モゾモゾと、布団の中で雪は動いていた。
どんな風に体勢を変えても、どこかシックリ来なくて。
結局元の仰向けに戻っても、しんどいのは変わらなかった。身体がズシリと重く感じられる。
‥全身がベッドにギュ~ッと押し付けられる感じ‥
雪は息を吐きつつ、再びモゾモゾと布団の中で身体を動かす。
緊張が解けたからかなぁ‥。そういえば今まで色々あったからな‥。
先輩とも、やっと仲直り出来たし‥
「‥‥‥」
雪はぼんやりと、彼と仲直りした先程のことを思い出していた。
ゴロン、と頭の向きを変えながらその記憶を思い出しては、ほんのりと頬を染める。
記憶の中の彼との時間が心をくすぐり、思わず雪は笑顔になった。
ふふ、と小さな声が漏れる。
雪は枕元に置いていた携帯に手を伸ばすと、メールの送信画面を開いた。
彼にメールを打ち始める。
先輩‥ちゃんと‥帰れましたか?私は今から‥寝ようと‥
くすぐったい気持ちが雪の瞼まで撫でたのか、雪はメールの最中、次第に眠気が襲って来るのを感じた。
そしてふっと意識が遠のいた瞬間、額に鋭い衝撃が走る。
「あだっ!」
ゴン、という音と共に、携帯が雪の額に落下した。
雪は額を押さえながら、そこに響く痛みに悶絶する。
そしてそのままドスンと、雪はベッドの下に落ちた。
額のみならず身体にまで、鈍い痛みが駆け巡る。
そして暫しそこで悶絶し、「うぅぅ‥」と声を上げていた雪だったが、
その声も次第に小さくなり、じきにそれに代わるように寝息を立て始めた。
解けた緊張と安堵の中で、雪は眠りの世界へ入って行った。
くぅくぅと響く彼女の寝息が、夜が明けるまで部屋に響く‥。
翌朝、雪は食堂の開店業務に追われていた。
慌ただしくテーブルをセッティングする中、店のドアが開き、雪は元気よく挨拶する。
「いらっしゃい‥」
しかし雪は途中で言葉を止める。
そこに居たのは、数日ぶりに目にする河村亮だったからだ。
雪は亮の姿を目にすると、パッと笑顔を浮かべた。
「あ!河村氏だ!」
雪からそう言われても仏頂面の亮だが、雪はそれに気づかずにニコニコと亮に近付いた。
「来られたんですね?私今日は午後授業なので、仕事してから行こうかと思って。
河村氏も今日は大学行く日じゃないですか?」
雪が話し掛けても、亮は無言のままだった。
それでも雪はそれにも気づかず、上機嫌で話を続けようとする。
「あ、それとこの間河村氏がくれたスプレー‥」
雪は以前亮から貰った防犯用スプレーのことを口に出そうとしたが、亮は苛立ちに口元をひくつかせながら、
低い声でそれを遮るようにして話し始めた。
「‥昨日お前の家族が連絡しまくってたけど、知んなかったのか?」
突然亮が口にしたその話に、雪は目を丸くした。
慌ててポケットから携帯を取り出す。
「え?そうでしたっけ?」「遅くなっておいて、なんで返信もしねーで‥」
「家に帰っても皆特に何も言わなかったんで気づきませんでしたよ」
そして今になって、ようやく雪は昨夜の着信履歴やメール履歴をチェックした。
「あれ?河村氏もメールくれてたんですね。うわーお母さん超怒って‥」
「もう知るかっ!!」
くわっと亮は口を開き、大声でそう言って雪を押し退けた。
「どけっ!!」 「??!!」
雪は突然怒り出した亮を前に、彼の態度が分かりかねて戸惑う。
な、なんなの‥?今そこ怒るとこ?
亮は雪に背を向けながらエプロンをつけると、音を立ててジャンパーをテーブルに叩きつけた。
そして亮は荒々しい仕草でモップ掛けを始める。
しかしその仕事の乱暴なことといったら‥。見ている雪も口をあんぐりである。
おまけにモップを掛ける道すがら、亮はテーブルに勢い良く手をぶつけて悶絶した。
「あだっ!」
それを見た雪は驚いて、思わず亮に駆け寄って声を掛ける。
「大丈夫ですか?!ピアニストは手、気遣わないと!何やってるんですかっ!」
亮を心配してそう口にする雪に対しても、亮はただむっつりと黙っているだけだった。
ぐっと歯を食いしばりながら、白目になって雪を睨む。
雪はじっと亮を観察しながら、彼がどこか変なことに気がついた。
恐る恐る、彼の肩に手を伸ばして聞いてみる。
「まさか‥朝から酒を飲んで来たんじゃ‥」
「‥すんな」
雪の言葉を被るように、亮が小さく口を開いた。
「え?」と聞き返す雪に、亮は拗ねたような口調でこう口にする。
「大切にするフリなんかすんな‥」
雪は、亮が口にしたその言葉の意味が分からなかった。
とりあえず先程までの会話の経緯を整理して、分かる範囲で亮に聞いてみる。
「どうしたんですか?
もしかして、メール無視したの怒ってるんですか?」
その雪の言葉に、亮は苛立ちを隠し切れずに大きな声を上げた。
「あらあら違いますわよぉ?!怒っちゃいませんわぁ!
あたくしを何だと思ってらっしゃるのかしらぁ~?!」
亮はなぜかオネエ口調でそう雪に言い返すと、一人笑いながら外へ出て行こうとした。
「は!は!は!ふあっ!」
「どこ行くんですか?!」
真っ青になりながらそう問う雪に、ドスの利いた声で亮が返す。
「スーパー!!」
雪は亮のその声と眼力に、もう何も言えず彼を見送った。
「は!は!は!」と亮は一人笑いながら、スーパーへと出掛けて行く‥。
やがて亮の背中が見えなくなっても、雪は依然として唖然呆然の体であった。
な‥なんなのあれ‥マジで‥
突然の奇行に走った亮に思いを馳せつつ、雪は大あくびをする。
まだ一日は始まったばかりだが‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<一人相撲>でした。
夜、一人で携帯を額に落っことす&ベッドから転げ落ち、痛みに悶絶する雪と、
昨夜雪の帰りが遅いことをあんなに心配したのに全く気に留めてない雪に苛つく亮と。
どちらもなんだか一人相撲の空回り‥という印象を受けたので、題名を<一人相撲>としました^^;
それにしても亮さん、挙動不審すぎる‥笑
次回は<不意打ち>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
どんな風に体勢を変えても、どこかシックリ来なくて。
結局元の仰向けに戻っても、しんどいのは変わらなかった。身体がズシリと重く感じられる。
‥全身がベッドにギュ~ッと押し付けられる感じ‥
雪は息を吐きつつ、再びモゾモゾと布団の中で身体を動かす。
緊張が解けたからかなぁ‥。そういえば今まで色々あったからな‥。
先輩とも、やっと仲直り出来たし‥
「‥‥‥」
雪はぼんやりと、彼と仲直りした先程のことを思い出していた。
ゴロン、と頭の向きを変えながらその記憶を思い出しては、ほんのりと頬を染める。
記憶の中の彼との時間が心をくすぐり、思わず雪は笑顔になった。
ふふ、と小さな声が漏れる。
雪は枕元に置いていた携帯に手を伸ばすと、メールの送信画面を開いた。
彼にメールを打ち始める。
先輩‥ちゃんと‥帰れましたか?私は今から‥寝ようと‥
くすぐったい気持ちが雪の瞼まで撫でたのか、雪はメールの最中、次第に眠気が襲って来るのを感じた。
そしてふっと意識が遠のいた瞬間、額に鋭い衝撃が走る。
「あだっ!」
ゴン、という音と共に、携帯が雪の額に落下した。
雪は額を押さえながら、そこに響く痛みに悶絶する。
そしてそのままドスンと、雪はベッドの下に落ちた。
額のみならず身体にまで、鈍い痛みが駆け巡る。
そして暫しそこで悶絶し、「うぅぅ‥」と声を上げていた雪だったが、
その声も次第に小さくなり、じきにそれに代わるように寝息を立て始めた。
解けた緊張と安堵の中で、雪は眠りの世界へ入って行った。
くぅくぅと響く彼女の寝息が、夜が明けるまで部屋に響く‥。
翌朝、雪は食堂の開店業務に追われていた。
慌ただしくテーブルをセッティングする中、店のドアが開き、雪は元気よく挨拶する。
「いらっしゃい‥」
しかし雪は途中で言葉を止める。
そこに居たのは、数日ぶりに目にする河村亮だったからだ。
雪は亮の姿を目にすると、パッと笑顔を浮かべた。
「あ!河村氏だ!」
雪からそう言われても仏頂面の亮だが、雪はそれに気づかずにニコニコと亮に近付いた。
「来られたんですね?私今日は午後授業なので、仕事してから行こうかと思って。
河村氏も今日は大学行く日じゃないですか?」
雪が話し掛けても、亮は無言のままだった。
それでも雪はそれにも気づかず、上機嫌で話を続けようとする。
「あ、それとこの間河村氏がくれたスプレー‥」
雪は以前亮から貰った防犯用スプレーのことを口に出そうとしたが、亮は苛立ちに口元をひくつかせながら、
低い声でそれを遮るようにして話し始めた。
「‥昨日お前の家族が連絡しまくってたけど、知んなかったのか?」
突然亮が口にしたその話に、雪は目を丸くした。
慌ててポケットから携帯を取り出す。
「え?そうでしたっけ?」「遅くなっておいて、なんで返信もしねーで‥」
「家に帰っても皆特に何も言わなかったんで気づきませんでしたよ」
そして今になって、ようやく雪は昨夜の着信履歴やメール履歴をチェックした。
「あれ?河村氏もメールくれてたんですね。うわーお母さん超怒って‥」
「もう知るかっ!!」
くわっと亮は口を開き、大声でそう言って雪を押し退けた。
「どけっ!!」 「??!!」
雪は突然怒り出した亮を前に、彼の態度が分かりかねて戸惑う。
な、なんなの‥?今そこ怒るとこ?
亮は雪に背を向けながらエプロンをつけると、音を立ててジャンパーをテーブルに叩きつけた。
そして亮は荒々しい仕草でモップ掛けを始める。
しかしその仕事の乱暴なことといったら‥。見ている雪も口をあんぐりである。
おまけにモップを掛ける道すがら、亮はテーブルに勢い良く手をぶつけて悶絶した。
「あだっ!」
それを見た雪は驚いて、思わず亮に駆け寄って声を掛ける。
「大丈夫ですか?!ピアニストは手、気遣わないと!何やってるんですかっ!」
亮を心配してそう口にする雪に対しても、亮はただむっつりと黙っているだけだった。
ぐっと歯を食いしばりながら、白目になって雪を睨む。
雪はじっと亮を観察しながら、彼がどこか変なことに気がついた。
恐る恐る、彼の肩に手を伸ばして聞いてみる。
「まさか‥朝から酒を飲んで来たんじゃ‥」
「‥すんな」
雪の言葉を被るように、亮が小さく口を開いた。
「え?」と聞き返す雪に、亮は拗ねたような口調でこう口にする。
「大切にするフリなんかすんな‥」
雪は、亮が口にしたその言葉の意味が分からなかった。
とりあえず先程までの会話の経緯を整理して、分かる範囲で亮に聞いてみる。
「どうしたんですか?
もしかして、メール無視したの怒ってるんですか?」
その雪の言葉に、亮は苛立ちを隠し切れずに大きな声を上げた。
「あらあら違いますわよぉ?!怒っちゃいませんわぁ!
あたくしを何だと思ってらっしゃるのかしらぁ~?!」
亮はなぜかオネエ口調でそう雪に言い返すと、一人笑いながら外へ出て行こうとした。
「は!は!は!ふあっ!」
「どこ行くんですか?!」
真っ青になりながらそう問う雪に、ドスの利いた声で亮が返す。
「スーパー!!」
雪は亮のその声と眼力に、もう何も言えず彼を見送った。
「は!は!は!」と亮は一人笑いながら、スーパーへと出掛けて行く‥。
やがて亮の背中が見えなくなっても、雪は依然として唖然呆然の体であった。
な‥なんなのあれ‥マジで‥
突然の奇行に走った亮に思いを馳せつつ、雪は大あくびをする。
まだ一日は始まったばかりだが‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<一人相撲>でした。
夜、一人で携帯を額に落っことす&ベッドから転げ落ち、痛みに悶絶する雪と、
昨夜雪の帰りが遅いことをあんなに心配したのに全く気に留めてない雪に苛つく亮と。
どちらもなんだか一人相撲の空回り‥という印象を受けたので、題名を<一人相撲>としました^^;
それにしても亮さん、挙動不審すぎる‥笑
次回は<不意打ち>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
河村さんには幸せでいてほしいです(´-ι_-`)
ゆいさん、ありがとうございます~^^
亮の台詞、切ないですよね‥。大切にされて来た人たちをことごとく失って来た亮だからこそ、そして今恋をしている雪にだからこそ、臆病になってしまうのかもしれませんね。。
亮に本当に幸せになってほしい。
亮さん、幸せになっておくれ…!!