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耳から覚える言葉と文字表記

2007-10-27 22:37:19 | 言葉と文字

 「おもむき」という言葉は、漢字では「趣き」ですが、もとは「面(おも)向く」というふうに合成された言葉だとされています。
 つまり興味を持つと顔(面)がそちらに向くので、「面白み」とか「味わい」といった意味を示しているということになります。
 言葉の由来はそういうことなのでしょうが、そうした言葉の由来を示す「面向き」という表現と「おもむき」あるいは「趣き」といった表現を比べた場合、どちらが頭に入りやすいでしょうか。
 たいていの人は「面向きがある庭だ」という表現より「趣のある庭だ」あるいは「おもむきのある庭だ」という表現のほうがすぐ分ると思います。
 
 「面向き」は「面」+「向き」の複合語の形でで、説明的な表現ですが、「おもむき」あるいは「趣き」は単一語的な表現です。
 「おもむき」という言葉はたいていの人は読み書きをしなくても、耳から入った言葉として記憶され、意味も聞いているうちに自然に覚えています。
 したがって「趣き」という漢字を見て、読み方と意味を学習するのではなく、「おもむき」は漢字で「趣き」と書くというふうに学習します。
 つまり、漢字が書けなくてもあるいは読めなくても、「おもむき」という言葉の意味がわかるのです。
 また、ひらがなで「おもむき」と表示されていれば耳で覚えている「おもむき」の意味だとすぐ分かるのです。

 「おもむき」というのは「面」+「向き」だから「面向き」だという表現は、文字表記を学習することで覚えるものなので、ピンとこないのです。
 語源を示しているので合理的な表現だと考えることもできますが、言葉が使われている間にもとの意味とはニュアンスが変わってきています。
 また語源的な表現は意味を一面的に示すので、実際に使われる意味より「趣き」のない言葉になってしまうので、「おもむき」や「趣き」より含蓄のない表現になっています。

 こうしたことは、「うらやむ」、「むかっぱら」「ちんまり」、「うなずく」といった言葉についても言えます。
 いわゆる和語の多くは文字の読み書きができなくても、耳からの聞き覚えで学習できているので、語源を示すような表現でなくても単純にひらがな表記で十分意味が分かりますし、ひらがなの方がむしろ分りやすいのです。

 耳から覚える言葉というのはいわゆる和語だけでなく、漢語にもあります。
 漢語といっても、日本語に溶け込んで漢語と意識されないような単語は、漢字表現を覚える前に耳に入って記憶されています。
 たとえば「学校」は「学校」という漢字表記を覚える前に「がっこう」という言葉を耳で覚えていて、あとから文字を覚えます。
 そのため「学校」の「学」は「まなぶ」という意味だと理解していても「校」の意味は分からなくても平気なのです。
 「生徒」の「生」は「生まれる」とか「生きる」ではないのですが、「小学生」とか「高校生」といった言葉を何気なく使っています。
 「銀行」や「会計」も漢字の組み合わせで示される意味は、力を失っていて、「ギンコウ」や「カイケイ」と読む機能だけになっているのです。