玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2019年4月の観察会

2019-04-07 21:59:16 | 観察会


 4月になり、年度が改まるとともに、春の花が咲き始めました。花マップは夏の号を出してから秋、冬の号も出してあとは春の号を作ることになり、3月から動き始めました。9月末に強い風の台風24号によってたくさんの木が倒れたのですが、その内訳でサクラが多いという印象がありました。しかし元々の木の内訳がないので、その傾向を論じるには玉川上水の木のおよその内訳を出すことが課題になっていました。一方、毎月の観察会は相変わらずの自然観察に調査の側面を付け加えることにし、タヌキの糞を見たり、鳥類による種子散布の調査などもしてきました。そうしたことから、時々は両者が乗り込むことで内容が充実できると思い。今回は両方のメンバーに声をかけて、野草の観察と樹木の太さ調査を組み合わせたものにすることにしました。
  4月7日、この観察会では鷹の台に集合することが多いのですが、そのあたりでは樹木調査をしたことがあるので、今回はその下流の喜平橋の方で調査することにし、最寄りの一橋学園駅に集まりました。
 駅から玉川上水まで商店街のような道路を歩きましたが。歩道にツメクサがありました。「ツメクサ」と言えばシロツメクサ、つまりクローバがよく知られていますが、あの「ツメクサ」は「詰め草」で、昔陶器などを木箱に詰めるときに、割れないようにクッション材としたのがシロツメクサでした。でもこのツメクサは「爪草」で、葉がかぎ状に曲がっている様子から名前がついたものです。まだ花が咲いていませんでした。
 その先ではノジスミレが咲いていました。


ノジスミレ

 これは花マップで最近話題になったもので、メンバーから「わからないスミレがあったけど」ということで写真が送られてきましたが、写真だけからはわかりませんでした。それで昨日、現場に行ってノジスミレであることを確認していました。

「スミレというと、スミレ類を指す場合と、スミレ類の中の一つの種を指す場合があって、紛らわしいので、ただのスミレという意味でタダスミレなどと言います。これとノジスミレはよく似ていて、図鑑類を見ても、ノジスミレはどことなくだらしない感じがするなどと書いてあって釈然としません。違いの一つにはタダスミレには葉柄に翼があることです。これはありません。でもだらしないとされる葉の縁や花が波打っているというのは程度問題で、それだけでは区別がつかないと思います。ただはっきり違うのは花の時期が違ってノジスミレは3月から咲き始めますが、タダスミレの方は4月下旬から5月にかけてです。どちらも濃い紫色の花なので、こういう色をスミレ色という人もいますが、タチツボスミレの薄紫をスミレ色と思っている人もいます」
「こんなところに生えているなんてね」
「そうですね、多くの野草がはえる林などにはなくて、駐車場とか空き地とか他の植物が生えにくいようなところで見かけます。玉川上水では見たことがありません」


商店街でノジスミレの説明をする

 玉川上水に着くと、新緑が綺麗で、いい季節でした。桜もちょうどいいタイミングでした。ところどころで咲いている花の説明をしたりしました。


ニワトコ


ヤマモミジ


クワ


ミズキ


ヒサカキ


ケヤキの花を見る


ケヤキ


アカシデ

玉川上水にはよくありますが、ヤマブキが咲いていました。
「ヤマブキで思い出したことがあります。太田道灌の話に、道灌が歩いていて雨が降ってきて蓑を借りようと農家に立ち寄ったら、娘が黙って蓑を差し出したのだが、道灌は「ミノひとつだになきぞ悲しき」という意味を理解できず、後で歌の勉強に精進したという、いかにも作りな話の話(みなさん笑い)ですが、ヤマブキは雄しべが花弁になって八重咲きになるものがあります。だから実がならないわけで、蓑と「実の」をかけたということです。これはサクラでも、他の多くの植物でも見られる変異です。で、最近、花マップのメンバーから珍しい花を見つけたという連絡をもらいました。それは八重咲きのアマナです。それについて私はみなさんに次のような返事を流しました。
---- みなさま
 アマナの八重咲きのものがあったそうです。その中で、千葉県のある町にしかないとされているというネット情報が紹介されています。ただ私は、この情報はひいきの引き倒しだと思います。珍しいのは確かだし、書き込みをした人が愛郷心が強いこともいいことだと思いますが、雄しべが花弁になる八重咲きというのは広く見られることです。「他のものは盗掘に違いない」と断定するのは科学的態度ではありません。むしろ、自然界で起きているこういう珍しいことのほとんどが見落とされているのです。そして、よく見もしないで、図鑑の情報を丸写しすることが横行しています。私が花マップを始めたのは、そういうステレオタイプな「自然愛好者もどき」をやめて、ありふれた自然でも自分の目で見るべきだという考えからです。私はこのことは学校の理科教育に関係していると思います。学校では教科書に書いてあることを暗記できる子が「優秀」とされます。本物を見ないでもただ暗記さえすればテストでいい点がとれるからです。そのことが本来すべき、「本物を見ないでいい」という考えかたにつながっていると思います。理科だけでなく、音楽でも音楽そのものに感動しても点数にはなりませんが、曲名と作曲者名を暗記すれば「音楽ができる」ことになるわけで、こんな馬鹿なことはありません。
 私が言いたいのは、「八重咲きのアマナはありうることだ。だからさほど価値がない」ということではもちろんありません。そうではなく、この花マップのメンバーが身近な自然をじっくりと観察し、自然界で起きている珍しい現象を自分の目で確認されたことは素晴らしいことです。そういうことは他にも必ずあり、漫然と歩くだけでは気づかない、こういう珍しい現象の発見が実際にできたということで、文字通り花マップ活動ならではの成果と言えると思います ----
だから、五感をすませば、玉川上水でもたくさんの発見があるはずです」

 それから今日の調査に使う道具を説明しました。玉川上水には柵があって中に入れないので、長さ2mの塩ビパイプを準備しました。正確には1mのパイプを繋げるようにしました。その先端に左右に20cmずつのパイプをつけてT字状にしました。その横棒に10cm間隔の模様をつけ、それで樹木の直径を読み取るようにしました。


T字の棒の説明

「はじめは塩ビパイプを買ってきて切ったり、つなぎを工夫するつもりだったんだけど、ホームセンターに行って探すと、全部ぴったりの規格のものがあって、それを見つけて組み合わせるだけでした」
「へえー」
「でもこの目盛りは作ったんでしょう」
「まあ作るといってもただテープを貼っただけど」
「これも売ってるのかと・・・」

 南側の五日市街道沿いを歩きました。ここは上木を切って草原の野草が戻ってくる管理をしています。だからススキやオカトラノオ、シラヤマギク、ワレモコウなどが見られるところです。

 クサイチゴが花を咲かせていました。


クサイチゴ

「キイチゴの仲間にはいろいろありますが、多いのはモミジイチゴとニガイチゴですが、玉川上水にはあまりありません。これもそれほどはありません。この前NHKの<チコちゃんに叱られる>でイチゴという字を漢字で書けるかやっていて書けない人が多かったですが、草冠に母です。これは象形文字で上の草はイチゴのヘタで、下の花は果実に点々と種子が付いているところでしょう。これを見るとオランダイチゴを連想しますが、枕草子に子供がイチゴを食べている様子は可愛いというくだりがあります*。でも平安時代にオランダイチゴはないので、キイチゴだといわれますが、私は違うと思います。というのはモミジイチゴ やニガイチゴだとすると、京都の街中にはなくて野山の山道などにあるのが普通で、京都の幼児が遊ぶ場所ではありませんし、茎に鋭い棘があるので、子供がとって食べるというのも違うように思います。むしろ庭にありそうなのはヘビイチゴです。こういうイチゴは花の下の部分の花床が肥大して、その表面に種子が付いています。ほっぺたの丸い幼児が、ふっくらした手でヘビイチゴの赤くて丸い実をつまんで口に入れるのを可愛いと感じたのは、女性の感性だと思うんですね。
 それに比べるとキイチゴは小さなベリーに一つの種子が入っていて、そういうベリーが集まったのがイチゴになっているので、同じイチゴといっても、作りとしては全く違うわけです。
 ところで、フユイチゴの葉は3つに別れた複葉です。モミジイチゴはモミジの葉のように切れ込んでいますが、複葉にはなっていません。切れ込みが深くなって柄のようになったのが複葉で、その一つを小葉と言います」


イチゴの説明


クサイチゴの複葉

アケビも複葉で、こちらは5小葉です。


アケビの複葉


タンポポ(セイヨウかどうか未確認)

 喜平橋についたとき、11時になっていましたので、残りの時間を樹木調査に当てることにし、巻き尺で50mをとって、樹木の太さを測定することにしました。巻尺担当、T字の棒を持つ係、直径を読み取る係、記録係と役割分担を決めて作業をしてもらいました。みなさん、おもしろがっているようでした。


T字の棒の説明


巻尺を置く


柵内の木の直径を測る




測定する


記録する

 ただこの辺りは、上水の平坦地は刈り取りをし、歩道の北側に植えたサクラの木があり、斜面の下の肩のところに大きなケヤキがある構造になっています。そのケヤキは3mくらい離れているので測定はしませんでした。そうすると測定できる樹木は少なくすぐに200mを調べてしまいましたが、ほとんどがサクラでした。
 玉川上水全体としては特殊な場所ですが、こういう場所もあるということです。今後、いろいろな場所で調べてコナラ、イヌシデ、ケヤキなどが多いことを示せるよう調査範囲を増やすつもりです。



 喜平橋に近づいたら見かけない花がありました。私にはオオイヌノフグリの花が小さくて白いものに見えましたが、それにしては花が小さすぎます。私は知らなかったのですが、フラサバソウという外来種のようでした。


フラサバソウ

 喜平橋についてからは北側を歩きました。そこにヒメウズがありました。


ヒメウズ

 同じ場所にタチツボスミレやニリンソウもありました。


タチツボスミレ


ニリンソウ

 今日は関野先生は別用があってお休みでしたが、いつも活動を映像記録してくれている武蔵美大の水本さんが、今後のこともあるので、話を聞きたいということだったので、少し上流の林の中のベンチに座って質問に答えました。私と玉川上水の関わりや、どういうつもりでこの活動をしているかといった質問でした。

 私はそのまま上流に戻りましたが、道中でフデリンドウ、サルトリイバラなどを見ました。


フデリンドウ


サルトリイバラ


モミジイチゴ

 改めて、良い季節になったなと思いました。こういう林で樹木調査をすれば玉川上水にいろいろな木があることが示せたはずです。

津田塾大学の南側

 写真は今回も豊口信行さん撮影です。豊口さん、ありがとうございました。

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* 39段 あてなるもの
 いみじう美しきちごの、いちごなど食ひたる。
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フクロウ分析の結果

2019-04-04 10:50:46 | 観察会
皆様のご協力で八ヶ岳と弘前リンゴ園のフクロウの巣材の分析ができました。まだ全部ではありませんが、実習で分析した結果を報告します。

 八ヶ岳では4カ所の巣を分析し、合計136のネズミの下顎骨が検出されました。アカネズミの仲間は森林に住むネズミで、ハタネズミは牧場や畑のようなひらけた場所に住むネズミです。八ヶ岳ではハタネズミの方がやや多く、63%がハタネズミでした。



 これに対して弘前のリンゴ園では123もの下顎骨が検出されましたが、87%と大半はハタネズミでした。



 このことはリンゴ園はリンゴを育てるために除草をしたり、低木を除去したりするので、ハタネズミに住みやすい環境になっているということを反映していると思われます。このことはまた、NHKテレビの「ダーウィンがきた」で紹介していた、「フクロウがいなくなったらネズミが増えてリンゴの木がかじられる被害が出た」というのがハタネズミのせいだったこととも符合します。アカネズミは樹皮をかじるというようなことはできないからです。また弘前大学の東先生たちの論文でもハタネズミが多かったという結果とも一致します。

 子供の含む多くの参加者のおかげで良い結果が出たことをうれしく思います。
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