玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

ぽんぽこ・マップ

2022-01-19 19:47:10 | 生きもの調べ
玉川上水沿いのタヌキの生息情報を集めています。その意義づけは こちら。これはまだ試みの段階ですが、玉川上水沿いで目撃情報を集めて地図上に点を打つことをしたいと思います。その場合、「なんとなく見たような気がする」というような情報は使えませんから、確実に「何月何日に自宅の庭で見た」「何月何日に小平市仲町のコンビニ++店の近くで目撃した」「写真も撮影した」というような情報がありがたいです。グーグルマップなどで地図上に位置が書いてあると大変助かります。
 
 情報はこのサイトのコメントとして送るか、以下のメールアドレスに送ってください。

    takatuki@azabu-u.ac.jp

記入例:2019年7月15日の夕方、武蔵立川駅の近くで親子連れのタヌキを見ました。立川市砂川4−7−12、緑野どん兵衛

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集まった情報

タヌキ情報 2020.3.29 現在
 赤い点がタヌキ情報。番号は表(こちら)に対応。

西側


東側



情報19の写真(2019.11.24, 小平市中町)


情報25の写真(2019.10.14, 小平市小川町)


情報26の写真(2019.1.3, 小平市上水本町)

情報55の写真(2016.12.4, 井の頭公園)


情報56の写真(2020.5.19, 小金井市本町仙川)


玉川上水のすぐ近くにある小平市立第4小学校(生徒数450人)にお願いして、保護者の方にタヌキの目撃情報の提供をお願いしたら、19名から24の事例が報告されました。上の地図には入りきらないので別の地図を作りました。オレンジ色は小平4小の学区の境界で、上の地図(東側)の西側に該当します。やはり玉川上水付近での目撃が多いようです。そして、「たくさんの目」の威力を実感しました。


小平市立第4小学校学区でのタヌキ目撃記録(2020.1.11現在)。
番号は上の2枚の地図とは別のものです。





玉川上水での種子散布

2021-12-24 14:16:14 | 生きもの調べ
私は大学キャンパスと霊園で、都市の舗装した地面を利用して、樹木に餌を食べにきた鳥類がその樹木の果実だけでなく、その前に別の場所で食べてきた種子を吐き出したり、糞で排泄することを示しました(麻布大学 、小平霊園)。玉川上水は鳥にとって重要な緑地であることがわかってきたのですが(こちら)、私はそれだけでなく鳥がいることが玉川上水にとっても重要であることを示したいと思っていました。ただ、舗装されている場所でないとこの調査はできないので、いい場所が見つからないでいました。公園などに舗装部分があるのですが、公園はよく掃除されるので、この調査はできません。この秋に津田塾大学の脇の用水がコンクリートで暗渠化されているので、その上の面が使えそうなのでここで二度種子を回収しました。
 この場所の上には主にシラカシがあり、少し離れたところにはケヤキやコナラなどがあります。なので、この場所に落ちていた種子は鳥が運び込んだとは断定できませんが、この辺りになくて鳥が食べることが確認されているものは鳥が運び込んだ可能性が大いにあります。
 ここでは予備調査として2回、回収した中にどう言う種子があったかを紹介します。

 はじめに鳥散布の可能性が大きい、「多肉果」と呼ばれる、果肉が栄養があって鳥が好んで食べる果実の種子です。数は多くないですが、エノキ、ハナミズキ、ミズキ、モチノキが確認されました。エノキとミズキはこの辺りにもありますが、風で飛んでくるような距離にはありません。ハナミズキとモチノキはこの辺りでは見たことがありません。これらは鳥が運び込んだ可能性が大きいといえます。

図1. 鳥散布型(多肉果)の種子。格子は5 mm間隔

 シラカシは上にたくさんあるので、鳥が運んだよりも落下した可能性の方が大きいと思います。

図2. 重力散布型の種子(堅果)。格子は5 mm間隔

 このほかにカエデとケヤキの種子がありました。これらは風散布であり、特にケヤキは多数ありました。ケヤキは鳥が食べないとはいえませんが、近くにもたくさんケヤキの木はあるので、風で飛んできた可能性の方がはるかに大きいと思います。

図3. 風散布型の種子。格子は5 mm間隔

 いずれにしても、今後、どういう種子が追加されるか継続したいと思います(2021.12.24)。


玉川上水における野鳥群集と樹林管理

2021-11-29 17:49:07 | 生きもの調べ
玉川上水における野鳥群集と樹林管理

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫・尾川直子


はじめに

 玉川上水は緑地が乏しい東京を流れる貴重な緑地である。その大きな特徴は幅が狭いながらも30 kmもの長い範囲を連続していることにある。玉川上水の緑地はもともとの樹林の状態や管理の仕方などにより、場所によって植生が大きく違う。こうした植生の違いはそこに生息する鳥類にも影響するはずであり(村井・樋口1988; 前田 1990)、その実態を知ることは都市緑地のあり方と生物多様性を考える上で意義がある。
この調査はこのような視点に立ち、玉川上水の鳥類群集が場所ごとの緑地の状態によってどう違うかを明らかにすることを目的とした。より具体的には玉川上水において小金井地区だけがサクラ類だけを残して、その他の樹木を皆伐しているためにこの緑地管理が鳥類群集に及ぼす影響に着目した。

方 法

 調査地に選んだ場所は上流の西から、小平市、小金井市、三鷹市、杉並区である(図1)。


図1. 調査地の位置図。玉川上水の波線は暗渠部分。

小平には雑木林のような良い状態の林が残されており、緑地の幅も比較的広い。小金井はサクラだけを残す管理をしているため、開けた場所が多い。三鷹には井の頭公園があり野鳥保護を目的とした林もあるため、緑地の幅が最も広く、常緑樹林もある。杉並は最も都心寄りであり、上水の緑地には大きい樹木もあるものの、上水の両側に交通量の多い道路があり緑地の幅は狭い。
 野鳥調査はそれぞれの場所で1から5人が1班として1.6 kmの調査範囲をゆっくり歩きながら発見した鳥類の種類と個体数を記録した。玉川上水の緑地は上水の両側に樹林があり、その外側は道路や宅地であって、樹林がアーケード状となっている。この緑地の内部にいた鳥類のほか、その外側概ね30 m程度の範囲にいた鳥類も記録し、それぞれを「玉川上水内側の鳥類」と「外側の鳥類」として区別した。
「玉川上水内側の鳥類」と「外側の鳥類」その合計数に対する「外側の鳥類」の割合を「外側率」とした。調査時間は1時間前後とし、2021年1月から1カ月おきに11月までの6回と12月にも行った。また鳥類を図鑑類をもとに森林に生息する鳥類と森林外に生息する鳥類、そして水禽に分けて、これらの合計数に対する森林に生息する野鳥の割合を「森林鳥率」とした。多様度は種ごとの個体数をもとにシャノン・ウィーナーの多様度指数H’を算出した。

   H’= -Σpi×ln pi
ただしpiは種iの相対値

 一方、生息地の樹木調査を行った。各地において玉川上水沿いに右岸または左岸に長さ100 m、幅3-5 m程度の帯状区をとり、生育する樹木の胸高直径を精度1 cmで測定した。そして胸高直径-順位曲線を描いた。また胸高断面積を算出し、これをもとに多様度指数を算出した。多様度指数は全ての樹木を用いたものを多様度指数1、胸高直径10 cm以上の、ほぼ林冠に達する樹木だけで算出した多様度指数2を求めた。

結 果

1.野鳥群集
 1月からの各数字の推移を見ると以下の通りであった。
 調査期間中、通算で40種の鳥類が確認された。各月の種数は全体に三鷹が最多で小金井が最少であった(図2)。季節的には春に多く、9月に向けて減少したが、11月になって回復した。この傾向他の場所でも同様であったが、小金井だけは9月は7月、11月より多く、場所による違いがなくなった。


図2. 各調査地での種数の月変化

 個体数は全体に小平と三鷹が多く、小金井が最低であった(図3)。個体数の多かった三鷹と小平は1月には150羽以上であったが、その後減少して、9月には50-60羽まで低下した。これまで多かった場所で減少し、少なかった場所では維持された結果、9月には各地の値に違いがなくなった。その後、11月に回復し、11月、12月は小平が最多となった。小金井はほとんどの月で最小であったが、9月は他の場所とほぼ同じになった。


図3. 各調査地での個体数数の月変化

 個体数が多かった上位3種をとり上げると、パターンに違いが認められた(図4)。ヒヨドリは多くの場所で1月から減少し、9月に最少となり11月以降大きく増加した。ただし小平では1月から7月までは横ばいであった。その後、11月以降の増加が著しく、特に小平では大幅に増加した。
 シジュウカラは多い順に小平、三鷹、杉並、小金井である月が多く、上位3カ所では5月にピークがあり、小金井では7月にピークがあった。三鷹と杉並ではその後も減少したが、小平は下げ止まり、12月には回復した。小金井では9月以降ほとんど記録されなかった。
 メジロは三鷹で多い月が多く、パターンも三鷹は9月だけが少ないというものであった。その他の場所では小平が多く、杉並がこれに次ぎ、小金井が最少である月が多かった。小平では12月に4カ所中最も多くなった。


図4. 主要3種の個体数の場所別季節変化

 多様度指数は全体に三鷹が高く、小金井が最少であることが多かった(図5)。9月だけは小平の多様度指数が最低になったが、11月, 12月には1-7月とほぼ同様にな離、12月は小平と三鷹がほぼ同じ値であった。



図5. 各調査地での多様度指数の月変化

 林に生息する鳥類の個体数が全体の個体数に占める割合を「森林鳥率」とすると、森林鳥率は三鷹と小平が大きく、杉並がこれに次ぎ、小金井が最も小さい月が多かった(図6)。ただし7月だけは場所ごとの違いがなくなった。これは小金井と杉並で森林性の野鳥が増えたのではなく、オープンな場所に生息する野鳥も少なくなったためである。小平は三鷹とほぼ同じであったが、11月には小平が小さくなり、12月には小平の方が多くなった。全体には森林状態の良い三鷹、小平では3月から9月までの森林鳥率が高く、秋から冬にかけてが小さくなった。小金井と杉並ではそのようなパターンはなく、7月だけが高かった。


図6. 各調査地での森林鳥率の月変化

2.樹木調査
 4カ所の林を樹木の直径分布で見る。そのために、各場所の代表的な調査区を取り上げて、樹木を落葉樹と常緑樹に分けて、太いものから細いものへと配置した(図7)。小平では太い木は落葉樹で、細い木に常緑樹が混在していた。これらはシロダモ、シラカシ、アオキなどであった。ここでは直径100 cm以上の木が50本程度もあり、全体の本数も200本以上と4カ所中最多であった。グラフの形では三鷹も似ていたが、ここでは太い木にもシラカシ、スダジイなどの常緑樹が多かった。杉並では直径10 cm以上の木は10本しかなかったが、直径60 cm以上の木もあった。全体の本数は110本程度と少なかった。ここでも小平同様、常緑樹は細いものだけだった。これらに対して、小金井は落葉樹だけであった。しかも太いものだけだったので、ここだけサクラをピンク色で示したところ、10 cm以上は全てサクラであった。


図7. 直径の太さ順に並べた図。小金井以外では落葉樹を薄緑、
常緑樹を濃青で示し、小金井ではサクラをピンクで示した。

 次に各調査区で長さ100mあたりの樹種ごとの胸高断面積の合計値を算出し、その合計値が1000cm2以上の種を取り上げて示したのが図8である。これによると、場所ごと違いが明瞭であった。小平ではコナラ、クヌギ、イヌシデなどの落葉樹が多く、合計値も30,000 cm2/100 mを超えた。これに次ぐのは杉並で、20,000 cm2/100 mであり、40,000 cm2/ 100mを超えた調査区もあった。内訳は小平とは大きく違い、サクラが多い場所が3カ所、ヒノキが多い場所が1カ所あり、エノキが多い調査区もあった。三鷹では20,000 cm2/100 mを超えたのは1カ所だけで合計値は少ない方だった。内訳は調査区ごとに多様で、ムクノキが多い調査区、シラカシが多い調査区、ケヤキ、イヌシデが多い調査区があった。これらと大きく違ったのが小金井で、全ての場所でサクラだけで構成されており、合計値は10,000-20,000 cm2/100mと少なかった。


図8. 主要な樹種の胸高断面積の合計値

 次に多様度指数を比較した(図9)。指数は全ての樹木をもとにした指数1と、直径10 cm以上の木だけを取り出した指数2を算出した。多様度指数1は林冠から低木層までの樹木を、多様度指数2はほぼ林冠を形成する樹木とみなされる。これによると小平、三鷹、杉並では大きな違いはなかった。多様度指数1と2では大きな違いはなく、ほとんどの調査区では両者が連動していたが、三鷹の1カ所(幸橋左岸)だけは指数2が大幅に小さかった。これらに対して小金井では指数1はサクラしかなかったので、指数の定義上、算出不能であり、指数2も極めて小さかった。これはもちろんサクラしか生育していないからである。


図9. 胸高断面積による多様度指数1、2の比較

考 察

 この調査により、玉川上水の4カ所での野鳥群集と緑地には次のような特徴があることがわかった。
 小平は野鳥の種類も個体数も多く、このことは幅が広いコナラなどの雑木林的な林が残っていることと対応していた。
 三鷹の野鳥群集は個体数では小平に次ぎ種数では4カ所中最も多かった。樹木調査では玉川上水の周辺に限定したため、樹木の本数や幅は多くないという結果になった。ここでは高木にも常緑樹が多いのが特徴であった。この場所は実際には井の頭公園の緑地と連続的であり、また野鳥の森という状態の良い林も隣接しているので、樹木調査で表現しきれない林の豊かさがある。このことが野鳥群集の豊富さを裏付けていると考えられる。
 杉並は樹木調査では比較的豊かな林があることになったが、実際には最も都心よりであり、玉川上水の両側を交通量の多い道路が走っており、玉川上水はそれに挟まれた細い帯となっている。そのため野鳥群集は小平や三鷹よりは少なかった。しかし周辺に緑地が少ないがゆえに野鳥が玉川上水に集中するという傾向もある。このことは、野鳥にとっての樹林の評価は景観レベルで把握する必要があることを示唆する。
 これら3カ所に比較すると、小金井は野鳥群集が非常に貧弱であり、特に林に生息する野鳥が極めて乏しかった。そしてこのことはサクラだけを残して樹林を皆伐したこと、野鳥の生息に不可欠な低木層がないことと対応していた。
 三鷹と杉並の場合にそうであったように、生息地の緑地を景観レベルでとらえる必要があるので、図10には4カ所の空中写真をもとに緑地の広がりを示した。これを見ると小平と三鷹では大学キャンパスや公園が玉川上水に接していることがわかる。小金井には小金井公園が大きな緑地であるが玉川上水の間に五日市街道があり、また玉川上水部分はサクラが散生しているに過ぎない。したがって調査結果で小金井の野鳥群集が貧弱であったのは、局所的な玉川上水の問題であり、小金井公園には豊富な野鳥がいる可能性が大きい。そうであれば、ここの野鳥はあえて生息しにくい玉川上水の桜並木には行かないのは当然であるかもしれない。そして杉並では玉川上水の樹林も幅が狭く、しかも周辺に隣接した緑地がないだけでなく、離れた場所にもまとまった緑地がないことがわかる。この場合は小金井とは逆に、野鳥は狭いとは言え、「他にない生息地」として玉川上水の樹林に集中している可能性がある。


図10. 4カ所の調査ち周辺の緑地(黒塗り)。野鳥調査をした範囲の両端の橋を示し、その外側の緑地は輪郭を描いた。小金井の玉川上水部分の網掛けはサクラが散生することを示す。


 9月に4カ所の違いがほとんどなくなったことについては、野鳥の生活上の季節変化を考える必要がある。ヒヨドリは玉川上水に一年中いるものの夏には減少し特に9月には大幅に少なくなったが、これは以下に紹介するように、東京の他の場所でも同様です。これはヒヨドリが周辺の山などに移動するためである。またシジュウカラはヒヨドリとは違い、5月に最多となり、その後減少する。これはシジュウカラの繁殖、育雛に関係する。シジュウカラは4月には抱卵して成長はすを離れないので、冬よりは発見数がへり、5月になると親のペアと雛が活動始めるので発見数が増える。また、玉川上水の周辺で繁殖した個体が昆虫の幼虫を食べるために玉川上水の樹林に来ることも5月の増加につながっている可能性がある。
 井の頭自然の会が毎月一回、玉川上水から井の頭公園を経て神田川に至る範囲で実施している野鳥センサスを参考にすると、主要な野鳥であるヒヨドリ、シジュウカラ、メジロは玉川上水と基本的に同じ月変化を示し、ヒヨドリは冬に多く、シジュウカラは5月に多く、メジロは冬にやや多いというパターンをとった(図11)。


図11. 井の頭地区での主要3種の個体数の月変化
(2018-2021年、鈴木資料)

 このほかにも東京都の緑地での鳥類群集の調査がある。赤坂御用地での調査によると、本調査と同様に夏に鳥類群集の種数と多様度指数が減少した(濱尾ほか 2005)。主要3種もヒヨドリ が夏に減ること、シジュウカラが5月に多くなることは同様であった(図12)。

図12. 赤坂御用地での主要3種個体数の月変化
(濱尾ほか 2005より作図)

 皇居でも同様で、多様度指数は9月に最小となり、春と冬には大きかった(西海ほか 2014)。春のデータはないが、ヒヨドリとメジロ が冬に多いことは共通していた(図13)。

図13. 皇居での主要3種個体数の月変化
(西海ほか 2014より作図)

 このように本調査で得られた玉川上水での鳥類群集の季節変化は他の東京の緑地のものと基本的に同様であると考えられた。
 ヒヨドリは1970年代までは夏には都市にはいなかったが、それ以降は都市でも繁殖するようになったとされる(川内・藤本 1974)。しかし秋から冬に都市で多くなることには違いがない(山口 2004、中村 2008)。ヒヨドリは全体の個体数が多かったから個体数全体の季節変動に大きな影響を与える。このような事情があって玉川上水の4カ所では9月の鳥は大幅に減少した。
 9月の個体数の内訳を場所別に見ると、小平ではシジュウカラ、ヤマガラのような林の鳥とハシブトガラスが特に多く、小金井は森林の鳥としてはキジバト、オープンな鳥としてムクドリとスズメが多かった(表1)。三鷹は9月だけ4カ所で最少であり、4カ所中最多であったのはホンセイインコだけであった。杉並はハシブトガラスが多かった。森林に生息する野鳥の割合は小平と三鷹では60%台であったが、小金井は29.2%と最も小さく、杉並も34.8%と小さかった。
 このような結果、9月以外の月では個体数が最も少なかった小金井でもムクドリやスズメがいたことで9月だけ個体数が4カ所中最多となった。杉並もオナガ、ハシブトガラス、ドバトが多かった。これらはいわば都市的な環境を反映していると言える。

表1. 2021年9月の玉川上水4カ所における野鳥の確認個体数。場所ごとに特に多かった場合の数字を帯かけした。



 以上のことから、玉川上水においては状態の良い森林がある場所に森林に生息する野鳥が多く、都市における貴重な生息地となっていることが示された。三鷹(井の頭)や小平には良い状態の林が残っており、さらには玉川上水に隣接する保護林などもあるために野鳥にとっての好適な生息地となっているが、杉並では玉川上水の両側に交通量の多い道路が走り、玉川上水緑地の幅が狭いため、野鳥の個体数はやや少なかった。やや多かったのはオナガ、ハシブトガラス、ドバトなど都市にも生息する野鳥であった。そしてサクラだけを残して他の樹木を皆伐した小金井では野鳥が最も貧弱であった。とくに林に生息する野鳥が非常に少なく、相対的にムクドリ、スズメなど都市的環境に耐性のある野鳥が多かった。
 このように都市緑地の林の状態は野鳥の生息に大きな影響を与えており、その林の管理の仕方は生物多様性の保存にとって重要な意味を持つことが改めて示された。

謝 辞
 調査には以下の方の協力をいただきました。これらの方々にお礼申し上げます。菊地香帆、黒木由里子、高橋 健、田中 操、永添景子、松井尚子、水口和恵、リー智子

文 献
濱尾章二、紀宮清子、鹿野谷幸栄、安藤達彦. 2005. 赤坂御用地の鳥類相(2002年4月-2004年3月). 国立科博専報 , 39: 13-20.

川内 博, 藤本和典. 1974. 林から出たヒヨドリ – 68年から進入始まる. 野鳥, 39:377–379.

前田 琢. 1993. 鳥類保護と都市環境-鳥の住める街づくりへのアプローチ-. 山階鳥類研究所研究報告25, 105-136.

村井英紀, 樋口広芳. 1988. 森林性鳥類の多様性に影響する諸要因. Strix 7: 83-100.

中村和雄. 2008. 関東地方における秋期のヒヨドリの渡り−齋藤(1935-1943)の観察記録の解析. 山階鳥学誌, 39: 69-86.

西海 功, 黒田清子, 小林さやか, 森さやか, 岩見恭子, 柿澤亮三, 森岡弘之. 2014. 皇居の鳥類相(2009年6月-2013年6月). 国立科博専報, 50: 541–557.

山口恭弘. 2004. ヒヨドリの全国移動と農作物被害. 農業技術, 59: 173-178.




結果 太さの分布

2021-06-24 07:30:44 | 生きもの調べ
● 太さの分布
 樹木の太さを太いものから細いものへと並べることにします。この図は重要なので、図5で説明をしておきます。人の体重や身長は「中肉中背」が多く身長1.8 m以上とか体重30 kg以下というのは例外的です。同じような例で手元にあるタヌキの体重データを示しました(図6)。あまりきれいではないですが、基本的に富士山型の中央が高くて裾をひく形になります。これを「正規分布」と言います。要するに特に重いタヌキや特に軽いタヌキは数が少ないということです。これを体重が重いものから軽いものへと並べると「中肉」の多数派が多いので緩やかなスロープになり、左上の特に重いものがピンと飛び出し、右下の特に軽いものがストンと下に飛び出します。

図6. タヌキの体重データ。上のグラフは体重の少ないものを左、重いものを右に示しており、中位が多いことがわかる。そのデータを重いものから軽いものへ並べたのが下の図で左上と右下が急になる。

 それを頭に入れた上で11カ所の樹木調査の結果を示したのが図7で、ここでは落葉樹と常緑樹を区別し、落葉樹を黄緑色、常緑樹を濃い青で示しました。調査地が多いのでグラフは3枚になります。
 これを見ると樹木の太さはタヌキの体重のようになだらかなスロープの両端が飛び出すという形はとらないことがわかります。ではどういう形かというと多くの場合、左上から急に下がり、そこで大きく折れ曲がって右に長い尾を引くという形です。これを「L字型」とします。この意味は簡単で、「太い木が少しあって、細い木はたくさんある」ということです。これは森林の構造と関係し、大きい木はポツリポツリと間隔を置いて生えており、その下に細くて丈の低い木が低木層を作っているということです。



図7. 樹木を太いものから細いものへと並べたグラフ。グラフの横軸は直径の大きさの順位。縦軸は直径(cm)。薄緑色は落葉樹、濃青色は常緑樹。調査区の長さはいずれも100 m

 さて、それを確認した上で太さと落葉樹と常緑樹の関係を見ると多くの場所で太い木は落葉樹で、細い木に常緑樹が多いというパターンが多いことがわかります。その典型は井の頭ですが、杉並でもありました。
 少し違うものとして、松影橋(5)には常緑樹がなかったこと、岩崎橋上流右岸(10)であまりL字にならないで太い木が割合多くて台地状になっていたことです。しかもここでは常緑樹も多いです。これはヒノキが植えてあって、そこに後から入ってきたムクノキやエノキが追いついてきたからです。調査ではここしか取りませんでしたが、杉並の玉川上水の右岸にはヒノキが植えられていて、同じような構造の林が多いようで、井の頭でもその傾向があり、小鳥の森の辺りもヒノキが列状に植えられています。ただし、ここでは歩道を挟んで玉川上水の外側でした。
 さて、こういうL字型で右下が常緑樹というパターンと大きく外れたものに幸橋左岸(3)と兵庫橋下流左岸(9)がありました。この2カ所はそもそも樹木本数が少なく、L字の縦だけで右の平坦部がほとんどないので、名前をつけるとすれば「I字型」と呼ぶようなものでした。これらはサクラの太い木以外は下刈りをして除去されたものと思われます。
 ここでは樹木の種ごとの特性にまでは言及しませんが、太さと落葉樹、常緑樹という関係を読み取るだけでも、林の特徴やその来歴も推定することができることがわかりました。