ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

主要7か国(G7)の学術論文数の推移(国大協報告書草案24)

2014年12月14日 | 高等教育

 国立大学協会の調査企画会議が1~2月開催される予定で、そこで報告をしなければならなくなりました。ぐずぐずしている場合ではなく、とにかく最終的なまとめを急がないといけません。いよいよお尻に火がつきました。でも、学長としてのいろんな仕事を片づけてから、この論文数分析の仕事にかかろうと思うと、いつまでたっても捗りません。論文数の分析を第一義の仕事にして、他の仕事はしばらくの間、手を抜かせてもらうことにしないとね。周囲の方には、ご迷惑をおかけしますが、しばらくご容赦ください。年賀状もできるだけ手を抜かせてもらいますね。

 今日の国大協の報告は、主要7か国間の各分野の論文数の比較です。海外諸国との比較はすでに何回か書いているのですが、今回は、国立大学の論文数の分析をする上で、他の成熟国家の論文数の推移と連動して考える必要があるので、ここで改めてデータをずらっと示しておくことにします。

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3)主要7か国における学術分野別論文数の推移の比較

 ここで、日本(国立大学)の論文数の推移を分析する上で、海外諸国、特に成熟国家の論文数の推移と連動して考える必要があるので、主要7か国の学術分野別の論文数の推移を整理しておく。なお、学術分野は、すでに図表Ⅲ―20に示したように、トムソン・ロイターEssential science indicators22分野のいくつかを括った分野で分析した。

 

 まず、全分野の論文数の推移であるが、図表III-38に示したように、日本の論文数は4位につけているものの、他の国がすべて増加しているのに対して、日本は2000年を過ぎた頃から停滞しはじめ、5位のフランスとの差が縮まっている。

 図表III-39は人口百万当りの論文数で示したものであるが、日本は最下位であり、他の6か国との差が大きく広がっていることがわかる。

 図表III-40は全分野論文数の2000年を基点とする推移であるが、2004年頃から他の国の動きと離れ始めていることがわかる。

 

 次に、各学術分野別の論文数の推移をみる。

 臨床医学分野では、図表III-41に示すように、日本は4位につけているが、増加傾向が鈍り、5位の国との差が縮まっている。

 人口当り論文数では、最下位である(図表III-42)。日本の臨床医学論文数は2000年頃から停滞しはじめているが、他の多くの国も、2000年頃から数年間停滞を示している。

 図表III-43の2000年を基点とする推移を示した図からは、日本は2000年頃から臨床医学論文数が停滞しているが、他の国の動きの差が明瞭になるのは2004年以降である。つまり、多くの成熟国では、2000年以降数年間臨床医学論文数が停滞し、2004年頃には増加に転じているが、日本は増加に転じるのが遅れたと考えることができる。




 基礎医学・バイオ・薬学分野の論文数でも、図表III-44に示すように全分野および臨床医学と同様に4位につけているが、5位の国との差が縮まりつつある。人口当りの論文数は最下位であり、2000年頃から停滞が始まり、やや減少傾向を示している(図表III-45)。

 2000年を基点とする推移(図表III-46)で、他国の動きとの差が明瞭になるのは2004年頃からである。




 

 物理・化学・物質科学・エンジニアリング・情報という工学系の論文数は、日本は2004年頃から明らかな減少を示している。それまでは2位につけていたが、現在はG7諸国の中では3位となっている(図表III-47)。人口当り論文数では、5位であったものが最下位になっている。

 2000年を基点とする推移(図表III-49)において、他の海外諸国の動きとの差が明白になるのは2004年頃からである。他のいくつかの国では、2000年頃から数年間停滞を示し、2009年頃から増加に転じており、論文数のカーブに”肩”が認められる。他の諸国がこの”肩”を示している時期に、日本では論文数が明らかに減少している。そして、他の諸国が増加に転じた2009年以降、日本の論文数減少の程度が緩くなりつつある。

 

 理学系(宇宙・地球・数学)分野および社会科学では(図表III-53~58)、日本はそもそも論文数自体が最下位であり、人口当り論文数では他国との差が大きく開いている。しかし、論文数の増加率は各国とも順調であり、日本も論文数は少ないながら、2000年を基点とする推移では他諸国の動きと同様の増加傾向を示している。

 

<含意>

 主要7か国の学術分野別の論文数の推移を改めて示したが、これは、日本が学術論文産生において、海外諸国との競争力を大きく低下させていることを示すとともに、日本(国立大学)の学術論文数の推移を分析する上で、留意するべき情報を与えてくれる。

 今回の主要成熟国家7か国の学術分野別の論文数の分析からは以下のような特徴が読み取れる。

1)臨床医学および基礎医学・バイオ・薬学分野においては、いくつかの海外諸国において2000年頃から数年間の”停滞”が認められる。

2)工学系(物理・化学・物質科学・エンジニアリング・情報)分野の論文数においては、いくつかの海外諸国において、2004年頃から数年間の”停滞”が認められる。

3)上記の学術分野については、日本は従来からある程度健闘してきたが、論文数が停滞~減少し始め、その順位が下がりつつある。そして、他の諸国の動きから日本が明らかに離れ始めるのは2004年頃からである。

4)理学系(宇宙・地球・数学)分野および社会科学系の論文数の推移においては、海外諸国において上記の学術分野のような”停滞”は認められない。

5)日本は、理学系(宇宙・地球・数学)および社会科学系の論文数においては、従来から海外諸国に大きく引き離されているが、論文数が”停滞”を示すことはなく、増加率は他の諸国並であり、直線的に増加している。

 日本の臨床医学や基礎医学・バイオ・薬学分野の論文数の、2000年から数年間の”停滞”部分は、日本特有の原因に起因するものではなく、他の成熟国家の論文数の”停滞”と共通する原因によって連動した動きを示している可能性もあると考えられる。

 その共通の原因については定かではないが、例えば、本報告書で分析している論文数は、あくまでも、学術論文データベースに登録されている論文数であり、データベース管理者による学術誌の取捨選択行為によって左右されるものであるから、成熟国の特定の学術分野に共通して影響を与える学術誌の取捨選択がなされた場合に、このような”停滞”(あるいは”増加”)が生じる可能性を否定できないと思われる。

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 今、夜中の1時45分。この1週間はかなり”かんかん”になって論文の分析したので、開封していない手紙や読んでいない電子メールが溜まっています。今日は、鈴鹿医療科学大学で編入学と推薦II期の面接があり、朝から夕方まで入試本部につめていました。手紙の返事もかかないといけないし、月曜日の講義の準備もしないといけないし・・・。実はこの論文数分析の続きがあって、なんとか今日中にアップしたいし・・・。

 

コメント
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