6月の下旬にタヌキの調査で津田塾大学の構内を歩いていて、ラン3種を見つけました。そのうち知っていたのはネジバナだけ、あとの2種はみたことのないものでした。あとで調べてタシロランとマヤランと分かりましたが、それぞれ個性的なので、私の中に後述するようなイメージが湧きました。
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ネジバナ 2016.6.30
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タシロラン 2016.6.30
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マヤラン 2016.6.28
「今日もお日様がさんさん、とても気持ちいいわ。風も吹いてるし。ああ楽しい」
この子は今年12歳になりました。これから起きるであろうことに、ときどき胸がわくわくします。それを聞いたのか、林から声がしました。
「楽しそうね。私はなんだか悲しいような、うれしいような。10歳すぎの頃はこんな気持ちになったことはなかったわ。少しずつ自分がわかってきて、したいこともあるけど、できないこともある。飛び出してみようと思うこともあるけど、怖いような気もする。」
その声は透明で不思議な響きがあります。
「ここは暗いわ。でも私はここが好き。芝生は明るいけど、私にはふさわしくない。まぶしすぎるというか、どこかで嘘をついていないといけないような気がするの。私、一生懸命生きようとは思うけど、でも自信がなくて。静かにこれから起きることを待ちながら生きようと思うの。」
すると、その林からやや低めの、でもよく通る声がしました。
「ふん、私は違うわね。いや、明るいところが好きじゃないのは同じだけどね。あなたは二十歳すぎだからわからないと思うけど、世の中きれいごとだけじゃすまないわ。愚かなもの、強いものが幅を効かせるものよ。清楚ばっかりじゃだめ、少し濃いめの化粧をするくらいじゃなくちゃ。」
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ネジバナ 2016.6.30
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タシロラン 2016.6.30
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マヤラン 2016.6.28
「今日もお日様がさんさん、とても気持ちいいわ。風も吹いてるし。ああ楽しい」
この子は今年12歳になりました。これから起きるであろうことに、ときどき胸がわくわくします。それを聞いたのか、林から声がしました。
「楽しそうね。私はなんだか悲しいような、うれしいような。10歳すぎの頃はこんな気持ちになったことはなかったわ。少しずつ自分がわかってきて、したいこともあるけど、できないこともある。飛び出してみようと思うこともあるけど、怖いような気もする。」
その声は透明で不思議な響きがあります。
「ここは暗いわ。でも私はここが好き。芝生は明るいけど、私にはふさわしくない。まぶしすぎるというか、どこかで嘘をついていないといけないような気がするの。私、一生懸命生きようとは思うけど、でも自信がなくて。静かにこれから起きることを待ちながら生きようと思うの。」
すると、その林からやや低めの、でもよく通る声がしました。
「ふん、私は違うわね。いや、明るいところが好きじゃないのは同じだけどね。あなたは二十歳すぎだからわからないと思うけど、世の中きれいごとだけじゃすまないわ。愚かなもの、強いものが幅を効かせるものよ。清楚ばっかりじゃだめ、少し濃いめの化粧をするくらいじゃなくちゃ。」
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ヤブジラミ 2016.6.2
喜平橋という橋があって、その西側は樹木を少なくして野草を復活させています。そこにヤブジラミが群落をなしていて、ハエがきていました。
6月も下旬になるとすでに夏もようで、観察会の26日は天気予報では30度近くになるとのことだった。いつものように10時に鷹の台駅前に集合し、そのまま鷹野橋に移動。今回はリーさんの「ちむくい」(ちいさな虫や草やいきものたちを支える会)の人2人と、リーさんの知人でインドネシアのディクディクさんと奥様の孔井みゆきさん(武蔵美大卒業生)が参加された。いつもゆっくり歩きすぎて調査ができなくなるので、今回は解説は最小限にして、いま花盛りのオカトラノオが咲いている八左衛門橋まで行って調査をし、解説はそのあとでするという説明をしてからスタート。
そうは言いながらも、鷹野橋に咲いているマサキにハエがたくさん来ていたので、少し解説する。
「マサキは生垣などによく使われる低木です。春にマユミの花を観察しましたが、あれとよく似た花弁が4枚の花が咲いています。葉は印象が違いますが、花を見ると近縁であることがわかります。スミレとかムラサキケマンなどのような、口の長い花がチョウやハチだけしか来ないのに対して、これはハエのような短い口でも蜜がなめられるのでハエがよく来ます。このあとでこういう調査をします。」
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マサキの花(右:棚橋早苗さん撮影)とマユミの花(2007年5月20日、小平市)
いつものスポーツセンターから津田塾大学にいたる道をいつになく粛々と歩く。府中街道を横切って津田塾大学の南につくと、前にハルジオンで訪花昆虫の調査をした場所にノカンゾウが咲いていたので簡単な説明をする。
「これはノカンゾウといいます。カンゾウというのは「萱草」という字を書きます。同じカンゾウでも「甘草」というのもありますが、これはマメ科、ノカンゾウのほうはユリ科です。どうです、花の色が違いから印象が違いますが、これが白い花ならユリそっくりでしょう。ニッコウキスゲとかユウスゲなども同じ仲間ですが、花は横を向きますが、ノカンゾウは上を向いて咲きます。春に若い葉がでてきたところは山菜として食べられます。」
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ノカンゾウ(2016年6月20日、玉川上水)
その先はしばらく前まで花を咲かせていて、仲間が訪花昆虫の調査をしてくれたホタルブクロの群落があったところ。
「少ししか残っていませんが、ホタルブクロです。子供がとったホタルを入れるのに使ったというのが名前の由来らしいですが、どうだか。」
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ホタルブクロ(2016年5月10日、玉川上水)
「ここに枝を折った株があります。花瓶に挿そうと思って折ったのだと思います。でも私は全体としてはみなさんマナーがよいと思います。ここを歩く人はすごい人数ですが、ほとんどの人はとらないで眺めて楽しんでいます。場所によってはそうではありませんからね、皆さんマナーよくながめてくれていると思いますよ」
先を急がないといけない。このあたりは林が立派で、それだけに上水沿いの歩道は暗いので花はあまり咲いていない。その少ない中で説明しておきたいものを見つけた。
「シソ科というグループがあります。葉が対生で、筒状の花をつけます。そう春にタツナミソウなどを見ましたが、あれもシソ科です。これを見ると、<あ、シソ科ではないか>と思いがちですが、これはハエドクソウといってハエドクソウ科という別の科で、その科にこの種しかないものなんです。でも葉が対生してシソ科の雰囲気があります。茎の先に花が咲いていますが、これもシソ科の花に似ています。花のすぐ下についている果実は軸に対して斜めに向いていますが、さらに下のものは茎にぴったりくっついています。この果実をよく見ると先がクルンとカールしていて、ほら」
と学生のTシャツになすりつけると、その果実が数個くっついた。
「こうして、動物の体について果実をひろがらせるわけです。」
「ひっつきむしですね」
「そうです」
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ハエドクソウの花と果実(2009年10月3日、長野県黒姫)
また歩いていると、美大生に解説するにふさわしいものを見つけた。
「みなさん、いいものを見つけました。まず、葉ですが、これを見てください。ハの字型の黒っぽい模様があります。タデ科にはこういうのがよくあります。」
「見てもらいたいのはこの花です。みなさん、水引きという贈り物などの包みに紅白の模様があるのを知っていますね。赤いひもと白いひもが中央でまじわってぐるぐると巻いてピンと上に反り上がった模様です。実はあれはこの草から来ているんですよ。この花を見てください。」
といって花序を上から見てもらう。
「これをひっくり返すと・・・」
といって今度は下からみてもらうと
「ほーっ!」
ともつかぬ歓声があがる。白く見えるのである。
「美大の人が多いからよく聞いてくださいよ、昔の人はこの紅白の妙を知っていた。それを贈り物に添えていたが、デザイナーがこれを抽象化し、赤いひもと白いひもであの形を作り上げた。これはすごいことで、私にいわせれば世界に誇るものだと思います。」
「へぇー!」
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ミズヒキの花。 左側は下からみたもの、右側は上からみたもの(2007年9月24日、小平市)
美大関係ということでもうひとつ説明した。
「これはツユクサです。単子葉植物です。ツユクサの青はとてもよい青ですが、これは昔、着物のデザインの下絵を描くのに使われました。下絵を書いたあと、色をつけ、水につけるとこの色は消えるんです。昔はツキクサといわれ、<色を付ける>のツキという説もあります。消えることから、はかない恋をたとえることもよくおこなわれました。」
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ツユクサ(2009年9月5日、長野県黒姫)
あとで調べたら万葉集に次のような歌があった。
朝(あした)咲き 夕(ゆうべ)は消(け)ぬるつき草の消ぬべき恋(こひ)も吾(あれ)はするかも
そのあとは調査地へ直進。そこは地元の人が「野草観察ゾーン」と呼んで群落の管理をしているところで、玉川上水の南側で木を伐って明るくしたようだ。ノカンゾウなどはもちろん、いまはオカトラノオが咲いているし、花はないがワレモコウ、ツリガネニンジン、アキカラマツなど草原的な野草が多い。種類も多いが、植物の量が非常に豊富だ。
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玉川上水のオカトラノオ群落(2016年6月20日)
「では、ちょっと聞いてください。少し遅れましたがいま11時すぎなので、1時間ほど花に来る昆虫の記録をとってもらいます。おもにオカトラノオを調べてもらいます。自分が観察できる幅2メートルほどの範囲で時間を決めて10分間、花に昆虫がきたら、時刻、花、昆虫を記録してください。昆虫はハチ、ハエ(アブを含む)、チョウ、甲虫、その他とし、わからないときは<不明>としてください。」
といってハチとハエの区別点などを説明する。とても暑く、日陰もないので、熱中症に気をつけるようにいい、水分補給をするように注意した。
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訪花昆虫の記録のしかたを説明する(棚橋早苗さん撮影)
ときどきようすを見たりしながら、10分間のセッションを2回とってもらった。私はタカトウダイの前に立って1回だけ記録したが、ハチとハエが入れ替わり立ち代わりやってきて記録に忙しいほどだった。この花は小さい上に色も目立たず、花弁が平面に4枚ぺたんとついているだけなので、視覚的にはまったく目立たないから、チョウなどを引き付けるのには向いていないのだろう。匂いをたよりにやってくるハエのような昆虫が蜜をなめるのに適しているように思う。オカトラノオにはときにキアゲハが来ていた。
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タカトウダイにきたハチ(左)とオカトラノオにきたキアゲハ(2016年6月26日、玉川上水)
私が印象づけられたのは、この豊かな草本群落が、交通量の多い五日市街道のすぐわきにあるということだ。オカトラノオもそのほかの草本類も山にいけばとりたてて珍しいというものではない。しかし、市街地の中にある交通量の多いこの道路のすぐわきにこれだけの花が咲き、昆虫が訪れるということは驚くに値することだ。
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訪花昆虫の記録をとる学生たちのすぐ後ろは交通量の多い五日市街道
小一時間炎天下で過ごしたので、終わって木陰に入ったらすっと涼しくほっとした。この日は東京の気温は30度あったというから、この場所ではそれよりはるかに高温だったはずだ。
帰路、私の背後でなにやら声がする。振り向くとみんなが見上げている。もどって聞くと、木の実がなっているということだった。最初ヤマグワだとおもったが、よく見るとコウゾだった。
「食べれるんですか」
というから
「もちろん!」
というと何人かが口にした。
「うーん、おいしいというのとは違うけど、自然の味」
「さっきから植物の説明をしてて、あんまり聞いてるようにみえなかったけど、食べられると聞くと反応が違うなあ」
といったら、どっと笑った。ちょうどよいと思ったので、植物がいかに工夫をして動物に種子を運ばせるかを具体的に説明した。
「さっきある人がナワシロイチゴのベリーをとってきてくれたけど、コウゾのベリーもよく似ています。でもナワシロイチゴはバラ科、コウゾはクワ科でまったく別のもので、花はまったく違うものなんです。にもかかわらず、実は大きさも色も形も似ているということは、こういう実が鳥や哺乳類に好まれるということです。赤い実は緑の中で目立ちます。子供は赤い色が好きですが、それは私たちがベリーが好きだからだと思います。」
「あ、そういえばうちの子が小さいとき、赤いものが大好きだったわ」
「だいたいそうですよ。それに子供は同じ赤だけでなく、黄色やいろいろな色が混じっているのが好きです。昔、ドロップというのがあったでしょ。あれは人間の本能にうったえているわけです」
人の行動はそういう見方で理解できることが少なくない。
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コウゾ(左)とナワシロイチゴ(右)のベリー
そのあとで、少し迷ったのだが、イネ科の説明をした。というのは、ビギナーが反応するのはなんといっても華やかな花であり、イネ科は地味すぎるからである。でもちょうどヤマカモジグサが花期だったので、あえて説明をすることにした。
「イネ科は風媒花といって風で受粉をするので昆虫を引きつける必要がなく、花は緑色の地味なものです。花だと思っていない人もいるくらいです。でも見てください。ちゃんと黄色い花粉をつけた雄しべが見えています。これはヤマカモジグサというイネ科の一種です。私自身はイネ科の花はとてもきれいだと思います。機能美というか、スキのない形をしています。」
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ヤマカモジグサ(左)とその花(右)(2016年6月14日、玉川上水)
「イネ科の葉は細長く、茎に沿うように出てから開いて弧を描いて垂れ下がります。ところがヤマカモジグサはちょっとかわったことをします。ふつうは葉の表が上ですが、上下というのは相対的なものですから植物学では出発点で茎のほうを向いている側を向軸側、その反対側を背軸側とします。おかしなことに、ヤマカモジグサは葉の途中が必ずくるりと裏返って背軸側が上になるんです。ほら、見てください。どの葉もくるりとねじれていいるでしょ。」
「へえ、そうなんだ。うん、ほんとだ。」
「それってどういう意味なんですか?」
「そうするほうが有利なことってあるんですか?」
もっともな質問が出る。
「わかりません。わからないことだらけですよ。むしろ、研究者はわかったことだけを説明しているだけで、わからないことのほうがはるかに多い。」
午後は別の予定がある人もいたので、旧水衛所跡地までもどって一休みしてお礼とともに、なぜこういう調査をしているかを説明した。
「順序が逆になりましたが、今日、花と昆虫の調査をしてもらったわけを説明します。生き物を守る、自然保護というと、専門家が動物や植物のリストを作って、珍しい植物や動物があるかないかを判定して、ここには珍しいものがありますから保護の価値があります、で終わります。私はそれでは生き物を知ったことにはならないと思います。それに珍しいから価値があるというのも違うと思います。ごくありふれた動植物の生き方や形を知ると、レスペクトに似た気持ちが生まれます。そういう気持ちを持てば、なにも言わなくても、その自然を破壊することがよくないと思うはずです。そういうことが大事だと思うんです。今日協力してもらったのも、どういう林の管理をすると草が花を咲かせるか、花が咲くとどういう昆虫が来るかを調べることで、生き物のつながりを体感してもらいたいと思うからです。こうした資料が蓄積されると、違う花には違う昆虫が来るといったことが見えてくるでしょう。そういう生き物のつながりを知ることを通して、生きていることを知ることのすばらしさを知るきっかけにしてほしいと思っているんです。」
初めて参加した孔井みゆきさんが
「こういう活動が広まったらすてきだと思いました」
と言ってくれた。
そのあと、データを確認して、解散とした。鷹の台までもどってお昼をとり、津田塾大学にタヌキの餌を置きにいった。タメフン場がみつかったので、定期的に糞を回収しているが、このタメフン場を利用するタヌキはどのくらいの範囲を動き回っているのだろうかという興味から、餌にプラスチックマーカーを含ませてキャンパス内に置いて、タメフン場から回収することを試みることにしたのだ。これは数年前の麻布大学の学生が試みておもしろい結果を得ており、実績があるので、ここでも試みることにしたわけである。武蔵美大の非常勤講師の棚橋早苗さんが中心になり、武蔵美大の学生さんも手伝ってくれることになり、5箇所の木の下にマーカー入りのソーセージを置いてきた。
その作業で構内の林を移動するときに、暗い林の下で、なにやら見かけない植物を見つけた。黒々とした地面に純白で透明な感じの細い茎がまっすぐに立っている。ギンリョウソウに通じるような質感だが、細くて直線的だ。近づくとランであることがわかったが、まったく知らないものだった。暗いために写真もうまくとれないまま帰宅して調べてみたらタシロランというランで、常緑樹林に生えるとあり、かなり珍しいもののようだった。津田塾大学の林はなかなか立派で、シイやカシの常緑樹林がうっそうと覆っている。タシロランはこの林が全体として豊富なものであることの証しであると思う。
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津田塾大学でみつかったタシロラン(左:棚橋早苗さん撮影)とその花(右)