ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

地方国立大学に想定される厳しいシナリオ(その3)

2013年01月26日 | 高等教育

 「緊縮財政+重点化」の潮流の中で、国立大学に押し寄せた第一波(法人化)、第二波(運営費交付金の大幅な傾斜配分案)については、前回のブログで書きました。今日は第三波~四波の話ですね。

 第三波の候補としては、民主党政権下の事業仕分けもあるのですが、国立大学にとっては「10%マイナスシーリング+政策コンテスト」なのかな、と僕は感じています。第四波は第三波と関連しているのですが、今回の「大学改革実行プラン」ですね。

 講演では、第三波、第四波が押し寄せる前の状況についてもお話しました。

 つまり、法人化前夜に天野郁夫先生が予言したとおりに、大学間格差の拡大とマジョリティーの大学の活動性が低下したこと。ただし、天野先生は教育の空洞化を懸念されましたが、実際に起こったことは研究機能の低下や格差拡大でしたね。

 ブログの読者の皆さんには、今までに、何回も論文数のグラフをお示ししていますが、講演でもたくさんの論文分析のスライドをお見せしました。念のため、ブログの読者の皆さんにも、再々度、その一部を以下にお示ししておきますね。

 人口当たりの高注目度論文数の国際ランキングは21位に低迷していること。そして、日本の論文数は海外諸国が増加しているのに対して低迷し、特に、地方国立大学や公立大学の低迷が著しいこと、しかし、科学研究費あたりの論文数は地方大学の方が良く、つまり、日本はある意味では研究効率の良いセグメントの研究機能を低迷させたこと。

 

 

 

 このような状況で第三波の2010年の「10%マイナスシーリング+政策コンテスト」が押し寄せることになりました。それまで、国立大学の運営費交付金は年約1%の削減ということだったのですが、それが、突然10%削減になるかもしれないということで、国立大学は騒然となったわけです。下図は、当時北海道の7大学で計算された削減の金額であり、あくまで単純計算での話でなのですが、3年間で道内国立大学5校分が消える規模であるというものです。

 

 この時には、10%シーリングをかけるものの、要望枠を設けて政策コンテストという形でパブコメを募集し、それを参考にして何がしかの復活がありうるという新たな試みがなされました。

 もし要望枠で復活できないことになると、国立大学の存続や機能の維持に深刻な影響を与え、それが地域や国民に大きな影響を与えることになるので、各国立大学は、必死で市民にパブコメへの提出をお願いすることになりました。福井大学の福田学長が自ら福井駅の街頭に立って、市民にパブコメをお願いされたことは、語り草になっていますね。

 果たして、その結果は、次のスライドにお示しするように、文部科学省関係、特に高等教育関係の事業への提出意見が数多く集まりました。3の「小学校1・2年生における35人学級の実現」よりも、はるかに多くのパブコメが高等教育に集まったことは驚くべきことでした。だって、大学というのは、いろんな考えの人々から構成されており、組織化が非常に困難な組織ですからね。

 他省庁の事業への提出意見数に比較して、文科省関係事業への意見数がいかに圧倒的な数であったかということは、下のグラフからもわかりますね。文科省の職員は、あまりにも多いパブコメを整理するのに何日も徹夜をしたと聞いています。

 

 この、パブコメ数に対して、財務省は不快感をあらわにし、一部マスコミも”組織票”」として非難しました。それは次の政策コンテストの評価結果にも表れていると感じます。評価点がBやCばかりですからね。

 そして、その特記事項として、次のようなことが書かれていました。

 国立大学関係者は、皆でせっかくいっしょうけんめいパブコメを提出したのに、それが徒労に終わるのかと、がっくり来ていたのですが、当時の民主党政権の政治主導で、それなりの金額に復活することになりました。特に当時の管総理に科研費を増額していただいたことは、英断であったと感じています。

 ただし、その代わりに、財務省とは次のスライドのような約束をさせられることになりました。今回は予算を大幅に削減することはしない代わりに、大学改革を強力に推し進めなさいよ、ということですね。また、ここに書かれていること自体は間違ったことではないと思われます。

 一方では、この合意文書は、財務省は単に予算を削ることを自己目的としているのではなく、大学が自ら改革を推し進めるのであれば、支援する可能性があることを示した文書であるとも受け取れます。財務省が予算削減を自己目的にしていないということは、神田主計官がいろんな機会に公言をしておられますし、ご著書にも書いておられますね。

 ただ、財務省が求める大学改革のレベルと、大学現場が考える大学改革のレベルとは、大きな隔たりがあったと思われます。僕自身としては、三重大学の学長の時に、かなりの大学改革を推し進めた自負があり、この上、財務省はいったい何をどのように改革しろと言うのか、というふうにも感じました。

 

  1年以内を目途として、財務省と文科省は大学改革方針を打ち出すことを約束したわけですが、国立大学協会はその半年後の6月に、「国立大学の機能強化ー国民への約束ー」として、自らの大学改革の方針を出すことになります。

 

 パブコメの一件から1年後の平成24年度予算編成では、前年と同様に10%シーリングがかけられましたが、さすがにパブコメは行われませんでしたね。

 ただ、財務省としては、国大協から提出された「国立大学の機能強化」というような代物では、とても満足でなきないとお感じになったのでしょう。”業を煮やした”という感じかもしれませんね。「国立大学改革強化推進事業」138億円を計上するとともに、文科省内に大学改革タスクフォースを立ち上げて、国立大学改革を強く促しました。

 

 そして、平成24年4月9日の第三回国家戦略会議において、民間議員や財務大臣から大学の統廃合、国立大学運営費交付金や私学助成のメリハリのある配分など、教育改革の必要性について発言があり、平野文部科学大臣は、それに対して回答することを求められました。

 その回答が6月に出された「大学改革実行プラン」です。僕はこれを第四波と考えています。そして、僕が今回私学連でお話することになったテーマでもあるわけです。

 「大学改革実行プラン」は、審議会等の審議を経ずに、トップダウンで唐突に出されてきたものです。この点については、国立大学法人化の前夜、小泉改革でトップダウンで唐突に出されてきた「遠山プラン」と似ていますね。

 「大学改革実行プラン」の内容をまとめたのが、次のスライドですね。ただ、非常に多岐にわたるプランが書かれており、総花的という批判もあるようです。

 僕はずいぶんと厳しいことが書かれていると感じているのですが、以前のこのブログでもご紹介した財務省の神田主計官と本間政雄氏との鼎談の記事でもわかるように、財務省からすると、まだ、生ぬるいということのようです。

 

 もっとも、新政権になって、この大学改革実行プランがどのような扱いを受けるのか、よくわからない面もあります。たぶん、いくつかの点で変更があると思いますが、大筋はそれほど変わらないのではないか、そして、変わるとしても、より厳しく変わるのではないかと僕は推測しています。

 また、平成25年度概算要求が、この大学改革実行プランにもとづいて出されていますので、新政権による今後の最終的な予算編成を見れば、新政権の「大学改革実行プラン」に対する姿勢が、ある程度わかるのではないかと思っています。

 次回は、たくさんのことが書かれている「大学改革実行プラン」の中で、特に、基盤的経費の重点的配分に絞って、今後の地方国立大学に想定される厳しいシナリオを考えてみたいと思います。

 

(本ブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 

 

コメント (1)
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