静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

書評  097-2〆      「辞世のことば」  中西 進 著      中公新書 824   <1995年 16版>      1986年 初版 

2020-06-06 12:54:50 | 書評
★ 本書は以下の八章で構成され、副題が付されている。 副題の右は取り上げられた人物。
  1. 「刑に臨む」: 有馬皇子・大津皇子・日野俊基・千 利休・淺野長距・吉田松陰・近藤 勇・江藤新平
  2. 「力に生きて」: 倭建命・北条時頼・織田信長・明智光秀・上杉謙信・豊臣秀吉・太田道灌・高杉晋作・山岡鉄舟
  3. 「自裁」: 西郷千恵子・乃木希典・有馬哲郎・芥川龍之介・太宰 治・田中英光・原 民喜・三島由紀夫
  4. 「漂泊の果て」: 柿本人麻呂・在原業平・和泉式部・西 行・飯尾宗祇・松尾芭蕉・萩原朔太郎
  5. 「入滅」: 空 也・親 鸞・一 遍・夢窓疎石・絶海中津・一 休
  6. 「知性の死」: 山上憶良・黒田如水・契 沖・本居宣長・岡倉天心・森 鴎外・高見 順・細川 宏
  7. 「詩心の死」: 源 実朝・与謝蕪村・良 寛・葛飾北斎・島木赤彦・泉 鏡花・前田夕暮
  8. 「戯と俳の中に」: 柄井川柳・太田南畝・柳亭種彦・瀧澤馬琴・川端芽舎・原 石鼎・飯田蛇笏

 お気づきのように、各人物が生きた時代は異なり、生年・没年とも不確かな人物も混じる。また、中には臨終の言葉ではなく、生前遺されたと伝わることばも取り上げられている。
それは昨日述べたとおり、生前の言葉であろうとも≪「死に親和する生の在り方が、自覚的に死の瞬間を呼び寄せ、生きて死を経験した時の言葉がそれだから」ではないか?≫
と著者が感じ取った人物ゆえだろう。 <生きた時間帯><存在した場所>これら二つの”時空軸”が何であれ、人間が生まれ死ぬ間に自己を突き詰め発したコトバに潜む真理は普遍だ。

 著者は各人物に新書版3頁を均等に割き、簡潔な解題/背景概説と所感を沿えた。 全編を通じ『辞世のことば』が【純粋な自己発見のことば】として発せられている事、そして
<死は生の全量を抱きかかえ遂げられる>筈だからこそ貴いのだと読者に知らしめている。 ← じゃ、己の生きざまはどうだ? と最も痛く自省する所である。

 さて、これら八つの章立てを眺め、私は登場人物の生と死を次の範疇にわけた。 たぶん、著者の編集意図と大きな狂いは無かろう、と踏んでいる。
   【権力闘争と死】・・1~2. 【生の虚無と死】・・3~5. 【近代知性の死】・・6.  【表現者の生と死】・・7&8.

★ 見渡せば、世の殆んどの人の人生の過ごし方/パターンは政治・ビジネス・趣味・スポーツ、何にせよ【闘争/競争】の中に”生き甲斐”や”存在証明”を求めている。
 闘う毎日に疲れた時は娯楽も有るが、敗れ疲れた者の嘆きも犯罪も生まれる。 市井の民の辞世には、満足の言葉もあれば無念慚愧の叫びも有る。 これが今も昔もほぼ100%に近い。


★ 然し、闘いや競争に明け暮れるからこそ、民は【生の虚無と死】を茫漠ではあっても、感じないわけではない。特に20世紀後半以降の技術進歩で生活速度感は速まる一方で、死に
 至るスピードは遅くなり続けているから、疲れる時間は長引き、先が見えないもどかしさも長大になってきた。 そこで【生の虚無と死】に心が向き、苦しみ続ける人々も増える。 

 それでも自裁に赴かなかった人は文藝領域で何かを表現しようと必死にあがく。 これは他者との闘争ではない自分への”生き甲斐”や”存在証明”追求だが、では表現手段に何を選ぶか?
  手段に加え更に問われるのは、表現したいコトが【知性の死】【表現者の生と死】の域に達するまで深まったのか? という点であり、容赦なく天賦の才の有無も関わる。


<A> 表現の共時性は無いが物理的空間に残って消えない<書画・塑像/彫刻・建築> <B> 録音/録画や文字になっても表現の瞬間が時空ともに残らない<文学・音楽・演劇・映画>

◎ 表現世界<B>に属す『ことば』は人間の思考媒体であり、表現材料である。 頭の中に在る間だけは自分のモノだが、文字の形態で定着させた瞬間、或は空中へ音声に載せて
  発せられた瞬間、あらゆる『ことば』は【純粋な自己発見のことば】に成る。 いや、成ると覚悟したうえでの表現でなければ、己の存在証明には値しない。 
   今更だが、およそ言葉による表現とは辛い営為である。 表現者と呼ばれる高みに達しない凡人には猶更だ。     < 了 >                  
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