礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

特高月報に見る本門法華宗僧侶不敬事件

2012-12-21 05:51:44 | 日記

◎特高月報に見る本門法華宗僧侶不敬事件

 先日、内務省警保局保安課『特高月報』の復刻版を閲覧する機会があったので、「法華宗」関係のところを見てみた。とりあえず手に取ってみたのは、表紙に、「昭和十六年七月分」と記されている号である(発行は、「昭和十六年八月二十日」)。
 同誌同号の「運動状況」は全八章からなるが、うち「宗教運動の状況」に、「三、旧本門法華宗僧侶の不敬事件検挙並に処理状況」という節がある。想像以上に詳細な記事であり、当然のことではあるが、教義の内容にまで深く踏み込んだ記述になっている。
 本日は、とりあえず同節の冒頭「(一)概説」を紹介してみよう。

 三、旧本門法華宗僧侶の不敬事件検挙並に処理状況
(一)概説 本門法華宗(本年三月二十八日法華宗及本妙法華宗と合同して新に法華宗なる宗派を結成す)は僧日隆の開基に係り、もと八品派〈ハッポンハ〉と称したる日蓮宗の一派にして、宗祖日蓮の奠定〈デンテイ〉せる所謂十界勧請〈ジッカイカンジョウ〉の曼荼羅(中央に南無妙法蓮華教の七字を大書し其の左右上下に十界「仏界、菩薩界、声聞界、縁覚界、天上界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界、」の聖衆又は諸尊として釈迦牟尼仏、多宝如来、上行菩薩等の諸菩薩、大持国天、梵王帝釈天等の諸天王又は天子転輪聖王、鬼子母神、十羅刹女、提婆達多等の名号を列記したる外、天照大神並に八幡大神の御神号を掲げたるもの)を信仰の対象とし、寺院約四百、説教所約二百、僧侶約一千、信徒約十五万を擁する大宗団なるが、同宗に於ては教学綱要に関し未だ一定の基本たるべき著述無く宗祖日蓮、門祖日隆等の遺文を解読して其の宗旨を弘通し居るの状態なりし為布教並に講学上不便ありたるやにて、大正十三年五月頃宗立学林教授苅谷日任〈カリヤ・ニチニン〉をして門祖日隆教学の綱要を概論せる「本門法華宗教義綱要」を編纂せしめ、昭和十一年七月下旬之を発行するに至れる処、其の内容に天照大神の御神徳を冒涜し、皇大神宮に対し奉り不敬となるべきものありたる為、当時所謂鬼畜問題として宗外の非難攻撃を受け、宗内に於ても対立を生じたるを以て文部当局に於ては問題となりたる部分の抹殺改訂を命じ、他方宗内責任者は文部当局に陳謝辞職するに至れり。併し乍ら之を以ては尚事件の根本的解決を見ず昭和十三年三月大阪市外高槻新川之町中川晴之より東京刑事地方裁判所検事局に対し当時の責任者貫名日靖外数名を不敬罪並に出版法違反として告発し、他面兵庫県当局に於て内偵調査せる結果、前記「教義綱要」の外尚昭和八年六月発行の「隆門綱要」、昭和十年三月発行の「尼崎学叢」及前叙の如く問題となれる、「教義綱要」に代るべきものとして昭和十四年七月発行せる「本門法華宗綱要草案」等に於て日隆の所論を引用して我国神〈ワガクニツカミ〉を誹謗するの記述をなし、或は学林学生に対し是等の内容を教授し居るりたること等判明せるを以て、同県特高課に於ては本省〔内務省〕並に検察当局と連絡して去る四月十一日後述の如く関係者六名を検挙し爾来取調中にありたるが、本月〔一九四一年七月〕二十一日に至り被疑者苅谷日任、株橋諦秀〈カブハシ・タイシュウ〉の両名起訴収容せられ爾余の被疑者に対しても近く処分決定を見るの運びとなれり。

 以上が、「(一)概説」の全文である。
「三、旧本門法華宗僧侶の不敬事件検挙並に処理状況」は、このあと、「(二)不法行為の概要」、「(三)所謂鬼畜問題の経緯」、「(四)検挙並取調状況」、「(五)本事件の反響」と続き、さらにそのあとに、「別記」として文献資料四点を載せ、「別表」として、検挙された六名の住所・宗門地位・氏名・年齢を掲げている。
 明日は、このうち、「(五)本事件の反響」を紹介する予定である。

今日の名言 2012・12・21

◎宗祖日蓮の奠定せる所謂十界勧請の曼荼羅を信仰の対象とし
 
 内務省警保局保安課『特高月報』昭和十六年七月分(1941年8月発行)は、本門法華宗の信仰の対象をこのように把握した。同誌同号41ページより。上記コラム参照。

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