玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

梅子の梅とタヌキ

2018-06-01 18:37:20 | 生きもの調べ
津田塾大学のキャンパスの北東に津田梅子先生の場所があります。思いがけないほど質素なお墓で、梅子先生の人柄を忍ばせます。


津田梅子先生の墓所


 じつはこのあたりにソーセージをおいて、中にプラスチックのマーカーを入れておいたところ、キャンパス内のタヌキのタメフン場からマーカーが検出されました。だからタヌキはこのあたりにも来ているのは確実です。
 梅子先生の墓所の近くには、おそらく名前の「梅」にちなんでのことでしょう、梅の木が植えられていてます。


津田塾大学の梅林


津田塾大学のオフィシャルサイトは「プラムガーデン」と言いますが、このプラムとはウメのことです。

 このウメの木は早春には紅白の花を咲かせ、5月になるとウメの実がなります。

 6月24日にタヌキの糞を回収したところ、9個の糞のうち2個からウメの種子が検出されました。ウメの種子はたいへん大きいので、糞をするときタヌキはお尻が痛かったのではないかなどと余計なことを考えてしまいます。


糞をするタヌキ



タヌキの糞から検出されたウメの種子(植物学的には核と呼ばれる)格子間隔は5 mm


 津田梅子先生とタヌキは何の関係もなさそうですが、その名前から梅が植えられ、その実がタヌキに食べられていると思うと、不思議なつながりにほのぼのとした思いになります。
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2018年6月の観察会

2018-06-01 01:32:34 | 観察会
梅雨時なので、小雨くらいは覚悟しないといけないのですが、今回は訪花昆虫の調査を予定していたので、気温が下がると昆虫が来ないと作業ができません。天気予報では曇りなので、その調査はできないかもしれないと思っていました。その場合は花や葉を持ち帰って室内でスケッチをしようと思っていました。鷹の台の駅で待っていると、今回初めての学生さんたちも集まってようです。その時点でも曇りで肌寒かったので、訪花昆虫の調査ができるかどうかわかりませんでしたが、とりあえず「野草観察ゾーン」まで行くことにしました。

 津田塾大学のところにトクサがあったので説明しました。
「トクサというのは砥石の砥に草、つまり砥ぐ草という意味ですが、表面がザラザラしていて、実際かなり硬いので、例えば爪を研ぐと表面が磨けます」
「へー」
「意外かもしれませんが、シダの仲間です。ツクシはスギナの胞子をつける茎ですが、葉に相当する部分は緑色です。このトクサはスギナのその部分に対応します。筒状のものが繋がっているので、引っ張るとスポンと抜けます。これを戻して<>などと当てっこして遊んだものです」
「わあ、おもしろ」


トクサの説明をする

 同じ場所にホタルブクロが一輪あったほかマヤランの株があり、花はまだですが、蕾が確認されました。私がジャノヒゲと思ったのはオオバジャノヒゲでした。


ホタルブクロ


マヤラン


オオバジャノヒゲ


 花は少なかったのですが、ハエドクソウはちょうどいいタイミングでした。実体顕微鏡「ファーブル」を持ってきていたので、果実を見てもらいました。果実の先端がフック状になっているのを見てもらいたいと思いました。


ハエドクソウの花


「ファーブル」をのぞく


ハエドクソウの果実


観察会のようす


 明るいところに出たらヤマカモジグサが咲いていたので、説明することにしました。
「ヤマカモジグサは緑色が他の草に比べて黄色がかっているのがわかりますか?これが一つの特徴で、慣れれば遠くからもわかります。いい機会だからイネ科の作りを説明しますね。イネ科は茎を稈と言います。中空ですから、ムギの稈がストローだったわけです。ストローは今はプラスチックになっているけど、元々はイネ科の稈だったわけです。そういえば、ヨーロッパではプラスチック製品が海洋生態系を汚染する、というか分解しないので悪影響があり、亀が食べて死んだりするので、使わないことにしたそうですね。で、稈に節があり、そこから鞘という葉を支えるものがあって稈を囲んでいます。そして先端から葉が出ます。稈の先端に花がありますが、イネ科の花は穎があって、その中に種子があります。イネ科の代表はイネですが、稲籾は穎です。
 イネ科の花は風媒花だから、虫媒花のように華やかなカラフルなものではありませんが、全体に直線的で機能美があります」


イネ科の説明



 みなさん、熱心に聞いていました。
 「その葉ですが、ヤマカモジグサはちょっと変わっているんです。普通のイネ科の葉は表が上を向いて垂れ下がります。当たり前みたいですが、ヤマカモジグサは稈から出た葉が一回転して、裏が上むきになるんです。ややこしいので、植物学では稈に向く方を<向軸側>、その反対を<背軸側>と言います。普通は向軸側が上ですが、ヤマカモジグサでは背軸側が上になります」


ヤマカモジグサの説明をする


「へえー」
「というと必ず<それにはどういう利点があるんですか>って訊く人がいるけど、わかりません。わからないことだらけです」
ついでにイネ科のことについて横道にそれました。
「普通の植物、つまり双子葉植物は成長点が茎の先端にあるので、そこが食べられたり、刈り取られたりすると伸びられません。脇から芽を出せるものもありますが、ダメージは大きくなります。ところがイネ科は節に成長点があるので、上の方を食べられても平気なんです。だから、大陸の内側にある乾燥地で、降水量が少ないところでは木が育てないのですが、イネ科が生える草原が広がり、そこに草食獣がいて食べても大丈夫という関係が成り立つ草原生態系ができたわけです」

 私は居合わせなかったのですが、関野先生がコガネムシを手にしていたら、糞をしたのでみんなで笑ったそうです。これを大ごととして騒ぐか、「虫には虫の事情がある」と微笑むかで人の大きさ(というのは大げさだが)がわかるというものです。





 そのあとは玉川上水の南側、五日市街道沿いを下流に進みました。しばらく歩くと、野草観察ゾーンになり、オカトラノオの群落がありました。歩いているうちに心配していた天気も良くなり、薄日が射すような感じになってきて、花を見るとハチがいるので、大丈夫、調査ができると判断しました。
 そこで、昆虫の類型を説明し、記録の取り方の説明をしました。そして10分間のセッションをできれば4回取ってもらいたいと頼みました。


訪花昆虫の記録の仕方を聞く


 オカトラノオの他には花があまりなかったので、オカトラノオだけはしっかりデータを取ってもらうことにしました。






花の前で記録を取る


訪花昆虫


 1時間ほど記録を取ってもらい、私は見回りをして質問を聞いたり、みなさんのようすを見回ったりしました。
 時間になったので集まってもらい、「ファーブル」とルーペがあったので、ヤブジラミの果実、アカネの茎の逆刺などを見てもらいました。
「アカネは名前はよく聞きますね。茜という漢字を書きますが、日本語では<赤い根>ということです。地下部を掘って紙に挟んでおくと朱色に染まります。昔の人はそのことを知っていたこの植物をアカネと呼んだわけです」
 これは私の思い違いでした。私はクチナシの果実を紙で挟んで朱色に染めたことがあり、それと混線していました。アカネは根を煮て、その出し汁で布を染めたのだそうです。
「アカネはつる植物という訳ではないのですが、自立はせず、他の植物に寄りかかるように伸びます。その時に茎の逆刺が役立ちます。茎を指で挟んで上から下に下ろすとスーッと行きますが、逆にすると茎が持ち上がります。
 茎は断面が正方形で、1箇所から4枚の葉が出ます。その葉が典型的なハート型で、長い葉柄があるのでスペード型になります。全体に幾何学的なスッキリした印象的な植物です」



アカネの説明をする


 何れにしてもヤブジラミの果実やアカネの茎を拡大してその棘を見てもらい、肉眼では気づかない世界が広がりました。
 それからデータを集計してもらい、私のところに集約しました。ヒメジョオンを調べた人の記録をみると、意外に多くの昆虫がきているようでした。


データの報告受ける


 データを集計しました。ヒトツバハギ、ヤブジラミ、ネズミモチなども調べましたが、例数が少ないので、参考記録としますが、オカトラノオは18例、ヒメジョオンは12例のデータが取れたので、平均値を計算してみました。するとオカトラノオは10分あたり9.0回、ヒメジョオンは13.3回の訪問があり、ヒメジョオンのほうが人気があるようでした。内訳をみると、オカトラノオではハチが5.2回、ヒメジョオンでもハチがほぼ同じ5.4回でしたが、ヒメジョオンではハエ・アブがずっと多く7.1回に達しました。数は多くないですが、オカトラノオにはチョウが1.2回来ていました。


オカトラノオとヒメジョオンの訪花昆虫の訪問頻度


 オカトラノオは長細い花序を持っていますが、一つの花は皿のような形をしています。こういう花は蜜が浅いところにあるので様々な昆虫が訪問します。


オカトラノオの小花


一方、キク科の花の多くは中央に筒状の花が、周辺に1枚の舌のような花びらを持つ「舌状花」があります。こういう花は筒の底に蜜があることが多く、口が短く蜜を舐めるタイプのハエ・アブには蜜を得ることができません。このためストローのように長い口をもつチョウとか、口を長く伸ばして筆のような口先で蜜を吸うハチなどが訪問することが多いことが知られています。ところがヒメジョオンに一番よく訪問していたのはそのハエ・アブでした。


ヒメジョオンの花とその断面


 ヒメジョオンの花の断面を見ると小さな筒状花がびっしり並んでいます。測って見ると1mmに3、4本もあります。こんなに細いとチョウの細い口でも差し込めるのかなという気がします。この花の奥に蜜があるのかどうかわかりませんが、もしそうだとするとハエ・アブには直接舐めることはできそうもありません。筒状花のある花の中央部には黄色い花粉があります。もしかしたらハエ・アブは花粉を舐めにきているのかもしれません。これは今のところ謎です。

 データを写させてもらったので、
 「何か質問はありませんか?」
と訊くと、棚橋さんが
「オカトラノオの場合、花の穂の先端が蕾で下の方は花が終わってました。受粉の記録は花単位で取るとすると穂のうちのどの花という区別はしなくていいのですか」
「この調査では花の数はかぞえていません。だいたい1メートル四方の花にくる昆虫の数を記録してもらったわけです。そうしてハチが何パーセント、チョウが何パーセントと内訳を出すわけです。これと例えばこの後咲くシラヤマギクで同じように調べた場合、訪問する昆虫の内訳が似ているか、違うかを検討するための資料をとっているわけです。だから、花単位で調べなくてもいいんです。目的をそこに置いていますが、もちろん調べると疑問や課題が出てくるもので、それに興味があったらぜひ調べて見てください」
と言ったら笑いが湧きました。
「花に止まったら来たとして、受粉をしたかどうか確認しなくてもいいんですか」
「それは実は多少問題です。専門家は受粉を確認しないといけないし、昆虫も目でなく、属くらいでないとダメという人もいます。でもそれは我々には無理なので、それでもわかることを調べているのです」
「いろいろ調べる人がいるもので、マルハナバチを個体レベルで識別して、朝からずっとそのハチを追跡したという論文を読んだことがあります。そうするとハチは朝訪問した花だけをずっと訪問したそうです。ところが別の日には別の花を訪問し、その日はまたその花だけを訪問したそうです。その方が吸蜜の効率が良いということでしょう。すごい調査をする人がいるもんです」
これにも呆れたような笑いがおきました。
 昼を少し回ったので、解散としました。
 豊口さんが解散後、カワラナデシコの写真を撮影したそうです。玉川上水にはめったにないので貴重な記録になりました。


カワラナデシコ


 今回も豊口さんと棚橋さんの写真を使わせてもらいました。ありがとうございました。ただし、恒例の記念撮影を忘れていました。
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