たいして考えていない人みたいに見えるけれども、さすがにこの状況からいろいろ思うところがあり、亡命生活中はノルウェー支援に獅子奮迅の働きをする。

ノルウェー援助資金集めのためのコンサートでの活動、それから「森の中の若人(スウェーデンの国境近くに点々と野営して軍事訓練を受けているノルウェーの闘士)」のための演奏会。そしてどこで演奏をするときも、ノルウェーの作曲家の曲を積極的に取り上げた。

危機的な状況の中でも音楽の才能で特別扱いされて(あるいは音楽の才能で活路を切り開いて)命拾い。それを「いい話」扱いにしてしまうと、特殊な才能がなければ生きる価値がないみたいで抵抗がある。(もちろんアーンストのせいではない。アーンストもユダヤ人であるというだけで生活を奪われた被害者の一人である。)

ただ、特別扱いされて命拾いをした人がその音楽の力で大きな貢献をするところまで含めてみると、実際「誰か」しか助けられない状況では優れた人から助けられるという実態が合理的なのかなと思う自分もいて、

でもそれって結局、生きる価値があるかどうかを勝手な基準で選別するナチ思想と違わないことになるのではないか、などともやもやした気分が抜けないのである。

全編そんな気分が漂う本だった。…「希望のバイオリン」

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