玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

都市における鳥類による種子散布の一断面

2018-02-22 16:18:07 | 生きもの調べ
都市における鳥類による種子散布の一断面

以下の記録は今年の1月に採取した鳥類による散布種子集団を2月11日の観察会で類型し、その後高槻が残りを類型、カウントしてまとめたものです。観察会当日のようすは こちら

<はじめに>
 私たちは赤い実のなる木にヒヨドリなどの鳥が来て食べているのを見ることがある。鳥たちは木の実をついばみながら下に落としたり、飲み込んだりしているが、やがていなくなる。おそらく別の木に移動するのであろう。その木の下にはたくさんの果実が落ちているが、その木の果実以外にもいろいろな果実が落ちている。これらはその前にいた木のものであろう。


鳥類による種子散布のイメージ


 こうして鳥類は移動できない植物の種子を散布している。そういう植物は鳥類に種子を運んでもらうために目立つ色の、あまり大きくなくて鳥がひと飲みできるくらいの大きさの果実をつくるように進化してきたと考えられている。
 このことは当然想定されることだが、実際に調べるのはそう簡単ではない。山の林で木の下にある果実を探すのはきわめてむずかしいので、シードトラップ(種子を受ける装置)をたくさん置いて回収するということがおこなわれるが、そう簡単にできることではない。その点、都会の公園などにある木で下が舗装されていれば、落ちた果実は容易に発見でき、回収も簡単である。

<方法>
 このことを利用して、小平市の3カ所で次のようなサンプリングをした。
1) 小平霊園のトウネズミモチの木の下
2) 小平市大沼公民館のクロガネモチの下
3) 青梅街道駅近くのJAの駐車場の電線の下


種子採取地の位置関係



小平霊園のトウネズミモチ(2018年1月)


と小平市大沼公民館のクロガネモチ(2018年1月)


 上に母樹がある場合は当然その木の果実が多いが、3)は直近には木はなく、鳥が電線にとまって吐き出したり、糞をしたりした果実や種子が落ちていた。
 採取は1)と2)は2018年1月4日、3)は1月7日におこなった。採取した面積はだいたい幅1m、長さが4、5mほどの範囲だが、厳密に測定してはいない。というのは絶対値が意味があるのではなく、内訳のほうが重要だからである。

<検出種子>
 検出された種子は21種と数種の識別不能種があった。不明種の数はごく少ない。


検出された種子(1)1. アオキ, 2. イヌツゲ, 3. カラスウリ, 4. クロガネモチ, 5. ケヤキ, 6. ケンポナシ, 7. ジャノヒゲ, 8. シロダモ, 9. センダン, 10. ツタ, 11. トウネズミモチ, 12. ナンテン。格子間隔は5mm


検出された種子(2)1. ネズミモチ、2. ハナミズキ, 3. ヒヨドリジョウゴ, 4. ピラカンサ, 5. ブドウ, 6. ヘクソカズラ, 7. マンリョウ, 8. ヤマハゼ。格子間隔は5mm


数が多かったのはトウネズミモチとクロガネモチで、この2種は母樹からの落下が大半である。このほかではピラカンサ、ナンテン、ネズミモチ、マンリョウ、エノキ、センダンなどがある程度多かった。
 21種のうち約半数の10種は栽培種であり、都市環境を反映していた。ただし、アオキ、イヌツゲ、ナンテンは野外にもある。またマンリョウも野外にあるが、調査地の範囲では野生のマンリョウはまずないので、栽培種とした。やや多かった6種のうち、野生種はネズミモチとエノキだけであった。なお、21種のほとんどは「多肉果」であり、堅果はケヤキ1種、乾果はヤマハゼ1種にすぎなかった。したがって鳥類に散布されるのは基本的に多肉果であり、そうでない場合でも実質的に多肉果状のものであることが確認された。

    
ピラカンサ、マンリョウ、イヌツゲ、エノキ、ヒヨドリジョウゴ

 カラスウリは果実が例外的に大きく、鳥類は果肉をついばむが、種子が食べられるかどうかわからなかったが、これで種子を散布することが確認された。


カラスウリ


 ケンポナシは形態学的には果肉でなく果柄部分が肥厚したものだが、生態学的には多肉果である。この「果実」はすぐに母樹から落ちて甘い匂いがするので哺乳類がよく利用するので、鳥類が利用していたのは発見であった。


ケンポナシ


 またジャノヒゲの種子は青くつやがあって多肉果のように見える。このため食べても栄養はないと思われるが、いわば「だまされて」食べるものと思われる。ジャノヒゲは密生する葉の下に果実をつけるので見つけたにくいが、それを鳥類が探して食べたものと思われる。


ジャノヒゲ


ヘクソカズラの果実は赤や青のように鮮やかではなく、人の目には目立たない黄褐色であり、果肉もあまりないように思われるとが、鳥類が食べていることが確認された。


ヘクソカズラ


 ヤマハゼの仲間は種子の外面に資質に富んだ物質があって鳥類が好むことが知られている(ヌルデ:桜谷2001,ヤマハゼ:佐藤・酒井 2001,上田・福居 1992,ヤマウルシ:原田 2005; 桜谷 2001)。
 ケヤキは風散布であり、鳥類がケヤキを食べるという記録があるかないか確認の必要がある。


ケヤキの果実


小平市の3カ所で回収した鳥類散布種子集団。母樹由来の種子は灰色で示した。


<落下種子集団>
 樹下には母樹の果実も多数あったが、これらは対象外とし、種子だけをカウントした。予想どおり、小平霊園ではトウネズミモチの種子が、大沼公民館ではクロガネモチの種子が大半を占めていた。青梅街道駅ではトウネズミモチの種子が大半を占めていた。


回収された種子の内訳(クロガネモチとトウネズミモチ以外はまとめて「その他」とした)


 次に外部から持ち込まれた種子集団について見る。小平霊園には11種が外部から持ち込まれていた。とくに多い種はなく、ばらついていた。大沼公民館では13種の持ち込み種子があり、トウネズミモチとピラカンサが多かった。これらに対して青梅街道駅では持ち込み種子数は10とさほど違いはなかったが、大半はトウネズミモチであり強い偏りがあった。


持ち込まれた種子の内訳(%) 


<まとめ>
 この調査でわかったのは、都市の多肉果をつける樹木や鳥だまりの下に落下している種子を調べることで、鳥類による持ち込み種子があることが確認され、その種数は10種あまりであったということである。母樹のない鳥だまりの1例ではトウネズミモチが大半を占めた。トウネズミモチはトウネズミモチの母樹の下ではもちろん、クロガネモチの下でもある程度検出されたから、小平市には絶対量が多いものと思われる。
 堅果であるケヤキが食べられていたのは意外であった。ニホンザルは冬にケヤキの堅果をよく食べることが知られているが(辻・中川, 2017)、鳥類での知見は未確認である。そのほか、小数ながらケヤキ、ジャノヒゲ、ヘクソカズラ、ケンポナシなどこれまで鳥類が食べることを確認していなかったものが確認できた。

<観察会のテーマとして>
 自然観察会などのテーマとして、野生植物だけでなく、庭に植えられたナンテン、マンリョウなどが鳥類に散布されていることを確認するものとして適していると思われる。難点は分析に時間がかかることで、すぐには答えが出ない点である。しかし通りいっぺんの観察では知り得ない「ストーリー」が読めるという程では一歩深みのある観察会に適用できると思われる。また少数ながらヘクソカズラ、
 
引用文献
上田恵介・福居信幸.1992.果実食者としてのカラス類Corvus spp.:ウルシ属Rhus spp.に対する選好性.日本鳥類学会誌 40: 67-74.
桜谷保之.2001.近畿大学奈良キャンパスにおける野鳥類の食性.近畿大学農学部紀要 34: 151-164.
佐藤重穂・酒井 敦.2001.ヤマハゼRhus sylvestris果実の鳥類による被食過程.森林応用研究 10: 63-67.
辻大和・中川尚史.2017.日本のサル.東京大学出版会
原田直國・上田義治.2005.農業環境技術研究所生態系保存実験圃場における果実食鳥による種子散布の記録.インベントリー 4: 15-19.
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2018年2月の観察会(当日の報告)

2018-02-18 19:53:20 | 観察会
 今月は18日に観察会を開き、1月の観察会の積み残しである、1)タヌキの糞の水洗と2)鳥散布種子の取り出しをしました。いつものように鷹の台駅に集合して、鷹野橋から上流に向かって歩きました。途中でウグイスカガウラの花が咲いているのに気づきました。


     ウグイスカグラ

 このあたりの雑木林や玉川上水の木の話をしました。雑木林は伐採を繰り返して薪や隅の材料にしたので、伐採後に萌芽できるナラやシデなどの木が増えるという話をしたら、学生さんが「シデって、死んでから出るという意味ですか?」と言いました。私はシデの意味を知りませんでしたが、リーさんが「シデというのは神棚に飾るギザギザの紙のことで、シデの木の果実のギザギザが似ているからだそうです」と教えてくれました。あとで調べたら「玉串やしめなわなどにつけて垂らす紙」とありました。



 武蔵野美大に移動するまえに、上水公園の木の下にセンダンの種子が落ちていました。まわりにはヒマラヤスギとエノキくらいしかありません。それでこれは鳥が運んだものだという話をしました。

 
     センダンの種子       


     種子散布の説明

 武蔵野美大についてから、まず作業の目的を説明しました。ひとつは津田塾大学で拾ったタヌキの糞で、水洗してマーカーの取り出しと、おもな成分の取り出しをします。
 これまで動物研究者による食性分析は食べ物の内容のリストでとまっており、その果実を食べることの背景に言及することはありませんでした。しかし、同じ果実でも、生える場所や植物の大きさなどが違うことがわかるか、わからないかで、結果の読み取りは全然違います。そのことの重要性とか、鳥散布と哺乳類散布の比較などを話しました。
 また最近受理された津田塾大のタヌキの糞分析の論文のコピーを配布して、内容の説明をしました。


     説明した板書


     花の構造と果実の関係を説明する

 ひとつめは小平霊園のトウネズミモチの下でひろったもの、2つめは大沼公民館のモチノキの下、3つめは青梅街道駅の近くの駐車場で上に電線がある場所で、まわりに木はないもの。これらは鳥が吐き出したもので、その木に来る前に食べていたものを吐き出すので、それを知ることができます。山の林でも同じことが起きていますが、地面に落ちてしまったものは見つけられません。その点、都会の公園などでは地面が舗装されていたりするので、簡単に集めることができます。


     鳥散布の説明

 私が小平霊園で箒とチリとりで集めていたら、通りがかった人が奇特な爺さんと思ったらしく、「ごくろうさまです」といってお辞儀をされました。「鳥の吐き出したものを集めてます」といっても通じるはずないので、「あ、どーも」と答えておきました(皆さんニヤリ)。
 それからケンポナシの匂いと味を体験してもらい、いかに「風変わり」な果実であるかを説明しました。花を支える花柄(かこう)が肥厚して、甘い匂いと味がして、実質的に果肉の役割をしていいるのです。果実そのものは種子を味のない乾いた果皮が包んでいるだけです。


     ケンポナシの「果実」

 ひととおり説明したあと、前回の水洗後に確認した種子などの説明をしました。


     タヌキの糞からの検出物を説明

 それから道具類を出してタヌキの糞の水洗をしてもらいました。机の上に津田塾大学で拾ったタヌキの糞を並べました。もちろんあとで丁寧にふいてきれいにしました。


     タヌキの糞を並べる


     流しで水洗する

 
     フルイに残った内容物を取り出す関野先生

 あとは皆さんが工夫して、糞を軟化するために水を入れた容器にいれたり、ラベルをつけたりしてくれました。あいかわらずカキの種子が目立ちましたが、初冬のときほど高頻度ではありませんでした。次に目立ったのはブドウの種子で、野生のヤマブドウよりは明らかに大きい、栽培品種のブドウです。リーさんの話ではあのあたりにはブドウ園があるそうです。また、鳥の羽毛が目立つようになりました。鳥の足の皮膚があり、皆さん驚いていました。ムクノキの種子も少しありました。プラスチックの破片などもありました。これらは乾燥させるともっとわかるものが増えるので、あとで報告します。

 
     糞を処理する

 手のすいた人たちは鳥散布の種子を分けました。

 
     種子を取り出す若林さん         


     取り出すところ


     取り出されたトウネズミモチの果実と種子

 もちろんトウネズミモチの下にはトウネズミモチ、モチノキの下にはモチノキの果実や種子が圧倒的に多いのですが、ほかにもマンリョフ、ナンテン、ヘクソカズラ、ジャノヒゲなどが見られました。トウネズミのほうにモチノキ、モチノキのほうにトウネズミモチもありました。駐車場に何が運ばれていたかは興味あるところですが、一番多かったのはトウネズミモチ、次がエノキとセンダン、あとは少なくてハナミズキ、ブドウ、ヤマハゼ、アオキ、ジャノヒゲなどでした。


     記念撮影 高槻、関野、鈴木、豊口、若林、堀越、リー

 今回の報告は当日の作業だけです。結果が出たら追って報告します。通常の自然観察会とは違う地味な作業ですが、こういうことを通じてはじめて聞ける自然の話があるのです。皆さん、興味をもって楽しく作業をしてくださいました。

種子散布の結果は こちら

追記  2018年1月10日津田塾大学タヌキの糞の検出物を紹介します。格子の間隔は5mm


カキ種子


ブドウ種子


プラスチック


プラスチック


輪ゴム


軍手のゴム加工したもの


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