2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。
2020/5/1は「ミッション」で、以下「ミッドナイト・イン・パリ」「宮本武蔵 一乗寺の決斗」「ミリオンダラー・ベイビー」「ムーラン・ルージュ」「ムーンライト」「麦の穂をゆらす風」「息子」「無法松の一生」「無法松の一生」と続きました。
「愛、アムール」 2012年 フランス/ドイツ/オーストリア
監督 ミヒャエル・ハネケ
出演 ジャン=ルイ・トランティニャン エマニュエル・リヴァ
イザベル・ユペール アレクサンドル・タロー
ウィリアム・シメル ラモン・アジーレ リタ・ブランコ
カロル・フランク ディナーラ・ドルカーロワ
ストーリー
パリ都心部の風格あるアパルトマンに暮らすジョルジュとアンヌは、ともに音楽家の老夫婦。
その日、ふたりはアンヌの愛弟子のピアニスト、アレクサンドルの演奏会へ赴き、満ちたりた一夜を過ごす。
翌日、いつものように朝食を摂っている最中、アンヌに小さな異変が起こる。
突然、人形のように動きを止めた彼女の症状は病による発作であることが判明したが、アンヌは手術の失敗で半身に麻痺が残る不自由な暮らしを余儀なくされる。
“二度と病院には戻りたくない”とのアンヌの願いを聞き入れ、ジョルジュは自宅での介護を決意する。
自らも老いた身でありながら、これまで通りの生活を貫こうとする妻を献身的に支えていくジョルジュだったが…。
寸評
物語の導入部にあるコンサートホールの場面を除いて主人公たちはアパルトマンの部屋から外に出て行くことはない。
ジョルジュが外出したりしていることは描かれているのだが、しかし外出先の様子は描かれず常に部屋に戻ってくる場面になる。
そこまで徹底しているのに、なぜか閉塞感を感じない。
彼等の暮らす部屋が広々としていることにもよるのだろうが、描かれている内容が介護の大変さを追求するだけの短時間的な描写にとどまっていない事によるほうが大だと思う。
回想の中で登場するアンヌはとてもしおらしくて気品があり愛らしい。
そしてそのアンヌが登場するシーンがとてつもなくいい。
ショッキングなファースト・シーンから、一転淡々と綴っていく進行ぶりの締めくくりとしてのラストシーンもファンタジックでさえあっていい。
もう少し割愛しても良いのではないかと思わせるぐらい、ジョルジュがやさしく介護する姿が色々なエピソードを交えながら描き続けられるが、描かれる内容は非常に丁寧で上手い。
娘の描き方や義息の描き方も誇張がなくてよい。
僕などは、淡々と描かれるシーンに意識が飛んでしまって、亡くなってしまった祖父母の介護時や母の介護時を思い出して、字幕を追うのを忘れていた瞬間が存在していたぐらいだ。
私の母の入院先は24時間看護の病院ではなかったので、最後の方は家政婦さんに来てもらった。
最初の若い家政婦さんは手際がよかったけれど扱いは乱暴だった。
二人目の家政婦さんは年配だったが、意識が薄れた母に優しく接してくれた。
登場するエピソードを見ながら、当時に最後がその家政婦さんで良かったと思ったことなどを、ついつい思い出していた。
これは年老いた二人の愛の映画で有ると共に、年老いた夫婦の介護問題を捕えた映画でもある。
病気がひとりの人間の肉体と人格を破壊していく様が描き出されている。
在宅介護の切実な問題でもあるのだが、家族の生活まで根こそぎ奪い取っていく様子も描かれている。
夫婦による老々介護で私がいつも思うのは、一方の死でもって終わりが来るのではなく、生き残ったもう一方のその後の不安である。
ジョルジュはその後どうなったのか、どうしたのかを想像すると哀しくもあり怖くもあるのだ。
自分がそうなった時、妻がそうなった時を思わざるを得ない年齢になってきた私だが、誰もがいつかは身近に遭遇しうるという点で恐ろしくもある。
ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァは流石の演技。
特にエマニュエル・リヴァがいい。
はたして僕はアンヌのように言い放てるだろうか?
ジョルジュのようにやさしく接することが出来るだろうか?
そんなことを想像させるだけでも、優しい映画なのに恐ろしい映画だった。