10月の観察会
観察会はお流れ
10月に入っても暑い日が続いた。咲いている花も9月と大きくは違わなかったのだが、訪花昆虫はよい結果が得られたので、もう一度試みようかと思っていた。ところが、あいにくの天気で、鷹の台に集まったとき、雨が降っていた。集まった人は少なめで、相談して、観察会は取りやめにして、よい機会だから話し合いをすることにした。観察会では聞けない声を聞けて有意義だった。
タメフン探し
その代わりというわけではないが、津田塾大学でおこなっているタヌキの調査で動きがあった。10月15日に「人海戦術」でタヌキのタメフンを探すことになったのだ。
これまで「津田塾キャンパスにタメフンが1箇所しなかいはずはない」ということが懸案であった。糞を拾って食性を解明するほうはなんとかなるにしても、マーカーを使ってのタヌキの動きを調べるためには、1箇所では心もとない。実際夏休み前におこなった調査では340個ものマーカーが食べられたはずなのに、タメフン場からマーカーが回収されなかった。
そこでこの懸案を解消すべく、人数を集めてキャンパスをローラー作戦で調べてタメフン場を探すことにした。久々によい天気だった。
はじめに津田塾大学の芝生で調査の段取りについて説明し、自己紹介をした。武蔵野美術大学ではタヌキ好きの数人で編成した「チームぽんぽこ」の3人が来ていた。そのほかリーさんの人脈などを通じて聞きつけてきた人など13人が集まった。説明の後、タメフン場に行って糞を見てもらおうとしたが、3日前に私が糞をすべて回収していたので、タヌキが警戒したのか、新しい糞はなかったが、タメフン場の特徴や気をつけるべきことなどの説明をした。
藪漕ぎ
タメフンがあるのは低木が生い茂ったような場所が多い。そこで、列を作ってササやぶをローラー作戦で調べることにした。クモの巣が多く、ちょっと進むと顔について気持ちが悪い。枝をひろって巣を払いながら歩く。
ササやぶを進む参加者
しばらくそうして歩いていたとき、「高槻せんせーい、ちょっとお願いしまーす!」という声がした。行ってみると、モグラ塚だった。同じように黒いモコモコの塊だから初心者には区別しにくい。
「私もなんか見つけたんですが、小さくて違うかもしれないんですが・・・」
「あのねえ、自分の見つけた糞が小さいからって恥ずかしいなんてことはぜーんぜんありませんから」
というと笑いが起こる。行ってみると、きのこが湿って一見糞のように見えるものだった。
別の人からも声があった。行ってみると、今度は間違いなくタヌキの糞で、これまでみつかっていたタメフン場から10メートルほどしか離れていない。ただしタメフンではなく、1回分の糞だった。私は常備しているゴム手袋とチャック付きポリ袋を取り出して採集する。これまでの経験からその中身のほとんどがムクノキの果実だということがわかった。
タヌキの糞。ムクノキの果実が入っていた。
ムクノキの果実(左)と種子(右).格子の間隔は5mm.
その説明をすると
「ムクノキの実っておいしいんですか?」
と質問がある。
「ええ、おいしいですよ。甘くてちょっと干しブドウみたいな感じ。昔は子供がおやつにしたらしいです。
最近、天皇陛下が皇居のタヌキの糞分析の論文を書かれたって出てたでしょう。その論文でもムクノキやエノキがたくさん出てきたって書いてありました。」
話は続く。
「ムクノキやエノキは雑木林には少ないんです。雑木林は炭をとるために定期的に伐採したから、伐採に強いナラなどが多くなってムクノキなどは少ないんです。皇居のタヌキがムクノキをよく食べているといのは、雑木林とは違い安定した林があるっていうことなんです。」
「安定してるって?」
「植生遷移ってあるでしょ?それでいうと遷移の進んだ段階の林ということです。関東平野のもともとの林はシイやカシが主体の薄暗い常緑林で、ムクノキは落葉樹ですが、そういう林にあります。皇居の森はそういう林だということです。」
「へえ」
「この津田の森も安定したシイなどの多い鬱蒼とした林で、ムクノキもあるから、ここのタヌキはよく食べています。」
「でもタヌキはもともと雑木林みたいなところにいるんですよね」
「そうですね、里山の動物で、人のいる近くで生き延びてきたんだと思います。」
「いずれにしても見つかってよかったです。」
「すご〜い!」
そのあと、私が、タメフンがありそうだと思う玉川上水沿いの林を歩くことにした。そこはいかにもタヌキの好みそうな低木がほどほどにあり、センサーカメラにもタヌキが写っているので、タヌキが使っているのはまちがいない場所だからだ。だが、結果的には予想がはずれた。
タメフン見つかる
そうこうするうちにお昼が近づいたので、府中通り沿いの林を歩いて切り上げることにした。そこは交通量も多く、しかもこの夏休みにフェンスの工事をしていたので、タヌキが利用しているとは思えなかった。タヌキがいそうな玉川上水沿いでもタメフンがなかったのだから、と期待はしないで歩いていたら、意外なことにその低木の中にタメフンらしいものがあった。薄暗くてよく見えなかったので懐中電灯を出して見ると、確かにタメフンのようだ。
「みなさん、ちょっと集まってください。」
「ええ!あったの?」
新しい糞があり、ヒラタシデムシが来ていた。さっきセンチコガネをみつけてプラスチック容器に入れていた人がいたので、ピンセットをとりだして、ヒラタシデムシを採集して提供する。
見つかったタメフンに集まる(棚橋早苗さん撮影)
またゴム手袋を取り出して、1回分の糞ごとにポリ袋に入れた。そうしているうちになんとピンク色のマーカーが見つかった。
「あ、マーカーがありました!」
「ええ、ホント?!」
「さなえちゃん、ピンクはどこ?」
この調査をリードしている棚橋早苗さんを、ふつうは「棚橋さん」と呼んでいるのだが、こういう特別なときは思わず下の名前で呼んでしまう。「どこ?」というのは、マーカー入りソーセージをおいた場所が5箇所あり、それぞれで違う色にしているので、私はそれを聞いたのだ。ピンクラベルは北東の津田梅子墓所においたもので、かなりの距離を運んだことになる。
あとで水洗して確認したら78番であることがわかった。わかりにくかったのは、タヌキの歯型があって文字の上を噛んだせいだった。
糞から検出されたマーカー.大きさは幅がおよそ6mmほど.
参加者の一人が歩きながらマヨネーズ容器を4本みつけてくれたが、いずれもタヌキの噛み跡がついていた。大学の人がわざわざ林にマヨネーズを捨てるわけはないから、タヌキがキャンパス外から持ち込んだと思われる。
タヌキの齧り跡のついてマヨネーズ容器
午後は用事のある人が多かったので、少人数でもできる群落調査をすることにした。その結果は別項に紹介したい。
生き物を好きだというだけでなく、それを調べることに関心の強い人たちが多かったので、話がはずみ楽しい調査になった。
観察会はお流れ
10月に入っても暑い日が続いた。咲いている花も9月と大きくは違わなかったのだが、訪花昆虫はよい結果が得られたので、もう一度試みようかと思っていた。ところが、あいにくの天気で、鷹の台に集まったとき、雨が降っていた。集まった人は少なめで、相談して、観察会は取りやめにして、よい機会だから話し合いをすることにした。観察会では聞けない声を聞けて有意義だった。
タメフン探し
その代わりというわけではないが、津田塾大学でおこなっているタヌキの調査で動きがあった。10月15日に「人海戦術」でタヌキのタメフンを探すことになったのだ。
これまで「津田塾キャンパスにタメフンが1箇所しなかいはずはない」ということが懸案であった。糞を拾って食性を解明するほうはなんとかなるにしても、マーカーを使ってのタヌキの動きを調べるためには、1箇所では心もとない。実際夏休み前におこなった調査では340個ものマーカーが食べられたはずなのに、タメフン場からマーカーが回収されなかった。
そこでこの懸案を解消すべく、人数を集めてキャンパスをローラー作戦で調べてタメフン場を探すことにした。久々によい天気だった。
はじめに津田塾大学の芝生で調査の段取りについて説明し、自己紹介をした。武蔵野美術大学ではタヌキ好きの数人で編成した「チームぽんぽこ」の3人が来ていた。そのほかリーさんの人脈などを通じて聞きつけてきた人など13人が集まった。説明の後、タメフン場に行って糞を見てもらおうとしたが、3日前に私が糞をすべて回収していたので、タヌキが警戒したのか、新しい糞はなかったが、タメフン場の特徴や気をつけるべきことなどの説明をした。
藪漕ぎ
タメフンがあるのは低木が生い茂ったような場所が多い。そこで、列を作ってササやぶをローラー作戦で調べることにした。クモの巣が多く、ちょっと進むと顔について気持ちが悪い。枝をひろって巣を払いながら歩く。
ササやぶを進む参加者
しばらくそうして歩いていたとき、「高槻せんせーい、ちょっとお願いしまーす!」という声がした。行ってみると、モグラ塚だった。同じように黒いモコモコの塊だから初心者には区別しにくい。
「私もなんか見つけたんですが、小さくて違うかもしれないんですが・・・」
「あのねえ、自分の見つけた糞が小さいからって恥ずかしいなんてことはぜーんぜんありませんから」
というと笑いが起こる。行ってみると、きのこが湿って一見糞のように見えるものだった。
別の人からも声があった。行ってみると、今度は間違いなくタヌキの糞で、これまでみつかっていたタメフン場から10メートルほどしか離れていない。ただしタメフンではなく、1回分の糞だった。私は常備しているゴム手袋とチャック付きポリ袋を取り出して採集する。これまでの経験からその中身のほとんどがムクノキの果実だということがわかった。
タヌキの糞。ムクノキの果実が入っていた。
ムクノキの果実(左)と種子(右).格子の間隔は5mm.
その説明をすると
「ムクノキの実っておいしいんですか?」
と質問がある。
「ええ、おいしいですよ。甘くてちょっと干しブドウみたいな感じ。昔は子供がおやつにしたらしいです。
最近、天皇陛下が皇居のタヌキの糞分析の論文を書かれたって出てたでしょう。その論文でもムクノキやエノキがたくさん出てきたって書いてありました。」
話は続く。
「ムクノキやエノキは雑木林には少ないんです。雑木林は炭をとるために定期的に伐採したから、伐採に強いナラなどが多くなってムクノキなどは少ないんです。皇居のタヌキがムクノキをよく食べているといのは、雑木林とは違い安定した林があるっていうことなんです。」
「安定してるって?」
「植生遷移ってあるでしょ?それでいうと遷移の進んだ段階の林ということです。関東平野のもともとの林はシイやカシが主体の薄暗い常緑林で、ムクノキは落葉樹ですが、そういう林にあります。皇居の森はそういう林だということです。」
「へえ」
「この津田の森も安定したシイなどの多い鬱蒼とした林で、ムクノキもあるから、ここのタヌキはよく食べています。」
「でもタヌキはもともと雑木林みたいなところにいるんですよね」
「そうですね、里山の動物で、人のいる近くで生き延びてきたんだと思います。」
「いずれにしても見つかってよかったです。」
「すご〜い!」
そのあと、私が、タメフンがありそうだと思う玉川上水沿いの林を歩くことにした。そこはいかにもタヌキの好みそうな低木がほどほどにあり、センサーカメラにもタヌキが写っているので、タヌキが使っているのはまちがいない場所だからだ。だが、結果的には予想がはずれた。
タメフン見つかる
そうこうするうちにお昼が近づいたので、府中通り沿いの林を歩いて切り上げることにした。そこは交通量も多く、しかもこの夏休みにフェンスの工事をしていたので、タヌキが利用しているとは思えなかった。タヌキがいそうな玉川上水沿いでもタメフンがなかったのだから、と期待はしないで歩いていたら、意外なことにその低木の中にタメフンらしいものがあった。薄暗くてよく見えなかったので懐中電灯を出して見ると、確かにタメフンのようだ。
「みなさん、ちょっと集まってください。」
「ええ!あったの?」
新しい糞があり、ヒラタシデムシが来ていた。さっきセンチコガネをみつけてプラスチック容器に入れていた人がいたので、ピンセットをとりだして、ヒラタシデムシを採集して提供する。
見つかったタメフンに集まる(棚橋早苗さん撮影)
またゴム手袋を取り出して、1回分の糞ごとにポリ袋に入れた。そうしているうちになんとピンク色のマーカーが見つかった。
「あ、マーカーがありました!」
「ええ、ホント?!」
「さなえちゃん、ピンクはどこ?」
この調査をリードしている棚橋早苗さんを、ふつうは「棚橋さん」と呼んでいるのだが、こういう特別なときは思わず下の名前で呼んでしまう。「どこ?」というのは、マーカー入りソーセージをおいた場所が5箇所あり、それぞれで違う色にしているので、私はそれを聞いたのだ。ピンクラベルは北東の津田梅子墓所においたもので、かなりの距離を運んだことになる。
あとで水洗して確認したら78番であることがわかった。わかりにくかったのは、タヌキの歯型があって文字の上を噛んだせいだった。
糞から検出されたマーカー.大きさは幅がおよそ6mmほど.
参加者の一人が歩きながらマヨネーズ容器を4本みつけてくれたが、いずれもタヌキの噛み跡がついていた。大学の人がわざわざ林にマヨネーズを捨てるわけはないから、タヌキがキャンパス外から持ち込んだと思われる。
タヌキの齧り跡のついてマヨネーズ容器
午後は用事のある人が多かったので、少人数でもできる群落調査をすることにした。その結果は別項に紹介したい。
生き物を好きだというだけでなく、それを調べることに関心の強い人たちが多かったので、話がはずみ楽しい調査になった。