玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2019年9月22日の観察会

2019-09-22 21:11:48 | 観察会
2019年9月22日に玉川上水観察会をしました。今回はシンポジウムにきて興味を持った人も参加してくださいました。行った場所はシンポジウムでも話題にした浅間橋界隈です。浅間橋は現在の玉川上水の最下流にあたり、これより下流は昭和時代に暗渠化されました。だから、ここが玉川上水沿いの緑地の末端ということになります。私たちの観察会は小平に偏りがちなので、たまには違う場所を見ようということで、今回ここを選びました。
 井の頭線の富士見ヶ丘駅に集まり、近くにある神田川に集まりました。


浅間橋の上流を歩く

神田橋のほとりで
「神田川といえば、私たちの世代にはかぐや姫のヒット曲で、懐かしい響きがあります。見てもらうと川の両側と底がコンクリート張りになっています。これを<三面張り>と言います。これは川を地上にある目に見える水が流れる場所と考えたからです。でも実際の川というのは、地下水が大量に流れ込むので、三面張にするとその地下水が入らなくなります。ある人から聞いたのですが、明治時代くらいまで日本海側では九州までサケが登ってきたそうです。それが戻ってこなくなったのは川を三面張にしたため、水温が上がり、そうするとサケが遡上しなくなるからだそうです」
「土がないから、植物には暮らしにくいです。生えているのはほとんど外来の雑草です」


3面ばりの神田川

この辺りに詳しい大塚さんがおられたので、浅間橋に行くには神田川そいに行くほうがいいと教えてもらいました。進むとアオギリがありました。アオギリは漢字で「梧」と書きます。それでうろ覚えのくせに
「少年老いやすく学なりがたし、一寸の光陰軽んずべからず。ここまではよく知られていて受験生に時間を惜しんで勉強せよと使われますが、知られていませんが、その続きがあります。池塘春草・・・・あれ?忘れた。その後、階前の梧葉すでに秋声、と続きます。その梧葉がアオギリです」
というとスマホで調べてくれた人が「いまだ覚めず池塘春草の夢」だと教えてくれました*。
「そうです。スマホはありがたい。池の淵に生える春の草が自分が大物になるんだと夢見ているのに、家の前のアオギリの葉にもう秋風が吹いている、という意味です。昔の人は草が低木になり、高木になると思っていたんですね。<君が代>でもさざれ石が巌になると言いますが、砂が石になって最後に岩に育つと思っていた。本当は逆なんですがね」

* 正しくは以下の通り



 進むとクズの花が咲いていました。それにヤブカラシが咲いていてアオスジアゲハがきて蜜を吸っていました。
「クズの花はファンタグレープの匂いがしますよ」


クズ


ヤブカラシにアオスジアゲハ

「あ、ホントだ」
東京都が買い取って公園にする計画をしているというグランドのようなところをすぎると浅間橋が見える道路に出ました。
「あれが玉川上水の最後の林です。それより下流は暗渠になってそのうえを高速道路が走っています。この高速は何高速ですか?」
「中央高速です」
「要するにこれより下流は戦後の高度成長期の日本人の価値観を示しており、上流はその時代でも残そうとした人がいたのだということを示していて、ここは象徴的な場所だと思います」


左は中央高速。右奥が浅間橋で玉川上水緑地の末端。

道を横切って浅間橋に行くと、塀にセンニンソウが咲いていました。



「センニンソウはClematisというグループで園芸品のクレマチスやテッセンと同じ仲間です。同じグループのほかの花は花びら(正確には萼片)は5枚なのですが、これはどういうわけか4枚です。そして純白で実にきれいだと思います。これもつるですが、玉川上水にはつる植物が多いです。それは絡まる支持植物があると同時に光の当たる場所があるからで、つる植物に理想的だからです。日本は水分の心配はないから植物にとって競争のポイントになるのは光です。植物は光を確保するために競い合いますが、それには高くなることが有利で、他の植物は自分で光合成した物質を茎に投資しながら少しずつ伸びていくのですが、つる植物は他の植物にすがったり、絡みついたりして優位に立つわけです」


センニンソウ

 ということもあってこの日はつる植物が一つのテーマになりました。歩いていて以下の19種がありました。
クズ、ヘクソカズラ、ヤブカラシ、ツルウメモドキ、センニンソウ、エビヅル、オニドコロ、スイカズラ、ノブドウ、ウマノスズクサ、ツタ(ナツヅタ)、キヅタ、カラスウリ、アカネ、コヒルガオ、カナムグラ、ヤマノイモ、フジ、ヒヨドリジョウゴ
 その他園芸種として、アサガオ、マメアサガオ、マルバルコウソウ


ウマノスズクサ


カナムグラ


ナツヅタ


ナツヅタとキヅタ


カラスウリ

 常緑広葉樹としてはタブノキ、シラカシ、クスノキ、シロダモ、トウネズミモチ、ヒサカキ、イヌツゲ、ヤブツバキなどがありました。
「ヤブツバキは常緑広葉樹の中でも特にテカテカとツヤがあり、照葉樹と呼ばれます。昔は女性が髪油として使ったので、自然分布よりも北の秋田まで分布しています」
大塚さんが
「ツバキにはメジロが来ます。蜜を吸うだけじゃなくて、木の中に群れで寝ます。隠れるのにいいみたいです」
私が続けました。
「この照葉樹が分布する範囲は納豆を食べたり、鵜飼いをしたり、世界的に特殊な文化を持っているので、中尾佐助という人が<照葉樹林文化>と名付けました。ヒマラヤから揚子江流域、日本を結ぶ三角形の範囲に確かに不思議な符合が見られます。それが日本人の文化や生活に色濃い影響を与えたのは確かですが、ブナ林のドングリやトチの果実を食べ、動物を獲る生活も重要だという考えがあります」
というと関野先生が
「サケが重要です。サケは川の色が変わるほど遡ってくるので、1ヶ月サケをとれば一年分の食べ物が確保できたんです。実際、縄文時代は東北地方の方が西日本よりもはるかに人口が多かった」
と続けました。


関野先生

と言った調子で話題が続くので、気がつけば11時を回ったのに、まだ5分の1ほどしか歩いていません。
「少しペースを上げます」
と言ったらみなさん笑っていました。


ツルボ


ヒガンバナ


シラヤマギク


エゴノキ


クサギ

このあたりは数年前に大きな道路がついて立ち退きがあったそうです。そして交通量が多いので、道路と歩道の間に土塁のようなものをつけて低木やジャノヒゲなどを植えています。そして歩道も特殊なものらしいですが、舗装されています。雨水は通るようになっているそうですが、枯葉はたまらないので、有機物の追加がなく、土は全く違うものになります。大塚さんによればセミは少なくなったそうです。


土塁のある舗装の歩道を歩く

 牟礼橋まで行くと放射5号線ができたために林は伐られ、大きなケヤキが孤立して立っていました。私には苦しそうに見えました。


牟礼橋近くに孤立した大ケヤキ

 「こうしてみてくると、同じ玉川上水でも、この辺りは小平あたりのような雑木林的な植物は少なく、歩道や土塁といった人口的な管理の色彩が強いと言えます。それも年緑地のあり方です。もし土塁がなければ確かに車がビュンビュン走るのをみながら歩くということになりますから、それは良くないでしょうね」
 ここで、イネ科が目立ったので、5種ほどを摘んで説明しました。



「イネ科はたくさん種類があって区別が難しいとされます。基本的な形は<軸があってそこに小さな花がついて穂を作る>です。その穂の形が様々で、アキメヒシバとオヒシバは一箇所から単純な線状の穂が出ます。イヌビエは代表的なもので、主軸からたくさんの穂が出ますが、その穂に花がたくさんつきます。イヌビエは代表的な田んぼの雑草で、花がなければイネと区別ができません。他の草は農民が抜くのですが、これは見分けがつかないから抜けないのです。稲作が始まってから自分の形を変えてイネに化けたと言えます。これはエノコログサでネコジャラシと言いますね。これは主軸にたくさんの花がついて塊の穂を作るので、重さで垂れ下がります。これはカゼクサで、主軸から枝がパラパラと出て、その枝がさらに枝を出して花を一つつけます。だからエノコログサと対照的に花がまばらに見えます。これをカゼクサと名付けたのはなかなかいいですね。この仲間で小さいのにニワホコリというのがあって、これもうまい名前です。とにかく、イネ科の花は虫媒花とは違う美しさがあります。虫媒花は虫にいらっしゃいと自分をアピールして、色や形をデコレーションするわけですが、イネ科は風媒花ですからその必要はない。だから媚びることがなく機能美があります。いいですね」
 というと大塚さんが、
「イネ科があるとバッタの仲間が増えますよ。だからちょっとした緑地があるだけで、いろいろな生き物が生きられるんですね」
 大塚さんは植物だけでなく、鳥にも昆虫にも詳しい。


アキメヒシバ


オヒシバ


エノコログサ


カゼクサ


ススキ

 その後、宮下橋の近くの公園のようなところで記念撮影をし、挨拶をしました。



「今日は玉川上水の最下流の様子を見にきました。都市に一番近いのだからさぞかし貧弱だろうと思うとそうではなく、浅間橋のすぐ近くに意外にも樹林もあるし、草原(くさはら)の植物もありました。そういう玉川上水が見れてよかったと思います。今日はつる植物を一つのテーマとして20くらいが確認できました。確かに玉川上水にはつる植物が多いということが確認できたと思います。9月なので、夏の花の終わりのものと、秋に花の咲き始めの両方がみられました。じつは樹木の太さの調査もしようと道具は持ってきていたのですが、雑談が多くなったので、やめました(笑)。このあたりに詳しい大塚さんが素晴らしいガイドをしてくださいました。ありがとうございました」


大塚さん

と言って解散としたのですが、みなさんしばらく楽しげに談笑していました。





それにしても、数日前には雨、昨日は曇りの天気予報が外れ青空が見えました。私はよく「晴れ男」と呼ばれます。


巻雲

写真の多くは豊口さんの撮影です。
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