玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

スケッチ会「サル、シカ、タヌキのほねくらべ」

2018-04-04 22:26:34 | 観察会
サル、シカ、タヌキのほねくらべ
作品
子供たちの感想
スタッフ・保護者の感想

<はじめに>
4月4日に武蔵野美術大学でサル、シカ、タヌキの頭骨のスケッチ会をしました。頭骨標本は麻布大学いのちの博物館の標本貸し出し事業から借用しました。通常は学校に貸し出すのですが、今回は試みとして「ちきゅうえいじゅうがっこう」(武蔵野武術大学関野吉晴教授のプロジェクト地球永住計画の一部)を広い意味での「学校」と位置付けて、出前授業の試みをしました。



 予想以上の24人の子供が集まりました。小学1年生から中学2年生までかなりの年齢幅がありました。保護者が数人、関野先生、リー智子さん(地球永住計画・ちむくい)、豊口信行さん(NPO法人自然環境アカデミー)、若林英璃奈さん(麻布大学学生)がスタッフとして、高野丈さん(自然観察者)、郡司芽久さん(国立科学博物館特別研究員)がオブザーバーとして参加しました。堀越比菜子さん(武蔵野美大学生)と郡司さんには子供のスケッチのアドバイザーもしてもらいました。
 写真の後にTJとあるのが高野丈さん、TNとあるのが豊口信行さんの撮影によるものです。何もないのは高槻撮影です。

<解説>
 はじめに解説をしました。一つは、3種の動物の特徴で、シカは大きくて草食獣であること、オスには角があること、サルは人に似ていて、果実を主体とした雑食性であること、タヌキも果実を主体とする雑食だが、サルよりは動物を食べることなどを話しました。

TJ

 それから、頭骨と実際の「顔」がかなり違うことを話しました。そのために、紙粘土模型を使いました。これは実際の頭骨に紙粘土で「肉と毛」を足したものでこれによって、とくにタヌキでは頬の部分に長い毛があるので「丸顔」に見えますが、実は頭骨は意外に細長いということを知ってもらうためです。




TN

 サルでは顔面に毛がなくて赤いことなどを話しました。
TN

 それから、実際に中に頭骨があることを見せるために、カッターで真ん中を切り、片側を手でもぎ取るように紙粘土を外しました。骨が出てきたとき、歓声が上がりました。

サルの「頭」をカッターで切る

TN




 そして草食獣であるシカは植物をすりつぶすために奥歯が平らで上がギザギザになっていること、前歯は下にしかないことなどを話しました。タヌキは動物質の食べ物も食べるため歯が鋭く尖っていて、これで噛まれたら血が出るほどで危険なことを話しました。その点、サルは前歯は鋭いが、奥歯はシカのように平らで上がギザギザだと言う話をしました。

 その次に目の話をしました。サルの目が前についているのに対して、シカは横についているので、サルでは左右の目の視野が重複してあ立体視ができるが、視野が狭いこと、それに対してシカはそれぞれの目が見る範囲が違うので重複部分は狭いが、背後まで広くカバーできることを話しました。そこで両手を開いて人差し指を内向きにし、片目をつぶって顔の前で合わせるように言いました。うまく合わなかった子がいました。そのあとで両目を開けて同じことをしてもらったらうまくできた子が多かったようです。

TJ

TN

TN

 そこで
「これは両目で見ると距離が正確にわかると言うことです。ではなぜサルは距離が正確に分かり、シカは正確ではなく広い範囲を見るのでしょう」
という問題を出しました。一人目の子は質問を繰り返すような返事でしたが、2人目の子は
「サルは木に登って動くから正確にわからないと木から落ちて困るし、シカは怖い動物がきたらすぐわかるように広く見える」
と大学生でもすぐにはうまく答えられないような正解を言ったので感心しました。
 それから骨そのものについて説明しました。
「ナメクジのように骨のない動物もいるけど、こういう動物は小さいものばかりです。カニは体の外側が硬く、中に食べられる筋肉が入っています。つまり骨が外側にあります。実はこういう動物の方がたくさんいます。魚、鳥、哺乳類などは体の中に骨がありますが、これらは地球の生き物のうち、ごく一部にすぎません」

 そのあとで、発泡スチロールの棒を2つの椅子にわたし、中央に透明なバケツをぶら下げて中に積み木を一つずつ入れました。10個くらい入れたら大きくU字に曲がりましたが、積み木をあるだけ入れても折れはしませんでした。2本目も折れることはありませんでした。予備実験では折れたのですが、ちょっと準備が甘かったようです。3本目には中に鉄の棒を入れておいたので、同じ重さをおいても少し曲がっただけでした。そのことから、動物の体の中に骨があって外側に筋肉があり、それで強い力が出せるのだという説明をしました。

TN

<スケッチ>
 それからスケッチをしてもらいました。時間は1時間ほどを取りました。種ごとの比較を目的としたのですが、低学年の子にとっては2つのスケッチをするのはむずかしかったようです。ただ本物の骨を目の当たりにした子供達の真剣な表情が印象的でした。

TN

TN

TN

TN

TN

TN









TN

 子供たちの真剣な眼差しは本当によいものです。

 子供たちがスケッチをしているあいだに次のような話をしました。
「あのねえ、このタヌキは実は交通事故で車にひかれて死んだのをもらってきて標本にしたんです。かわいそうだね」
続けて
「それからこのシカは増えすぎたのでハンターが殺したのをもらったんです。サルは八王子というところがあるでしょう。そこで農家の人が一生懸命作った果実を食べてしまったんだ。農家の人はサルが来ないように大きな音を出したりしたけどダメだったので、ハンターに頼んで殺してもらったんだ」
「かわいそう」
という声が上がりました。小さい子にはちょっとショッキングだったかもしれませんが、こういうことを考えたことがないはずなので、思い切って話しました。後述するように感想文にそのことを書いた子がいました。

スケッチでは多くの子は一つだけで時間切れだったようです。作品を紹介します。こちら

<スケッチを終えて>
 スケッチが終わってからは感想文を書いてもらいました。こちらもいくつかを紹介します。こちら

 そのあとで、修了証と動物の小さな紙粘土製の動物の人形のおみやげをわたしました。15人の予定だったので、余裕を見てタヌキを19個作り、紙粘土が余ったこともあってスタッフ用にほかの動物を5つ作ったのですが、参加者が増えたので、全部を子供に渡すことにしました。タヌキ以外が欲しい子もいると思い、番号を書いた紙切れとってもらい、その番号順に好きなものを選ばせることにしました



TN

TN

 そのあと記念撮影をしました。

TJ

TN

 紙粘土の余分があったので、人形の作り方の説明をしたりました。



 こうして予定よりはかなり時間がたってしまいましたが、解散としました。

<まとめ>
 こういうイベントの前には子供のことを想像しながら喜びそうなことをイメージするのですが、私自身がタヌキの頭骨を見たとき、「意外と細い」と感じたので、そのことをどう説明しようかと考えました。はじめはイラストを描いて頭骨と顔の関係を図示しようかと思いましたが、いっそ本物の頭骨に実物大の「外側」を紙粘土で作ろうと思いました。実際に作って見て、動物たちがいかに「上げ底」をしているかが分かりました。また、白い紙粘土の状態と着色した場合で印象が大きく違うこともわかりました。彩色する前のタヌキはクマそっくりに見えました。また、内骨格も口で言うだけでは印象に残らないので、何かモノを作ろうと思いました。これも実際の骨と紙粘土にしようかと思いましたが、力学的なことなのでシンプルな方が良いと思い、発泡スチロール棒にしました。この辺りの工夫はただのスケッチよりは科学の心を育てるのに良かったと思います。そのことは子供の好奇心に満ちた表情を見ればよくわかります。
 スケッチをしているときに、サポート役の若林さん、郡司さん、堀越さんがで子供達に声をかけてくれたので、子供がリラックスし、スケッチもぐっとよくなりました。
 反省的としては、希望者が増えても、せっかく希望しているのだから、なんとかなるだろうと多めに受け入れたため、講座の流れが悪くなって待ち時間が長くなり、子供達が退屈したことです。また低学年には1時間はやや長いのかなと思いました。
 とはいえ、子供たちが書いた感想文を読むと、どの子も楽しかったと書いていたので、全体としては良い体験になったようです。少なくとも「楽しみながら学ぶ」「個性的な自分だけの作品を作る」ことはうまくいったように思います。
 というわけで、大学博物館の「出前授業」の試みとしてよかったと思います。

<謝辞>
 麻布大学いのちの博物館は標本を提供して機会を与えらました。武蔵野美術大学の関野先生はこの企画を地球永住計画の一部と位置付けて、会場を提供いただきました。「ちむくい」のリーさんは広報や受付をしてくださいました。豊口信行さんと高野丈さんは記録撮影をしてくださいました。麻布大学の若林さん、武蔵野美術大学の堀越さん、科博の郡司さんは子供のスケッチにアドバイスをしてくださいました。これらの皆様にお礼申し上げます。関係者と保護者による感想文は こちら
 
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1 コメント

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骨を間近で見る機会をいただき感謝します (半場智惠)
2018-04-09 08:46:10
子供3人、参加させていただきました。ありがとうございます。
3人ともお絵かき大好き、動物大好きなので(これだ!)と思い申し込みました。
予想通り子供達はとても満足しておりました。
骨を間近で見る機会はなかなかなく、しかも先生が上に紙粘土をのせてくださったので、実際の状況が分かりやすかったようです。骨と動物を別物ではなく、同じものとして捉えられたらようです。
貴重な機会を与えていただき感謝しています。
上の子は2種類かけましたが、下の子は1種類しかかけませんでした。スケッチ時間は当初短かいように感じましたが、子供の集中時間からすれば適切だったかもしれません。たっぷり時間をかけなくてもだいたいの形がかけるようになれれば良いなと思いました。
高槻先生と主催者の皆様に感謝いたします。素敵な授業をありがとうございました。また参加させていただきたいです。
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