玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2017年9月の観察会

2017-09-01 20:41:54 | 観察会
 9月は10日に観察会をしました。前回から2週間ほどしか経っておらず、内容も訪花昆虫としましたので、続きという感じでした。

● 往路
 例によって鷹の台の駅に集まりました。今回は久しぶりに昆虫に詳しい朝鮮大学校の韓(はん)先生が4歳の息子さん連れで参加してくださいました。
 関野先生が「ファーブル」という携帯用の実体顕微鏡を持参してくださいましたので、前回も説明したミズヒキの生えている場所で、ミズヒキの花を顕微鏡でのぞくと肉眼で見るのとは違う世界が見え、みなさんよろこんでいました。


「ファーブル」を使う

 商大橋ではセンニンソウがあり、花が残っているものもありましたが、一部は果実になり始めていました。種子の先に冠毛が伸び、これがもう少し発達すると銀色の羽毛のようになり、そのようすが仙人のひげのようだというので命名されたという話をしました。


センニンソウの若い果実

 商大橋ではちょうどミズキの枝が手にとれる距離にありました。前回はまだ白っぽい果実でしたが、もう黒く熟していました。中にある種子が独特の形をしており、タヌキの糞に出てきてもすぐにわかるという話をしました。

 
ミズキの果実と種子

●訪花昆虫の調査
 野草保護観察ゾーンに着いてから、虫媒花と訪花昆虫の説明をしました。クサギの花をとりあげて花筒が長い花にはチョウやハチしかこないという話をしました。


クサギの花の構造を説明する

 前回は咲いていなかったカリガネソウが咲いていたので、花の構造を説明しました。細い花柄の先に大きめの花がついており、下の唇弁にハチが来てとまると、その体重で花が前にかしぎ、そのときに花の上にびゅーんと半円形の円弧に伸びた雄しべがハチの背中に花粉をつけます。


カリガネソウの花の説明

 そこで2人のペアになって一人が観察、一人が記録をしてもらいました。
 ペアごとに花を決めてデータをとってもらおうと、野草保護観察ゾーンを歩いて花を探しました。よい天気で一汗かきました。
 歩いているとツルフジバカマがあったので、説明をしました。
「秋の七草を言えますか?覚えやすい覚え方を教えますね。掃除をしなさいといったとき、素直な子は雑巾で床を拭き、箒で掃きます。それで<フキ、ハク、スナオ>と覚えます。順番にフジバカマ、キキョウ、ハギ、クズ、ススキ、ナデシコ、オミナエシで7つです。春の七草はセリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロと全部まともに覚えてしまいますが、秋の七草のほうはそういうことがないので、丸暗記します。」
 「ところで、この七草のうち、フジバカマは関東にはありません。そもそも秋の七草は奈良、京都で万葉の時代に選ばれたので、それをそのまま関東に当てはめるのはもともと無理があるわけです。で、フジバカマをのぞく6つはすべて玉川上水にあるんです。すごいことですよね、この車がビュンビュン走る五日市街道沿いに野草の秋の七草のあるべきものがすべてあるんですから。それで、フジバカマはないのですが、ツルフジバカマはあるんです。似ているのは名前だけで、フジバカマはキク科、ツルフジバカマはマメ科で、全然違う仲間です。去年、この観察をしていたら、たぶんこの野草保護観察ゾーンを管理しているグループの人だと思いますが、通りがかりに<ツルフジバカマがあるので、よく見て行ってくださいね>といっていました。たぶん、秋の七草のひとつがあるからという意味だったのだと思います。」


指定の花の前で訪花昆虫を記録する参加者

 この調査の狙いの要点は、クサギの花のように筒型の花には吻の長いチョウやハチしかこないが、キンミズヒキの花のように皿型の花には吻の長さに関係なくいろいろな昆虫が来るだろうという予測を裏づけようというものです。ただし今回はマメ科のツルフジバカマとヤマハギがあり、これは筒でも皿でもなく、5枚の花弁が蝶形花とよばれる花をつけるので、やや中間的な形の花であるので、別扱いにしました。
 その結果、クサギやカリガネソウには確かにハチしか来ていませんでした。ノハラアザミとシラヤマギクはキク科であり、筒型の花を持ちますが、ハチだけげなく、ハナムグリ(甲虫)も来たし、シラヤマギクでは予想外にハエも来ました。実はこれは去年も同様で、シラヤマギクはたしかにキク科の筒型の花をもちますが、その筒が浅いので、どうやらハエでも吸蜜できるようです。
 マメ科の花にはハチが多かったのですがハエ、アブも来ていました。
 皿型の花にはいろいろな昆虫が来ましたたが、ツルボにハチがたくさん来たので、値がはねあがりました。
 というわけで、予想よりは筒型の花にもハエが来たので、前回のようなはっきりした傾向はありませんでしたが、個別の種を見ると、説明できるようでした。


(韓先生の補足によると、オミナエシにきたハチはキンケハラナガツチバチで、コガネムシなどの幼虫に寄生するそうです)

 訪花昆虫といっても花の蜜を吸うためではなく、花に来る昆虫を狙うクモや産卵する寄生蜂もいました。クモではアズチグモというのがいたそうで、これは蜘蛛の巣を作らないで、自分で両手を広げて昆虫が来るのを待ち構えています。豊口さんによると、ふつうは白いそうですが、オミナエシにいたのは黄色だったそうです。色を変えることができるそうです。


アズチグモ

 それからセイボウ(青蜂と書く)という寄生蜂もいたらしく、韓先生と豊口さんが観察しています。青みがかったメタリック体が実に美しいハチです。セイボウは寄生蜂の幼虫に寄生するというややこしい生活をするハチだそうです。

 
オミナエシにセイボウ(韓先生の補足説明によると、正確にはオオセイボウで、スズバチなどに寄生するそうです)

●「ファーブル」の威力
 データもとれて、よい時間になったのでゆっくりと戻ることにしました。キンミズヒキがあったので、果実を顕微鏡で見てもらいました。この花は花があるときにか実があることが多く、円錐状の果実の先にたくさんのトゲトゲがついています。肉眼ではトゲがあるなという程度しかわかりませんが、拡大してみると、その先端がJ字型にカールにているのがよくわかり、見た人から歓声があがっていました。「ファーブル」は野外観察の有力な道具になりそうです。


キンミズヒキの果実をのぞく少年

●花を咲かせるということ
 ツルボにはよく昆虫が来ていましたが、ツルボは少しですが、林の中でも咲いていました。それで、同じ花でも環境によって訪花昆虫の来訪が違うことを示すために、林のものも10分間観察してもらいました。そのあいだに次のような話をしました。
「いま私たちは玉川上水花マップという活動をしていて、長さ30キロの玉川上水を毎月歩いて代表的な花があったら記録しています。膨大なデータがとれていますが、その記録は花が咲いていたということで、その植物があっても花が咲いていなければ記録していません。それをしだしたらどこにでもあることになるし、見落としも多くなるので、あくまでも花があったということの記録です。
 花が咲くということは生産物を花に回せるようになったということで、たいていは植物の大きさに関係しています。アレチマツヨイグサで調べた例ではロゼットの葉の直径が何センチ以上と以下で花をつけるか、つけないかが決まることがわかっています。ある大きさになると花を咲かせてもよいという生理的な切り替えがおきるのだと思います。そのためには光合成で生産物が十分なければいけません。日本では水の心配はないので、植物にとって重要なのはなんといっても光です。明るい場所に生えれば花をつけるのに十分な生産ができるわけです。
 ツルボは本来明るい場所に生える草で、実際、さっきの野草保護観察ゾーンではたくさん咲いていました。


ツルボの花

 林の中にもどきどきはあるのですが、花を咲かせることはあまりありません。これはたまたま林の中でも明るい場所なのだと思います。でも2本しか生えていないので、昆虫は来ていません。たぶん、このあとも来ないと思いますが、昆虫にとってもめったに花がない林は効率が悪いわけです。」
 「だったら、全部の草が明るいところに生えて花を咲かせればよいということになりますが、それはまた別の問題です。さっきあったマヤランやシュンランなどは林の下に生えます。暗いほうがよいということはないのですが、明るいところではもっと速く大きくなれる草があって、競争に負けてしまうということがあります。それに、草原的な場所は明暗、寒暖、雨が直接あたる、風が吹くなど、植物の生育環境としては不安定です。それに比べれば林の中は環境変化がおだやかで、そういう環境を好む植物もあります。」
 「まあ、若い独身男性のことを考えると、給料のほとんどは食費とアパート代でなくなってしまうので、生きてはいけるけど、余裕がない。それがある程度、年齢を重ねると給料も上がって、ではアパートを変わろうかとか、部屋の中をきれにしたり、持ち物を増やしたりして、そろそろ結婚しようかなとなるわけですが、それと同じことです。大半の植物は生きてはいるが、花を咲かせることはできないのです。」
 そこでは話しませんでしたが、これは玉川上水の林をいかに管理するかという問題に関係することで、そのことを理解することは大切なことだと思います。

●柔らかい茎が土から出てくる
 さらに歩いていると、往路でも気づいていたのですが、ヒガンバナが芽を出してつぼみをつけていました。


地中から伸びてきたヒガンバナの茎をみて話す

 「いつも思うんだけど、このみずみずしいやわらかな茎が、硬い鉱物を含んでいる土の中を伸びて来るって、考えてみると不思議ですよね。」
 しばらく考えていたリーさんが
 「石でも小さな穴があって、そこを叩くと簡単に割れるから、そういうことがあるんじゃないかな」
 と言いました。
 「ツボってことね、そういうことはあるかもしれない」
リーさんはさらに言いました。
 「もしかしたら根が吸い上げる水の圧力が関係しているかもしれない。その水圧が茎の先に伝わって、水の圧力で茎が前に進み、その力が土を持ち上げるのかもしれません。その力は物理的にきっと説明がつくと思います」というようなことを言いました。
 「そういえば、動物の頭骨を頭頂骨とか側頭骨とかのパーツに分けるとき、外から叩いたりしたら縫合部でないところが割れてしまうので、うまい方法があると聞いたことがある。大豆をいっぱいつめてそのあとで水を吸わせるんだって。そうするとひとつひとつのダイズが少し大きくなるのだけど、全体としてすごい圧力になって骨がバラバラになって、パーツがうまく取り出せるそうです。それと似ているかもしれない」と私。

 関野先生は
 「卵を割るといような割り方を考えると不思議だけど、植物はゆっくり動くから可能なんじゃないですかね」
 「確かにわれわれは割るというと叩き割るみたいなイメージをもつから、土を掘るのは力仕事と思うけど、植物の育ち方は違うのかもね」
 「私はモンゴルに行くので、日本に帰ってきたときにいつも感じるんだけど、植物の育つ力が圧倒的だよね。ヨモギとか、イネ科の草とかが、アスファルトの隙間に生えていて、アスファルトを持ちあげていることがあるでしょう。あれってすごいよね。草は柔らかくて力もないみたいだけど、アスファルトを持ち上げるんだもんね。」
 それを生命力はすごいと詩のように表現してしまうとそこで思考停止してしまいますが、物理的になぜそういうことが可能なのかを考えることが大切だと思いました。

●どう見てもハチ
 そのあと、クヌギの幹に穴があいていて、そこになにかの昆虫の抜け殻がありました。


抜け殻

 韓先生に聞くと、ハチの抜け殻かもしれないということでしたが、たまたまその木のすぐ傍にあるクモの巣に「ハチ」がつかまって少し動いていました。


クモの巣にかかった「ハチ」

 それを見て韓先生が「これはハチではなくガです」
というのでびっくり。これの抜け殻だったようです。そういえば図鑑で見たことがありました。あとで名前を調べたらセスジスカシバというガでした。それにしても触覚、翅、胴体と、どこを見てもハチにそっくりです。これも「ファーブル」で見ましたが、たしかに鱗粉があってハチとは違います。リーさんは「顔だけみると、なんだか哺乳類みたい」と言っていました。


セスジスカシバ(蛾とは思えない)

●まとめ
 というわけで、何度も歩いているなじみのコースでも、来るたびに発見や気づきがあり、楽しい時間を過ごすことができました。今回は恒例の記念撮影をするのを忘れていました。
 今回も豊口さんの写真を使わせてもらいました。豊口さんはトカゲを見たようです。


トカゲ
コメント
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