礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日本六十六か国とその唐名(ロドリゲス『日本語小文典』より)

2012-07-07 05:14:36 | 日記

◎日本六十六か国とその唐名(ロドリゲス『日本語小文典』より)

 岩波文庫のロドリゲス『日本語小文典』(池上岑夫訳)の最後のほうに、一七世紀当時における日本の全国六十六か国の国名とその唐名(カラナ=Carana)が紹介されている。これがなかなか興味深い資料なので、紹介してみたい。ここで唐名というのは、例えば、武蔵国〈ムサシノクニ〉に対する武州〈ブシュウ〉のような、音読みによる省略名称を指している。
 なお、ロドリゲスがマカオで『日本語小文典』を刊行したのは、一六二〇年のことだったという。

ゴキナイ(五畿内) 五か国
 ヤマシロ(山城)    ジョーシュー(城州)またはサンシュー(山州)
 ヤマト(大和)      ワシュー(和州)
 カワウチ(河内)    カシュー(河州)
 イズミ(和泉)      センシュー(泉州)
 セッツ(摂津)      セッシュー(摂州)
トーカイドー(東海道) 十五か国
 イガ(伊賀)       イシュー(伊州)
 イセ(伊勢)       セイシュー(勢州)
 シマ(志摩)       シシュー(志州)
 オワリ(尾張)      ビシュー(尾州)
 ミカワ(参河)      サンシュー(参州)
 トートーミ(遠江)    エンシュー(遠州)
 スルガ(駿河)      シュンシュー(駿州)
 カイ(甲斐)        コーシュー(甲州)
 イズ(伊豆)       トーシュー(豆州)
 サガミ(相模)      ソーシュー(相州)     
 ムサシ(武蔵)     ブシュー(武州)
 アワ(安房)       ボーシュー(房州)
 カズサ(上総)      ソーシュー(総州)
 シモーサ(下総)     ソーシュー(総州)
 ヒタチ(常陸)      ジョーシュー(常州)
トーサンドー(東山道) 八か国
 オーミ(近江)      ゴーシュー(江州)
 ミノ(美濃)        ヂョーシュー(濃州)
 ヒダ(飛騨)       フィシュー(飛州)
 シナノ(信濃)      シンシュー(信州)
 コーズケ(上野)     ジョーシュー(上州)
 シモツケ(下野)     ヤシュー(野州)
 ムツ(陸奥)       オーシュー(奥州)
 デワ(出羽)       ウシュー(羽州)
フォロクドー(北陸道) 七か国
 ワカサ(若狭)      ジャクシュー(若州)
 エチゼン(越前)     エッシュー(越州)
 カガ(加賀)       カシュー(加州)
 ノト(能登)        ノーシュー(能州)
 エッチュー(越中)    エッシュー(越州)
 エチゴ(越後)      エッシュー(越州)
 サド(佐渡)        サシュー(佐州)

 以上が、前半の三十五か国である。
 イズミ(和泉)のラテン字表記はYdzumiで、これはイヅミとすべきところかもしれない。イズ(伊豆)、カズサ(上総)、コーズケ(上野)の「ズ」についても同様。
 セッシュー(摂州)のラテン字表記はXetxuで、エッシュー(越州)のラテン字表記はYexxuである(長音記号は省略、以下同じ)。このtxuとxxuの違いはよくわからない。
 シュンシュー(駿州)のラテン字表記はXunxuであって、Sunxuではない。しかし、Xunxuでスンシューと読ませようとした可能性も否定できないように思う。
 ヂョーシュー(濃州)のラテン字表記はGioxuである。「濃」には、ジョウ(ヂョウ)という音がある。ちなみに、ジョーシュー(上州)のラテン字表記はIoxuである。「上」の音読みジョウ(ジャウ)と区別していることがわかる。
 フォロクドー(北陸道)のラテン字表記はFocurocudoで、これは、聞き誤り、または書き誤りの可能性が高い。
 なお、ソーシュー(相州)は、原綴Ioxuを、訳者がSoxuと校訂している。原綴のままであれば、ジョーシューである。
 さて、こうして一覧表(とりあえず前半だけだが)を見てみると、いくつか気づくことがある。
 たとえば、旧国名の唐名(からな)には、今でもよく使われているものと、今ではほとんど使われないものがあって、その差が激しいことがわかる。
 また、この当時と今日で、呼び方に変化があったらしいこともわかる。豆州は、この当時は、「トウシュウ」と読んだようだが、今日では「ズシュウ」が一般的である。また濃州は、この当時は「ヂョーシュー」と読んだようだが、今日では「ノウシュウ」が一般的である。【この話、続く】

今日の名言 2012・7・7

◎このアルファベットは、Y(い)、Ro(ろ)、Fa(は)で始まっている

『日本語小文典』の著者ジョアン・ロドリゲスの言葉。同書の岩波文庫版上巻47ページにある。ロドリゲスは、「いろは」というアルファベットは、日本語のどんな言葉でも的確に書き表わせると指摘している。

コメント
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