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チンパンジーの図形言語

2007-09-22 22:54:45 | 言葉と文字

 図は京大の霊長類研究所でチンパンジーに覚えさせた図形言語です。
チンパンジーなどの類人猿は人間のように音声をうまく操ることができないので、身振りか図形言語のような視覚言語を教えるのが主流になっています。
 図形言語の場合は単語を一つの図形に対応させて覚えさせるのが普通なのですが、この場合は、いくつかの基本的な図形を記号素として作っておき、この記号素を組み合わせて作った図形で単語を表しています。
 たとえば錠前は記号素Oと記号素Wを組み合わせたもの、手袋は記号素Cと記号素Hをくみあわせたものとしています。
 
 チンパンジーはこれらの記号素と単語を覚えた結果、たとえば「リンゴ」という単語を表現するためにR、C,Bという記号素を選ぶことができたそうです。
 食べ物の名前を記号素を使って答えさせると、ほぼ正しく答えることができたそうですから、まるで文字を覚えて文字で単語を表したように見えます。
 このような表現法はあたかもH2OとかCO2のように分子を元素記号で現したような形で、文字言語の一種だとする学者もいます。

 ところがこの記号素は人間が使っているアルファベットや漢字と違って、表音記号でも表意記号でもありません。
 個々の記号素は何を表すということもないので、組み合わせ方に規則とか原理というようなものがありません。
 たとえば水平線のHと円形のCは手袋と人参に使われていますが、理由はわかりません。
 手袋に黒い菱形が加わると人参になるという規則はどう頭をひねってもでてきません。
 
 チンパンジーは何らかの規則にしたがって記号素を組み立てたというのではなく、林檎やバナナといった言葉を表わす図形を覚えて、その図形の中にある記号素を選び出したのでしょう。
 もしチンパンジーが記号を覚えてそれを組み合わせて単語を表現することができるのであれば、アルファベットとかカナを覚えさせればよいわけで、わざわざ別の記号を作らなくてもよいわけです。
 アルファベットやカナは、種類が多い上に形も複雑なので、数が少なく単純な形のものにしたのでしょうが、規則性がないので文字記号としての機能を持っていません。

 アルファベットやカナは音声を表わしますが、漢字であれば偏が意味につながり、旁が音を表わすというような規則性があります。
 もちろん漢字は不特定多数の人が長期間にわたって作り上げているので、厳密な規則性はありません。
 たとえば木偏の文字は木に関係するといわれても、文字を見てドウシテ木偏なのか分らないものがいくつもあります。
 「横」は黄色い木だと思う人はいないし、「村、査、案、極、業、概、様」など、なぜ木偏なのか思いつくのは困難です。
 「棄」などは辞書では、「生まれたばかりの赤子をごみ取りに乗せてすてるさま」など、とても思いつきようのない説明が載っています。
 それでも木偏のおおかたの漢字は木に関係する意味なので文字としての機能を持っているのでチンパンジー用の記号素とは違うのです。