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脳の思い込みによる錯視

2006-03-09 23:55:49 | 眼と脳の働き
 E.アデルソン教授のデモ図形で、右側の図形は左の図形を90度回転したものです。
 左の図の矢印で示した部分は同じ明るさにつくってあるのですが、下のほうがかなり明るく見えます。
 矢印で示された部分で下のほうが明るく見えるのは、この部分が陰になっているように無意識のうちに解釈されるため、影の分を割り引いて明るく感じるのだとされています。
 つまり、実際に描かれた明るさのとおりに感じないで、脳が計算した明るさを感じているというのです。
 
 この種の説明はもっともらしいのですが、常識的な考え方からずれています。
 普通の考えなら「陰になっている部分は、実際見えた明るさより本当はもっと明るいのだろう」という考え方をします。
 見かけは見かけとして、実際はこうだろうと推測するのが普通で、いきなり実際に見えているより明るく感じることはないでしょう。
 もし陰になっているのを知らなければ、同じ明るさに見えるものが実際に同じ明るさなのだろうと思います。
 思い込みによって錯覚が生じるというのであれば、「陰になっていれば実際より暗く見えるはずだ」と解釈して、下のほうの色が暗く感じるのではないでしょうか。

 この場合、図形は真ん中が競りあがっていて、上から光が来るため矢印で示される部分は陰になっているように見えるという前提になっています。
 ところがこの図形は見ているうちに見え方が反転して、真ん中が凹んで見えるようになったりします。
 その場合は矢印で示される部分は陰になっているとは必ずしも感じられないのですが、明るさはといえばやはり上の矢印で示された部分より明るく感じます。
 そうすると陰になっていると解釈することが錯覚の原因ではなく、配色が原因なのだろうと思われます。

 右の図の場合は図形の折れ目が縦になっているので、光が当たって影を作ると解釈するにしても左下からということになるので、かなり不自然です。
 この場合も見ているうちに凹凸が交代して見えるようになるので、右側の矢印で示されるほうが常に陰になって見えるわけではありません。
 陰になって見えるかどうかということとは関係なく矢印で示された左側の部分より右側のほうが明るく見えるのですから、「陰があると解釈して錯覚が生じる」という説明は無理です。
 脳の思い込みが錯覚をもたらすというような説明は、刺激的なので説得力があるのですが、本当にそうなのか確かめる必要があるのです。