今回は、前回の教育についてのブログの続きです。前回のブログでは、鈴鹿医療科学大学理学療法学科2年生の「救急医学概論」の講義で、クリッカーを使用して、学生による授業評価の点数が大幅に改善し、4.9という、ほぼ限界の値にまで上がったことを報告しました。それまでは、学生のアンケートを毎回とって、いろいろと授業を工夫してきたのですが、4.2~4.5どまりでした。それが4.9に突然上がったのですから、やはりクリッカーの使用が大きな理由になったことは間違いがないと思います。
ただし、クリッカーだけではなく、僕が以前から実行していることですが、毎回の授業で学生のアンケートをとって、改善できることは次の授業ですぐに改善するという、毎回の授業でPDCAを回すということが、とても大切だと思っています。この際、半年1回の学生による授業評価だけでは、改善のスピードが遅すぎます。毎回の授業のアンケートでPDCAを回すことによる改善効果を、半年1回のPDCAで回そうと思えば、単純計算では15年もかかってしまうことになりますからね。
そして、PDCAを回すにあたっては、学生さんの自由記載のアンケートがたいへん役に立ちます。ちなみに、学生さんが躊躇せずに本音で言いたいことを書けるように、僕は、無記名でアンケートをとっています。
実際、最終的に4.9という最高点をとった前期の授業にしても、学期の前半はまだまだ直すべきことがたくさんありました。
たとえば4回目と5回目の授業に対する学生の意見としては、
「先生がクリッカーの使い方を理解していないため、生徒も混乱している。また、生徒(一部)使い方を理解していない。正確な説明を!」
「あせっている時にスライドかえるのが早いと思います。」
「内容がむずかしく理解するのがたいへんだった。」
「DVDの説明が理解しにくい用語が多く、わかりにくかった。」
「今日はすごしやすい気温であたたかく眠かったです。」
「スライドのプリントが全体的に見て分かりにくい。」
「アンケートをクリッカーにするのは少し効率がわるい。」
「教科書はあまり使わないのですか?」
などと、たくさんの改善するべき点が書かれていました。これらの学生さんの指摘には、できるだけ早く改善するよう努力をしました。また、僕の授業に対する意見とともに、大学全体に対する意見も学生に書いてもらい、すぐに改善することが難しい要望も多々あるのですが、いくつかの要望については、理事長や事務局のご理解をえて改善しました。
14回目、15回目の授業になると
「授業の進め方も楽しいし、先生も熱心に講義をしてくださったので、とてもいい勉強ができた。」
「15回の講義すべてに学長の熱意を感じた!ありがとう!学長!!!」
「前期にこの科目をとってとてもよかった。学長から勉強のことだけでなく、人間性を学ぶことができた。全国をみて、大学のレベルはトップレベルではないかもしれないが、学長のレベルはトップレベルだと思う。」
「これだけ熱心に働いていらっしゃる学長が、この大学の理事長になってほしい。」
「豊田先生は今まで見てきた先生の中で3本の指に入るくらいいい先生です。」
「学長さん良い人すぎます(T^T)♡。色々と考えて下さって本当にありがとうございます!理学療法学科はとても厳しく嫌になるときもあるけど頑張ろうとおもえます!!!!頑張ります!!」
「とても楽しい授業を受けることができた。学長先生に教えてもらえることだけでもすごいことなのに、ここまで熱心に面倒を見てもらい本当に感謝しています。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
「毎回熱心に講義していただいてありがとうございました。また、自分たちの要望も実行していただき、とても助かりました。本当にいい先生だと感じました。ありがとうございました!!」
「学長の熱意がすごくて尊敬します。」
「学長が良い人すぎてびっくりしました。」
「学生のことを考えて講義をして下さっていてとても良い講義だった。」
「生徒の意見を聞いてくれて、食堂の開放時間の延長が実現したのはほんとに感謝しています。これからもよろしくお願いします!!」
「食堂を10時まで開けてくれるようになり、とても助かります!大変だったと思いますが本当にありがとうございました。」
「私たちの要望を真剣に考えて下さって食堂も10時まで延長して下さって、本当にありがたいです。豊田先生みたいな先生がたくさん増えたらいいなと思います。」
学生たちから、気恥ずかしくなるような感謝の言葉をもらって、半年間授業の改善に四苦八苦したことが、また、学生たちの大学への要望のいくつかに応えようとして奔走したことが、ほんとうに報われたと感じました。学生たちからこのように評価されると、こちらも「よし、学生たちのためにもっとこの大学を良くしてやろう」と、いう気になりますね。
今回、学生たちからいただいた感想の中でも、僕にとっていちばん心に残ったのは
「前期にこの科目をとってとてもよかった。学長から勉強のことだけでなく、人間性を学ぶことができた。全国をみて、大学のレベルはトップレベルではないかもしれないが、学長のレベルはトップレベルだと思う。」
という言葉でした。この書き込みをした学生さんを仮にAさんと呼ぶことにしましょう。
僕が、注目したのは、Aさんの書き込みの中で「人間性を学ぶことができた」というところです。
実は、僕は今まで、人間性を教育することができるとは、思っていませんでした。教育によって付加価値をつけることができるのは、「知識、技能、態度」の3つであって、これらは、教育効果を測定できるものです。しかし、人間性は果たして測定できるものなのかどうか?人間の心の奥底は、伺い知ることはできませんからね。
鈴鹿医療科学大学の教育の理念は「知性と人間性を兼ね備えた医療・福祉スペシャリストの育成」であり、その下に5つの教育目標((1)高度な知識と技能を修得する。(2)幅広い教養を身につける。(3)思いやりの心を育む。(4)高い倫理感を持つ。(5)チーム医療に貢献する。)が掲げられ、その中に「思いやりの心」が挙げられています。僕は、これはたいへんな教育目標が掲げられているな、と思っていました。目標に掲げた以上は、それを達成したかどうかが、測定できないといけない。測定できない限り、目標は達成できたかどうか永久にわかりませんからね。そしてPDCAが回せない。でも、「人間性」や「思いやりの心」をいったいどうやって測定すればいいのでしょうか?
僕は、「思いやりの心」が教育によって身についたかどうかは、他者に思いやりを感じさせる「態度」を示すことができるようになったかどうか、で測定するしかないのかな、と思っていたのです。
でも、今回のAさんの「人間性を学ぶことができた」という書き込みを見て、ひょっとしたら「人間性」そのものを伝えたり、教育したりすることが可能かもしれない、と思い始めたのです。
最近のニュースで「情けは人のためならず」という見出しで、話題になった研究がありましたね。親切な行動をとる園児に対しては、周りの園児も親切な行動をすることを実証した研究でした。
これは、学生に「人間性」や「思いやりの心」を伝えたり、教育しようと思えば、まず、教員が学生に対して「人間性」や「思いやりの心」を示す必要があるということだと思います。学生が「人間性」や「思いやりの心」を感じとることができない教員のもとでは、「人間性」や「思いやりの心」のある学生は育つはずはありませんからね。
その上で、学生同士でお互いに助け合うピアサポートや、さまざまな地域へのボランティア活動を活発化させて、鈴鹿医療科学大学という集団、あるいは周囲の地域まで巻き込んだ大きな集団全体を「人間性」と「思いやりの心」に溢れた組織風土にする。そういう風土で育った学生たちが、様々な医療の現場で、患者さんや周囲の人々に「人間性」と「思いやりの心」を自然体で伝えていく。僕は、今、鈴鹿医療科学大学をこのような大学にしたいと考えています。
Aさんは、「全国をみて、大学のレベルはトップレベルではないかもしれないが、学長のレベルはトップレベルだと思う。」とおっしゃったけど、これからこの大学をトップレベルにするのが、僕の役目ですよ。Aさんが、トップレベルの大学を卒業したと胸を張って言えるようにね。