漢字をスクリーンに映した後すぐに隠した場合、映っている時間が0.01秒以下という短い瞬間であっても文字を読み取ることができます。
渡辺茂「漢字と図形」では表示時間が千分の一秒以下でも漢字は認識できるとしていますが、このことから漢字には何か神秘的な情報力のようなものがあると感じる人もいます。 複雑な形をした漢字を何千も覚えるということは、脳にとって大きな負担となるので、漢字を減らそうとか、漢字を簡略化しようという運きが常にあります。
これに対する漢字擁護派にとって、漢字がすばやく認識できるという実験結果は大きな支えとなったようです。
ところで漢字を一度だけ表示するのでなく、B図のように一つの文字を表示してからすぐに隠し、次に同じ場所に別の文字を瞬間的に表示して隠すとどうなるかを試してみます。
そうすると表示時間が百分の一秒以下のときは、後の文字は読み取れますが、最初に表示された文字は読み取れなくなります。
もし最初の文字が読み取れた場合は、逆に次の文字が読み取れません。
つまり、漢字を百分の一秒以下の間隔でで瞬間的に連続表示をした場合、連続して認識はできないのです。
じつは百分の一秒以下の表示でも眼は文字を知覚できるのですが、脳に貯蔵されている漢字の記憶と照合して、分ったと思うのにかかる時間は100分の一秒以上かかるのです。
脳が最初に見た文字を記憶と照合し終わらないうちに、次の文字が表示されると、最初の文字の照合を棄て、次の文字を記憶と照合しようとするので、最初の文字は認識されない結果となるのでしょう。
最初に見た文字を認識しようとこだわっていれば、次の文字を記憶と照合する作業に入らないので、次の文字が認識ができなくなるのです。
ところがC図のように漢字を二文字にして表示し、表示時間を同じように百分の一秒以下とした場合はどうなるかというと、この場合は二文字を同時に認識することができます。
この場合表示される漢字は複雑なものであっても、記憶の中にある漢字、つまり知識として持っている漢字でなければなりません。
読み方も意味も分からない未知の漢字であれば、一文字であってもある程度複雑な漢字は認識できません。
こうしたことから考えると、瞬間的に漢字を読み取ることができるということは、漢字自体に情報力みたいなものがあるというより、読み取る側にしっかりした記憶があるからなのです。
また、複雑であってもよく見る漢字であればすばやく認識できるわけですが、それだけでなく、瞬間的に読み取る練習をすると、記憶との照合時間が短縮できるようになります。
これはアルファベットの場合でも同じで、単語のつづりをしっかり覚えていて、読みなれていれば瞬間的に表示されても読み取れ、練習によって瞬間的読取能力は向上します。
瞬間的に読み取れるというのは漢字だけではないのです。