左のアルファベットの表を1秒ほど見て眼を閉じ、表示されていた文字をできるだけ多く思い出してみてください。
たいていの人は4文字前後だそうです。
次に右の漢字の表を1秒ほど見て同じように文字を思い出してみてください。
そうするとすべて思い出せる人もいるでしょうし、8文字(2語)の人もいるかもしれません。
漢字のほうが複雑なのに、思い出せる文字数が多いのは、アルファベットの場合は文字がランダムに12個表示されているのに、漢字の場合は四字熟語が3個です。
漢字は4字でひとかたまりになっているとはいえ、文字はアルファベットよりはるかに複雑ですから、漢字がすばやく識別しやすいことがわかります。
渡辺茂「漢字と図形」によれば、漢字はこみいったものでも、千分の一秒以下の瞬間的表示でも認識できるそうです。
実際は千分の一どころか三万分の一秒の表示でも認識できるというのですが、これは網膜に映る時間が千分の一秒以下で認識できるということで、認識自体を千分の一秒以下(三万分の一秒でも)でできるということではありません。
この本の説明では、文字が表示された後0.1~0.2秒ほど鮮明な漢字が見たとおりに見えた後、ごく弱い漢字のイメージが10秒ほど持続するといいます。
これは残像ではなく短期の視覚記憶だと思うのですが、要するに文字が表示されたのが線分の一秒以下であっても0.1秒以上視覚記憶が維持されるので、文字の認識が可能になるということです。
人間の神経パルスの伝達速度は光に比べればはるかに遅いので、眼に映る速度は問題ではなく、脳の処理速度が問題なのです。
かりに神経パルスの伝達速度が一秒間に100mだとしても、千分の1秒で10cmしか進まないので、千分の一秒では認識処理ができないということになります。
千分の一秒の表示で漢字を認識できるといっても、一秒間に千字の文字を認識できるわけではないのです。
このことから、文字を読むときに重要なのは、文字をジッと見つめ続けることではなく、短期の視覚記憶を向上させることと、脳の処理の処理速度を高めることだということが分かります。
短期の視覚記憶力を高めるというのは文字を見た後0.1~0.2秒続くハッキリした記憶の後に続くぼんやりとした記憶をなるべく鮮明にすることで、最初のハッキリした記憶が数秒間続くような感じにすることです。
脳の処理速度は文字を見続けないで先に進んでいくことで向上しますから、ある程度のスピードで文字を読むほうが眼が疲れないですみます。