それきり二人は黙りこんで、並んで座りながら時を過ごした。
外の喧噪は既に静まり、季節の終わりに鳴くセミの声が遠くに聞こえる。
雪はチラと彼の横顔を窺った。僅かに口元に笑みを湛えた彼は、穏やかな表情をしている。
二人の間にある雰囲気と、肩がくっつきそうな程の今の彼らの距離が雪の心に、あることを聞きたい衝動を掻き立てる。
雪はしばし思案したが、やがてその質問を口にした。
「先輩は私のどこが好きなんですか？」
それは言葉は違えども、以前彼にしたことのある質問だった。
何で告白したんですか？！
少しウトウトしかけていた彼も、その一言を耳にして目を見開いた。
少し唇を尖らせながら、雪は言葉を続ける。
「正直何で先輩が告白してきたのか本当に信じられなくて‥。
元々親しくもなかったじゃないですか」
雪の言葉に、淳は幾分自虐的なトーンで
「まぁ‥そうだよね」と言って頷いて見せた。
そんな彼を見て、雪はウリウリと肘で小突きながら話し続ける。
「お？認めるんですね？」
「はは‥それはお互い様だろ？雪ちゃんも俺のこと好きじゃなかったでしょ？」
「やっぱりお互い嫌い合ってましたよね」
雪は微妙な感情を抱えて頭を掻いた。思い出すのは、先学期始まってばかりの頃のことだ。
「そんな関係だったのに、いきなりご飯行こうとか言われて‥。あの時どれだけ驚いたか」
雪の話に、淳もあの時のことを思い出して吹き出した。
「そうそう。あの時の雪ちゃんの顔ったら‥ぷはは！」
青筋を立てる雪が続けて問う。「一体いつから気持ちが変わったんですか？」と。
そう問われて、淳は思い出を巡らすように天を煽いだ。どこか懐かしむような口調で話を始める。
「そうだなぁ‥大学で君の姿をいつも目にして‥。
いつからか嫌いだった君の行動や言動が嫌じゃなくなって‥。見てるとどこか仕草も面白くて」
淳の脳裏に、あの頃の雪の姿が浮かんだ。彼女との初対面から持っていた、嫌悪を孕んだあの感情。
それから嫌悪感は悪感情に変わり、彼女の何もかもが気に障る時期もあった。
けれど数々の出来事を経て、悪感情のもたらす関心はだんだんと良いものへ変わっていき、
気がつけばいつも彼女の姿を目で追っていた。
彼女の印象の変遷を口にする彼は、懐かしむような表情をしていた。
「そんな姿を見ているうちにかな‥」
心の中に芽生えた彼女への感情をそっと眺めるように、その視線は優しかった。
そんな彼を眺めている彼女に、淳は聞き返した。その頭を、彼女の小さな肩に乗せながら。
「雪ちゃんはどう？ 前よりは好きになった？彼氏として」
言葉は違えども、彼の問いも二度目のそれだった。
それじゃあ俺はどうだった？前より良くなった？
雪の左肩に、彼の重さを感じる。温かさも、その息遣いも。
イメージや思い込みで作り出していた虚像とは、それは真逆にあるものだ。
「‥はい」
彼女の肩に凭れたまま、彼は小さく笑った。
雪も彼の頭に頭をもたげると、二人の距離がもっと縮まる。
うん。確実に彼氏としては。
そしてそれ以上は、これから彼の傍で過ごしながら知っていくのも、きっと悪くない
これは好きだということなんだろう
雪の心の中に、気づかない内に芽吹いた新芽が揺れていた。
やがて花をつける前の柔らかなその二つの葉は、まるで肩を寄せ合う彼らのようだ。
今夜二人は、互いに二度目の質問をし合った。
一度目は戸惑い、言葉に詰まっていた彼らの答えは、
時を経てこんなにも互いの心に正直に寄り添い、近づいたものとなった。
そしてきっとこれから育っていくその新芽に希望を乗せて、雪と淳は目を閉じた。
窓の外では満月が夜空を照らしている。
その柔らかな光が、彼らを導く光明のように仄かに灯る‥。
朝日が昇った後の、爽やかな空気に鳥のさえずりが響く。
一夜を超えた雪と淳は未だに眠りの中にいた。スヤスヤと寝息を立てる彼女と、若干寝苦しそうな彼‥。
突然ガチャッと玄関のドアが開き、朝帰りの蓮が帰ってきた。
「姉ちゃんただい‥」
いきなり目に入ってきた光景に、蓮は驚愕の叫びを上げた。
「どぅわぁぁぁぁぁ！！！」
その叫びでバタバタと鳥は飛び去って行った。
この後も一騒動だが、三人はなんだかんだ笑いながらその時間を過ごした。
暗い闇にくすぶっていた気持ちが、朝日の光で照らされる。
いつしか夜は明け、誰の身の上にも等しく朝はやって来る‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
＜同じ屋根の下ー二度目の問いー＞でした。
振り返って見てみると二人の距離も縮まりましたね‥。
お互いの心にあった相手への不信が、こんなにも無くなっていたのですね‥なんだか感慨深いです。
しかし最後のグルグル巻き先輩は、どうやったらああなるのか‥不思議です（＾＾；）
次回は＜追及＞です。
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スンキさん相変わらずニクイことやりますなー。
そしてきとんとその意図を汲み取って私たちに教えてくれる師匠はやっぱりありがたいお方～。
とか言いつつ、「時を経て」も何も実は同じ夏休み期間中の話だというこの事実。
日本語版だと第52話から延々夏休みですから。
さっきUPされたのが110話…ゆうに1年以上は夏休みの中にいますな～彼らも、そして私らも。
このお泊まりの日からさかのぼると、あのボランティアでの初ハグ記念日は何日前のことなんでしょうか。
学食での「俺はそうだよ」のあの日はいったい。
師匠ならきっと知ってるに違いない。笑
それにしても雪ちゃん先輩に心を許しすぎでは。
安心したからって１つ毛布で肩寄せあってウリウリまでしちゃって…それは誘惑ととらえられても仕方ないのよ～。実は雪ちゃんの方がソノ気だったんじゃないかとオバチャン疑いはじめちゃったわ。
なのにグースカ寝始めた先輩。に腹を立ててこんな事態に。…なったワケじゃーないとは思いますケド。
なんにしてもステキな一夜でした。
多分Sかなちゃん…笑
しかも、内容の殆どに同意。
あまりにも常習なんでもう出頭やめました。
我ながら呆れる…
ま、これからはUnknownと見たらSかなだとお思いください。←投げやり
さかなさんだったのですね～＾＾
本当、いつまで夏休みなんだと思いますよね。
３部１８話か１９話あたりで雪ちゃんが「まだ付き合って二ヶ月ちょっとか」みたいな呟きで度肝を抜かれたのを覚えています。読者はもう２年近くも二人を見守っているというのに‥。＾＾；
そして少し脱線しますが、先輩のセリフ
「前より好きになった？彼氏として」
が地味に引っかかってます。
なぜわざわざ「彼氏として」と付けたのか？
それは「仲の悪かった去年のことには触れないで、付き合い始めてからの自分だけを見てくれ」という彼のズルい要求を含んでいるのでは‥？と‥。
なんか深読みすればするほど、この漫画萌えどころがゲンナリどころに変わっていくんですよね‥。
何の疑いもなく先輩にときめいていた時代に戻りたい‥（笑）
おまけ漫画翻訳企画楽しみです！*\(^o^)/*
そして、2度目の問い…先輩が前に答えに悩んだのは、雪ちゃんのことほんとに好きじゃなく裏があったのでは…？と思ったりもしてましたが、以前の問いは［なぜ告白したか］。たぶんあの時は亮に対しての嫉妬もあり、とにかく手に入れるために告白したのかな？とも。
でも、今回は［どこが好きか］。この答えに真摯に答えたのかなーとも思いました。
でもほんとにドキドキ回ですよね！本家更新でここ最近先輩が出てこないので、この頃のきゅんがたまらないです^o^
「俺の方がイケメンだな」発言や「部屋の鍵閉めといてね」発言を見てると、この人、打ち解けてくるとわりと無邪気に軽口叩く癖があるような気がします。普通の人が言えばただのボケで終わるところを、イケメンから言われると相手はアタフタ…。
で、そうやってドギマギさせられて眠りに落ちたソルちゃんが夢の中で反撃した結果が、あの「ユジョン簀巻きの刑」だったのではないでしょうか。あれはきっと、夢の中でソルちゃんがユジョンにラリアットからバックドロップ食らわせて、フォール勝ちを決めた図だったんですよ。
お久しぶりです～！ようこそ☆
そうそう、あの一度目の問い、「なぜ告白したか」。
以前ここのコメ欄でも議論になり、結局淳→雪の告白には恋愛的要素がない、という結論になりました‥＾＾； えりさんが解釈してらっしゃるように、亮への嫉妬ありまくりでしょうね！
でも雪ちゃん、一度目の問いの時は「なんで私と付き合ったのか？‥でもこの質問は失礼」と思っていたのに、今回「どこが好きか」という質問をさらりと出来たことに感動です。前より大分打ち解けてきましたよねぇ。。
本家が怪しい雲行きなので、日本語版を見ると和みますよね！
＞青さん
おお‥！本当に最近青さんがユジョンに優しい‥！
そうかあの「彼氏として」発言は彼の本音に近い言葉だったのですね‥！また計算かと思っていた私‥。最近ユジョンに厳しい目です＾＾；
あのグルグル巻きはソルちゃんの反撃か～！確かにからかわれまくってましたもんね‥。納得です。
この話のコメの中でLikeされた数２位のコメは
「유정말이 홍설소스（淳巻き雪ソース）」でしたｗ
コメ欄汚してごめんなさい。
そうなんです、このブログ記事もコメント欄もハングルが書けないんです‥（T T）
すぐ文字化けしますし、とある絵文字を入れるとそれ以前に書いた文字が全て消えてしまうという呪いの顔文字もあります‥＾＾；
お気をつけ下さい‥
そして淳巻き雪ソース！
キンパブですかね？＾＾おもしろーい！