レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

イラン ウクライナ アイスランド

2022-10-21 22:38:39 | 日記
こんにちは/こんばんは。

二、三日前の日本のニュースで、北海道の一部ではすでに気温がマイナスになり、学童たちが耳当てまで付けて登校している、と伝えていました。寒いですね。

レイキャビクでは、先日瞬間的にマイナス1℃がありましたが、まだまだ安定したプラスを保っています。スパイクタイヤへの交換までの一週間が心配なのですが、幸い週間予報では雪の心配は必要なさそうです。

さて、前回はイランとイランの人々のことについて書いてみました。書ききれなかったことがあるので、今回も続けさせていただきます。




美しいアイスランドの夕陽 と思いきやこれはイラン
Myndin er eftir Mahyar_Motebas@unsplash.com


9月13日に起こった、風紀警察によるマサ・アミニさん(当時22歳)の逮捕・拘束と、それに続く警察の暴力によると推察されるアミニさんの死を発端として、イラン全国で現政権に対する抗議運動がほとんど瞬時のうちに湧き上がりました。

すでに六週目に入りますが、依然として鎮火はしていません。前回触れましたように、イランの人たちの中には、ホメイニ革命以降の四十年以上の間に溜まりに溜まった不平、不満、怒りがあり、アミニさんの事件がトリガーとなりこれらの怒りに火が点いたわけです。

プロテストの当初は女性の権利への主張が前面に出ていました。「ヒジャブ(イスラム教で女性に義務付けられている、頭部を覆うスカーフ)の着用を女性の自由に委ねろ」「女性、命、自由」等のスローガンにそれは色濃く現れていました。

ですが現在はメインのスローガンは「独裁者に死を!」というようなものに変わってきています。

「ヒジャブの着用義務」に象徴されている女性の権利と自由と束縛 -アミニさんの逮捕もヒジャブの着用の仕方の問題故- に対する抗議にとどまらず、一般の人権の無視、自由の制限、民主主義の欠如に対するプロテストへと発展しているわけです。

「私たちは、今の政権に改善を求めているのでありません。私たちは今の政権を終わらせたいのです」「これはプロテストではありません。革命なんです」ということをよく耳にするようになました。

この「政権」ということを表すのに、イランの人たちは英語ではRegimeという言葉を用います。Regimeは「政権」という意味もありますが、より「体制」「政体」というニュアンスが強くなります。

つまりイランの人たちは、普通私たちが言う「自民党政権」とか「バイデン政権」とかの意味ではなく、憲法のような基幹にあるものを含む「国家体制」のことを指しているのです。彼らは国家体制を変えたいのです。だから革命なんです。

当然のことながら、これらは大きな事柄であり、政治闘争でもあります。個人で成し得るものでもなく、イラン国民の団結はもちろんのこと、世界の各国の支援が必要になる面もあります。




現在の「体制」のシンボル イスラミック・イランの国旗


アイスランド在住のイラン人の人たちからも、抗議・アピール活動が始まった当初から「アイスランドのオソリティの人たちと対話の機会を持ちたい」という声が聞かれていました。

イランの人たちのコミュニティは、ここでははっきり言ってマイナーなコミュニティです。難民というバックグラウンドを持つ人が多いこともあり、まだそれほど深くアイスランド社会に根が張れていないのです。

で、この点では多少の橋渡しになれるだろうと思い立ち、いくつかの政党にアポを取って、イラン人の代表の人たちと訪問する機会を造ることにしました。

まあ地道にメイルでお願いすることから始まるのですが、政治家の中には顔見知りの人たちもいますので、そういう個人的な人脈も頼りながらのお願いです。

緑の党のカトリーン首相にもダメ元でメイルしておいたのですが、なんと一時間後には本人から返事があり「私たちの議員と議会スタッフには伝えてあるから、具体的にミーティングの詳細を決めてください」

そんな具合で、お願いした四つの政党の訪問は滞りなく実現しました。ただ、私は現外務大臣を擁する独立党には、ほとんどコネがなく、この党には別方向からアプローチしてもらいました。独立党は現法務大臣も擁し、外国人法改悪の元凶。私は「敵」なのでした。

イランの人たちも、初めは固かったですが、回を重ねるうちに慣れてきたようです。政党に限らず、UN Womenという国連関係の団体や、フェミニスト系の団体にも訪問して支持を取り付ける努力を続けることになっています。




これもアイスランドではなくイランの牧歌的風景
Myndin er eftir Vahid_Kanani@unsplash.com


私たちがしていることは、まったくの市民レベルの、なおかつ小さな努力ですが、もっと大きく高いレベルからの動きもあります。数日前にEUの首脳レベルの話し合いが持たれ、EUとしてイランに対しての外交的、経済的な制裁を加えることが同意されました。アイスランドも参加。

それによると、アミニさんの死に直接責任があると考えられる、風紀警察や一般警察等の11人の個人と四つの法人に対して、EU内での資産凍結やEU内への入国禁止等が実施されます。

イラン人の「革命」支持者の人たちには嬉しい一報ですが、彼らはさらに「EU各国からの『イラン外交官の送還』等のより厳しい圧力を求めています。

もちろん外交関係というのは、側から見るほど単純なものではないでしょうから、そう簡単には進まないでしょうが、ひとつ追い風になったことがあります。それは、ロシアが現在行なっているウクライナ諸都市へのドローン爆撃です。

このドローンはイランの「体制」がロシアへ売っているもの。この事実が明らかにされると、ウクライナ問題を火急の大問題として扱っているEUは、イランへの制裁の必要性を認識せざるを得なくなっているのです。

ウクライナの問題は、ヨーロッパの政治に覆いかぶさる大黒雲なのですが、イラン人の人たちも、ウクライナ関係のEUの動きを眺めながら、同じような対応をEUがイランに対して取ってくれることを願っているようです。




これは私物のウクライナカラー ちなみに青は青空 黄色はひまわり


今でもこちらの街中で、ウクライナ国旗を目にする機会は非常に多くあります。私自身、コートには青と黄色のリボンを付けていますし、同じ色のブレスレットもしています。

それと比べて難しいのは、イランの民主化、自由化の革命支持を表すための良いシンボルがないのです。イラン国旗は当然のことながら問題外。イランの人たちの多くは「王政時代の国旗」「昔の自由イランの時代の旗」を持ち出そうとしています。色でいうと赤、白、緑ですね。

旗の真ん中にライオンがいるのが昔のイラン国旗。現在のはライオンではなく、普通の人にはよくわからないシンボルがあしらわれています。このシンボルはアラビア語でのアラー(神)を図案化したものだそうで。

イランの国旗にアラビア語?と不思議ですよね。そういうところから、イランの人たちの多くが「今の『体制』はイラン人のものではない。アラブ人のものだ」と言います。実際に、要所要所の軍隊はイラン人ではなく、外国傭兵で固めてあるのだそうです。どれくらいのパーセンテージなのかは知りませんが。

そういうことが分かってくると、イラン国民の多くがどのような目で今の「体制」を見ているのかが理解できるようになってくる気がします。

イランの人たちは決してイランの国が嫌いなのではありません。W杯のサッカーの試合では、みんなでイランのチームを応援していました。サッカーのナショナルチームは、彼らに取っては「本当のイラン」の代表なのです。




これは王政時代のイランの国旗


数少ない、在ア滞在歴の長いイラン人のひとりアリさんという方に、この活動を通して知り合ったのですが、アイスランドの国会議員との話し合いの中で言っていました:

「多くのアイスランド人の人たちのイラン旅行を案内してきました。イランは自然も豊かで、風光明媚なところがたくさんあります。美味しい料理も豊富にあります。

ですが、アイスランド人の人たちが『イランで良かったこと』として挙げるのは自然でも食べ物でもありません。それは『イランの人々』なんです。みんながそう言います。イラン人は暖かく、他者を大切にもてなすのが好きなのです。

今の『体制』がやっていることは、イラン人のすることではないのです。それを分かっていただきたい」

私はアイスランド在住の日本人ですので、個人的にはイランの国内情勢には直接の利害はありませんし、口出しをする権利もありません。

それでも、イランという国が今のままの「体制」であり続けるのか、自由、人権、民主主義を奉じる国に生まれ変わるのかは、日本だけではなく、世界にとって大きな違いをもたらすことだと考えます。

私が思うには、私たちの誰もが、中立であることが大切な時もありますし、特定のサイドを決めることが大切なこともあります。今のイランの現状に関しては、私は中立であるつもりはありません。「革命支持」の人たちを支持しますし、できることでその支持を実践していきたいと望んでいます。


*これは個人のプライベート・ブログであり、公的なアイスランド社会の広報、観光案内、あるいはアイスランド国民教会のサイトではありません。記載内容に誤りや不十分な情報が含まれることもありますし、述べられている意見はあくまで個人のものですので、ご承知おきください。

藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

Church home page: Breidholtskirkja/ International Congregation
Facebook: Toma Toshiki
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