礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

雑誌『汎自動車』と石炭自動車の運転要領

2012-09-05 07:54:09 | 日記

◎雑誌『汎自動車』と石炭自動車の運転要領

 戦中に、『汎自動車』(自動車資料社)という雑誌が発行されていた。一九四〇年(昭和一五)に、『自動車界』、『自動車と機械』、『自動車文化』、『自動車雑誌』、『乗合と貨物』の五誌が統合されてできた雑誌で、一九四四年(昭和一九)に終刊している。月二回、五日と二〇日に発行されており、五日に発行されるのが『汎自動車・技術資料』で、二〇日に発行されるのが『汎自動車・経営資料』であった。
 この雑誌に掲載されている記事・写真・データ等は、きわめて資料的価値が高いと思う。先月、雑誌『図書設計』(日本図書設計協会)の第八二号(二〇一二年八月二〇日)で、その一部を紹介させていただいたが、紹介できなかったことも多かったので、このブログでも、折りをみて、紹介してゆきたいと思う。
『汎自動車・技術資料』一九四三年六月号(通巻二四四号)に「石炭自動車の運転要領」という記事が載っている。本日は、その一部を紹介しよう。
 石炭自動車というのは、薪自動車・木炭自動車と並ぶ「代用燃料車」(ガソリンエンジン改造車)で、カマ(発生炉)で発生させた不完全燃焼ガスを燃料とする。したがって、ここで解説されている「運転要領」は、薪自動車や木炭自動車の場合でも、基本的に変わらなかったはずである。
 ちなみに、代用燃料車のエンジン本体は、基本的にはガソリンエンジンと同じである。よく、代用燃料車のことを「蒸気機関」を載せた自動車と理解している人がいるが、これはもちろん誤解である。

 「石炭自動車の運転要領」      自動車技術第二
 石炭自動車はガソリン自動車に於ける如く気化器の作用に依つて負荷及び速度に応じて必要量のガソリンを自由に加減し得るように生やさしくない。即ち固形燃料たる石炭が燃焼して瓦斯〈ガス〉体燃料を作り、之れ〈コレ〉で機関を動かすのであるから負荷の刻々と変化する自動機関の要求に即応し切れないのである。即ち可燃瓦斯の発生が機関の瓦斯吸入作用に依つて発生炉〈ハッセイロ〉内で出来るのであるから、例へば急激に加速しようとしても此の加速に応ずる多量の瓦斯を急に作り出すことが不可能であるために機関停止の已む〈ヤム〉なきに至るのである。
 故に石炭自動車を運転するに当つては常に発生装置の瓦斯の発生状況をよく留意して水蒸気の供給加減や空気調整が機関の発生馬力に如何に関係するかを充分考慮して操縦しなければならないのである。
 以下その操作法について説明しよう。
 発車及び平坦路運転の場合
 一、機関起動直後は瓦斯の発生が充分でないから発生に先だつて急激にアクセルレーター〔accelerator〕を圧下することなく徐々に間断踏込みをして瓦斯の発生を旺盛ならしめること。然し〈シカシ〉余りレーシングする〔吹かす〕とメタルを焼損するから瓦斯の引出には充分の注意と熟練を要する。
 二、発生瓦斯の永続性を認め機関の回転が整調となるのを俟つて〈マッテ〉発車すること。
 三、ガソリンの場合に比し出力が低下するから発車の際しては変則操作はトツプ・ギヤーまでの各ギヤーに於げる走行時間を延長して充分惰力をつけてギヤー・チエンヂを行ひ発生瓦斯を良好且つ旺盛ならしめる。
 四、走行中、機関の吸引力の変化の為め炉内の瓦斯発生状態が変化するから又炉内の状態に依り瓦斯の性質が多少変化するから空気調整器を加減して吸入空気量を調整し常に瓦斯との混合割合に留意して回転好調を保つ様にすること。
 五、トツプ噛合〈カミアイ〉にて低速度にて長時間に亘り〈ワタリ〉走行する時は炉内の温度が低下し、瓦斯の発生状態が不良となり出力が減退するがら、セカンド又はサードに減速走行して吸引力を増大し、瓦斯の発生を良好ならしむること。
 六、瓦斯発生の変化に件ひ時折空気により爆音を発し又機関がノツクする様な場合があるが、之〈コレ〉は発生瓦斯が濃厚なためであるから空気弁を開いて少し多くすること。
すること。
 七、水は夏季に於ては機関起動後30分後、各期に於ては一時間後より一分間50乃至〈ナイシ〉70滴位の割合に滴下すること。
 八、瓦期が悪化して速度が次第に落ちる様な場合には一時水を多量に滴下すると速度が速くなるからその間の惰力を利用して瓦斯発生を旺盛ならしめることも一つの方法である。
 九、長時間走行して瓦斯の発生が不良となりたる時は一旦停車し給炭口を開いて炉内を攪拌し空洞を無くすると同時に必要に応じて掃除口を開いてクリンカー〔石炭灰〕を除去すること。
 登坂運転の場合【以下略】

 文中に「間断踏込みをして」とあるのは、「間断なく踏込みをして」の誤りではないのかという気もしたが、原文のままにしてある。
 また、「一時水を多量に滴下すると速度が速くなる」というのが意外だったが、これは、ガス発生炉内に水を滴下すると水性ガスが発生し、それによって出力が向上するということがあったのであろう。
 これらに限らず、今となっては理解しにくいところが多い。ただ、石炭自動車の取扱いと運転には、かなりの熟練を要したことだけは読みとれる。


今日の名言 2012・9・5

◎われわれはパンの値下げも値上げも要求しない

 かつてのナチズムの主張。このあと、「ナチズムによるパンの価格を要求する」と続く。本日の日本経済新聞「春秋」欄より。同欄は、文章の最後を、「強い言葉の裏には危うさが潜んでいよう」という言葉でまとめている。

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