ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

桜満開の鈴鹿医療科学大入学式にてー“改革屋”への大きな期待

2013年04月02日 | 高等教育

 3月31日で(独)国立大学財務・経営センター理事長を任期満了で退職し、昨日の4月1日から、地元の鈴鹿医療科学大学に戻ってきました。今日は、鈴鹿医療科学大学の学長としての初めてのブログです。それまでのブログは「ある地方大学元学長のつぼやき」でしたが、現役の学長に戻りましたので、ブログタイトルを、三重大学長時代の「ある地方大学長のつぼやき」に戻すことにしました。ただし、三重大学長時代と区別するために、(鈴鹿医療科学大)をつけさせていただきました。

 ブログタイトルの変更については、心機一転もっと斬新な名前を期待していた読者の皆さんもおられたようですが、ご期待に添えずにすみません。ブログの内容については、しばらくは、国の審議会の委員などもあり、時々は東京へ出向く予定ですし、財務・経営センター時代のことも書き残しがたくさんあるので、鈴鹿医療科学大学のことと、文部科学行政や財務・経営センターに関連したことも、引き続き”つぼやいて”いきたいと思います。

 今日、亀山の自宅から鈴鹿医療科学大学に車で向かう途中、ニュースを聞いていたら、自民党政権の“事業仕分け”の方針が報道されていました。民主党政権の時と違って、“事業仕分け”という言葉は使わずに、また、最初から廃止ありきで質疑をするのではなく、廃止という結論は無くす。改善の指導を主体とし、政治家は最初の時だけ関与して、改善の指導については有識者に任せる、というような内容でしたね。

 僕は、3年前の4月1日に財務・経営センターの理事長の公募に応募して就任したのですが、就任した時に「実は事業仕分けがあるんですよ。」と事務職員から初めて知らされ、そして、その4月28日が仕分けの本番だったんです。枝野さんや蓮舫さんがセンターを訪問され、僕も理事長として対応させていただきました。仕分け前後のことについては、3年前のブログにけっこう詳しく書いてありますので、ご興味のある方は、過去のブログを見てくださいね。

 仕分けでは、僕は一生懸命センターの事業の重要性をご説明申し上げましたが、残念ながら、(たぶんシナリオ通りに)全事業廃止という宣告を受けました。しかし、その直後に国立大学附属病院長会議や国立大学協会という大学の現場の皆さんから、センターがやっている各種の事業の中で、財投や独自の債権を原資とした大学病院再開発に対する貸付事業と、各大学に建物の修繕費を配分している交付事業の2つだけは存続するよう、要望書が出されました。その結果、最終的にこの2つの事業は当面の間、存続することが閣議決定され、文科省関係のいくつかの独法を統合してできる新法人に、その事業が移管されることになったんです。

 そして、僕は、新法人への事業の移管に向けて、特に、大学病院への貸付事業の新たな経営評価・審査基準の策定に注力しました。民間金融機関や他の財投機関の貸付審査基準を参考にしつつ、償還確実性とともに大学病院の公的使命の達成を考慮した経営評価・審査基準に道筋をつけました。このような経営評価や審査は、単に償還確実性だけを重視する民間金融機関や、大学病院の公的使命や経営状況をよくお知りにならない他の財投機関では、適切に実施できないと考えます。

 現在、自民党政権になって、民主党政権で閣議決定された独法改革は“凍結”となり、財務・経営センターの事業についてもどうなるのか、再び不透明な状況ですが、この事業の必要性については、どなたにどのような質問をされようとも、明確に説明できるはずです。

 さて、鈴鹿医療科学大学に話を戻しましょう。

 さっそく4月2日が入学式で、三重大学長時代から数えると4年ぶりの学長式辞です。3月はぎりぎりまで財務・経営センターの経営評価・審査基準の見直し作業に忙殺され、入学式の式辞の準備もしていなかったのですが、3日くらい前から草稿を書きはじめ、完成したのは昨夕です。

 今日は、心配されていた天気もなんとか持ちこたえ、鈴鹿医療科学大学白子(しろこ)キャンパスの満開の桜の中で、入学式が執り行われました。このキャンパスの桜は本当にすばらしく、市民にも公開されているんですよ。東京では2週間も前から桜が咲いていますが、この辺りは東京よりも南にあるはずなのに、なぜか開花は東京よりも遅れるんですね。でも、そのおかげで、送別会の桜と、入学式の桜と両方楽しませていただきました。

 鈴鹿医療科学大学は平成3年に4年制の医療系大学として、日本で初めて創設された大学です。現在では、保健衛生学部(放射線技術科学科、医療栄養学科、理学療法学科、医療福祉学科、鍼灸学科)、医用工学部(臨床工学科、医用情報学科)、薬学部、そして、大学院医療科学研究科があり、来年度には看護学部を開設するべく、現在国に申請中です。日本でも数少ない医療系総合大学の一つですね。

 学部生544名、大学院生17名、ご家族や関係者、ご来賓、教職員の前で久しぶりの式辞。学生たちの評判はまだわかりませんが、先生方の評判は、まずまずだったかな。下に、ちょっと長くなりますが、参考までに式辞の全文を書いておきます。

 理事長の高木純一さんの祝辞では、学生たちに僕の経歴を紹介されました。「産婦人科がご専門で、若くして三重大学長になり、当大学の副学長を1年務められた後、国立大学財務・経営センターの理事長に就任され、今回、皆さんのご入学といっしょに本学の学長に就任されました。アグレッシブに改革を進めてこられ、本学においても、これから教育改革をされると思うので、私としても心強く思いますし、皆さんはほんとうに良い時に入学されたと思います。本学の国家試験合格率は全国平均よりも10~20%上回っていますが、皆さんの合格率はもっと上がると思います・・・。」

 理事長は僕に対する“改革屋”としての大きな期待を直接学生や教職員にお話しされ、僕としても“改革屋”として評価されていることに対してうれしく思うと同時に、大きな責任を感じます。まずは、入学式で学生や関係者、教職員の前で「改革のコミットメント(公約)」をした(させられた?)ということですからね。

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平成25年度鈴鹿医療科学大学入学式式辞

 この度、鈴鹿医療科学大学に入学された学部544名の皆さん、そして大学院に入学された17名の皆さん、ほんとうにおめでとう。ご家族並びにご関係の皆様におかれましても、ご入学に大きなご期待を抱いておられることと拝察し、心からお慶びを申し上げます。また、本日はご多用の中、本学入学式にご臨席の栄を賜り、新入生をお激励いただいております来賓の皆様に、心から御礼申し上げます。

 本学は、平成3年に4年制の医療系の大学として日本で最初に創立され、この分野では最も伝統と実績のある大学です。その建学の精神は「科学技術の進歩を真に 人類の福祉と健康の向上に役立たせる」であります。

 今、日本の経済は、いわゆるアベノミクスと呼ばれる金融政策により、長い間のデフレ状態から脱却できる期待感が高まっている状況です。ただし、日本経済の真の回復のためには、実体経済の成長を伴うことが必要とされ、今後の成長戦略の成功如何にかかっているとされています。そして、その成長戦略の大きな柱の一つが、ライフイノベーション、つまり医学・医療・福祉分野でのイノベーションであります。

 本学大学院に入学された皆さんは、今まで培った専門職としての知識と技能をさらに深化・発展させ、医学・医療・福祉分野におけるイノベーションに貢献するべく、技術やシステムの革新を生み出す創造開発能力を高めていただきたいと思います。本学の白子キャンパス内には、筑波大学の山海教授のリハビリと介護支援用に開発されたロボットスーツが展示してありますが、本学は、このロボットスーツのベンチャー企業であるサイバーダイン社とともに、三重大学とも連携を深めつつ、三重県のメディカルバレープロジェクトの一翼を担おうとしております。本学大学院生の今後の地域での、そして日本におけるイノベーションへの貢献を、大いに期待するところです。

  さて、医学・医療・福祉分野は、日本の急速に進む高齢化の状況の中で、また、近い将来には海外諸国においても高齢化が進むことが想定され、大きな成長が期待されている分野です。したがって、医療系人材の需要は、総体としては、今後も引き続き堅調に推移すると見込まれます。このような背景の中で、近年日本の医療関係の高等教育機関が急増しているところであり、今後はよりいっそう質の高い医療系人材が求められることになります。

本学は、そのような、社会の要請にこたえるべく、「知性と人間性を兼ね備えた医療・福祉スペシャリストの育成」を教育理念に掲げ、どこに出しても恥ずかしくない、地域社会の皆さんから真に信頼される医療系人材を育成しようとしています。

 本学は教育の目標として、5つのことを掲げています。
・高度な知識と技能を修得する
・幅広い教養を身につける
・おもいやりの心を育む
・高い倫理感を持つ
・チーム医療に貢献する
の5つであります。

  まず、皆さんに目指していただきたいことは「高度な知識と技能を修得する」ことです。医学・医療・福祉分野の進歩は目覚ましく、新しい診断・治療・ケアの方法が絶え間なく開発されています。そして、高度に専門化した知識や技術に一人の人間ではとても対応できず、スペシャリストとジェネラリストの役割分担と連携、そして、チーム医療が強く求められているところです。

 皆さんはこれから、「医療・福祉のスペシャリスト」を目指すことになるわけですが、この意味は、その専門分野については誰にも負けない知識と技能を身につけるということであります。少しでも学習の歩みを止めると、すぐに後れをとって取り残されてしまいます。

 誰にも負けない専門的知識と技能を身につけるためには、まずは必死に勉強することが必要です。日本の大学の学生の自学自習時間は、世界で最も短いという調査結果であり、最近、中央教育審議会が、日本の大学に対して抜本的改革を求めたところです。大学に対して、社会に送り出す学生に対する教育の質保証が強く求められ、教育指導方法の改善とともに、学生に対する評価を厳格にすることが求められています。以前は、日本の大学はレジャーランドと揶揄されてきましたが、もう、大学は遊ぶところではありません。学生の皆さんも、このことについては覚悟を決めていただきたいと思います。
 
  そして、医療・福祉のスペシャリストには、専門的な知識と技能の修得だけではなく、いろいろな分野の専門職と連携して、患者さんにとって最善のケアを提供できるチーム医療にあたることが求められています。そのためには、幅広い教養を身につけ、思やりの心と高い倫理観を涵養することが大切です。

 例えば、患者さんを一人の人間として治療やケアするためには、故障した自動車を修理するという捉え方ではいけません。人間には、機械にはない思いや感情があり、心と体は密接に関連しており、そして人間としての尊厳があるからであります。

 皆さんは「人間」が生きるということの本質について、つきつめて考える必要があります。たとえば、「人が死ぬ」ということはどういうことなのだろうか?死期を告げられ、ショックを感じている人に、私どもはどう接すればいいのだろうか?あるいは、大切な人を失った家族が、深い悲しみから立ち直るために、どのような支援をすればいいのだろうか?また、「思いやりの心」が大切だと言っても、どうすれば、患者さんに私どもの思いが伝わるのだろうか?

 そして、そのような人間としての患者さんをケアする上でのさまざまな課題を、いろいろな専門職が寄り集まって、みんなで相談をして、チームとして解決にあたらなければなりません。そのためには、チーム医療を効果的に、円滑に進められるように、コミュニケーション能力や対人関係のスキルを身につけることも必要です。先ずは、キャンパス内で明るく「あいさつ」を交わし合いましょう。小さなことからでも、実践・実行をすることが大切であり、その主旨から、本学では「あいさつ運動」を継続して行っています。

 皆さんには、自分がどのような医療・福祉のスペシャリストになるのか、明確な目標を設定していただきたい。そして、その目標を達成するために、毎年の、一か月の、毎週の、そして毎日の学習計画をたて、実践をし、振り返り、そして、自分自身を高める努力を継続していただきたい。

 鈴鹿医療科学大学は、そのような、日々自分自身を高めようと努力をする学生さんに、教員・職員が一丸となって、一生懸命支援をさせていただきます。

  皆さんの本学における生活が、少々タフではあるけれども、やりがいのある素晴らしいものとなり、そして、皆さん一人一人が社会が求める医療・福祉のスペシャリストとして、空高く羽ばたいていただくことを心から祈念して、式辞といたします。

平成25年4月2日

鈴鹿医療科学大学  学長 豊田長康

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