亮は劣等感に苛まれながらも、結局雪と淳の前に姿を見せること無く家路に着いた。
途中コンビニでアイスを買い、家に帰ると、それが入った袋を掲げながら、姉に対して口を開く。
「おい、これ食え‥」
静香は携帯電話の操作を続行しながら、
「あーサンキュー。こっち投げて」と口にした。
そこで亮の目に入って来たのは、見たことの無い静香の携帯だった。
思わず白目になる亮‥。
亮はいかめしい形相をしながら、静香の手首を強く掴んだ。
「また変えたのか?!お前マジで新しい携帯買う金がどこにあんだよ!」「えっ?」
頭に血が昇った亮は、そのままくどくどと説教を始めた。
「貰ったんなら誰に貰ったかハッキリさせろよ!またオレに濡れ衣着せずに!
ここはwi-fiもねぇってのに、一体通話料幾ら掛かってんだよ!え?!それに淳に貰った携帯はどうした?!」
小うるさい弟に、静香は辟易しながら「アンタに何の関係があんの?それ知ってどーすんのよ」とブツクサ言い返すが、
亮にも亮の言い分があった。
「オレも大体の状況を把握しとかねーと。
それにお前が淳から貰った携帯を捨てたはずねぇし‥」
「それはもう返したけど?」
すると静香は亮が言い終わるより先に、さらりとそう切り返した。
亮は首を傾げながら、静香の口にしたその言葉を反復する。
「は?返したぁ?淳に?」
静香はケロリとして「うん」と頷いたが、亮はその言葉が信じられずに尚も絡んだ。
静香はアンタには関係ないじゃんと言って、ウザったそうにする。
すると静香は思いついたようにニヤリと笑って、弟に対してこう話し出した。
「あ、そうだ。ねぇ最近あんたら、どうしてこんなに笑っちゃうよーなことばっかなの?
あんたもそうだし淳ちゃんもそうよ、なんでそんなにこだわんの?」
その突然振られた話題を、亮は理解出来ず「何の話だ?」と聞き返した。
すると静香は少し間を開けた後、もったいぶるようにしてこう言った。
「社・長・令・嬢のハナシ~」
社長令嬢‥。それは雪のことに他ならない。
亮が何も言い出せずにいると、静香は甲高い声でケラケラと笑う。
静香は笑いながらソファに寝転がると、腹を抱えて言葉を続けた。
「やめとけやめとけアンタも淳ちゃんも~あの子とはマジ似合わないじゃんよ~もう笑っちゃうわよマジで‥」
「だから何の話かって!」
依然として話が掴めない亮が、再度静香に聞き返す。
すると姉はニヤリと笑ったまま、面白そうにこう言った。
「アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?」
そして静香は語り始めた。
自分と淳の間に取り交わされた、虎と狐の取引きの経緯を‥。
静香の話が終わった時、亮は無意識の内に握っていた拳を震わせていた。
怒りを噛み殺しながら、冷静なトーンで確認する。
「それで‥取引の条件は何だったんだ‥?」
弟からのその問いに、静香は「う~ん」と言葉を濁した。
「取り敢えずデビットカードと最近買ったアレとソレは返してもらったけどぉ、
クレジットカードとアレとソレはまだなのよぉ。あ、後の携帯は他の男から貰ったやつよ」
「アレとソレってなんだよ?!」
亮は、姉のその曖昧な物言いに腹が立ち、思わず声を荒げて言い返した。
すると静香はサッと顔を上げ、不意にその言葉を口に出す。
「あ、美術」
眉をひそめた亮が問う。
「美術?」「うん。また美術をしたければ、したらいいってよ?」
静香は手に入れた戦利品を眺めながら、淳から聞いた話を亮に教えた。
「マジでちゃんと学校まで調べてくれるってよ。会長にもよく言っておいてくれるって。
そろそろあたしも再開したかったしー」
静香のその話を聞いて、亮の脳裏に淳の顔が思い浮かんだ。
そして自然と、口からはこんな言葉が零れ出す。
「‥アイツが、んなこと簡単に口にするってのかよ?」
そう言ってから、亮は急に口を噤んだ。
まるで無意識の中から不意に出たその言葉に、戸惑ったような表情をしながら。
暫し沈黙していた亮だが、やがて不意に笑い出した。
「は‥はは!自分の夢も情熱も無いお坊ちゃんがよ!」
亮の脳裏に、高校時代の淳が浮かんだ。
「勉強の他に何かしたいことはないのか、なりたいものはないのか」と聞いた時、
キョトンとした顔で、「考えたことない」とポツリと一言口にした淳‥。
心の奥が皮肉に歪む。
隠して来たその記憶が、胸を揺さぶる。
「んな簡単に‥人の夢を‥利用して‥」
亮は、我知らず動揺していた。
あの日直面したあの男の核心と、先程姉から語られたその言葉のズレが、亮の心を刺激する。
最後に亮は、呟くように再度こう口にした。
その声は、微かに震え、掠れていた。
「んな簡単に‥」
トン、トンと、どこからか音がする。
それは昔聞いた音。
外から聞こえて来たのか、自分の中に響いていたのか、
それは定かではない。
トン、トンと、その音は規則的に時を刻む。
目に入る風景を、徐々に歪ませながら。
トン、トン、トン、トン。
トン、トン、トン、トン。
徐々に大きくなる音。
その音は、亮の左手に向かい迫った。
そしてその音が止む時、亮の希望も未来も、夢も情熱も全て、
消えた。
「!!!」
ガバッと、勢い良く亮は飛び起きた。
はぁ、はぁと息が荒い。全身に汗が噴き出し、心臓がドクドク暴れている。
亮は暗がりの中で、自分の左手を眺めた。
希望から絶望まで、その全てを知った左手を。
先程見た夢の中の光景と、あの過去の暗い記憶が重なる。
亮は無言のまま、自身の左手を眺め続ける。
汗が止まらないくせに、指先が冷たくて震えていた。
感覚の無くなった左手の記憶が、亮を縛って彼を恐れさせる。
そのまま亮はブルブルと震えながら、目の前にあったブランケットをぐっと握り締めていた。
タンクトップ一枚の彼の肉体は屈強に見えるが、今亮は蘇ったその恐怖に、ただ震えるしか出来なかった。
夢も情熱も無い一人の男に握り潰されたのは、かけがえのない未来と希望。
許せなかったのは、人の夢を取引の対価として利用した、その男の核心ー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<夢の対価>でした。
亮は自分が失ったものがどれだけ重くて大きなものだったのか分かっているから、
その夢を潰した自覚の無い淳が許せないんでしょうなぁ。
といっても何があったのか真実を知るまで迂闊になにも言えませんが‥。
しかし亮さんマッチョですな!!
そんな彼が過去を思い出して震えている‥。一体何があったのか、そろそろ知りたいですね^^;
次回は<一人相撲>です。
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途中コンビニでアイスを買い、家に帰ると、それが入った袋を掲げながら、姉に対して口を開く。
「おい、これ食え‥」
静香は携帯電話の操作を続行しながら、
「あーサンキュー。こっち投げて」と口にした。
そこで亮の目に入って来たのは、見たことの無い静香の携帯だった。
思わず白目になる亮‥。
亮はいかめしい形相をしながら、静香の手首を強く掴んだ。
「また変えたのか?!お前マジで新しい携帯買う金がどこにあんだよ!」「えっ?」
頭に血が昇った亮は、そのままくどくどと説教を始めた。
「貰ったんなら誰に貰ったかハッキリさせろよ!またオレに濡れ衣着せずに!
ここはwi-fiもねぇってのに、一体通話料幾ら掛かってんだよ!え?!それに淳に貰った携帯はどうした?!」
小うるさい弟に、静香は辟易しながら「アンタに何の関係があんの?それ知ってどーすんのよ」とブツクサ言い返すが、
亮にも亮の言い分があった。
「オレも大体の状況を把握しとかねーと。
それにお前が淳から貰った携帯を捨てたはずねぇし‥」
「それはもう返したけど?」
すると静香は亮が言い終わるより先に、さらりとそう切り返した。
亮は首を傾げながら、静香の口にしたその言葉を反復する。
「は?返したぁ?淳に?」
静香はケロリとして「うん」と頷いたが、亮はその言葉が信じられずに尚も絡んだ。
静香はアンタには関係ないじゃんと言って、ウザったそうにする。
すると静香は思いついたようにニヤリと笑って、弟に対してこう話し出した。
「あ、そうだ。ねぇ最近あんたら、どうしてこんなに笑っちゃうよーなことばっかなの?
あんたもそうだし淳ちゃんもそうよ、なんでそんなにこだわんの?」
その突然振られた話題を、亮は理解出来ず「何の話だ?」と聞き返した。
すると静香は少し間を開けた後、もったいぶるようにしてこう言った。
「社・長・令・嬢のハナシ~」
社長令嬢‥。それは雪のことに他ならない。
亮が何も言い出せずにいると、静香は甲高い声でケラケラと笑う。
静香は笑いながらソファに寝転がると、腹を抱えて言葉を続けた。
「やめとけやめとけアンタも淳ちゃんも~あの子とはマジ似合わないじゃんよ~もう笑っちゃうわよマジで‥」
「だから何の話かって!」
依然として話が掴めない亮が、再度静香に聞き返す。
すると姉はニヤリと笑ったまま、面白そうにこう言った。
「アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?」
そして静香は語り始めた。
自分と淳の間に取り交わされた、虎と狐の取引きの経緯を‥。
静香の話が終わった時、亮は無意識の内に握っていた拳を震わせていた。
怒りを噛み殺しながら、冷静なトーンで確認する。
「それで‥取引の条件は何だったんだ‥?」
弟からのその問いに、静香は「う~ん」と言葉を濁した。
「取り敢えずデビットカードと最近買ったアレとソレは返してもらったけどぉ、
クレジットカードとアレとソレはまだなのよぉ。あ、後の携帯は他の男から貰ったやつよ」
「アレとソレってなんだよ?!」
亮は、姉のその曖昧な物言いに腹が立ち、思わず声を荒げて言い返した。
すると静香はサッと顔を上げ、不意にその言葉を口に出す。
「あ、美術」
眉をひそめた亮が問う。
「美術?」「うん。また美術をしたければ、したらいいってよ?」
静香は手に入れた戦利品を眺めながら、淳から聞いた話を亮に教えた。
「マジでちゃんと学校まで調べてくれるってよ。会長にもよく言っておいてくれるって。
そろそろあたしも再開したかったしー」
静香のその話を聞いて、亮の脳裏に淳の顔が思い浮かんだ。
そして自然と、口からはこんな言葉が零れ出す。
「‥アイツが、んなこと簡単に口にするってのかよ?」
そう言ってから、亮は急に口を噤んだ。
まるで無意識の中から不意に出たその言葉に、戸惑ったような表情をしながら。
暫し沈黙していた亮だが、やがて不意に笑い出した。
「は‥はは!自分の夢も情熱も無いお坊ちゃんがよ!」
亮の脳裏に、高校時代の淳が浮かんだ。
「勉強の他に何かしたいことはないのか、なりたいものはないのか」と聞いた時、
キョトンとした顔で、「考えたことない」とポツリと一言口にした淳‥。
心の奥が皮肉に歪む。
隠して来たその記憶が、胸を揺さぶる。
「んな簡単に‥人の夢を‥利用して‥」
亮は、我知らず動揺していた。
あの日直面したあの男の核心と、先程姉から語られたその言葉のズレが、亮の心を刺激する。
最後に亮は、呟くように再度こう口にした。
その声は、微かに震え、掠れていた。
「んな簡単に‥」
トン、トンと、どこからか音がする。
それは昔聞いた音。
外から聞こえて来たのか、自分の中に響いていたのか、
それは定かではない。
トン、トンと、その音は規則的に時を刻む。
目に入る風景を、徐々に歪ませながら。
トン、トン、トン、トン。
トン、トン、トン、トン。
徐々に大きくなる音。
その音は、亮の左手に向かい迫った。
そしてその音が止む時、亮の希望も未来も、夢も情熱も全て、
消えた。
「!!!」
ガバッと、勢い良く亮は飛び起きた。
はぁ、はぁと息が荒い。全身に汗が噴き出し、心臓がドクドク暴れている。
亮は暗がりの中で、自分の左手を眺めた。
希望から絶望まで、その全てを知った左手を。
先程見た夢の中の光景と、あの過去の暗い記憶が重なる。
亮は無言のまま、自身の左手を眺め続ける。
汗が止まらないくせに、指先が冷たくて震えていた。
感覚の無くなった左手の記憶が、亮を縛って彼を恐れさせる。
そのまま亮はブルブルと震えながら、目の前にあったブランケットをぐっと握り締めていた。
タンクトップ一枚の彼の肉体は屈強に見えるが、今亮は蘇ったその恐怖に、ただ震えるしか出来なかった。
夢も情熱も無い一人の男に握り潰されたのは、かけがえのない未来と希望。
許せなかったのは、人の夢を取引の対価として利用した、その男の核心ー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<夢の対価>でした。
亮は自分が失ったものがどれだけ重くて大きなものだったのか分かっているから、
その夢を潰した自覚の無い淳が許せないんでしょうなぁ。
といっても何があったのか真実を知るまで迂闊になにも言えませんが‥。
しかし亮さんマッチョですな!!
そんな彼が過去を思い出して震えている‥。一体何があったのか、そろそろ知りたいですね^^;
次回は<一人相撲>です。
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亮さんの身体を見た瞬間声でました(笑)体格とても良いですね!!かっこいいです!!
あれは、普通のコンビニの袋ですか??
そうすると残りの1つは…「淳ちゃん」?
でも淳がそんな約束するわけないか…うーん…
高校時代、静香の絵をバカにして美術なんて辞めちまえと言ってきた亮が、今は静香の美術を再開したいという言葉をすんなり受け入れ、その気持ちを利用した淳をただ許せないと憤りを感じている…。
夢の挫折を経験をした亮にとっては、人の夢を道具として利用するような真似は何より許せない事なのでしょうね。
しかも今回静香の話を聞いた事で、淳が陰で人を操っている事が確信になって、自分の手の事件とも繋がったのか…。
亮さんが段々追い詰められてきましたね。
劣等感を感じ、怒りを感じた今、淳に対してどんな行動にでるのか…!
何かしでかしてくれそうな予感がします!
それにしても、今になって唐突に出てきたようにも見えるインハと美術との再会。どんな意図で持ち出されてどんな結果をもたらすのか、まだよくわかりませんが、何やら意味ありげな布石ですね…。
ここまで亮が露出したのは、史上初ではないでしょうか!(先輩なんて露出全然しないし‥小石コツン)
思った以上にマッチョですよね‥!
>ぽこ田さん
ねー!私も最初見た時は「なんだこれは」と思いましたよ。調べてみると、コンビニ袋黒みたいですね。
http://4travel.jp/photo?trvlgphoto=35232863
青さんもコメで書いてらっしゃいます♪ありがとう青さん!
>とにきちさん
う~ん返してもらいたいものの一つが「美術」だったのかどうかは‥よくわかりません‥^^
静香は自分から美術に遠ざかっていた現状ですしね‥。
返してほしいもの、具体的には「クレジットカード」「家」「今まで通りの生活費」の類かな、と思います。
今回淳が「美術をやりたいならやればいい。学校を探しといてやる」というのは、静香の「美術をやりたい(夢を再開させたい)」という「夢」への執着を利用し、静香を雪や自分のテリトリーから遠ざけようとする淳の思惑を感じますよね。
淳のその思惑を亮は感じ取ったからこそ、「簡単に人の夢を利用する」ということへの憤りを感じたのではないでしょうかね。
そしてかつてピアノ君を利用して(多分それもピアノ君の夢を利用して彼を動かしたのでは?と推測しています)自分の夢を潰した過去を亮は思い出し、うなされてしまったのでは?と思っています。
そして亮がどうでるか、ですよね。気になる木!
>青さん
美術がどういう布石になってくるのか‥「夢」へもう一度手を伸ばすことが、何か重要な意味を淳や亮に与えるのか‥なんだかもう伏線がありすぎてよく分かりません。。
それにしても、例の事件のとき淳は割と近くで全ての成り行きを見ていたのですね。裏で手を引いていても、その場にいたとは思ってませんてました。
これは思ってたよりさらに根の深い確執っぽくて辛いです´`
私は亮が怒ってるのは夢の対価として静香をコマとして使った事だと思っていました。
でもそれだけではなく、静香を遠ざけるという自分の目的の為に人の夢を持ち出して利用した淳のやり方に憤りを感じていたんですね。う~ん、深いです…
微妙な違いですが、亮の怒りの理由が更に納得できました。ありがとうございます!^ ^
>静香嬢はそこまで本当に美術に対する夢や情熱があるのでしょうか
一体何が彼女のやる気スイッチを押したんでしょうね。夢へもう一度手を伸ばし始めた弟の影響か、不意に訪れたA大の雰囲気に感化されたからか‥。
この布石がどんな結末をもたらすのか‥青さんと共に気になる木!
>とにきちさん
想像ですが、静香が淳に最近A大で美術の授業を聴講していると話したことにより、淳がそれを利用しようと思い条件を持ちだしたのでは?と思っています。
(前回のコメを書いた後思い出しましたが、3部最初の方で、淳は今回の静香への対応と全く同じことを亮に対してしていますね。「お前、ピアノを弾きたいのか?だったら留学するか?」と‥。)
亮は人の夢を自分の思惑に利用すること自体許せないのかもしれないし、自分の指を駄目にした当事者が何の罪の意識も無くそれを言ってのけることに憤っているのかもしれませんね。。