先週、全米を揺るがした注目の裁判に判決が下った。ミシガン州立大及び全米体操協会の専属医師ラリー・ナッサーに対し、175年の刑が言い渡された。いわば無期懲役である。この判決にあたり、裁判官は事件暴露と解決の立役者として、インディアナポリスにあるローカル新聞社Indy Starによる特集記事とミシガン出身で現在ケンタッキーで弁護士をしている元体操選手の勇気ある告発がなかったならば、事件は闇に埋もれ続けていたであろうと褒めたたえた。
この事件はおよそ20年にも渡る陰湿な事件である。被害者はかつてのオリンピックで金銀銅を取った有名なメダリスト達を含む156名の体操選手である。事件の一端が明るみに出るや次から次へと名乗りを挙げ、156人というとんでもない数になった。加えて、かつて全米を歓喜の渦に引き込んだオリンピックメダリスト達が続々と名乗り出たから、一挙に全国的大事件に発展したのである。
発端は、インディアナにある地方紙Indy Starが長年燻っていた女子体操界のセクハラ疑惑を正面から取り上げようと2016年の春から調査を始めたことによる。当初のセクハラ疑惑のターゲットはコーチ達であった。全米体操協会の傘下で、コーチによるセクハラの訴えが報告されたにもかかわらず、協会側がまともに取り上げなかったり、「見て見ぬふり」で握りつぶしていたのが実態だった。Indy Star紙はこの実態をつぶさに調査し、いくつかの具体的なケースを検証、証拠を集めて2016年夏に紙面の掲載に漕ぎつけた。
この記事を隣のケンタッキーに住む弁護士レイチェル・デンホランダーが読んでいた。読みながら、漸く時期が到来したと確信した。かつて自身が体操選手として15歳の時に遭遇してした忌まわしい出来事をいつの日か告発したいと心の奥にしまい続けていたのである。過去、個人単位での告発がことごとく闇に葬られてきたことを知る彼女は、体操協会のコーチ達の不埒な行いに対し真正面から取り組んだIndy Starなら、全米体操協会の専任メディカル・ドクターの地位を利用して前途有望なティーンエージャー達を毒牙にかけ続けているであろうラリー・ナッサーに対する告発に力をかしてくれるだろうと確信しメールを送信した。
デンホランダーからのメールはIndy Starにとって青天の霹靂だった。特集を組んだコーチ達の悪行ではなく、約20年も君臨してきた全米体操協会のメディカル・ドクターに対する告発内容で、とんでもない鼠が出てきた心境だったという。早速Indy Starは3人の専属チームを編成しデンホランダーと接触、記事にはデンホランダーの実名を公表することの同意を得て、調査に動き出した。
調査を始めて間もなく、シドニー五輪のメダリスト、ジェイミー・ダンチャーのインタビューで、デンホランダーと同様の被害に遭っていることを突き止め、ラリー・ナッサーの悪行を確信、その年の9月にナッサーの悪行暴露と被害の訴えを握りつぶしていたミシガン州立大、全米体操協会への告発記事を掲載した。同時にデンホランダーは司法当局に告訴状を提出した。これを機に全米から続々と被害届がなされ、ついに11月にナッサーは逮捕となったのである。今回の判決で第一ラウンドは終わったが、ミシガン州立大及び全米体操協会への追及が続くことになる。
一連のセクハラ・スキャンダルを通してみると、”強い女性”の象徴のようなアメリカ女性でもセクハラ被害を公表することが如何に苦痛かがよくわかる。やはり長年トラウマを抱えて生きてきている。もう一つ言えるのは、事件を明るみにするUnsung Hero影の立役者が現れる、ということだ。このあたりが、アメリカの女性の”強さ”ではないだろうか。
メディアの報道に関して言えば、アメリカのジャーナリズムは綿々と生きている。かつてはウォーターゲート事件を暴いたワシントン・ポストの二人の記者、カトリック教会神父のセクハラを暴いたボストン・グローブ(Spotlightとして映画化)、ベトナム戦争の闇ペンタゴン・ペーパーを暴いたワシントン・ポスト(The Postとして映画化)等。そして今回のIndy Starの快挙である。アメリカはUSA TODAY紙を除き全て地方紙であり、質の高い記事を載せないと生き抜けない。全国区におんぶしている日本の大新聞社は質、ジャーナリズム精神において、彼らの足元にも及ばないだろう。
セクハラはあらゆる組織に蔓延している。今や、法の番人である裁判官が告発を受け、裁判官が裁判官を裁く、という皮肉な現実に直面している”揺れるアメリカ”がある。
この事件はおよそ20年にも渡る陰湿な事件である。被害者はかつてのオリンピックで金銀銅を取った有名なメダリスト達を含む156名の体操選手である。事件の一端が明るみに出るや次から次へと名乗りを挙げ、156人というとんでもない数になった。加えて、かつて全米を歓喜の渦に引き込んだオリンピックメダリスト達が続々と名乗り出たから、一挙に全国的大事件に発展したのである。
発端は、インディアナにある地方紙Indy Starが長年燻っていた女子体操界のセクハラ疑惑を正面から取り上げようと2016年の春から調査を始めたことによる。当初のセクハラ疑惑のターゲットはコーチ達であった。全米体操協会の傘下で、コーチによるセクハラの訴えが報告されたにもかかわらず、協会側がまともに取り上げなかったり、「見て見ぬふり」で握りつぶしていたのが実態だった。Indy Star紙はこの実態をつぶさに調査し、いくつかの具体的なケースを検証、証拠を集めて2016年夏に紙面の掲載に漕ぎつけた。
この記事を隣のケンタッキーに住む弁護士レイチェル・デンホランダーが読んでいた。読みながら、漸く時期が到来したと確信した。かつて自身が体操選手として15歳の時に遭遇してした忌まわしい出来事をいつの日か告発したいと心の奥にしまい続けていたのである。過去、個人単位での告発がことごとく闇に葬られてきたことを知る彼女は、体操協会のコーチ達の不埒な行いに対し真正面から取り組んだIndy Starなら、全米体操協会の専任メディカル・ドクターの地位を利用して前途有望なティーンエージャー達を毒牙にかけ続けているであろうラリー・ナッサーに対する告発に力をかしてくれるだろうと確信しメールを送信した。
デンホランダーからのメールはIndy Starにとって青天の霹靂だった。特集を組んだコーチ達の悪行ではなく、約20年も君臨してきた全米体操協会のメディカル・ドクターに対する告発内容で、とんでもない鼠が出てきた心境だったという。早速Indy Starは3人の専属チームを編成しデンホランダーと接触、記事にはデンホランダーの実名を公表することの同意を得て、調査に動き出した。
調査を始めて間もなく、シドニー五輪のメダリスト、ジェイミー・ダンチャーのインタビューで、デンホランダーと同様の被害に遭っていることを突き止め、ラリー・ナッサーの悪行を確信、その年の9月にナッサーの悪行暴露と被害の訴えを握りつぶしていたミシガン州立大、全米体操協会への告発記事を掲載した。同時にデンホランダーは司法当局に告訴状を提出した。これを機に全米から続々と被害届がなされ、ついに11月にナッサーは逮捕となったのである。今回の判決で第一ラウンドは終わったが、ミシガン州立大及び全米体操協会への追及が続くことになる。
一連のセクハラ・スキャンダルを通してみると、”強い女性”の象徴のようなアメリカ女性でもセクハラ被害を公表することが如何に苦痛かがよくわかる。やはり長年トラウマを抱えて生きてきている。もう一つ言えるのは、事件を明るみにするUnsung Hero影の立役者が現れる、ということだ。このあたりが、アメリカの女性の”強さ”ではないだろうか。
メディアの報道に関して言えば、アメリカのジャーナリズムは綿々と生きている。かつてはウォーターゲート事件を暴いたワシントン・ポストの二人の記者、カトリック教会神父のセクハラを暴いたボストン・グローブ(Spotlightとして映画化)、ベトナム戦争の闇ペンタゴン・ペーパーを暴いたワシントン・ポスト(The Postとして映画化)等。そして今回のIndy Starの快挙である。アメリカはUSA TODAY紙を除き全て地方紙であり、質の高い記事を載せないと生き抜けない。全国区におんぶしている日本の大新聞社は質、ジャーナリズム精神において、彼らの足元にも及ばないだろう。
セクハラはあらゆる組織に蔓延している。今や、法の番人である裁判官が告発を受け、裁判官が裁判官を裁く、という皮肉な現実に直面している”揺れるアメリカ”がある。