玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

出版決定

2017-07-17 23:33:32 | 生きもの調べ
都会の自然の話を聴く--玉川上水のタヌキと動植物のつながり」2017, 彩流社

退職後はじめたことのひとつが玉川上水の動植物の調査です。前々から興味があり、ときどき調べていたのですが、2016年から地域の知人といっしょに観察会や調査を始めました。ちょうどその頃に、彩流社の出口さんから話があり、観察会の記録などをもとにした本を作ることになりました。具体的な話題としてはタヌキをめぐる動植物の話がひとつ。タヌキの糞分析や種子散布、それに糞虫の調査の結果や、その過程でのできごとなどを紹介しました。玉川上水の群落の違いとその下生えの変化、変化にともなう訪花昆虫の調査なども紹介しました。その過程で認識を新たにしたのは、ふつうの生き物が一生懸命生きていることへの共感、それを知ることの感動ということです。国立公園の希少な動植物がすばらしいことに異論はありませんが、そうでない生き物すべてば魅力に溢れている、その気になれば、おもしろい話がいくらでも聞けるということです。
 いっしょに活動をしている武蔵美大の関野吉晴先生が過分な紹介文を書いてくださいました。



定価 本体2300円+税
注文は彩流社(email: 760akibin@asiavoice.net、電話 03-3224-5931, ファックス 03-3234-5932)
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2017年7月の観察会

2017-07-01 06:18:52 | 観察会
2017年7月の観察会の記録

 7月9日はとても暑い日になりました。調査をする林が少し遠いので、鷹の台駅から、あまり解説もしないまま歩き始めました。明るい場所にヨウシュヤマゴボウが咲いていたので、花の作りなどを説明しました。水車橋のところは春の観察会のときにジャノヒゲの青い実があるのを説明していたので、見るとちょうど花が咲いていました。そのあとで同じ仲間のヤブランもありました。だれかが
「ヤブランってランなの?」
と聞いたので
「ランというのはエビネなどのラン科の植物をさすだけでなく、単子葉植物のなかで華麗な花を咲かせるものをさします。スズラン、タケシマランなどはランではないけどランと呼ばれます。」
 ハエドクソウがあったので、説明しました。
「ハエドクソウはちょっと植物を勉強した人がシソ科と間違えがちな花です。茎も葉の対生するところも、花が唇形花という形をしているなど、どれも似ています。上のほうはつぼみ、その下に花、さらに下には果実がついていて、はじめは斜めにでていますが、その下のものは茎にぴったりくっつきます。よく見るとその先がクルリとカールしていますが、これが動物の体について種子を広げます。ハエドクというのはほんとうにハエを殺すことができるからで、昔あったハエとりリボンにはこれをつけたそうです」




ハエドクソウの説明をする(豊口撮影)


ハエドクソウを観察する(豊口撮影)

 もう少し歩くとヤマユリが見事な花を咲かせていました。


ヤマユリ

「ユリにはいろいろあるけど、ヤマユリはもっとも見事なものだと思います。大きくてしかも白です。花びらが6枚ありますが、実は3枚が花弁、3枚が萼片です。
 ユリはきれいな花で洋の東西を問わず名花とされます。旧約聖書にソロモン王が出てきて、この王様は今のアメリカ大統領よりもはるかに偉いほどの王様でした。そのソロモン王は政治家としてすぐれた人でしたが、自然賛美という点でもすぐれた人でした。人の作ったどんなにすばらしいものでも、野のユリの足元にもおよばないと語りました*。だからユリはヨーロッパ人にとって特別の花なのです。ミッションスクールの校章はよくグニャグニャした刀みたいなデザインがありますが、あれはユリの花をデフォルメしたものです。


ユリの花のデザイン

 アブラナ科の花は花びらが4枚で、あれは十字架を連想させるから、あれもヨーロッパ社会ではスペシャルな響きがあるんですね。
 ユリは百合という字をあてますが、あれは中国語で、中国人は動物でも植物でも人が利用できるかどうかで評価しますから、あれは百合の地下茎(ユリネ)がたくさん重なっているようすを表しています。日本では百合は目で見てよい花と考えますが、中国人は食べられる花だというわけで、国民性を表しています。私は日本語のユリは「揺れる」だと思います。」
* これは正確ではなく、正しくは「されど我なんじらに告ぐ、栄華を極めたるソロモンだに、その装いこの花の一つにも及かざりき」ということばです。

 調査地までは30分ほどもかかりました。とてもよい林で50メートルかける100メートルくらいあると思います。コナラが主体で、林床にはイチヤクソウやキンランなども多く、なかなかよい武蔵野の雑木林を代表するような林です。


調査した林

ここに20メートル四方の調査区をとって例によって毎木調査を始めました。


調査区の外枠を張る(豊口撮影)

調査区の外枠を巻尺を使って作ってもらうあいだに少し説明をしました。
「これまでいくつかの場所でこの調査をしました。木の周囲を測るから断面積が求まります。それの合計値がだいたい30m2/haなんです。手入れをして育つように管理したスギ林が50m2/haと言われています。ところが、これが津田塾大学と中央公園南の玉川上水の林はなんど60m2/haもあったんです。いかに立派な林であるかということです。毎木調査は簡単な調査ですが、具体的な数字としてわかりやすい結論がでます。それで今日もこの雑木林を代表する林のデータをとります。時間があったら下生えの調査もしたいと思います。」
 段取りを飲み込んだ人が多かったので、テキパキと仕事が進みました。記録は棚橋さんにたのみました。


記録担当の棚橋さん、


測定する参加者(豊口撮影)




調査のようす

 測定は30分ほどでできたので、記念撮影をしたあと、もうひとつ同じ大きさの調査区を作りました。



 シオデが花をつけていたので、集まってもらって説明をしました。


シオデの説明をする

「うーん、どこから説明をしようかな?これは単子葉植物ですか、双子葉植物ですか?」
「双子葉・・・、あれ単子葉?」
「単子葉と双子葉はどうちがう?」
「単子葉は平行脈」
「うん、それは単子葉の特徴のひとつだけど、そもそもの定義は子葉が1枚か、2枚かです。1枚は単、2枚は双です。その上で両者をくらべると、たとえば葉脈が平行か網の目のようだということがある。で、これは?」
「平行です。」
「はい、平行だよね。イネ科などは細長い葉だから文字通り平行ですが、これは葉が幅広く丸いので、印象が違いますが、枝分かれしないで、平行です。
 それから花を見てください。球状にみえますが、これは花序で、ひとつの花を見てください。よく見ると細長いのが3枚、少し幅広いのが3枚あります。実はさっきみたヤマユリやノカンゾウと同じです。これもユリ科なんです。」


シオデの花(豊口撮影)

「へえー、違う印象だよね」
「花を感覚的にとらえると印象はさまざまです。花を色でわけることもできます。あるいは球状であるか、ヒョロヒョロ細長い花序をつくるかなどでも分けられます。自然界にあるものをどう分けるかは生物学の大きな課題でした。花についてリンネはこう考えました。葉っぱなどは環境によってもいろいろ変化をする。花の色もそうだ。しかし花の基本構造は安定しているはずだ。たとえばある一群の花は花びらが3枚、萼が3枚で、雄しべも3の倍数、子房も3の倍数と3を基本としている。ユリのように茎の先にひとつ、あるいは数個つくものも、ぼんぼりのように球状になるもの、花びらもいろいろな形であっても、この3数性は安定している。
 リンネは敬虔なクリスチャンでしたから、神の創造物は完璧であると信じていました。もしまちがいに見えるのは人が思い違いをしているからであって、自分がその思い違いを正すのだと意気に燃えていました。そしてだれでもできる区別法を考えました。植物でいえば花に注目して客観的な分類基準を作りました。リンネは植物のことを深く理解していましたから、自分では複雑な分類ができましたが、一種の平等主義としてだれでもわかるやさしい客観的な基準を作ろうとしたんです。
 ヨーロッパでは商人の行き来があり、違う国には違う言葉があって、同じ動植物に違う名前がついているということは認識されていました。そのために生じる誤解もたくさんありました。リンネは神の創造物を言葉の違いによって誤解してはいけないと考え、世界共通のラテン語で呼ぶことにし、命名して間違いがないようにしました。そして標本を基準としました。
 私たちは、宗教は盲目だとか、考えるより信じる非科学的なものだと思いがちですが、リンネは神の意思を信じたからこそ、科学的であろうとしたんです。」
「いつ頃のことですか?」
「それがねえ、江戸時代なんですよ*。なんだか不思議な感じですよね。」
*リンネは1707年から1778年で、没年は明治維新の90年前

 少し時間があったので近況報告などをしました。
「近況というと、この前の調査に来ていた安達くんたちの作った映像作品のこと、お母様の足立さん、少し説明をお願いします」
「はい、この前東京大会があって優勝しました」
「へー、すごーい!」
拍手が起こりました。
「この前、津田塾大で調査のあとで足立くんたちに取材を受けたんですが、用意していた3つの質問を聞いたとき、内容がしっかりしているので、これはただ者ではない、映像をみていないけど、いいところまでは行くんじゃないかと思っていましたけど、優勝とはね」
「はい、ご協力ありがとうございました。私も見に行ったのですが、今年は全体にレベルが低かったみたいで、その中では確かによかったと思いました」
「結局どういう作品になったんですか」
「いろんな人に取材して、玉川上水の道路建設が問題だということに力を入れた、社会的なものになったみたいです。指導した先生の関心がそちらにあったみたいです」
「長さはどのくらいですか」
「7分です。だから高槻先生の取材もちょっとだけなんですが」
「でも、いまは大学生でも社会的なことに発言しないわけで、それを高校生がちゃんと自分の考えをもって玉川上水に道路をつけるべきではないと主張したなら、それだけで注目を集めたんじゃないですかね。それから、棚橋さん、壁画のことを」
「はい、小平駅前のグリーンロードの壁にタヌキを中心にした壁画を描いていて、それが完成しました。描いているときに声をかけてくれる人が多くて、そもそもタヌキがいるっていうことにおどろく人が多いんですよね。ハクビシンとかアライグマとか。長野の人は植物に詳しいんですかね、描いた絵を見て、これはなんとか、これはなんとかとみんな知っていました」
「あの壁の所有者は?」
「商店街みたいです。それと小平市も画材代は出してくれました」
「それから、鈴木さんのギャラリーのことは?」
 これは鷹の台の水車橋の近くに広場があり、そこに告知板みたいなボードがふたつあり、季節ごとに玉川上水の動植物の写真が掲示されているのですが、その所有者の鈴木さんが都合により手放さなければならなくなったと聞いて、それをなんとかしようと動いている人がいることについてです。私のところにも写真の協力要請があり、もちろんよろこんで協力すると返事をしましたが、これを手放さなくするにはまとまった資金が必要だということです。なんとかうまくゆくことを期待しています。
「それから私(高槻)が書いた玉川上水の本ですが、原稿をもう出版社に渡しました。秋には出ることになりました。その中でも玉川上水を横切る道路建設はよくないと書きました。この前の市長選でも、水口さんが健闘したしね」
 水口かずえさんは玉川上水の自然観察をする仲間ですが、道路建設の反対運動をしてきた人でこの前の市長選挙に立候補して健闘しました。もちろん政治基盤があるわけでなく、現役市長が圧倒的に有利なわけです。純粋に自然の価値を求めた選挙は言ってみれば書生論であり、勝ち負けはわかっていたとはいえ、かなりの票があったということは、やはり投票者の心に届くものがあったのだと思います。
「私は政治的イデオロギーとして道路建設反対というつもりはないのですが、玉川上水の歴史や生物が残されたことを考え、現実にどういう林があり、そこにどういう動植物がいて、どういう生き方をしているかという事実を明らかにする、それが一番理解を深めると思うんですね。その事実の意味をどうとらえるかは人によって価値観も違うので、捉え方は当然違うでしょうが、事実そのものに違いはない、それを伝えることが自分のミッションだと思っているんです。本を書いたのもそういうことです。」
「近況といえば、もうひとつ忘れていました。いまリーさんたちと玉川上水30キロを毎月歩いて、毎月十数種の花を選んで記録をとっています。この範囲に橋がほぼ100あるんです。その橋のあいだにたとえばヤマユリが咲いていたら、それを写真にとって記録するんです。」
「ひとりがどのくらい歩くんですか?」
「私は10キロくらいです」と豊口さん。
「ええ、すごい」
範囲はさまざまですが、担当区を決めて歩いてもらっています。
「そうすると30キロの100の橋のあいだにヤマユリがあれば、点々と記録がつきます。これを表にして花の色をつけると毎月10数種の花の色が100の升の中に埋まることになります。これを秋まで調べれば100ほどの花になるから100かける100で、1万の升が埋まることになります。これはとんでもないすごいデータになります。これをなにか美術的に表現したらすごい作品になると思うんだけど」
「へえー、すごい。やってみようかな」
「ぜひやってみてください」
 というわけで、あちこちでいろいろな人が玉川上水にかかわって動いていて、そのエネルギーを感じます。
 そんな話をしていたらブーンと虫が飛んで来ました。実は調査を始める前に、糞虫トラップを置きました。これは小さなプラスチックバケツの上に割り箸をわたし、そこにティーパックに犬のフンを入れたものをぶら下げたものです。わずか2時間ほどですが、糞虫が飛んで来たということはこの林に糞虫ができる条件をそなえているということです。糞虫はセンチコガネでした。


糞虫トラップ


飛来したセンチコガネ(豊口撮影)

豊口さんはタマムシを見つけていました。


タマムシ(豊口撮影)

 これで調査を終えましたが、午後は来週の変形菌調査の下見をするというので、私も参加することにしました。枯葉を探して見つけるのですが、私はゼロでした。専門家はすごい目をもっているようで、いくつか見つけていました。長さが1ミリの半分くらいの超ミニミニですが、実に美しいものでした。





 今回も撮影してくださった豊口さんに感謝します。

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タヌフン博士を観察する 3 マルチ・タレント

2017-07-01 03:53:00 | ぽんぽこ便り
タヌフン博士はエンターテイナーである。武蔵野美術大学の構内で玉川上水について調べてわかったことなどについての講演会を3回ほどしてくださり、どのお話しもスライドとユーモラスなお話しでもりあがった。スライドには写真の他に、イラストも登場した。絵を描くのは好きなようで、観察会でもスケッチをしていた。


 タヌフン博士のコナラのスケッチ


 コブマルエンマコガネのスケッチ


 生物学的に正確な絵が描けるようだが、力をぬいた絵が楽しい。


 タヌキの親子


 生き物のつながり


 こども観察会のお誘い

 絵もうまいようだが、驚いたことに3回目の最後には、突然ギターを持ち出し、歌い始めた。美しい景色と歌詞を入れた自作のスライドも流された。ギターを弾き、歌も歌う。そういえば散策をしていてゴキゲンなときには、鼻歌が聞こえてくることがよくある。

 さて、この写真は、最近タヌフン博士が自作したという紙粘土の動物たちだ。絵だけなく立体も作り始めたらしい。しかもリアルさを追求するというのではなく愛嬌があってなんともかわいい。動物への愛情がにじみ出ている。こんな置物が売られていたら、私は買ってしまうだろう。造形作家としてもやっていかれるのではないかと思ってしまう。


 タヌキ


 アカネズミ


 フクロウ

タヌフン博士、おそるべき魅力と才能を秘めた生物である。
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タヌフン博士を観察する 2 マーカー事件

2017-07-01 02:34:10 | ぽんぽこ便り
★「白の50番事件」
 津田塾大学構内にはタヌキがいて、タヌフン博士はタメフン調査を行っている。私(棚橋)がそのタヌキの行動範囲を知りたいと言ったところ、
「ソーセージなどの餌にプラスチックの色番号付きマーカー片を入れてタヌキの来そうな場所に置き、それを食べたタヌキのフンから出てきたマーカーを調べることにより、タヌキの動きを推定する」
という「マーカー調査」を教えてくださった。初めての経験だったが、私たちはマーカーをつくり、ソーセージに入れ、津田塾大学のキャンパス内において、タヌキが食べてくれて、タメフン場に糞をしてくれるのを待った。


 準備したマーカー入りソーセージ

 タメフン場には新しい糞あり、タヌフン博士が分析用にもちかえって水洗したところ、なんだか白いものが入っていたという連絡がきた。最初は「貝殻かな?」くらいに思ったそうだが、よく見ると50という数字がみえる。そこで「白色の50番」の写真が送られてきた。


出てきた「白いマーカー」

 白色のマーカーなど置いていない…。どうやらこれはテープの粘着面に貼られた薄膜であり、色で場所を区別しようとしていたのにこれでは場所がわからない!ということに気がついた。皆、落胆の色は隠せなかった。

 だが、これであきらめるタヌフン博士ではない。
「待てよ、棚橋さんはマーカーにするテープの角がなくなるようにハサミで切っていた(タヌキの消化管やお尻のために)。もしかしたら、その切った形からわかるかもしれない。ダメもとだが聞いてみよう」

 夜11時ころ、再びタヌフン博士からのメールがあった。
高槻メール「ダメもとで聞きますが、色付きマーカーの写真を撮っていませんか? 50番の写真があれば、形から何色かわかるかもしれません。」
棚橋メール「ス、スバラシイ思いつき! あります!」(そして添付画像を送信)
 すっかり深夜の0時すぎ頃、再びタヌフン博士から比較画像とともにメールがきた。


 5色の50番マーカー

高槻メール「さ、さなえちゃーん! ピンクでないの? うん、まちがいない、ピンクの、上が平らで左肩が斜めなのはほかにない。これは快挙である! シャーロック・タカツキ」
(注:さなえは棚橋の下の名前)
棚橋メール「ま、間違いありません!名探偵!ということは、北東、梅子墓所東のですね!!!」
……こうして無事に白の50番の出処が判明したのだった。

 後にタヌフン博士は、そのときのことをこう回想している。

 棚橋さんはプラスチックテープの角が四角いと、タヌキの消化管やお尻を傷つけるのではないかと心配し、私に相談した。失礼なことに私はその相談を受けたとき、笑い飛ばしてこう言った。
「あのねえ、私はたくさんのタヌキの糞を分析したけど、哺乳類の骨はもちろん、プラスチックの塊りや、輪ゴムや、ゴム手袋や、もうなんでも出てくるんですよ。野生動物は硬いから食べないなどと言っていたら生きていけない。皆さんが思うよりずっと丈夫でたくましいんです。やさしいのはいいけど、人間の感覚をそのまま延長するとまちがうことだってある。」
 私の言ったことはまちがっていないと思う。が、もちろん角を切ってはいけないということではない。その面倒な作業をしたことにあきれ、感心したまでだった。しかし一枚一枚ハサミで角を落としたために形が異なり、そのことがマーカーを置いた場所をつきとめることにつながった。

 このエキサイティングなコトの運びに、タヌキ調査参加者は大いにわき、タヌフン博士にとってもお気に入りのエピソードのひとつとなった。

★名探偵シャーロック・タカツキ
 フンを「ふるい」で水洗いしたときも出る植物片や種、カケラをみながら「これは〜の〜ですね」と言っている様子は、名探偵さながらだ。


 糞の中身をじっとながめるタヌフン博士

 BBCの取材のとき、タヌキの糞を水洗して、ふるいの上の破片をじーっと眺めては「これはミズキの種子、これはスズメノカタビラの葉、これはげっ歯類の大腿骨」とつぎつぎと中身を言うので、イギリスの取材者が舌を巻いていた。


 BBC取材のとき、クリス・パックマンに糞の中身を説明するタヌフン博士


 水洗して出てきた糞の中身

そういうタヌフン博士を見ていると、段々と、チェックの帽子にマントを羽織り、虫眼鏡を持っているように見えてくるのだった。

(つづく)
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タヌフン博士を観察する 1 その特徴

2017-07-01 01:25:17 | ぽんぽこ便り
★似ている
 よくペットは飼い主に似るというが、高槻先生はタヌキに似ている。というか、「タヌキの親分」という感じだ。もともとはシカがご専門であるとのことだが、シカにはあまり似ていない(と私=棚橋は思う)。
 話し方が丁寧で少しゆっくりな……ちょうど聞き入りやすい一定のスピードを保ち淡々と、でも温かみがあり、ときにユーモアを交えるので、聞き手は子どもが昔話でも聞いているときのように、心地よく聞き入ってしまう。なによりも話している様子が、いつもとても楽しそうである。


 ゆったりペースで解説する高槻先生


 楽しそうに説明する

その、淡々、堂々、のほほんと自分のペースで活動する感じが、タヌキのイメージに重なる気がする。顔はもちろん似ている(と思う)。


 子供と話をする高槻先生

★魔法のバッグ
 先生は子供観察会のとき、自分のことを「タヌフン博士」と紹介していたから、以下はタヌフン博士と呼ぶことにする。タヌフン博士の生態(…というほどは知らないが)はおもしろい。
 まずスタイルは、薄茶色系の帽子に、たくさんポケットのついたベスト、チノパン、チェックのシャツが定番だ。
 そしてリュック。このリュックの中からは、ドラえもんのポケットさながらに、ピンセットやルーペやポリ袋、ティッシュ、スケッチブックなどたくさんの便利グッズが登場する。どの道具も、コンパクトにきれいに整理されているので、いつでもパッと必要なものが出てくるのである。片付けが苦手な私はいつも関心してしまう。いろんなこと見習いたいと思い、観察会のときにはジップロックのような小さなビニール袋やビニール手袋は、私も持ち歩くことにした。
 あるとき観察会を終えたお昼にカレーを食べに行った際、ビニールを取り出し、食べきれないナンを袋に入れながら
「この袋はこういうときにも役に立ちます」
と言っていた。なるほど。
 これと対照的なのが、観察会に参加している探検家で医師の関野吉晴先生。関野先生はタヌフン博士と同じ大きさのリュックの中をいつも探りながら
「あれ?どこにいったかな…持ってくるの忘れたかな…?」
とお茶目にはにかみ笑顔を作りながら、なかなか必要なものが出てこない。この二人の先生を比較観察するのも観察会の楽しみだ。この二人は、玉川上水を通りすぎる人の視線を気にもとめず、仲良くうんちをつついていたことがある。

★100均のボード
 タヌフン博士は最近はA4サイズほどのホワイトボードがお気に入りだ。観察会では散策をしながらたくさんの人に植物の解説をする。その際、多くの人に少し離れていても見える大きさで、ボードに図や文字を描きながら説明をしてくださる。「これは100均で買ったのですが、なかなかいい」と近くにできた100均もお気に入りのご様子。タヌフン博士がイギリスのBBCに取材されたとき、「狸」という漢字を100均のボードに書いて意味を説明し、取材クルーを喜ばせていた。タメフン場で糞を拾うときには日本の「割り箸」が活躍し、これもイギリス人を喜ばせていた。


 100均で買ったボードで説明するタヌフン博士

★ネズミの死体事件
 ある日、私がひとりでタヌキ調査のために津田塾大学を散策していたとき、茶色の小さなネズミが仰向けに死んでいるのを発見した。まだ死んだばかりのようで、とてもきれいな状態だった。それを一応写真に撮り、帰ってから報告のひとつとしてタヌフン博士にメール送信した。
 すると
「できればそれをひろって私にください」
 という。迷ったが、次の日再び拾いにいくと、ネズミはひどく傷んでいた。1日経っているため、体いっぱいに虫がうごめいている。意を決してビニール手袋をはめてうごめきを手に感じながら拾った。タヌフン博士の指示に従い、例の袋に5重くらいにいれてお菓子箱に入れて周辺をテープでとめた。
 その日の夜、駅の改札でタヌフン博士に渡すことになり、そこまで私は車で移動したのだが、車中はなんとなく異様な匂いが立ち込めた。改札にいたタヌフン博士はちょっと笑みを浮かべながら
「ご苦労様です」
 と嬉しそうにしている。箱を渡しながら、傷んでいる様子や匂いについて報告をすると
「あぁ、それはウジ虫ですね」
 と当たり前のように言う。私は思わず
「ヒヤー!!!!」
 となった。これをどうやって処理するのか尋ねると
「ちょうど今、亀の骨格標本をつくるために庭で亀を煮ているので、その鍋でグツグツ煮て骨格だけを取り出します」
 という。この人はどういう毎日を送っているのか。


 タヌフン博士が作ったネズミの骨格標本

★「速い!」
 タヌフン博士は多くの本を出されている。どうしてそんなことができるのか不思議に思うが、その理由がわかってきた。
 観察会を終えたその日の夜までには、観察会であったことを文章にし、写真とともに報告書を作成してしまう。データ化したものも、次の日くらいには送られてくる。このスピードは本当に脱帽ものだ。そして周囲は(特に写真記録係は)、このスピードについていくことがやっとの状況で、毎度「棚橋さん、写真を早く送ってください」とせっつかれることとなるのだった。

(つづく)
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