淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

あの「がきデカ」が帰って来た。山上たつひこの漫画「中春こまわり君 」(ビッグコミックス)。

2012年12月27日 | Weblog
 人気漫画「ワンピース」の30年後の世界、あるいは「ゴルゴ13」の引退後の老後生活、または「サザエさん」におけるカツオの中年人生、そういう未来漫画が出版されたとしたら、ファンは一体どういう反応を示すんだろう?

 読んでみたいと思うのだろうか。それとも、今の漫画のイメージを壊したくないから見たくないといって、読むこと自体を拒否するのだろうか。

 人間誰もが老いてゆく。
 若い頃、どんなに美しかった女性でも、歳をとるごとに皺が増え、肌は衰え、ハリと艶が消えうせ、老化は絶対に避けられない。

 男性もしかり。
 お腹が割れていて、筋肉質で機敏な動きをみせ、精悍なマスクとフサフサの髪を撫でつけている青年だって、やがて歳を重ねると髪の毛が抜け、歯は悪くなり、お腹は膨らみ、運動神経は鈍ってゆく。

 それは絶対に避けることが出来ない、人間、生物としての宿命だ。
 
 漫画「がきデカ」は、1974年から数年間に渡って「週刊少年チャンピオン」に連載された、ギャグ漫画の傑作である。
 漫画家山上たつひこは、この漫画「がきデカ」で大ブレイクしたけれど、その前は硬質なテーマの大人向け漫画を描いていて、そこでも玄人筋から大きな評価を受け、「光る風」はかなりの評判を博した。
 その後、大人向けに「喜劇新思想大系」というギャグ漫画を描き、そこから「がきデカ」へと繋がったのである。

 僕は当時、ほとんどすべての漫画を読み漁っていて(もちろん、限界はありますが・・・)、「ジャンプ」と「マガジン」「サンデー」、「チャンピオン」は毎週定期購読しており、全部読み終えるとそのまま部屋の壁に積み上げ、漫画が天井まで届くとそれを全部捨てるという行為を何度も繰り返していた(それが何の意味があるんだと言われれば、何の意味もありませんと答えるしかありません)。

 ギャグ漫画の「がきデカ」は圧倒的に面白かった。
 毎回、声を出して笑ったものだ。
 コミックも凄い勢いで売れたのではないか。

 主人公は、自称日本初の少年警察官である「こまわり君」。
 漫画自体、他愛のないおふざけに終始するのだが、何処かに隠れ知的な部分が垣間見え、大学生などもこぞって読み漁っていたように思う。

 彼が通う「逆向(さかむけ)小学校」の同級生、西城君やモモちゃん、それからジュンちゃん、福島君やあべ先生というキャラクターたちが毎週登場して、バカバカしい掛け合いをし合うという、ハイスピーディな展開を繰り返していた。

 それからもう長い年月が経った。
 「がきデカ」の続編が、大人の漫画誌「ビッグコミック」で復活したというニュースは数年前に聞いていたのだが、最近はほとんど漫画週刊誌を買わなくなっていて、その手の情報にも疎くなっていたので、いつかは読もうと思いつつ、結局こうして今日まで来てしまったのである。

 最近ふとした事で、また「がきデカ」の続編「中春 こまわり君」のコミック2巻のことを知り、無性に読みたくなって買ってしまった。

 ここには中年になった「こまわり君」が出て来る。
 彼は「金冠生生電気」に勤めるサラリーマンだ。同僚にあの西条君もいる。
 「こまわり君」は既に結婚をし、子どもも一人もうけてはいるのだが、妻との関係はギクシャクし、不仲になった妻は家を出て行ってしまう・・・。
 それから、こまわり君は痛風も患っていた。

 「逆向(さかむけ)小学校」の同級生で、とても可愛かったジュンちゃんも結婚生活が破綻し、今はバツイチとなって女たらしの中年男性との無益な恋愛を続けていた。
 そして、とても綺麗だった「あべ先生」。
 彼女はアル中寸前で、肝臓を悪くして病院通い。独り暮らしの寂しさに耐え切れず、今夜も孤独死の恐怖に怯えている・・・。

 こういう凄まじい人生の途上で、彼らはまた再会し、ちょっとシニカルだけれど、あの「がきデカ」を彷彿させるようなギャグを連発しながら、いつものノリで読者を笑わせてゆく。
 
 当然にして「中春 こまわり君」であるからして、大人向けの漫画である。
猥褻っぽい部分もあるし、志賀直哉の小説「剃刀」を引用した、サスペンス仕立てのギャグ漫画を構築してみせたりもする。
 ここは、山上たつひこの真骨頂だろう。

 それにしても、確かに大人向けのギャグ漫画ではあるけれど、何処彼処(どこかしこ)に哀愁が漂っていて、昔の「こまわり君」を読んでいるからこその切なさもまた、全編に静かに流れているのだ。

 これは、哀愁のギャグ漫画だと思う。

 諸行無常の響きがある。
 色即是空の境地が垣間見られる。

 老いてゆくことの滑稽と悲惨さが、この「中春 こまわり君」の中に隠れている。









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