バッ!
意を決して、雪は自分から静香の居る方へと顔を出した。
悪いことをしたわけじゃないんだから、自分が隠れる必要なんて無いー‥。
しん‥
しかしそこには誰も居なかった。
確かに向こうから足音が聞こえて来ていたはずなのに‥。
「えっ」
雪が目を丸くしていると、横の路地から聞き慣れた声が聞こえた。
「テメー、風呂までの道まだ覚えてねーのかよ!」
そう言いながら静香を引っ張っているのは河村亮だ。姉弟は会話を続ける。
「この辺りの道がおかしいのよ!」「テメーは今後運転すんなよこの方向オンチが」
「関係ないっしょ」
偶然出会った弟に対し、姉は不思議そうにこう問う。
「てかアンタこそ仕事にも行かずに、
どーしてフラフラしてんのって話よ」
そっけなく答える亮。
「‥今日は出勤日じゃねーんだよ」「は?出勤日じゃねーんだよぉ?」
亮の言葉をオウム返しする静香。
すぐにはその意味が分からなかったが、
やがてピンと来たらしく、静香は目を見開いた。
「あ~‥ピアノ?」
「もーいいや。あたし風呂行くの止める」
そして姉弟は会話を続けながら、雪から遠ざかって行った。
雪はキャップを被り直し、二人に背を向けて駆け出す。
細い路地の方へと戻り、
違う通りへと走って行った。
そして次の角を曲がろうとした、
その時だった。
ぐんっ!!
「う‥」
「うわぁっ?!」
「捕まえた!」
青田淳は雪の服のフードを、まるで首根っこを掴むかのようにして捕らえた。
路地裏を逃げまわる兎一匹捕獲、である。
「ははは」
驚きのあまり、目を白黒させる雪。
「先輩?!」
淳はどこか嬉しそうに、得意げな表情を浮かべてこう言った。
「先回りしたんだ。俺の勝ち!」
雪は目を丸くしながら、信じれない思いで口を開いた。
「はい?!!どういうことですか?!先輩、ずっとこの辺りにいたんですか?!どーして‥」
「俺を驚かせようとしてアイスクリームの話持ち出したでしょ。声聞いただけですぐ分かった」
そして淳は、雪の耳元でこう囁いた。
「嘘吐いてるって」
ヒィィィィィ
ニッコリと微笑む淳と、白目になって鳥肌を立てる雪。
おまけにすぐ後ろに、河村氏の姿が見える。
「かくれんぼのつもりだった?まだまだだね」
雪は淳の肩を組むように抱え、後ろを向かせないように必死だ。
「ア‥アイスクリームは‥」「え?それ本気だったの?」
「はい。もう喉乾いちゃって‥食べたいです」「そっか。行こ行こ」
そして二人は腕を組みながら、繁華街の方向へと足を踏み出した。
ふと、後ろを向く淳。
しかしそこには誰も居なかった。
フン、と小さく息を吐きながら、淳は再び前を向いた。
手土産のアイスクリームを買いに、二人は共に歩いて行く。
一方河村亮の方は、ピアノの練習をしに雪の叔父のカフェに到着したところだった。
雪の叔父は不思議そうな顔をしながら、亮にこう問いかける。
「お前、あっちから来る時ずっとキョロキョロしてたよな?
誰か知り合いでも居たのか?」
叔父のその問いに対し、亮は「いえ」と返した後、ポツリとこう言った。
「オレを知ってる人間なんて居ないすよ」
路地裏で一服している静香の前で、甲高い声が上がる。
「あれっ?!静香さん?!」
突然目の前に現れた小西恵に、静香は「何なのよ」と言って顔を曇らせたが、
恵は嬉しそうに彼女に駆け寄った。
「静香さん?!この辺住んでるんですか?!うわ~!不思議な感じ!」
静香は手で顔を覆いながら、心の中で現状を嘆く。
もう‥何なんだよ‥ムカツク
そんな静香にはお構いなしに、恵はニコニコしながら鞄の中を探った。
「静香さん、グッドタイミング!
展示会の無料招待券が何枚か余ってるんですよ!こんな時に会えるなんて~
一枚差し上げます!あたしは彼氏と行くんで!」
キラキラキラキラ、恵の瞳の中には希望が揺れている。
「なんなら2枚でも!」
「‥この‥クソッ」
静香はその善良なオーラを睨みながら、一人頭を押さえた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<逃げまわる兎(2)>でした。
雪兎、遂に捕まっちゃいましたね~。
そして亮さんが着々とここを去る心積もりをしているのが切ない‥。
次回は<雪の家にて>です。
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意を決して、雪は自分から静香の居る方へと顔を出した。
悪いことをしたわけじゃないんだから、自分が隠れる必要なんて無いー‥。
しん‥
しかしそこには誰も居なかった。
確かに向こうから足音が聞こえて来ていたはずなのに‥。
「えっ」
雪が目を丸くしていると、横の路地から聞き慣れた声が聞こえた。
「テメー、風呂までの道まだ覚えてねーのかよ!」
そう言いながら静香を引っ張っているのは河村亮だ。姉弟は会話を続ける。
「この辺りの道がおかしいのよ!」「テメーは今後運転すんなよこの方向オンチが」
「関係ないっしょ」
偶然出会った弟に対し、姉は不思議そうにこう問う。
「てかアンタこそ仕事にも行かずに、
どーしてフラフラしてんのって話よ」
そっけなく答える亮。
「‥今日は出勤日じゃねーんだよ」「は?出勤日じゃねーんだよぉ?」
亮の言葉をオウム返しする静香。
すぐにはその意味が分からなかったが、
やがてピンと来たらしく、静香は目を見開いた。
「あ~‥ピアノ?」
「もーいいや。あたし風呂行くの止める」
そして姉弟は会話を続けながら、雪から遠ざかって行った。
雪はキャップを被り直し、二人に背を向けて駆け出す。
細い路地の方へと戻り、
違う通りへと走って行った。
そして次の角を曲がろうとした、
その時だった。
ぐんっ!!
「う‥」
「うわぁっ?!」
「捕まえた!」
青田淳は雪の服のフードを、まるで首根っこを掴むかのようにして捕らえた。
路地裏を逃げまわる兎一匹捕獲、である。
「ははは」
驚きのあまり、目を白黒させる雪。
「先輩?!」
淳はどこか嬉しそうに、得意げな表情を浮かべてこう言った。
「先回りしたんだ。俺の勝ち!」
雪は目を丸くしながら、信じれない思いで口を開いた。
「はい?!!どういうことですか?!先輩、ずっとこの辺りにいたんですか?!どーして‥」
「俺を驚かせようとしてアイスクリームの話持ち出したでしょ。声聞いただけですぐ分かった」
そして淳は、雪の耳元でこう囁いた。
「嘘吐いてるって」
ヒィィィィィ
ニッコリと微笑む淳と、白目になって鳥肌を立てる雪。
おまけにすぐ後ろに、河村氏の姿が見える。
「かくれんぼのつもりだった?まだまだだね」
雪は淳の肩を組むように抱え、後ろを向かせないように必死だ。
「ア‥アイスクリームは‥」「え?それ本気だったの?」
「はい。もう喉乾いちゃって‥食べたいです」「そっか。行こ行こ」
そして二人は腕を組みながら、繁華街の方向へと足を踏み出した。
ふと、後ろを向く淳。
しかしそこには誰も居なかった。
フン、と小さく息を吐きながら、淳は再び前を向いた。
手土産のアイスクリームを買いに、二人は共に歩いて行く。
一方河村亮の方は、ピアノの練習をしに雪の叔父のカフェに到着したところだった。
雪の叔父は不思議そうな顔をしながら、亮にこう問いかける。
「お前、あっちから来る時ずっとキョロキョロしてたよな?
誰か知り合いでも居たのか?」
叔父のその問いに対し、亮は「いえ」と返した後、ポツリとこう言った。
「オレを知ってる人間なんて居ないすよ」
路地裏で一服している静香の前で、甲高い声が上がる。
「あれっ?!静香さん?!」
突然目の前に現れた小西恵に、静香は「何なのよ」と言って顔を曇らせたが、
恵は嬉しそうに彼女に駆け寄った。
「静香さん?!この辺住んでるんですか?!うわ~!不思議な感じ!」
静香は手で顔を覆いながら、心の中で現状を嘆く。
もう‥何なんだよ‥ムカツク
そんな静香にはお構いなしに、恵はニコニコしながら鞄の中を探った。
「静香さん、グッドタイミング!
展示会の無料招待券が何枚か余ってるんですよ!こんな時に会えるなんて~
一枚差し上げます!あたしは彼氏と行くんで!」
キラキラキラキラ、恵の瞳の中には希望が揺れている。
「なんなら2枚でも!」
「‥この‥クソッ」
静香はその善良なオーラを睨みながら、一人頭を押さえた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<逃げまわる兎(2)>でした。
雪兎、遂に捕まっちゃいましたね~。
そして亮さんが着々とここを去る心積もりをしているのが切ない‥。
次回は<雪の家にて>です。
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消える静香は「私、お風呂屋行くのやめる」
振り向いた後の先輩は「ふん」(何か察してる?)
恵は展示会を「彼氏と行こうと思って」
今回、先輩の笑顔がいきいきしてて、ゆきちゃんには申し訳ないけどすごいキュンってしました(笑)
ありがとうございます!助かります~!
反映させますね!
なおこさん
コメントありがとうございます!
今回の先輩、生き生きしてますよね~!
追いかけっこみたいで楽しかったんでしょうね。私も久々の若々しい先輩に心が騒ぎました!笑