うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

人間交差点

2015年10月20日 | 本と雑誌

昨日「私だけの十字架」を書いているうちに、ふと思い出した「人間交差点」をAmazonで買ってしまった(Kindle)。

20代の頃、つまりこの漫画が連載され、順次単行本が出ていた頃、これを買ったことがある。Amazonでは冒頭を試し読みできるので、記憶を頼りに全27巻からこれを探し出した。

後に実際にドラマにもなったらしいが、漫画でも昔のドラマを見ているような感じだ。小説で言うと、藤沢周平とかに近いのかな。

トーンとしては暗めなのだが、決して冷たい暗さではなく、人のぬくもりを感じさせるほの暗さ。

文章で書いても素敵だと思うが、漫画とすることでスピード感が与えられ、重めのテーマに押しつぶされることなく読み進められる。

弘兼憲史氏の絵柄も安定していて、物語の良さを実に良く引き出している。

20数年ぶりに読み返すことになるが、各エピソードのことは、良く覚えていた。アフリカで自分の子供と出会い、それまでのキャリアを投げ出してしまうエリートビジネスマン「その時から」、中国では尊敬される医師だった残留孤児が、帰国した日本で直面する過酷な現実と、それを追う新聞記者の話「帰国」(これはかなり泣けます・・)など。

いちばん好きで、確かこういう話があったよな、と探すきっかけになったのは「廃線」だ。今は刑事をやっている主人公が、中卒後勤めた製鉄所の上司であり、今は保険金殺人犯として逃走している男を追って、かつて働いていた土地にやってくる。工場は撤退し、再開発を待っている。汗臭い労働者を運んでいた「カリント電車」も、今は廃線になって線路だけが残っている。男は取り残された様にそこで営業している、飯屋の若い女と語らいながら犯人を待つ。女はいう。

「でも、どうして人間って、悪いときに過去の事ばっかり振り返るのかしらね・・。別にこの土地で働いていた頃がそれほど良かったわけでもないんでしょう・・」

そう問いかける飯屋の女将も、この土地に出戻ってきた身だ。

問わず語りに男は「どうしてなんだ・・こんな苦しい思い出しか残っていない所になぜ戻ってくるんだろう」

「みんな、ただ汗を流して働くだけの生活が、懐かしくなって戻ってくるのかも知れないわ・・」

 

いやあ、たしかに重いし暗いんだけど、しばらくこの世界に浸っていたい気持ちも、正直するんですよ・・。


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