玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2017年6月の観察会

2017-06-01 23:30:20 | 観察会
 6月4日に観察会をしました。武蔵美はオープンキャンパスが近いので準備のために学生さんの参加がありませんでした。もともとは訪花昆虫の調査を予定していたのですが、金曜日に下見をしたら、花が少なくて調査になりそうもないとわかったので、内容を変更しました。その説明です。

 「今年に入ってから玉川上水の代表的な林である小平中央公園の南側で毎木調査とその林床調査をしました。その後、津田塾大学のシラカシ林、小金井のサクラ主体の林と伐採地でも調査をしました。そのうち、林床植物についてわかったことを説明しました。詳細はここでは略しますが、要するに上木の管理のしかたは林床植物の組成や量に大きな影響を与えるということがわかりました。
 そこで、今日は小平市の保護林で毎木調査と林床調査をし、その調査法の実際を体験してもらうことにしました。
 玉川上水は市街地に残る貴重な緑地ですが、なにせ幅が狭い。玉川上水全体からすれば小平はよいほうですが、なんといっても林というより林縁です。林は上に木があっても、縁では光があたり、そこから数メートルは光が入るので、明るい場所に生える植物や外来雑草などが生えます。つまり林の下に生える植物が生えるには競争相手が多いということです。
 小平の玉川上水に沿って一辺が20メートルから30メートル程度の「保存林」という緑地が残されています。こういう林があることで森林に生える植物やタヌキなどの生息が可能になっています。私はこれを「ポケット」と呼んでいます。」
 そういう説明をして、その保存林に行くことにしました。よい天気で日射しは強く、気温も高かったのですが、湿度が低くカラッとしていたので、快適でした。とくに林の下は爽快でした。
 津田塾大学のところまで行くとホタルブクロが咲きはじめており、多くのものはまだ蕾でした。
 「ホタルブクロは学名をCampanullaといって宮沢賢治を好きな人は知っているかもしれませんが、教会に釣鐘のことです。筒状の花の形がそう見えます。私はこのつぼみが好きで、これが咲くとき、唇を閉じて「ムーー」といいながら、開くときに「ポン」というような気がするんですよね」


ホタルブクロの蕾   


つぼみが「ポン」と開くと説明 

見ているとスジグロシロチョウが吸蜜にきました。ある人がホタルブクロの花をみて
「これって野生なんですか?」
「はい」
「こんなに大きいのに、原種なんですか?原種って小さいっていうイメージがあるけど」
「いやそんなことはありません。たしかにホタルブクロは野草として大きいほうですが、野草は花が小さいということはありません」


 ホタルブクロに来たスジグロシロチョウ

 保存林につくと、説明をして、20メートル四方の調査区をとりました。林で遊んでいた小学生が興味をもってよってきました。


 調査をした保存林


 子供に説明をする            


 調査区をつくる


手分けして調査区の外周にひもを張る

 それから樹種、位置、太さを調べ、記録係りに報告をする作業を進めました。


 コナラの周を測定する関野先生(右)     


 記録係の足立さん

 一度報告した数字を記録係から「え?いくつですか?」と聞き返された関野先生が
 「えーと、あれ、わかんなくなった」
 「それ、トシですよ、私もだめ、すぐ忘れるんだよね」 
 と老人の会話。



 小一時間で20メートル四方の調査が終わりました。大きな木はほとんどがコナラで、その下にエゴノキとイヌツゲがあるという構造でした。そこで、説明をしました。
 「あのコナラをみてください。一箇所から数本の幹がでていますが、あれは昔の切り株から出た枝が育ったものです。当時はナラを伐って薪に使いました。このあたりにはもともとモミやシイ、カシのある林が広がっていたと考えらえていますが、伐採するとそういう木はなかなか回復できず、ナラやクヌギそれに、サクラ、エゴノキなどが回復します。これを萌芽、「ひこばえ」といいますが、どういうわけか「ほうが」とは読まず「ぼうが」といいます。伐採が繰り返されるとこういう木が増えるわけです。それが雑木林です。
 同じように伐られた木は回復しますが、木のもつ性質により、どんどん成長できるナラやクヌギと、高くなれず、寿命も短いエゴノキなどで差ができて、林の上と下に層を作ります。あそこにあるエゴノキは太めですが、樹皮が剥げています。そろそろ寿命と思われます。
 わりと立派なコナラがありますが、炭焼きをしていた時代は直径10センチくらいで伐っていたから、こんなに大きくなることはありませんでした。もっともコナラは名前は「小さいナラ」ですが、大きいものは直径1メートルもある「オオナラ」と呼ぶのが相応しいような大きなものもあります。」
 「ここにフジがあります。低木に見えますが、よく見ると枝の一部が伸びてこの木にからまっています。つるというのはほかの木が生産物質を幹に投資するのと違い、自立しないで、ほかの高い木にからまってスルスルと登り、光を得てどんどん成長します。ズルいといえばズルい、賢いといえば賢い生き方をするわけです」
「フジって、あのきれいな花のフジですか?」
「はい」
 

 林の構造などを説明する

 それから記念撮影をしてから、面積種数曲線のためのデータとりをしました。


 記念撮影

 林床植物の組成と量的な記述をするためです。まず原点のところに10cm四方の区をとり、そこにある植物を説明しました。花をつけているものはありません。


10センチ四方

「これがチジミザサです」
「へえ」
「ほら、葉が波々にちじんでいるでしょう。だからチジミザサ。もっともササではありません」
「それからこれはミツバツチグリ。ミツバは小葉が3つあるということです」
「ショウヨウ?」
「小さい葉ということで、複葉を作る小さい葉ということです。花がありませんが、黄色い花をつけるバラ科です」
「それからこれはオオジシバリで、これがヒサカキの実生」
「えー、こんなに小さいのに」
「ええ、でも縁のギザギザや葉のテカリでヒサカキだとわかります。これで5種ありました。これは多いほうです」
「ではつぎ、10cmと25cmです。20cmにしないのは、あとで1mにするには半分が50cm、その半分が25cmとするほうがグラフを描きやすいからです。ここに新たに2種出ました。さて、どれでしょう?」
「えー、なにかあるかなあ」
しばらくして
「これ、なかったんじゃない?」
「はい、タチツボスミレです」
「これも新しいんじゃない?」
「はい、ヘクソカズラです。ちぎって匂いをかぐとわかります」


 面積種数調査

 という具合で面積を増やしていき、1メートル四方になったとき、22種になりました。わりと多いと思います。さて、このあとは、ザクっとふやして、1メートルかける2メートル、そのつぎは2メートルかける2メートルです。」
「急に広くなるな」
「でも、なにかふえましたか?」
「うーん、ないなあ」
「はい、実はひとつあるんですがわかるかな」
「うーん、これはもう出ているし」
「カルタみたいだね、お手つきなんてね」(笑)
「アオツヅラフジです。」
「あ、これありましたか?」
「あ、ごめん、見落としていました。コオニタビラコです。でも、面積をふやしたわりには増えないでしょう?」
「そうだなあ」
2メートル四方にしてもふえたのは3種だった。
「ではグラフを描いてみます」といって描いてみると、きれいな頭打ちのカーブになりました。



 面積種数曲線

 1メートル四方が終わったときに、各種の被度と高さを評価しました。
「植物が覆っている割合を被度といいます。これは投影面積ということで、植物生態学では紙切れを机の上においてどのくらいになるかを訓練するんです。実際には10センチ四方が1%ですからこのくらいの植物があれば1%ということ、それ以下なら+で記録します。30センチ四方がだいたい10%です。その次は4分の1だから10cm四方です。ここにはそういう植物はないですが、たとえば山のササが生えているところではササだけで80%になることは珍しくありません。少し実例をやってみましょう。ヌスビトハギはこれで1%くらいですね。こういうのがここと、ここと、ここにあるけど、足しても5%にはなりませんね、だから3%くらいでいいです。それほど正確に出すわけではないですが、10%にならないことは確かです。3%としても5%としても大きな問題はありません。そのくらいのものだと思ってください。」
 「何種あったかも大事ですが、多い少ないが必要になることがあります。私は被度と高さをかけた値をバイオマス指数として使っています。いくつかの表現法があります。
 それから、何種だけでなく、どういう植物が出たかも大事です。ここにはヌスビトハギ、オオジシバリ、シラヤマギクなどが出ましたが、これらは明るい場所に生えるものです。この林にはキャノピーが欠けたギャップがありますが、そのために明るい場所がかなりあります。オオバコもありましたが、これは人が入って歩くためと思います。もちろん、ヒメカンスゲやチジミザサのように林床に生えるものもありますが、津田塾大の林のように暗いところに生えるものだけということはありません。
 というわけで、こういう調査を続けていくことで玉川上水の特徴を示そうと思います。ここは私が思っていたよりも明るくて、林床植物には草原のものが多かったですが、それも林に入って上をみたら理由がわかりました。とったデータを整理し、ほかの林と比べると、それぞれの林の特徴も見えてくると思います。」
 ということで、気持ち良い天気の中で調査ができました。毎木調査の結果は別に報告します。
 
 写真は今回も豊口さんに協力願いました。その中から昆虫を紹介します。


 ウコンカギバの交尾   


 ハグロトンボの1種 

   
 クロアゲハ

コメント
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