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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出』

2005年11月26日 | Book
  

先ごろ亡くなられたヤマト運輸の元会長・小倉昌男さんが書かれた『福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出』を読みました。

障害をもつ方の経済的自立を指南する目的で書かれた本です。しかし、障害をもたれた方がビジネス・リテラシーに乏しいという前提に書かれているので、図らずもそれ以外の一般の人たちにとっても一からビジネスの仕組みを教えてくれる内容になっています。

この本の内容は大まかに分ければ、

 1 福祉行政のいい加減さとそれにより貧困に追い込まれる「障害者」の方々の状況

 2 素人から一から起業して成功するための方法

に分けられます。

福祉行政については、障害をもつ方を集め作業所を設置するためには認可が必要であり、認可を受けた作業所には手厚い資金援助がなされ、無認可の作業所には僅かなお金しか支払われません。その認可にかかる手続きには土地の所有の有無など障壁があるため、資産をもつ人しか認可を得ることができません。

それは障害をもつ人の作業所だけではなく老人ホームについても言え、資産家が税金逃れや土地・資産の有効活用のために老人ホームを建設することはできても、お金がない善意の人には老人ホームを作るのが困難な制度になっています。

またそうした手続きの困難さに加え、認可を受けた作業所も利益を得る仕事を真剣には考えず、ただボランティア的な仕事しか働く人に与えていない状況です。「障害者」に対する福祉行政は、「障害者」の経済的自立ではなく、単にデイケアセンターとしてのみ作業所の役割を考え、真剣に働き利益をもたらすということを考えていません。それゆえ結局は障害者の作業所は国のお金を使って福祉に携わる人たちの善意を満たす場所にはなっても、「障害者」自身の経済的利益にはなっていません。

だからといって作業所を全面的に否定することはできないし、それまで障害をもつ方の仕事にかかわってきた福祉行政の人たちの声について小倉さんは触れていないのでフェアに判定することはできないのですが、とにかく小倉さんは金銭という生存に関わる問題について福祉行政は真剣に考えず、単に国からお金を取ってきれいな建物を作っているだけで、障害をもつ方々の役には立っていないと論じます。

そこから小倉さんは、どうすれば障害をもつ人たちでも利益を得るチームを作ることができるか、すなわち起業して成功するためのチーム作りの方法を説明します。小倉さんはそうしたセミナーを全国で行い、実際に一部の障害をもつ方々のビジネスを成功に導きました。

小倉さんの説明はシンプルです。

・ビジネスとは、収入-支出=利益であることを理解すること。

これは小学生でも分かることですし、先日ご紹介した川本裕子さんも著書で何度も繰り返されています。神田昌典さんも、同じ事をつねに強調しています。

ただこの式がどんなに簡単であろうと、これを守れないから多くの人が失敗し、また借金を重ねてしまいます。

また借金がなく一見収入の数字が多いミドル・クラスの多くがじつは経済的不安を抱えているのも、この式を実践できていないからです。ミドル・クラスの多くは、家のローンなどを抱え、つねに働かなければ破産する状況にあります。

それだけ上記の式を実践するのは難しく、それだけにつねに意識していなければならないということなのだと思います。

・これからのビジネスとはサーヴィスであること。

これは小倉さんがヤマト運輸を成功に導いた要因ですね。

産業は、材料を作る・採集する=一次、製品を作る=二次、商品を売る=三次と分類されます。何十年も前から言われているように、先進国の産業構造は次々に三次産業の比率が多くなっています。

これは消費者の趣向の変化に伴っていますよね。私たちは基本的な欲求が満たされるほど、驚きや安心感など感覚の充足を伴う消費を求めます。それには単にいいモノではなく、その商品を買うことで得られる満足感という感情・感覚の充足がポイントになります。

ヤマト運輸が成功したのも、いつでも荷物を取りに来てくれて、面倒な梱包もしてくれて、スキーや冷凍食品を取り扱い、それらを希望の曜日に届けるという、それまで考えられなかった物流を実現したからです。またドライバーをサーヴィス・セールスマンと位置づけ、彼らにお客に喜ばせることを第一目標とさせます。たとえ一時的な損失が出ようと、その場その場でお客のニーズに応えることを徹底させ、ヤマト運輸は成功しました。

消費者がお金を払うのは、そのサーヴィス内容それ自体以上に、そのサーヴィスをいかに売り手が売っているかに左右されていっています。商品の内容以上に、対面する売り手が消費者に与える印象がより重要になっています。これはインターネットでも変わりません。

・よいビジネスとは、よい商品を作ることではなく、よい商品を売ること

これは上記のサーヴィスの重要性と同じなのですが、つまりビジネスとは商品を作る(製品を作ったり、技能を磨く等)以上に、その商品を売ることが重要です。小倉さんはこの視点が障害者の作業所には決定的に欠けていることを指摘します。その福祉にかかわる人たちはみな善意なのですが、どれほどマジメに商品を作ろうと、それが消費者に届かなければ在庫の山となってしまいます。

そうした作業所の商品はバザーなどで売られるのですが、それでは在庫をちゃんとさばくほどの消費者に届けることはできません。また本当に消費者を喜ばせる商品を造ることができません。バザーでは買うほうも欲しいからではなく善意で買うからです。


これらのことを指摘した上で小倉さんは、まず商品の質を確保するために、どうすれば障害者の方でも一定の質をもつ商品を作れるかを考えます。その成功例として、冷凍したパンを作っている会社と契約を結び、そのパンを解凍しておいしい状態で消費者に届けるプロセスを担う会社を障害者の方々を中心にして作ります。

その会社が「スワンベーカリー」です(「スワンベーカリーは、多くの障害者の自立と社会参加を支援するために、ヤマト福祉財団 、ヤマト運輸 が中心になって設立されました」)。

他にも色々な障害をもつ方々の起業モデルを小倉さんはあげています。

ポイントは、

1 品質を絶対に確保すること。つまり善意ではなく消費者が本当に欲しい!と思える商品を提供することに決めること。

そして

2 そういう商品・サーヴィスを障害をもつ人たちが提供するにはどうすればいいかを考えること。

この順番は絶対に守らなければならず、それを崩すとビジネスにはなりません。そのためにはある程度の商品製造は他の業者に任せ、部分的なプロセスを担うようにするなどの工夫が必要です。

またそれを売るためのプロセスも、障害を持つ方で不可能な部分は、たとえば他の業者に任せて店頭に並べてもらったり、コンサルタントを利用したりする必要があります。そのプロセスでは福祉に携わる人たちのアイデアが絶対に必要です。


書いていて時間がかかったわりにこの本の良さを伝えられなくてもどかしいのですが、普通「起業」というと華やかな成功物語を追いかけます。しかしこの本で扱われているのは、成功のためではなく、生きるため・生活のための起業の方法です。そのために、流通コストを下げること、コンサルタントを利用すること、消費者の需要を掘り起こすことの重要性など、小倉さんの地に足のついてメッセージがとても印象的な本です。

ひょっとしたら、起業による成功物語を追いかける(執着する)人たちにとってもよい参考になるのではないか、そう思わされた本でした。


涼風


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