礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

『世界犯罪隠語大辞典』の中の気になる隠語

2012-06-21 05:37:46 | 日記

◎『世界犯罪隠語大辞典』の中の気になる隠語

 西山光・黒沼健共編の『世界犯罪隠語大辞典』(一九三三)について、もう少し触れておきたい。
 この辞典の主要部分は、西山光編「犯罪隠語辞典」で占められている。西山が、どういう文献や資料を使って、この辞典を編集したかは不明であるが、項目によっては、かなりユニークな記述が見られるので、以下、そうした項目を紹介してみたい。

アイ (一)凶器のこと。匕首〈アイクチ〉の略語から転じた語。(二)空巣〈アキス〉窺ひの隠語。家人不在中といふ意味に用ふ。

*〈 〉内は、引用者が付した読み。以下も同じ。原文には、ルビが施されていない。なお、家人不在中の意味の「アイ」は、漢字で表記すれば「間」か。

アカウメ(赤梅) 火事のこと。
アカコウリ(赤行李) 貴重品の総称。郵便局で現金を輸送する赤行嚢〈アカコウノウ〉から転じた隠語である。
アカリガハイル 犯行が発覚され、路〈ミチ〉が危くなること。
アケ 窃盗犯用隠語。午前三時か四時頃迄に窃盗の目的を達し、初発の交通機関を利用して逃亡する者をいふ。
アタイ うまい仕事にありついて、着手したものの、中途で故障のため、みすみす逃亡すること。

*「アカコウリ」は、楳垣実の『隠語辞典』(一九五六)の「アカコウノウ」(赤行嚢)に対応する。「アカリガハイル」は、同じく『隠語辞典』の「アカリガイル」(明りが入る)に対応する。「アケ」は、一九二九年に逮捕された「説教強盗」の手口を連想させる。

アテ (一)掏摸〈スリ〉常習者間の隠語。掏摸に用ふる小刃物。(二)門戸の施錠を破壊する道具。(三)犬猫専門の窃盗犯即ち四つ師の使う剥皮〈カワハギ〉用の刃物。切り出し小刀を先端から一寸五分ほど切取つた三角形の一辺に刃のある小刀。(四)強盗犯のこと。(五)犯罪事実又は犯行当時の状況に関する新聞記事。
アブセ 四つ師〈ヨツシ〉仲間の隠語。路上の犬に餌をあたへ、油断を窺つて撲殺すること。
アブセル 殺傷すること。

*「アテ」の(三)の説明は、『隠語辞典』には見られない。「アブセ」の項にある「四つ師」とは、同大辞典によれば、「飼猫専門の泥棒」を意味する。四つ師に捕まった猫は、三味線に化けるのである。なお、「アブセ」、「アブセル」は、「浴びせる」という言葉と関わるのではないか。

 さて、「アの部」に含まれる隠語だけを見ても、これだけ気になるものがあった。この調子でやっていくと、いつまでたっても終わらないし、ほかのテーマについて論ずることができなくなる。
 というわけで、「『世界犯罪隠語大辞典』の中の気になる隠語」は、このあと、気が向いたとき、ネタが切れたときに、散発的に採りあげてゆこうと思う。

今日の名言 2012・6・21

◎アカイキモノヲキル
 
 赤い着物を着る。犯罪者の隠語で、「刑務所へ入る」の意。西山光編「犯罪隠語辞典」より。1908年(明治41)に作られた監獄法施行規則は、当初、未決囚の着物は「浅葱色」〈アサギイロ〉、既決囚の着物は「赭色」〈シャイロ〉と定めていた。「赭」は赤土の色のことで、この色は、古代中国以来、罪人が着る服の色だった。漢語の「赭衣」〈シャイ〉は、罪人が着る「赤い着物」、または罪人という意味である。ちなみに、監獄法施行規則は、多くの改正を経て、2007年まで「現行」であった。

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