ゴトンゴトンと地下鉄が揺れる。
雪は今、帰宅途中の電車の中。
膝の上にはノートが開かれている。
期末試験はもう目の前だ。
しかし雪はそれに目を落とすことはなく、遠くを見るような目で空を見つめていた。
地下鉄の揺れに身を任せながら。
頭の中で、細い細い糸が徐々に張り巡らされる気持ちがした。
糸は数々のファクターを経由して行き、彼女の意図へと繋がって行く。
そんな雪の意識を引き戻したのは、一件の着信だった。
ポケットからそれを取り出してみる。
着信画面に、”先輩”の文字が表示されていた。
雪は数秒間、その画面を見ながら固まる。
ん?
先輩から着信‥?
‥‥‥‥。
あっ!そうだった!先輩!!
雪は思わず目が飛び出るほど驚いた。(隣のおじさんも思わずビックリした)
昼間授業中に先輩から電話が掛かってきて、それきりになっていたのだった。
雪は慌てて通話ボタンを押すと、ヒソヒソ声で先輩と会話する。
「はい!はい!先輩、明日十二時に行きます。前売り買ってくれたんですか?
うう‥大学で思い出す余裕なくて‥ごめんなさい先輩、はい、はい!では明日!はい~!」
雪は一息でそう話し終えると、電話を切って息を吐いた。
周りの人は引き気味で雪を見ている‥。(ビックリさせられた隣のおじさんは舌打ちだ‥)
小一時間後、ようやく帰宅した。
しかし家の中は静かだ。リビングにも誰もいない。
いつもなら皆帰宅している時間なのに‥。
「?」
不思議に思った雪は、母親に電話してみた。
「もしもしお母さん?どうして家に誰もいないの?」
「それが‥今日はどこかでお祭りでもあったのか、
こんな時間までお客さんでいっぱいなのよ。閉店の時間一時間延ばすことにしたから、先に寝てなさい!」
母はそれだけ言うと、すぐに電話を切ってしまった。
忙しそうに話す母親の後ろから聞こえた、ガヤガヤとした喧騒ー‥。
ネオンの明かりが鈍く反射した空の元、雪は再び外へ出た。
街は未だ多くの人で賑わっている。
「ねーちゃん!」
そして店に入るやいなや、蓮が驚いた顔をした。
「どーして来たの?!」「忙しそうだから手伝いにだよ。河村氏は?」
「今日は出勤日じゃないから‥」
蓮は、亮を呼びつけはしなかったらしい。
「ピアノに集中してるかと思って、敢えて連絡せんかった」
「急にこんななって、呼びたかったけどさ‥代わりに友達一人呼んじったさ」
雪はエプロンを身に着けながら、店の様子を眺めていた。
忙しそうに働く両親。
すると後ろから、蓮がこう言う。
「ま、ねーちゃんは帰んなよ!テスト近いんでしょ?勉強しな、勉強。べん!きょ!」
数日前から蓮はずっとこんな調子だ。
姉ちゃんは勉強に集中しなよと、未だ言われ続けている‥。
雪は蓮に背を向け、店内へと踏み出した。
「私、やるよ。自分の仕事だからさ」
姉が今言った言葉。
それが、蓮にはどこか腑に落ちなかった。
「何だよ‥誰が何だって‥?」
蓮は首を捻りながら、忙しく働く姉の姿を見ていた。
が、すぐにお客さんに呼ばれて行き、その疑問は宙ぶらりんのままだ。
夜更けまで、店はガヤガヤと騒がしかった。
蓮の疑問は解決しないまま、次第に暗くなる空に溶けて行く‥。
翌日。青い空に鳥の声が響く。
雪はただ今、爆睡中だ。
口の端から涎を垂らしながら、気持ちよく眠っている。
「うう‥ん」
すると不意に、ベッドの上の携帯が震えた。
雪は「うう‥」と小さく唸りながら、布団の中でモゾモゾする。
ゆっくりと手を伸ばし画面に触れると、パッと光ったそこに数字が見えた。
01:20
‥‥‥。
雪は、再び瞼を閉じた。
なんだ、メールが来てるわけじゃなし‥。
でも何か見えたな。
あの数字なんだろう。
01:20‥。
01:20‥。
01:20‥?
嫌な予感がして、薄目を開けてみた。
そこに表示されている数字が何の意味を持つのか、ようやく理解する。
01:21。
「え‥」
ただ今の時刻、午後一時二十一分。
「え‥?」
「え‥?」
これは白昼夢だろうか?
自分の声が、白い天井に溶けて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの役割>でした。
興味深い回ですね~。
雪ちゃんがどんなに忙しくても店の仕事を手伝うのは、それが自分の役割だから。
その考えが、蓮君にはどうにも腑に落ちないようです。
姉のことや店のこと、両親や亮のことには気が回るようになった蓮ですが、
まだ自分自身のことには向き合ってないからなんでしょうね。
マジメな姉の姿を見て、蓮も自分の役割に気づいてもらいたいですね^^
そして雪ちゃん‥大大大遅刻‥
文字通り次回は<大遅刻>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
雪は今、帰宅途中の電車の中。
膝の上にはノートが開かれている。
期末試験はもう目の前だ。
しかし雪はそれに目を落とすことはなく、遠くを見るような目で空を見つめていた。
地下鉄の揺れに身を任せながら。
頭の中で、細い細い糸が徐々に張り巡らされる気持ちがした。
糸は数々のファクターを経由して行き、彼女の意図へと繋がって行く。
そんな雪の意識を引き戻したのは、一件の着信だった。
ポケットからそれを取り出してみる。
着信画面に、”先輩”の文字が表示されていた。
雪は数秒間、その画面を見ながら固まる。
ん?
先輩から着信‥?
‥‥‥‥。
あっ!そうだった!先輩!!
雪は思わず目が飛び出るほど驚いた。(隣のおじさんも思わずビックリした)
昼間授業中に先輩から電話が掛かってきて、それきりになっていたのだった。
雪は慌てて通話ボタンを押すと、ヒソヒソ声で先輩と会話する。
「はい!はい!先輩、明日十二時に行きます。前売り買ってくれたんですか?
うう‥大学で思い出す余裕なくて‥ごめんなさい先輩、はい、はい!では明日!はい~!」
雪は一息でそう話し終えると、電話を切って息を吐いた。
周りの人は引き気味で雪を見ている‥。(ビックリさせられた隣のおじさんは舌打ちだ‥)
小一時間後、ようやく帰宅した。
しかし家の中は静かだ。リビングにも誰もいない。
いつもなら皆帰宅している時間なのに‥。
「?」
不思議に思った雪は、母親に電話してみた。
「もしもしお母さん?どうして家に誰もいないの?」
「それが‥今日はどこかでお祭りでもあったのか、
こんな時間までお客さんでいっぱいなのよ。閉店の時間一時間延ばすことにしたから、先に寝てなさい!」
母はそれだけ言うと、すぐに電話を切ってしまった。
忙しそうに話す母親の後ろから聞こえた、ガヤガヤとした喧騒ー‥。
ネオンの明かりが鈍く反射した空の元、雪は再び外へ出た。
街は未だ多くの人で賑わっている。
「ねーちゃん!」
そして店に入るやいなや、蓮が驚いた顔をした。
「どーして来たの?!」「忙しそうだから手伝いにだよ。河村氏は?」
「今日は出勤日じゃないから‥」
蓮は、亮を呼びつけはしなかったらしい。
「ピアノに集中してるかと思って、敢えて連絡せんかった」
「急にこんななって、呼びたかったけどさ‥代わりに友達一人呼んじったさ」
雪はエプロンを身に着けながら、店の様子を眺めていた。
忙しそうに働く両親。
すると後ろから、蓮がこう言う。
「ま、ねーちゃんは帰んなよ!テスト近いんでしょ?勉強しな、勉強。べん!きょ!」
数日前から蓮はずっとこんな調子だ。
姉ちゃんは勉強に集中しなよと、未だ言われ続けている‥。
雪は蓮に背を向け、店内へと踏み出した。
「私、やるよ。自分の仕事だからさ」
姉が今言った言葉。
それが、蓮にはどこか腑に落ちなかった。
「何だよ‥誰が何だって‥?」
蓮は首を捻りながら、忙しく働く姉の姿を見ていた。
が、すぐにお客さんに呼ばれて行き、その疑問は宙ぶらりんのままだ。
夜更けまで、店はガヤガヤと騒がしかった。
蓮の疑問は解決しないまま、次第に暗くなる空に溶けて行く‥。
翌日。青い空に鳥の声が響く。
雪はただ今、爆睡中だ。
口の端から涎を垂らしながら、気持ちよく眠っている。
「うう‥ん」
すると不意に、ベッドの上の携帯が震えた。
雪は「うう‥」と小さく唸りながら、布団の中でモゾモゾする。
ゆっくりと手を伸ばし画面に触れると、パッと光ったそこに数字が見えた。
01:20
‥‥‥。
雪は、再び瞼を閉じた。
なんだ、メールが来てるわけじゃなし‥。
でも何か見えたな。
あの数字なんだろう。
01:20‥。
01:20‥。
01:20‥?
嫌な予感がして、薄目を開けてみた。
そこに表示されている数字が何の意味を持つのか、ようやく理解する。
01:21。
「え‥」
ただ今の時刻、午後一時二十一分。
「え‥?」
「え‥?」
これは白昼夢だろうか?
自分の声が、白い天井に溶けて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの役割>でした。
興味深い回ですね~。
雪ちゃんがどんなに忙しくても店の仕事を手伝うのは、それが自分の役割だから。
その考えが、蓮君にはどうにも腑に落ちないようです。
姉のことや店のこと、両親や亮のことには気が回るようになった蓮ですが、
まだ自分自身のことには向き合ってないからなんでしょうね。
マジメな姉の姿を見て、蓮も自分の役割に気づいてもらいたいですね^^
そして雪ちゃん‥大大大遅刻‥
文字通り次回は<大遅刻>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
女バージョン淳、健太先輩や横山を手玉にとってそう‥
でも、お互い多忙の身だから、中々会える時間を取れない(泣) ほんと高校時代の彼とは別人ですね。恋をすると女の子は可愛くなるから、そう考えると先輩ってかなり女っぽい…
2人の性別逆バージョンでのお話も読んでみたいなぁ。
雪ちゃん‥不憫‥(T T)
papurikaさん
後の祭り‥うまい!座布団一枚!笑
くうがさん
本当だ‥もうすぐ追いついちゃいそうですね。休載されないことを願うばかりです(^^;)
ゴタゴタ続きに店の手伝いに先輩とのデートに、、雪ちゃんの勉強する暇がない~期末もだけど雪ちゃんの体が心配だ。
あ、ついーー;
楽しそうな(?)先輩のお顔が浮かびます・・・
自分の祭を楽しめられなくなったんです。