野宿していた私が嵐に見舞われ、不思議な体験をする話。その3です。
かすかに聞こえてきた足音は、急がず、しかし遅すぎず、普通のテンポの歩みです。
なぜか数歩進んで立ち止まる気配。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
数秒間の静止の後、また歩き出す。
こんな時間に、こんな場所で聞こえる、独りの足音。
ちょっと変だけど、でもここは観光地。夏休みはすでに終わっておりましたが、まったくヒトがいないわけじゃない。誰かが歩いていたって不思議じゃない。数歩進んで立ち止まる、という歩き方は、まるで何か落し物を探しているようでもある。
でも……。
静かに肘をついて半身を起こし、集中して気配を探りました。
灯りの無い暗い湖畔ですし、また、何か探しものをしているのなら、ライトで足元を照らしながら歩くはず。ですが、テントの布地越しには何も灯りが見えず、ということは、あの足音の主は暗闇を歩いているのです。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。
……鈴の音?
音から推測するに、仏具として使われる鈴(れい)ではないでしょうか?
暗闇を歩く者は静かに数歩進んで立ち止まり、鈴を鳴らしてまた歩く、という行為を繰り返しているのです。
いったい何者でしょう?
なんとなくお坊さんが托鉢をしている図を想像しましたが、真夜中の湖畔で托鉢ぅ? そんなことするヒトいないよー。
テントの入り口を開けて外を確認する、なんて考えは微塵もありませんでした。
だって怖いもん!
その時、足音の主は私のテントに気づいたようです。
別方向に向かっているようだった足音と気配が向きを変えて、こちらに近づいてきたんです。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。
えーっ!? うっそーっ!
こっち来るなよーっ!!
声にならない私の心の叫びでありました。
私の希望に反して足音は、さくさくちーん、と私のテントに到達。歩調は変えず、ゆっくりと私のテントの周りを回り始めました。
うわー、これ、前に先輩に聞いた話と同じじゃーん!
ヤバいじゃーん!
さく、さく、さく、さく。
と、テントの向こう側を回ってきた足音が、私の枕元の近くで止まりました。
私は片肘を着いた姿勢のまま、テントの布地に耳を近づけて、外の足音に注意を集中していたのですが、まるで私の姿勢がわかっているかのように、私の耳のすぐそばで鈴が鳴らされたのです。
ちーん。
うわっ!
全身に鳥肌が立ちました。
いきなり至近距離で金属音を聞かされて驚いた私が思わず身じろぎをし、その気配に気づいたのでしょうか、足音は早くなりました。
さくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさく
もう鈴は鳴りません。ただひたすら足音が高速でテントの周りを回っています。どんなに身軽な人間でも、走らずにはそんなに早く移動できるはずがありません。でも足音から察するに、歩幅に変化は無いようなんです。
その異様さと、突然の勢いの変化に驚愕し、思わず身体が動きました。そのとき、うっかりシュラフの中で点けっぱなしだったマグ・ライトが転がり落ち、テントの内部が照らされました。
私が見たのは、テントの布地に浮かび上がる、足音の主の手形でした。外を歩くその者は、テントを押すように触りながら歩いているんです。
うわーっ!
たぶん、悲鳴に似た声を上げたと思います。音だけでなく、視覚でも何者かの存在を確認した私は、恐怖でパニックになったのです。
そのまま私は地面に伏せ、シュラフの中で身を縮め、大声で「やめてくださーい」とお願いしましたし、「ごめんなさーい」と謝罪もしましたし、当然「ナンマイダブ」も連呼しました。
そのままずうっとそうしていましたので、その後どうなったのかサッパリ分からないのですが、シュラフの中でずいぶん時間が経ったことが自覚できた頃、ナンマイダブを唱えながらおそるおそる外をうかがうと、テントの中は朝日で明るくなっておりました。
湖の波は昨日と変わらずチャプチャプとささやき、鳥の鳴く声も健康的に聞こえてきます。
・・・ああ、ああ、良かった。
なんだかわかんないけど、助かった・・・。
無事に朝を迎えることが出来た安心感と、極度の疲労感で、脱力。
なんだか栄養ドリンクが飲みたい。
テントの入り口を開け、外を見ると、砂の地面は嵐のときに降った大きな雨粒の跡があるだけで、何の足跡もありませんでした。
野宿することなんかなんとも思わなかったのですが、この体験以来、私は独りで野宿したことがありません。
この先、二度とするつもりもありません。
かすかに聞こえてきた足音は、急がず、しかし遅すぎず、普通のテンポの歩みです。
なぜか数歩進んで立ち止まる気配。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
数秒間の静止の後、また歩き出す。
こんな時間に、こんな場所で聞こえる、独りの足音。
ちょっと変だけど、でもここは観光地。夏休みはすでに終わっておりましたが、まったくヒトがいないわけじゃない。誰かが歩いていたって不思議じゃない。数歩進んで立ち止まる、という歩き方は、まるで何か落し物を探しているようでもある。
でも……。
静かに肘をついて半身を起こし、集中して気配を探りました。
灯りの無い暗い湖畔ですし、また、何か探しものをしているのなら、ライトで足元を照らしながら歩くはず。ですが、テントの布地越しには何も灯りが見えず、ということは、あの足音の主は暗闇を歩いているのです。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。
……鈴の音?
音から推測するに、仏具として使われる鈴(れい)ではないでしょうか?
暗闇を歩く者は静かに数歩進んで立ち止まり、鈴を鳴らしてまた歩く、という行為を繰り返しているのです。
いったい何者でしょう?
なんとなくお坊さんが托鉢をしている図を想像しましたが、真夜中の湖畔で托鉢ぅ? そんなことするヒトいないよー。
テントの入り口を開けて外を確認する、なんて考えは微塵もありませんでした。
だって怖いもん!
その時、足音の主は私のテントに気づいたようです。
別方向に向かっているようだった足音と気配が向きを変えて、こちらに近づいてきたんです。
さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。
えーっ!? うっそーっ!
こっち来るなよーっ!!
声にならない私の心の叫びでありました。
私の希望に反して足音は、さくさくちーん、と私のテントに到達。歩調は変えず、ゆっくりと私のテントの周りを回り始めました。
うわー、これ、前に先輩に聞いた話と同じじゃーん!
ヤバいじゃーん!
さく、さく、さく、さく。
と、テントの向こう側を回ってきた足音が、私の枕元の近くで止まりました。
私は片肘を着いた姿勢のまま、テントの布地に耳を近づけて、外の足音に注意を集中していたのですが、まるで私の姿勢がわかっているかのように、私の耳のすぐそばで鈴が鳴らされたのです。
ちーん。
うわっ!
全身に鳥肌が立ちました。
いきなり至近距離で金属音を聞かされて驚いた私が思わず身じろぎをし、その気配に気づいたのでしょうか、足音は早くなりました。
さくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさく
もう鈴は鳴りません。ただひたすら足音が高速でテントの周りを回っています。どんなに身軽な人間でも、走らずにはそんなに早く移動できるはずがありません。でも足音から察するに、歩幅に変化は無いようなんです。
その異様さと、突然の勢いの変化に驚愕し、思わず身体が動きました。そのとき、うっかりシュラフの中で点けっぱなしだったマグ・ライトが転がり落ち、テントの内部が照らされました。
私が見たのは、テントの布地に浮かび上がる、足音の主の手形でした。外を歩くその者は、テントを押すように触りながら歩いているんです。
うわーっ!
たぶん、悲鳴に似た声を上げたと思います。音だけでなく、視覚でも何者かの存在を確認した私は、恐怖でパニックになったのです。
そのまま私は地面に伏せ、シュラフの中で身を縮め、大声で「やめてくださーい」とお願いしましたし、「ごめんなさーい」と謝罪もしましたし、当然「ナンマイダブ」も連呼しました。
そのままずうっとそうしていましたので、その後どうなったのかサッパリ分からないのですが、シュラフの中でずいぶん時間が経ったことが自覚できた頃、ナンマイダブを唱えながらおそるおそる外をうかがうと、テントの中は朝日で明るくなっておりました。
湖の波は昨日と変わらずチャプチャプとささやき、鳥の鳴く声も健康的に聞こえてきます。
・・・ああ、ああ、良かった。
なんだかわかんないけど、助かった・・・。
無事に朝を迎えることが出来た安心感と、極度の疲労感で、脱力。
なんだか栄養ドリンクが飲みたい。
テントの入り口を開け、外を見ると、砂の地面は嵐のときに降った大きな雨粒の跡があるだけで、何の足跡もありませんでした。
野宿することなんかなんとも思わなかったのですが、この体験以来、私は独りで野宿したことがありません。
この先、二度とするつもりもありません。
ホントに怖い話じゃないですか~~(@_@;)
なんだかずいぶん、いろいろ怖い経験してるのね~
やんなっちゃいます。