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小話  新釈 奥の細道   曾良の、息抜きの段

2022-12-23 14:28:31 | 小説

この河合曾良なくしては、芭蕉の旅は成りいかなかったのでは。

芭蕉門下十哲の一人、また深川八貧の一人でもある。真心の人である。
信州は上諏訪の酒蔵に生を受け、六才にて両親を亡くす。
長男なれど養父母へ引き取られ、またまた十二にして二人を亡くすことに。
その後、伊勢は長島へ行く、やがて三十を過ぎて江戸へと出る。
神道、地誌、国学、和歌に興味を持つ、それで芭蕉の元へと繋がる。

芭蕉曰く、「性隠閑を好む、交金を断つ」とある。
これは何を意味するのか、また貧しかった、生涯一人者か。
曾良にとっては芭蕉が救いだった。俳諧、生きるよすがとした。
旅の同行に選ばれて心底喜んだ、師匠に尽くし支えようと。
前もって、名所備忘録をしたため、西行ゆかりの地などを記す。
道中では僧衣を纏い、まるで影のように師の後をゆく。我は影にと。
句を残しながら、随行記に事細かに足取りを書き連ねる。

その中に一か所、別にて街道を進むの段あり、出羽国温海宿に泊まった後よ。
このまま羽州浜街道を下り越後へと向かうとき、二手に分かれた。
奥州三関の一つ、鼠ヶ関を先に越えたは芭蕉のみか、二人してなのかは定かならず。
芭蕉は馬で向かい、義経伝説の地を見ての海沿いを辿る。
では曾良はと言えば、山に向かいて温海温泉によってからの鼠ヶ関。何があったのか。
芭蕉とのやり取りが、聞こえて来ようぞ・・・・

芭蕉「おい曾良や、道中難儀をかけてすまんのう。ここらで息抜きとせぬか」
  「わしは、海沿いを馬で進み、義経が跡の地を見てからの鼠ヶ関とする」
  「お前は、山を越え、ちょうど温泉場がある、温海温泉によってからや」
曾良「はあ、それはええですども、師匠さんも温泉につかったらええのに」
芭蕉「あのな、お前は真面目は良し、なれど心に油させ。遊んで来ぬか」
曾良「そげなこつ言うても、不向きにて所作も知らず、まして女心はわからず」
  「いつまでも湯に浸かって、酒飲むのが関の山、それで充分にて」
芭蕉「温泉場には女が付きものゆえ、これも風流と心得て一句作ってこんか」
曾良「こいも風流、一句ですかな。それならばわかり申した、何が何でも作って来ますぞ」
芭蕉「うむ、それがよかろう。では、夕刻には越後の中村宿で会おうぞ」
曾良「はあ、そういたしましょう。では、ご無事で・・・・」

我らが曾良は、人擦れしていないのである。
幼少期から点々としており、人の情を良くと知らずなり、まして女心をや。
芭蕉翁の粋な計らいで、温泉場に半ば送り込まれたけれども、はたと困った。
湯女が出て来たら、どげにしよう。まして僧ではないが、僧衣である。
向こうは僧と思うのではないか、いや、たとえ僧でも引き込むか。
ままよ、まあこれわからずだが、これも句の為、いざ温泉場へ・・・・

曾良「おいや、旅のもんだども、湯に浸からせてはくれぬか」
湯女「これはお坊様、よくと来てくだされたのう、ささ、入れって」
曾良「この温海温泉は鄙びた場であるな、湯治がたんと来るかいや?」
湯女「そらな、男衆が鶴岡や酒田から来てな、骨休みとか、ええこつしてるど」
曾良「そう、ええこつとは、これ如何に?」
湯女「垢落としだべさ、そこらじゅうの垢さ落としてな、やけに元気んなんだ」
  「ワテらはのう、それこそ骨抜きんして、宿から出れんようにすんのや」
  「そんで稼ぐ、泊まりを長引かせてな、ふらふらんなって帰るのもおっぞ」
  「でな、味しめてな、また来たくなんだ、男ってそんなもんだなや」
曾良「拙僧は、あっ、いやいや僧ではないんだが、まあ、それみたいなもの」
  「では、よしなに垢落としをお頼みいたす。おまかせします」
湯女「おお、そんでええ。じゃ、そこさ脱いで湯屋へ来い、ふらふらんしたる」
曾良「あ、うん、よしなに・・・・」

かたや、年期の入った四十路の湯女である。
痒いとこ、よう知っておる。力も強い、垢がぼろぼろと出た。痛キモである。
曾良も四十路である。なれど、女に疎い。流れが読めずなり、湯女は言う・・・・

湯女「なあ、お坊さんや、いつまで洗わせる気かえ、手が疲れてもうは」
  「たいがいの客はの、洗わせるんはそっちのけでな、こっちを洗いたがるわ」
曾良「いやいや、自分のことは自分でしてくだされ、これにて充分で」
  「しばし湯に浸かってから、酒を少々もらえまするかな」
湯女「ああ、ええ、じゃあ支度しとるで」

それからというものである。しばしどころか、待てど待てど湯から出ず。
湯女は何かあったかと思う次第。だけど何もなし。ただ、思案中なり。
曾良は曾良で、これからどうしたものかと、湯の中で迷いそうろう。
このまま浸かろうか、いや、それじゃ、違う意味でふらふらとなるではないか。
本当は、あの湯女にふらふらにされたい、でも、どうやって。
わからん、俳句どころじゃない、困りそうろう。

ここで苦しまみれに、一句捻りだした。
・・・・温泉場 拙僧は浸かる まじめ風呂・・・・

夕刻に、師匠にどう伝えようか。
湯の中で、まだ考えるになりにけり、その前に、あの湯女には、これいかに。
・・・・湯女とかけ 客は湯にとけ あてはずれ・・・・


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