うさぎくん

小鳥の話、読書、カメラ、音楽、まち歩きなどが中心のブログです。

夜と霧と

2012年11月08日 | 日記・エッセイ・コラム

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 車内アナウンスでは運転間隔の調整をする、と繰り返していたが、やがてブザーが鳴り、運転見合わせ、と言葉が変わった。乗客の多くは既に降りており、車内は空いている。僕も網棚の荷物を下ろし、改札を出た。
 タクシーをつかまえて、乗換駅に向かった。雨はまだ降っているが、だいぶ小やみになったようだ。まだ人気のないレストラン、コンビニ、空を見て、傘を閉じる人々。夜7時過ぎの街の風景は、どこか優しげだ。僕はほっとして目をつぶった。

 さっき、部下の子を玄関まで見送った。後任に当たる若い男の子と一緒だったから良かったが、もし僕だけだったら、つい涙が出てしまい、格好悪い思いをしたかもしれない。

この2週間、あれこれと慌ただしかった。送別会をする、しないとか、後任がなかなか決まらないとか、最後までやきもきしたり、あれこれ奔走し、一人でやり過ぎていないかと不安になったりと、落ち着かなかった。夜、家に帰るときや、一人で昼食に出る道すがら、強い喪失感を感じた。仕事仲間と別れるのが、これほど重い事だとは思わなかった。

 お互いの「思い」の違いが出てきたのは事実だ。僕たちはそれをきちんと話すことをしておらず、気がついた時には既に遅かった。それでも、僕たちには共通の「思い」が有ったこともたしかだ。それは、僕たちを覆っている、強い閉塞感だ。これがあったからこそ、僕らは結束もしたが、同時に心の動きを縛られ、ものごとに柔軟に対応するすべを失った。

正直に言えば、僕は彼女にここを離れて欲しかった。僕よりも先に。僕が見送る立場に立てば、まだ事態をコントロールできるかもしれない。だが、その先に何があるのか。今よりも広々としているだろうが、今よりも不安定なこともたしかだ。僕は間違っているのかもしれない。

とにかく、僕の迷いを余所に、物事はどんどん進んでしまった。僕がコントロールするどころか、目の前のことに対応するのが精一杯だった。

駅に着き、タクシーを降りた。外は霧雨に変わっている。見上げると、高層マンションが雨にけぶり、うっすらとしか見えない。急にその辺を散歩したくなった。身近な現実を覆い隠すような、この霧雨は僕の心をも包み込んでくれる。このまま全然別の世界に行ってしまいたい、と思った。

エスカレーターを降り、明るい蛍光灯に照らし出された、見慣れた店に入ると、再び心の痛みが戻ってきた。

コメント
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