僕と猫のブルーズ

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奥田英朗「オリンピックの身代金」

2014年09月04日 | Art・本・映画
ボクは1964年生まれ。丁度東京オリンピックが開催された年に生まれた。
嫁が東京オリンピックを題材としていた本を持っていたので借りて
読んだ。作者の奥田英朗は1959年生まれとボクに年齢が近い。
「空中ブランコ」等、どちらというとコミカルな作品が印象に残ってる。
でも、「オリンピックの身代金」は終始シリアスなハードな作品だった。

奥田英朗「オリンピックの身代金」
http://www.kadokawa.co.jp/sp/200811-02/
昭和39年 東京オリンピック。
東大大学院生の島崎国夫は、急死した兄に代わって土木工事の孫請け
会社でアルバイトを始める。
現場の建設会社では大企業による下請けイジメ、作業員同士のいがみ合い、恐喝。
労働者に対する搾取、華やかな東京と自分の生まれ故郷の秋田のあまりの落差、
兄がヒロポンの過剰摂取で死んだこと、一方でそんな暗いニュースに見向きもせず
「全国民一丸となって外国に恥ずかしくないオリンピックをしよう」
という美辞麗句の元に盛上る社会に違和感と怒りを感じる。
国男は「平等な社会を実現するために資金を得る」ためオリンピックの
設備爆破の脅迫文を警察に送りつけ、身代金を要求する。


クライムサスペンスとしても面白く読めたが、寧ろ綿密な社会描写に
感銘を受けた。奥田さんは当時の社会事情を徹底的に取材し得た情報を
ストーリーに反映した。
物語自体はフィクションだが背景にあるものはノンフィクションなのだ。

東京と地方の格差、建設現場の多重構造、労働者の報酬の中抜き、
都合の悪いニュースを隠す政治、イベントに浮かれる東京。
これって現代でもそんなに変って無いんじゃないか?
昨年、東京オリンピック招致決定に盛り上がった国内の浮かれよう
を想い出すと・・・この本で書かれた事は「遠い過去のことじゃない」
と思わざるを得ない。

国男のキャラが本当に魅力的。マジメで純粋。
彼のやってることは犯罪だがその動機はある意味「正義感」から来ている。
知らず知らずに彼を応援している自分がいた。
国家に独りで闘いを挑んだその勇気を讃えたい。
それと彼を助ける同郷の老スリ留吉のキャラが秀逸。
国男との関係が実の親子みたいで読んでて心が温かくなった。

留吉が巨大なオリンピック施設を見て国男こんなことを言う。
「東京と東北は似たような名前なのに何でこんなに違うんだ?」
「だから、やるんです。だから、オリンピックを妨害するんです」
読んでて胸を撃たれた。

ボクは京都出身だが東京で働く様になって20年になる。
千葉に住み、嫁と結婚した後、埼玉、荒川区に住んでいる。
荒川は下町で旧い文化や商店街もチャンと残っていて好きな街だ。
ボクはここを終(つい)の棲家にする積りだ。

でも、旧い豊かな文化が残っているのも矢張り「東京」ならでは。
東京も不景気や貧困はあるが、それでも地方よりはマシ。
地方は疲弊している。シャッター商店街だらけ。
311のため姿を変えた東北の街。未だ明るい未来は描けていない。
東京は問題は山積みだが夢や希望に溢れてる。。やはり「独り勝ち」してる。

東京は毎日の様に色んなイベントが起こっている。
新しい店がどんどん出来て、ライブ、展覧会、映画、スポーツイベント、
丸で毎日が「祭り」の様だ。
そして、数年経てば店が入れ替わり別の風景になってる。旧い景色が消える。
こんなにしょっちゅう変わる街も珍しいのでは?
「東京」・・・これ以上どこに行く気だ?

もう、いいじゃん。この辺で留まろうぜ。
新しいイベントスペース、ショッピングモール、ブランドショップ?
要らない。前のままでイイじゃん。昔の店で何か問題か?
2020年に東京オリンピック?要らない。
オリンピックやらなくても毎日色んなイベントやってるじゃん。
そんなにあれこれ欲しがるなよ。1つ位ガマンしようぜ。

オリンピックで夢や希望を見せるのも大切。
でも、現在は夢や希望を持てない人が大勢いるんだ。応援するなら先ずはそっちだろう?
日本全体にゆとりが出来たらそのときこそオリンピックを呼べばいい。

勿論、出場する選手の活躍は祈るし競技そのものは純粋に楽しもう、と思う。
でも、「東京でオリンピックを開催する」というコンセプトにはずっと反対する。

国男は最終的には失敗する。残念。でもキミの意志はオレが継ごう。
オレは爆破はしないけど(笑)オリンピックには逆らい続けるぜ。
なんたって「非国民」ですからV(^^)

読み応えがあった。
そして・・・この時代を舞台とした小説をもっと読みたくなった。
読みかけで頓挫した赤坂真理「東京プリズン」もう1度読もう。
川本三郎「マイバックページ」も読んでみたい。

自分が生まれた「戦後」「昭和」に何があったのか?
あの時代に何があって、現代(いま)がこうなってしまったのか?
知りたい・・・いや、知らなくちゃいけない、そう思う。


週末、また東北に行く。チャンと見届けてこよう


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