玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

結果 太さの分布

2021-06-24 07:30:44 | 生きもの調べ
● 太さの分布
 樹木の太さを太いものから細いものへと並べることにします。この図は重要なので、図5で説明をしておきます。人の体重や身長は「中肉中背」が多く身長1.8 m以上とか体重30 kg以下というのは例外的です。同じような例で手元にあるタヌキの体重データを示しました(図6)。あまりきれいではないですが、基本的に富士山型の中央が高くて裾をひく形になります。これを「正規分布」と言います。要するに特に重いタヌキや特に軽いタヌキは数が少ないということです。これを体重が重いものから軽いものへと並べると「中肉」の多数派が多いので緩やかなスロープになり、左上の特に重いものがピンと飛び出し、右下の特に軽いものがストンと下に飛び出します。

図6. タヌキの体重データ。上のグラフは体重の少ないものを左、重いものを右に示しており、中位が多いことがわかる。そのデータを重いものから軽いものへ並べたのが下の図で左上と右下が急になる。

 それを頭に入れた上で11カ所の樹木調査の結果を示したのが図7で、ここでは落葉樹と常緑樹を区別し、落葉樹を黄緑色、常緑樹を濃い青で示しました。調査地が多いのでグラフは3枚になります。
 これを見ると樹木の太さはタヌキの体重のようになだらかなスロープの両端が飛び出すという形はとらないことがわかります。ではどういう形かというと多くの場合、左上から急に下がり、そこで大きく折れ曲がって右に長い尾を引くという形です。これを「L字型」とします。この意味は簡単で、「太い木が少しあって、細い木はたくさんある」ということです。これは森林の構造と関係し、大きい木はポツリポツリと間隔を置いて生えており、その下に細くて丈の低い木が低木層を作っているということです。



図7. 樹木を太いものから細いものへと並べたグラフ。グラフの横軸は直径の大きさの順位。縦軸は直径(cm)。薄緑色は落葉樹、濃青色は常緑樹。調査区の長さはいずれも100 m

 さて、それを確認した上で太さと落葉樹と常緑樹の関係を見ると多くの場所で太い木は落葉樹で、細い木に常緑樹が多いというパターンが多いことがわかります。その典型は井の頭ですが、杉並でもありました。
 少し違うものとして、松影橋(5)には常緑樹がなかったこと、岩崎橋上流右岸(10)であまりL字にならないで太い木が割合多くて台地状になっていたことです。しかもここでは常緑樹も多いです。これはヒノキが植えてあって、そこに後から入ってきたムクノキやエノキが追いついてきたからです。調査ではここしか取りませんでしたが、杉並の玉川上水の右岸にはヒノキが植えられていて、同じような構造の林が多いようで、井の頭でもその傾向があり、小鳥の森の辺りもヒノキが列状に植えられています。ただし、ここでは歩道を挟んで玉川上水の外側でした。
 さて、こういうL字型で右下が常緑樹というパターンと大きく外れたものに幸橋左岸(3)と兵庫橋下流左岸(9)がありました。この2カ所はそもそも樹木本数が少なく、L字の縦だけで右の平坦部がほとんどないので、名前をつけるとすれば「I字型」と呼ぶようなものでした。これらはサクラの太い木以外は下刈りをして除去されたものと思われます。
 ここでは樹木の種ごとの特性にまでは言及しませんが、太さと落葉樹、常緑樹という関係を読み取るだけでも、林の特徴やその来歴も推定することができることがわかりました。
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結果 基底面積

2021-06-24 07:25:03 | 生きもの調べ
●基底面積
 直径を測定したので、面積が出せます。そう、直径をd, 半径をrとすると
d = 2r ですから r = d/2
ですから円の面積Sはπr^2(^2は2乗ということ)ですから、
S = πr^2
  = π(d/2)^2
  = π/4×d^2

となります。これで樹木の断面積が出せますが、林学ではこれを「基底面積」と言います。
 基底面積はその場所での樹木が量的に多い、少ないをよく表します。これを優占度と言います(「優先」ではなく「優占」です)。例えば太さで2倍の木があれば、4本分、3倍なら9倍の基底面積となりますから、太さでは過小評価になる優占度をよく表します。
 これで全樹種を計算しましたが、表現が複雑になりすぎるので、樹木を次のようにまとめました。

 サクラ類(ソメイヨシノ、ヤマザクラ、イヌザクラ、サクラの1種)、落葉広葉樹、常緑広葉樹、落葉広葉樹のうちのパイオニア種、低木(落葉)、低木(常緑)、つる植物、針葉樹(ヒノキ)です。

 調査地ごとにそれぞれの基底面積を示した図7を見ると、いくつかのタイプがあることがわかります。

図5. 各調査地における8タイプの植物の基底面積(cm^2/300 m^2)

 牟礼橋(7)と兵庫橋下流左岸(9)、浅間橋(11)はサクラ類が半分以上を占めていました。これらの場所には太いサクラの古木があり、その隙間に落葉樹があるという形で、玉川上水の一つの林のタイプです。本数で多かった常緑樹は細いものが多かったので規定面積はあまり多くありませんでした。そうした中で小鳥の森(2)はシラカシが多く、基底面積も大きい割合を占めていました。幸橋左岸(3)も同じ傾向がありました。また、ほたる橋(1)、法政裏(6)、兵庫橋上流右岸(8)は大半が落葉樹であり、規定面積の合計値も小さく、林が若いことがわかります。概してパイオニア種は細いので規定面積は大きくはありませんが、それでもこれらの林では多めに見られました。ただしほたる橋(1)はパイオニア種はなく、常緑樹がやや多いので林が若いとは言えず。植生遷移は進んでいると言えます。松影橋(5)はサクラとパイオニア種がある若い林でした。岩崎橋(10)はヒノキが半量を占める唯一の林でしたが、このあたりでは右岸にヒノキが植えられている場所は多くあります。
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結果 密度

2021-06-24 07:14:15 | 生きもの調べ
● 樹木密度 こちら
 調査地によって玉川上水の「肩」の幅が違うので、同じ面積に換算して樹木密度を比較しました。樹木を常緑樹(濃青色)。普通の落葉樹(黄緑色)、落葉樹のうちパイオニア種(オレンジ色)に分けて集計しました(図4)。具体的には次の10種をパイオニア種として取り上げました:アカメガシワ、イイギリ、ウツギ、クサギ、クズ、クワ、タラノキ、ニセアカシア、ヌルデ、ヒメコウゾ。


図4. 樹木密度(300m2あたり)

 グラフを見て目立つのは幸橋左岸(3)と兵庫橋下流左岸(9)の密度の低さです。ここは太いサクラがポツポツと間を置いて生えているだけでした。「サクラを残してあとは切る」という管理はこういう結果になるということです。
 こういう極端な低密度を除くと、80本以上の場所が多く、それ以下だったのは2カ所だけでした。多いほうでよく見られたのは常緑樹が20本前後あるというパターンです。このことは後述しますが、落葉樹の下に細い常緑樹がたくさんあるという林の状態を示しています。ただその中でも小鳥の森(2)は常緑樹がなんと80本以上もあり、落葉樹を遥かに凌駕していました。ここは周りに良い林が多く、その下にシラカシをはじめとする細い木がたくさんありました。シラカシ以外にもネズミモチ、スダジイ、モチノキ、イヌツゲなどがありました。林全体は薄暗い感じでした。これは井の頭の多くの林はできてから十分な時間が経ってことを示しています。これを植物生態学では「植生遷移が進んでいる」と言います。
 これとは対照的だったのは松影橋(5)です。ここには常緑樹は全くなく、ニセアカシアやウコギなどのパイオニア種がとても多いのが特徴でした。ほかにもアカメガシワやイイギリもありました。その性質からして遠くない過去に伐採されてススキ原のような状態になり、そこにこれらパイオニア種が入り込んでヤブになり、あまり時間が経っていないこと、つまり植生遷移が進んでいないこと、がわかります。
 パイオニア種は8兵庫橋上流右岸でも多く、ここも伐採を受けたことがわかります。パイオニア種の密度は10-20本程度というケースが多かったのですが、井の頭の1「ほたる橋」と2「小鳥の森」ではごく少なく、これらの林は植生遷移が進んでいることを示唆します。
 浅間橋(11)、岩崎橋上流右岸(10)もその傾向があります。浅間橋(11)は密度は低めで、常緑樹は少ないという結果でした。ここの木が低密度だったのはここは緑地の幅が広く、柵側(玉川上水から離れた場所)は草原状態だったからで(図2参照)、樹木がある部分では他の場所と同じように高密度でした。
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付図1

2021-06-24 07:08:56 | 生きもの調べ

調査地1. ほたる橋上流右岸

調査地3. 幸橋下流左岸

調査地5. 松影橋上流左岸

調査地7. 牟礼橋下流左岸

調査地8. 兵庫橋上流右岸(大塚)

調査地10. 岩崎橋上流右岸

調査地11. 浅間橋上流左岸

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玉川上水での樹木調査

2021-06-24 05:29:38 | 生きもの調べ
調査協力者:朝日智子、有賀喜見子、有賀誠門、大塚惠子、大原正子、荻窪奈緒、黒木由里子、輿水光子、近藤秀子、笹本禮子、高橋 健、田中利秋、田中 操、藤尾かず子

<はじめに>
 玉川上水の植生管理と生物多様性というテーマで野鳥調査を行っています。それによると小平と井の頭が野鳥が豊富で、小金井が貧弱だということがわかってきました。これは野鳥にとっての生息環境である森林のあり方と関係があるに違いありません。小平と小金井では一通りの樹木調査をしているので、井の頭と杉並で調査をしたいと思っていました。環境局と水道局の許可が下りたので、2021年6月に調査をすることにしました。調査の様子などはこちら

<調査地>
調査をしたのは玉川上水の下流部の井の頭と杉並区の部分の6カ所で、図1の範囲です。




図1 樹木調査をした場所。数字は調査地番号

表1. 調査地一覧


主な調査地の景観は付図1をご覧ください。

<方法>
 玉川上水沿いの柵の内側で上水の壁面の「肩」の部分に生えている樹木を対象とし、「肩」よりも下の壁面に生えている樹木は対象外としました。この肩部の幅は場所により違いがあり、細いところは1 mしかなく、広いところは5 mありました。高さ1.2mで直径が1 cm以上の樹木の種名を確認し、その直径を測定しました。測定には塩ビ管をT字型にし、柄の先端部の測定部分に目盛りをつけた測定具を用い、1 cmの精度で測定しました(図2)。

図2. 塩ビ管で作ったT字型の測定具

<結果> 
●密度
樹木の密度を、常緑樹、落葉樹、落葉樹のうちパイオニア種に分けて示したのが図3です。落葉樹が多く、常緑樹が少ない地点が多いのですが、小鳥の森(2)のように常緑樹が多い場所、松影橋(5)や兵庫橋上流右岸(8)のようにパイオニア種の多い場所など特徴的な場所もありました。詳しくはこちら


図3. 樹木密度(300m2あたり)

●基底面積
 直径を測定したので、面積が出せます。樹木の断面積を林学では「基底面積」と言います。
 基底面積はその場所での樹木が量的に多い、少ないをよく表します。これを優占度と言います(「優先」ではなく「優占」です)。樹木を次のようにまとめました。

 サクラ類(ソメイヨシノ、ヤマザクラ、イヌザクラ、サクラの1種)、落葉広葉樹、常緑広葉樹、落葉広葉樹のうちのパイオニア種、低木(落葉)、低木(常緑)、つる植物、針葉樹(ヒノキ)です。

 調査地ごとにそれぞれの基底面積を見ると、いくつかのタイプがあることがわかります(図4)。

図4. 各調査地における8タイプの植物の基底面積(cm^2/300 m^2)

 牟礼橋(7)と兵庫橋下流左岸(9)、浅間橋(11)はサクラ類が半分以上を占めていました。これらの場所には太いサクラの古木があり、玉川上水の一つの林のタイプです。常緑樹は細いものが多かったので基底面積はあまり多くありませんでした。そうした中で小鳥の森(2)はシラカシが多く、基底面積も大きい割合を占めていました。幸橋左岸(3)も同じ傾向がありました。また、法政裏(6)、兵庫橋上流右岸(8)は大半が落葉樹でした。ほたる橋(1)も落葉樹主体でしたが、パイオニア種はなく、常緑樹がやや多いので植生遷移は進んでいると言えます。松影橋(5)はサクラとパイオニア種がある若い林でした。岩崎橋(10)はヒノキが半量を占める唯一の林でしたが、このあたりでは右岸にヒノキが植えられている場所は多くあります。詳しくはこちら

● 太さの分布
 樹木の太さを太いものから細いものへと並べることにします。これを図5で説明をします。人の体重や身長は「中肉中背」が多く身長1.8 m以上とか体重30 kg以下というのは例外的です。タヌキの体重データを見ると、富士山型の中央が高くて裾をひく形になります(図5)。これを「正規分布」と言います。これを体重が重いものから軽いものへと並べると「中肉」の多数派が多いので緩やかなスロープになり、左上の特に重いものがピンと飛び出し、右下の特に軽いものがストンと下に飛び出します。

図5. タヌキの体重データ。上のグラフは体重の少ないものを左、重いものを右に示しており、中位が多いことがわかる。そのデータを重いものから軽いものへ並べたのが下の図で左上と右下が急になる。

 11カ所の樹木調査の結果を示したのが図6で、ここでは落葉樹と常緑樹を区別し、落葉樹を黄緑色、常緑樹を濃い青で示しました。
 これを見ると多くの場合、左上から急に下がり、そこで大きく折れ曲がって右に長い尾を引くという形です。これを「L字型」とします。これは森林の構造と関係し、大きい木はポツリポツリと間隔を置いて生えており、その下に細くて丈の低い木が低木層を作っているということです。



図6. 樹木を太いものから細いものへと並べたグラフ。グラフの横軸は直径の大きさの順位。縦軸は直径(cm)。薄緑色は落葉樹、濃青色は常緑樹。調査区の長さはいずれも100 m

 太い木は落葉樹で、細い木に常緑樹が多いというパターンが多いことがわかります。その典型は井の頭ですが、杉並でもありました。
 松影橋(5)には常緑樹がなかったのと、岩崎橋上流右岸(10)であまりL字にならないで太い木が割合多くて台地状になっていたのは他の場所と違いました。
 こういうL字型で右下が常緑樹というパターンと大きく外れたものに幸橋左岸(3)と兵庫橋下流左岸(9)がありました。この2カ所はそもそも樹木本数が少なく、L字の縦だけで右の平坦部がほとんどないので、名前をつけるとすれば「I字型」と呼ぶようなものでした。これらはサクラの太い木以外は下刈りをして除去されたものと思われます。
 ここでは樹木の種ごとの特性にまでは言及しませんが、太さと落葉樹、常緑樹という関係を読み取るだけでも、林の特徴やその来歴も推定することができることがわかりました。詳しくはこちら

++++ 未完 +++++++









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