ヒトの2歳児とチンパンジーに図形aで三角形を覚えさせ、四角形や丸などと共に図形b,c,d,eなどを示して選択させると、2歳児もチンパンジーもb~eを三角形として選択したそうです。
とくにeの場合はヒトの2歳児もチンパンジーも、60度ほど頭を傾けて図形を見比べて正しい反応をしたといいます。
eはdを逆さまにしたものですが、図形を頭の中で回転させるのではなく、自分の頭のほうを傾けて見ているので、この段階ではイメージの回転はできていません。
しかし、ともかく三角形の輪郭が示されていれば、大きさの違いや白黒の反転があっても三角形を他の図形から見分けることはできています。
つまり図形を形によって分類する能力はあることがわかります。
ところがfやgのように小円でできた三角形のパターンを見せると、ヒトの二歳児は三角形として認識するのですが、チンパンジーは混乱してしまい、正解率は50%のチャンスレベルに落ちてしまったといいます。
チンパンジーはfやgを三角形として認識しないのです。
fやgは人間の大人が見れば三角形ではありますが、aと同じ意味では三角形ではありません。
fやgにあるのはいくつかの小円であって、小三角形ではありません。
aと直接比較をすればfやgにある図形は小円なので、三角形として選択することはできなくなります。
つまりチンパンジーは木を見て森を見ていないのに、ヒトの二歳児は森のほうを見ているということになります。
fやgには実際の三角形の輪郭はありません。
ヒトの2歳児は「さんかく」という言葉を知らないし。三角形の定義もできているわけでもないのですから、fやgを三角形として認識できるのは不思議といえば不思議です。
小円でできている図形を全体としてとらえる能力があるということですが、それは見えていない輪郭を見ることができるからです。
個々の小円の形を超えて全体の配置からパターンを感じ取っているのです。
チンパンジーはあくまでも眼に見える形を見ているのに、ヒトの二歳児は見えない形をパターンとして見ているという違いがあります。
なぜ違いが出てくるかという点については、ヒトの二歳児は図形を見るときに指で輪郭をなぞるという行動が見られることからの推測があります。
指で輪郭をなぞると三角形の角の部分が印象に残り、線の部分は印象が薄くなり、途中が途切れていても補ってしまいがちです。
三本の線で囲まれるという感覚から、三点を結ぶという感覚に移行でき、そうなると線が見えなくてもパターンとして三角形を認識できるようになります。。
眼だけでなく指を使ったりすることで、抽象化された三角形のパターンが意識されるようになると考えることができるのです。