
何年も前、今では何の曲かは忘れてしまったけれど、確かテレビに「ZAZEN BOYS」が出ていて歌っていたのを観たことがあった。NHKだったろうか。その今ではすっかり忘れてしまった曲と歌詞に対して激しい衝撃を受け、それから「ZAZEN BOYS」という日本のロックバンドは自分の中でずっと気になり常に意識し続けてきたバンドの一つだった。
ただ、このバンドの産み出す曲には猛毒が含まれている。鋭利な刃物で心が切り刻まれるような激しい痛みもある。だから「ZAZEN BOYS」を聴くにはそれなりの覚悟と勇気もまた必要になる。
たとえば、小説でいったら、太宰治や坂口安吾や西村賢太を読む時と似ているかもしれない。無性に読みたくなる時があったかと思うと、まったく彼らの小説を受け付けない時との両方があるからだ。

そんな「ZAZEN BOYS」が新しいアルバムを発表した。タイトルは「らんど」。12年ぶりのアルバムだという。
最新号の「ミュージックマガジン」でも大きく特集記事が組まれていて、フロントマンの向井秀徳によるロング・インタヴュー「〜この世は嘘だらけですよ。それも含めて人間でしょう ってことをはっきりさせたかった」も掲載されている。
そのインタビュー記事が本当に面白い。
向井秀徳はいう。都内を何の当てもなく練り歩くのが趣味なんだと。働きに出てゆくサラリーマンたちを見ながら朝からワンカップを飲んでいて、その寂しさを埋めるためにバンドをやっているんだとも・・・。

今回のニューアルバム「らんど」には、頻繁に「夕暮れ」や「夕暮れ時」というフレーズが出てくる。向井秀徳は「おれは寂しいんだー、分ってくれよー」とインタビューでも言っていた。東京の街を彷徨いながら、向井秀徳は夕暮れ時という時間帯が自分の中で一番マッチするらしい。
「ZAZEN BOYS」のニューアルバム「らんど」全13曲。
朝起きて、窓を開け放すと明るい太陽と青空が一面に広がっていて、思い切り朝の清々しい大気を吸い込み、「らんど」を大音響で流しながら溌溂とした気分で仕事へと出掛ける・・・。
あるいはまた、春の陽光を身体いっぱいに浴び、凪いでいる穏やかな海沿いを軽やかにランニングしながらウオークマンで「らんど」を聴いて走る・・・。
そんなの絶対無理だ。そういう時に聴く音楽じゃない。
それにしてもこんないい歳をした人間が、まだ居直ることすら出来なくて破壊願望をも捨て切れず、こういう過激で魂を掻きむしるような楽曲が詰まったアルバムを真剣に聴いているって、いったいなんなんだろう?
自分で自分がよく分からなくなる。