玉川上水の小平市の東側に草原の野草が多い場所がある。それは学園西町と上水本町のあいだの旧小川水衛所跡と桜橋の南側(右岸)で、地元の「自生野草を守り育てる会」によって「自生野草保護観察ゾーン」(以下「野草観察ゾーン」と略記)として、上層の木を伐採して明るくし、草原の野草を戻す活動がおこなわれている。この活動は1993年から協議がおこなわれ、1995年より長さ800メートルほどのゾーンを管理しはじめたということである。
2016年9月11日の玉川上水の生き物観察会にはやや多めの人が参加するということだったので、この野草観察ゾーンで訪花昆虫の調査をおこなうことにした。意図は次のようなことである。
私は玉川上水の価値を、もちろん東京に残された貴重な動植物が残る緑地にあると考えているが、このことを指摘する報告書などにはほぼ決まりきった様式がある。それは動物や植物の名前をよく知る専門家に調査をしてもらい、各生物群のリストを作る。そしてその中に絶滅危惧種が何種あり、希少な種が何種あり、だからこの場所は保護するに値するというものである。もしそういう場所が開発されるとなると、そうした報告書は「威力」を発揮し、こういう希少な花があるからここは保護すべきだということになる。だが、逆にそういう動植物がなければ、開発をしてもよいということにもなる。また貴重な植物があった場合でも、「そうなら、別の場所に移植しましょう」として開発されることも珍しくない。
私はこの種の調査や報告書に2つの意味で批判的である。ひとつは希少だから価値が高いという価値観は、まちがいではないが、満足できるものではないからだ。たとえば、メダカはかつてどこにでもいた小魚であり、だれも保護の価値など認めなかった。そのために、メダカがいることは保護の理由にはならなかった。そのために1990年代になって日本中でメダカがいないことがわかり、突然絶滅危惧種となってしまった。そのような動植物はたくさんあると思う。少なくとも私は数が多い、少ないがその動植物の価値を決めるのではないと思う。すべての動植物はそれぞれの価値を持っているのは生態学が明らかにしてきたことである。
もうひとつは各分野の専門家がばらばらに「いる、いない」の調査をすることにどれほどの意味があるか疑問に思うからである。生き物は野外でさまざまなつながりを持って生きている。その生きている事実を見ないで、「いる、いない」だけをリストにするだけでその動植物を理解したことにはならない。そういう作業だけから、動植物への「リスペクト」は生まれない。このリスペクトは、敬意というのとはやや違い、愛おしさという感情も含まれ、動植物の生きていることのすばらしさを讃えるという感覚である。ありふれた動植物であっても、つながりをもった生き方を知れば、そのすばらしさを実感することができる。レスペクトをもつことは動植物を守るために最も重要な動機付けになるはずである。その意味で、ただのリスト作りは、価値がないとはいわないが、十分なものとはいえないと考える。
こうしたことを考えたとき、私は玉川上水の咲く花に昆虫が訪れるのを観察し、記録することは大きな意味があると思う。花は進化の過程でさまざまな工夫をして受粉をするようになった。イネ科の植物などは風によって花粉を受粉させるから「風媒花」と呼ぶ。バラ科やマメ科に代表されるような色彩豊かな花は昆虫によって受粉してもらうから「虫媒花」といい、このような昆虫は「訪花昆虫」という。花粉は英語でポーレン(pollen)といい、受粉をポリネーションといい、訪花昆虫はポリネーターという。
玉川上水は現在ではかなり立派なコナラやクヌギ、イヌシデなどの林になり、その結果、林床が暗くなって、開花する植物は少なくなっている。そのことを憂慮して管理されるようになったのが「野草観察ゾーン」であり、実際、春にはニリンソウ、夏から秋にはツリガネニンジン、シラヤマギク、ワレモコウなど多くの虫媒花が咲くようになった。
虫媒花は実に多様で、花の色、形によって利用する訪花昆虫も違う。どの花に、どの訪花昆虫が訪問するかを知ることは、上記の動植物のつながりを理解することそのものである。
私が目指しているもうひとつは、この調査をいわば訓練を受けた専門家や大学院生などがおこなうのではなく、ごくふつうの人ではあるが、玉川上水に関心をもつ人、動植物に興味をもつ人がおこなうということである。そのために、得られるデータなどには一定の限界があるが、一方で市民参加型の調査でも自然を理解することができることを示すことができれば大きな意味がある。もし、こうした試みがうまくうけば、参加者が動植物にさらに関心をもち、上記の「ふつうの動植物でも、つながりを理解すればそのすばらしさがわかる」ことにつながるであろう。そして、こうした活動の意味が理解されれば、ほかのグループでもこのような活動を採用する可能性があり、そうした期待もある。
「野草保護観察ゾーン」に着く
やや急ぎ足で「野草保護観察ゾーン」まで行く。ここは玉川上水を「保護」する、つまり、コナラやイヌシデの木を育つように育たせたため、地面が暗くなり、野草がなくなって来たと感じた人たちが、東京都と小平市を説得して、この範囲だけでよいから上の木を伐って明るくし、もともとあった野草をもどそうという活動をしている場所である。
玉川上水は江戸時代に、江戸市民の飲料水を確保するために造成された運河、つまり「上水」である。上水であるからゴミはいうまでもなく、枯葉などが入ってはいけない。そのため上水の沿岸は伐採と刈り取りを繰り返し、大きな木や藪がないように管理されてきたのである。ところが上水の機能を終え、水もながされなくなり、玉川上水とは「憩いのための緑地」になった。そして木を伐採することなく育つままに放置されるようになった。この「放置」が遺跡保存である。それはコナラやイヌシデには好都合だが、明るい場所に生える草本類には不利となる。そこで有志が野草をとりもどすために木を伐る必要を説得したというわけである。木を伐ることが「保護」で、遺跡を「保存しない」というのは皮肉だが、植生遷移を考えれば当然のことである。植生管理には「群落をどの状態にするか」のビジョンが不可欠であり、ブナ林の保護には伐採はしてはならないが、ススキ群落は逆に刈り取りを繰り返すことが不可欠である。玉川上水の「野草保護観察ゾーン」はススキ群落に生える植物の復活を目指しているから、そのための管理が必要なのは当然のことで、ここで「木を伐るのは自然破壊だ」という「自然保護」を持ち出すのはまちがっている。
私は少し前に下見をかねてここを訪れて、ツリガネニンジンやシラヤマギク、アキカラマツ、センニンソウなどが咲いているのを確認していた。そして観察会で訪花昆虫の調査をしてもらうことにした。訪花昆虫というのは文字通り花を訪れる昆虫で、花の蜜を吸いに花を訪れ、体に花粉をつけて別の花に行って受粉をする昆虫のことである。英語で花粉のことをポーレンpollenといい、受粉することをポリネーション、受粉する昆虫をポリネーターというから、訪花昆虫はポリネーターということになる。こうして昆虫に花粉を受け渡ししてもらう花を虫媒花という。「昆虫に仲人(媒酌人)をしてもらう花」という意味である。ということはほかにも仲人がいるはずだが、何だろう。熱帯や亜熱帯にはコウモリが受粉する「コウモリ媒花」もあるが、これはかなり特殊なものといえる。それより、ごく一般的なもので「風媒花」がある。ヨモギなどのキク科やイネ科に多く、スギやハンノキなどの木の花にも多い。そう考えると、ごく当たり前のことに思い当たる。花がきれいなのは昆虫を魅きつけるためなのだと。その言い方は正しくない。きれいというより華やかあるいはカラフルというべきであろう。というのはイネ科の花など実に「美しい」からだ。カラフルやデコレーションが豊富という意味の華麗さはないが、洗練された機能美という意味ではイネ科の花は実に「美しい」。ススキの穂に夕日が当たるのを見ればイネ科の花の美しさに打たれない人はいない。
虫媒花にもどれば、華やかな美しさの花は人が愛でるが、花からすれば人が眺めることになんの意味もない。花は受粉のために昆虫を魅きつけるための宣伝効果を狙ったものなのである。イネ科やヨモギの花が地味なのはその必要がないからである。宣伝効果を狙うにはどうあるべきか。そのありとあらゆる工夫が虫媒花に集約されている。紅一点というのは緑の中に補色である赤があれば目立つことをいうが、虫媒花は赤だけでなく、黄色、紫、青と目立つ色である。正確にはヒトの目にも目立つが、花にとっては昆虫に目立たなければ意味がない。花の中に違う色の点々があれば、「この奥に美味しい蜜がありますよ」というシグナルである。
ノイバラというバラの原種に近い野生のバラがあるが、この花は白で、白も緑の中でよく目立つ色である。花びらは5枚が皿のような形をしている。その中心部に蜜があるから、よくハエなどが来ている。これに対してツリフネソウという花がある。船を吊り下げたような花という意味だが、細長い筒状の花が細い柄でぶらさがっているので、風が吹けばブラブラと揺れる。この花の作りは複雑で、全体は濃いピンク色だが、筒の部分は白く、そこに濃い紅色の点々があり、左右にはオレンジ色の模様がある。筒部は奥で急に細くなり、一番奥の部分でくるりと一回転する。花の蜜はその中にあるから、短い棍棒状の吻(口のこと)を持つハエやアブは花の中に入っても蜜にはありつけない。チョウは細長いストローのような吻をもつが、ツリフネソウの奥まで届く吻をもつものはいないだろう。では誰が入るかといえば、マルハナバチの仲間である。ツリフネソウの花筒はちょうどマルハナバチの胴体の大きさである。ハチは中に入って奥に進む、そして思いがけないほど長く伸びる吻を伸ばして奥にある蜜を吸う。ツリフネソウの雄しべは入り口の上の部分にあり、もぐり込むマルハナバチの背中につく。こうしてツリフネソウはもっぱらマルハナバチを魅きつけて確実に受粉させる。
ノイバラ
ツリフネソウ
このように花の形が違えば来訪する訪花昆虫が違う。したがって、多様な花があれば、それを利用する昆虫も多様になり、そこに複雑な動植物のつながりが形成されていることになる。では市街地を流れる玉川上水にはどういう虫媒花と訪花昆虫のつながりがあるのだろうか。これをこの調査の目的とした。
この日は十数人の人に訪花昆虫の記録をしてもらうことにしていたので、どの花の前に立ってもらうかを決めないといけない。咲いていた花で一番多かったのはシラヤマギクで、ほかにアキカラマツ、センニンソウなども場所によってまとまって咲いていた。そうしていると、反対側から二人のご婦人が歩いてきて、私たちをみて
「ツルフジバカマが咲いていますよ、見てくださいね」
と言ってくださった。
ツルフジバカマ、オミナエシ、それにカリガネソウは限られた場所にしかなかった。こういう植物が市街地にあるのは驚くべきことだろう。とくにカリガネソウはそうどこにでもある草ではない。それがまとまってあったので、ぜひ観察をしてもらいたいと思った。
記録のしかたを説明する
そこで、記録のしかたを説明した。まず、記録する花を決める。それは具体的な場所に行って私が「この花をお願いします」ということにした。対象が1株の場合もあるし、数株、また複数種のこともあった。観察する花に昆虫が来たら時刻と昆虫の名前を記録してもらった。昆虫の名前はむずかしいので、以下の7群とした。
ハエまたはアブ、ハチ、チョウ、ガ、甲虫、アリ、その他
ハエとアブは印象は違うが、同じ双翅目で、ハエの大きいのがアブにすぎない。この仲間にはハエに擬態したものもいるので、ハチとの区別だけはしっかりするように念を押した。ヒラタアブはアブだが、胴体に黄色と黒の段だら模様があって、一見ハチに見える。ハチはマルハナバチや腰のくびれたのはすぐにわかるが、ミツバチのようなものにはハエのように見えるものもいる。だが、頭に折れ曲がる触覚があるので、ここをよく見るように指示した。
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訪花昆虫
記録は10分間とし、各人のつごうで自由に開始してもらい、一休みしてから、次の記録をとってもらった。
観察対象とした花はシラヤマギク、オミナエシ、キンミズヒキ、ツルフジバカマ、カリガネソウ、アキノタムラソウ、ツルボとした。
結果は?
全体としては12時半から1時間ほどのあいだに、各自を持ち場に据え、説明をしたりしたので、記録をとる10分間のセッションは2、3回程度だった。遅く始めた人には1回しかとれなかった人もいたが、全体として39回分がとれた。その後17日に私が追加的なデータをとって合計47セッションになった。
お昼休みに記録を写させてもらった。それをもとに表を作り、グラフを描いてみたら、次のようなことがわかった。
一人が観察した花の数は大きく違うので、観察された訪花昆虫の数は花あたりの数字ではないが、記録数をもとに10分あたりの訪花昆虫数をみると、オミナエシが最も多く、シラヤマギク、ツルボがこれに次ぎ、カリガネソウは非常に少な かった。訪花昆虫のうち、チョウはキチョウの 1 例を除き、ほとんどがセセリチョウ科であった。ガはクサギにオオスカシバがきたほか、ツルフジバカマに小型のガが来訪した。 甲虫にはハムシ科とハナムグリ類であった。
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図2 訪花昆虫数(10分あたりの平均値)
オミナエシ
オミナエシは訪花昆虫数はほかの花に比べて飛び抜けて多く、毎秒1匹以上の訪花昆虫が訪問していたことになる。来訪したのは小型のハチが多く、ハエ、アブも来ていた。
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図 3(1) オミナエシへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
シラヤマギク
シラヤマギクも訪花昆虫が多く、平均すると 3 秒に一度の訪問を受けていた。最も 多いのはハエ、アブで、少ないながらハチ、チョウも訪問した。
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図 3(2) シラヤマギクへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
センニンソウ
センニンソウも訪花昆虫が多く、そのほとんどはハエ、アブであった。
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図 3(3) センニンソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
キンミズヒキ
キンミズヒキに来たのは大半がハエで、チョウも少し来た。
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図 3(4) キンミズヒキへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ツルボ
ツルボは草丈が低く、草本群落の縁に咲いていた。訪花昆虫の大半はハチだったが、観 察時間以外ではヤマトシジミなどチョウや、ハエ、甲虫(ハムシ科)も観察された。
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図 3(5)ツルボへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
アキノタムラソウ
アキノタムラソウはススキの葉陰に目立たない状態で咲いていた。訪花昆虫はほとんど がハエ、アブでアリも来訪した。
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図 3(6) アキノタムラソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ノハラアザミ
ノハラアザミは花期をすぎ、綿毛状の果実が風に飛んでいるものも多かった。セセリチ ョウがよく訪問しており、ハチも見られた。
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図 3(7) ノハラアザミへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
クサギ
クサギは観察した唯一の木本であった。花期はすぎていたが、観察時間の一部でガ(オ オスカシバ)が現れ、高頻度に訪問した。同じ日ではないが、8 月下旬に同じ木をアゲハ チョウが訪問しているのを観察した。
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図 3(8) クサギへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ツルフジバカマ
ツルフジバカマへの訪花昆虫は少なかったが、ガが来訪したほか、アリが見られた。
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図 3(9) ツルフジバカマへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
アキカラマツ
アキカラマツへの訪花昆虫は少なかったが、多くの虫媒花がハチ、アブまたはハチある いはガなど特定の昆虫群に偏ることが多かったのに対して、アキカラマツの場合はハチ、 甲虫(ハナムグリ類)、その他(カメムシ)など、多様な昆虫群が来訪していた。
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図 3(10) アキカラマツへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
カリガネソウ
カリガネソウは観察時間中まったく訪花昆虫が来ないセッションがあったが、クマバチ が訪問すると、短時間につぎつぎと近くにある花を訪問した。9 月 17 日にはチョウ(キタ キチョウ)が来訪した。
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図 3(11) カリガネソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
<花の数と昆虫の数>
調査地にある花の数は種ごとに大きな違いがある。9 月上旬であればシラヤマギクが非 常に多かった。またアキカラマツやセンニンソウなどは局所的に集中的にあったから、面 積あたりの花数を平均的に代表しない。そのようなこともあるし、キキョウのように茎の 先端に少数の花をつけるものから、シラヤマギクやアキカラマツ、キンミズヒキのように 花穂に多数の小花をつけるものもあるから、昆虫の数はそのことにも影響を受けているは ずである。オミナエシへの訪花昆虫数の多さは、オミナエシの株がごく限られている(記 録をとったのは 1 箇所だけ)ために、この花を好む昆虫が集中したのかもしれない。また シラヤマギクでの訪花昆虫数が多かったのは、単に花数の多さを反映しているにすぎない のかもしれない。つまり訪花昆虫の数は花の「人気」を表しているのではなく、もしそれ を評価するのであれば、花数あたりの訪花昆虫数を求めるほうがよいが、この調査ではそ れはしていない。
一方、花の数が多いのはその植物の形態的特徴で株あたりの花数が多いということだけ でなく、その植物が生育地に適していて、多くの株が生育できているためでもある。そう であれば、「人気」があろうがなかろうが、一定面積に花がたくさんあること自体に意味が あり、花あたりの訪花昆虫数が少なくても、トータルに多くの訪花昆虫を引きつけていれ ばそれでよいという考えもありうる。
利用する昆虫の側からすれば、ごく少数あって非常に美味しい蜜を出す植物を探して吸 蜜するという昆虫もいれば、さほどおいしくはないが、ある程度満足できる味の蜜があり、 それがたくさんあるほうがよいという昆虫もいるであろう。ある場所での訪花昆虫の数と は、そうした植物と昆虫の集団どうしの関係が展開されていると見ることができる。
そのように考えれば、9 月上旬のこの調査地にはシラヤマギクが豊富にあり、草丈が 2 メートルもある大きな株に多数の花が咲いており、そこに多数の訪花昆虫が来ていたこと は、この場所の昆虫群集にとってシラヤマギクがもっとも魅力的な花蜜供給源になってい るとみてようであろう。そのシラヤマギクにはハエがもっとも多く来訪したが、ハチやチ ョウも来ていた。これに対してカリガネソウは訪花昆虫が少なく、ほぼクマバチだけであ ったし、クサギはガ(オオスカシバ)が独占的であった。
<花の形と昆虫>
観察した 11 種の花を整理してみた(表1)。
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分類学的にはキンポウゲ科、キク科、クマツヅラ科が2種あったが、それ以外は違う科 に属し、多様なグループをカバーしている。クサギを除けばすべて草本である。
花の形は多様で、類型も複雑になるが、ここでは訪花昆虫との関係から皿状の花と筒状 の花に大別した(図4)。
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図4. 訪花昆虫を調べた花.上の5種が皿形,下の6種が筒型
皿状の花は蜜が得やすく、ハエ、アブのような舐めるタイプの昆虫でも吸蜜可能である。実際、キンミズヒキとセンニンソウにはおもにハエ、アブが来訪していた。皿状であることは吻の長い昆虫が利用できないことを意味しない。実際、アキカラマ ツ、オミナエシ、ツルボにはハチが来訪していた。アキカラマツにはハナムグリが来訪し ていたが、ハナムグリは吸蜜ではなく花粉を食べていたと思われる。
筒状の花はハエ、アブを排除し、チョウやハチと特殊化した関係をもつと考えられる。 そのうち、カリガネソウにはクマバチが来た(図5)。この花は典型的なハチ媒花であり。 細長い花筒の奥にある蜜はハエ、アブは吸蜜できない。
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図5. カリガネソウに来たクマバチ
クサギにはオオスカシバが来て、ホバリングしながら吸蜜していた。クサギの花筒は 20 ミリほどあり、大型のチョウやガしか吸蜜できない。ノハラアザミにはチョウ(セセリチョ ウ)とハチが来訪していた。しかしアキノタムラソウとシラヤマギクは筒状の花であるにもかかわらず、ハエ、アブがよく来訪していた。アキノタムラソウは観察した花も少なく、ビギナーの1例しかないので、結論は保留としておきたい。シラヤマギクは筒型の花であるが、ハエ、アブも多く来訪していた。
ここで、同じキク科であるノハラアザミとシラヤマギクの比較をしてみたい。これらの 花は頭状花と呼ばれ、ツボ状の総苞のも中に筒状の花がたくさん集まっている。アザミの 場合は筒状花の先端に縦にのびる花びらがあり、その中から雄しべ、またはめしべが飛び 出している(図5)。筒の部分の上部は長さ3mmほどでやや広く、下部 は狭くなっており長さは 10mm ほどある。
これに対してシラヤマギクの場合、頭状花の淵の部分に白い舌のような花弁(「舌状花」) がある。コスモスやマーガレットなどよく知られたキク科は舌状化をもち、「野菊」も同様 である。筒状花では花弁は2mm 程度と短く、筒の上部は2mmほどの長さで、下部もアザ ミよりはよほど短く3mm ほどしかない(図6)。
私は実際に筒のどの部分に蜜があるのかを知らないが、シラヤマギクのほうが浅いこと はまちがいないはずで、アザミの筒の一番下だったらハエはまったく利用できそうもない。 太い部分の基部であっても難しいだろうが、シラヤマギクであればなんとかなりそうだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/96/83827f9ab6130051f493f4d2a79b70e8.jpg)
図6. ノハラアザミ(左)とシラヤマギク(右)の筒状花.格子の間隔は 5mm.
ノハラアザミに来たセセリチョウの写真をみると、確かに長いストローのような吻を伸 ばして吸蜜している(図7)。こうした花の構造と昆虫の吸蜜についてもっとつっこんだ調 査をする必要がある。
表1のうち、筒型の花はほぼチョウやハチのような吻の長い昆虫に利用され、例外がシ ラヤマギクだが、この例外は花筒が短いという点で、筒型であることで吻の長い昆虫専門 になっていないということであるようだ。
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図7. ノハラアザミを吸蜜するセセリチョウ
この整理によってうかがわれることは、これまで漠然と「さまざまな花にさまざまな昆虫がきている」としか見ていなかったが、花の形に着目すると、皿形の花にはハチなどだけでなく、ハエやアブも利用できるが、筒型の花には基本的にチョウやハチしか来ないという違いがあることがわかるようになるということである。つまり、昆虫を利用する花が構造を違えることによって訪問者を広く集めたり、制限を加えたりしていることが見えてきた。それは、ただ「花や虫にもいろいろあるなあ」とはまったく違う「見え方」といえる。
次に、データを整理して、左側に花を、右側に昆虫群を並べて、そのつながりの程度を 線で結んでみた(図8)。皿状の花を上半分に、筒状の花を下半分に配置した。太い線ほど 訪花頻度が高かったことを示す。
これを見ると全体に太い線が上にあることがわかる。つまり皿状の花がハエ、アブ、ハ チに頻繁に訪問される傾向があるということである。皿状の花で訪花頻度が低かったのは アキカラマツとキンミズヒキだったが、その理由はよくわからない。そしてその花は 2 群 または 3 群の昆虫群の訪問を受けていた。シラヤマギクは筒状だが、すでに述べたように花筒部が浅いのでハエ、アブでも訪問できた。これを除くと筒状の花は 2 群の昆虫群に低 頻度で訪問されていた。この図では表現されていないが、これらの多くは量的には多くないので、その花の前で待っていても、たまに特殊な昆虫が来て集中的に吸蜜しては、また飛び去るという印象であった。この中でノハラアザミだけは植物体も大きく、群落を作っていて、花がまとまってあり、訪花頻度は低いのだが、群落面積が広いから、かなりの数の昆虫が訪問しているという印象がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/21/905424ce28171d526859cb72ed39b170.jpg)
図8. 9 月の玉川上水で観察された虫媒花と訪花昆虫のつながりのネットワーク
繰り返しもあるが、まとめてみたい。秋の日の野草観察ゾーン、文字通りいろいろな野 草の咲く草原にはブンブンとあるいはプーンと羽音をたてて昆虫がいて花を訪問していた。 音もなく訪れる昆虫もいた。この季節にはハエ、アブが多く、彼らは棍棒状の吻で蜜を舐 めるので、蜜が舐められる皿形の花によく来た。皿形の花をもつオミナエシやセンニンソ ウ、ツルボなどがときどきあり、そこによく集まっていた。シラヤマギクがとくにたくさ んあったが、この花は皿形ではなく、筒型なので、ふつはハエ、アブは吸蜜できないのだ が、花の筒が浅いのでハエ、アブもたくさん来ていた。ほかの筒型の花はところどころに しかなく、ハエ、アブはほとんど来なかった。例えばカリガネソウ、クサギ、ツルフジバ カマなどには、ときどきあまりみないクマバチやオオスカシバ、ガの一種などが来て集中 的に吸蜜しては飛び去った。ノハラアザミは筒状の花の中では量が多く、おもにチョウが 来たが、ハエ、アブも来ていた。
<観察活動について>
日曜日の午前中に集まって昼ごろの1時間を観察に使った。それにより39セッションの データがとれた(その後ひとりで 8 セッションを追加)。初心者を対象としたので、昆虫の類型は粗くした。双翅目(ハエ、アブ)とハチの区別は説明したが、小さいハチ擬態の双翅目が瞬時に訪花して飛び去った場合、誤認して「ハチ」とした例がないとはいえない。 また、私の説明が十分でなかったため、同じ昆虫が同じ花を複数回訪問した場合、1 回として記録した人があった。これらの点は改善したい。
しかし、まったくの初心者が1時間ほどの時間を花に向かい合って昆虫の記録をするこ とで、興味深い結果が得られたことは、観察会としてよかったと思う。それはよくある、 散歩しながら花の名前を確認するだけの観察会とは明らかに違うものといえよう。普段は美術を学ぶ学生や、悠々自適の年配者が、日常的にはしたことのないこうした体験をすることで、これまで何気なくながめていた草花に昆虫が来ること、その来かたが、花の形によって違うことなどを知れば、今後はそれまでと違う気持ちで草花を見るようになるだろ う。この観察はその契機になると思う。
われわれが観察した場所はすぐ脇を五日市街道が走っており、自動車がひっきりなしに 往来している(図9)。
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図9. 訪花昆虫を観察する参加者。背後の五日市街道には多数の自動車が往来している。
そのような場所にたくさんの野草があり、それに多数の昆虫が来訪している。そのこと 自体の意味は、都市における自然保護や、自然観察についても改めて考えることがあるこ とを示唆しているように思う。
協力者: 岡村有紀、楠本未来、小林昭文、佐々木彩花、関野吉晴、棚橋早苗、寺尾 葉、成瀬つばさ、根岸まりな、松山景二、水口和恵、宮嶋和貴子、宮元伸也、望月禅観、和田七海
2016年9月11日の玉川上水の生き物観察会にはやや多めの人が参加するということだったので、この野草観察ゾーンで訪花昆虫の調査をおこなうことにした。意図は次のようなことである。
私は玉川上水の価値を、もちろん東京に残された貴重な動植物が残る緑地にあると考えているが、このことを指摘する報告書などにはほぼ決まりきった様式がある。それは動物や植物の名前をよく知る専門家に調査をしてもらい、各生物群のリストを作る。そしてその中に絶滅危惧種が何種あり、希少な種が何種あり、だからこの場所は保護するに値するというものである。もしそういう場所が開発されるとなると、そうした報告書は「威力」を発揮し、こういう希少な花があるからここは保護すべきだということになる。だが、逆にそういう動植物がなければ、開発をしてもよいということにもなる。また貴重な植物があった場合でも、「そうなら、別の場所に移植しましょう」として開発されることも珍しくない。
私はこの種の調査や報告書に2つの意味で批判的である。ひとつは希少だから価値が高いという価値観は、まちがいではないが、満足できるものではないからだ。たとえば、メダカはかつてどこにでもいた小魚であり、だれも保護の価値など認めなかった。そのために、メダカがいることは保護の理由にはならなかった。そのために1990年代になって日本中でメダカがいないことがわかり、突然絶滅危惧種となってしまった。そのような動植物はたくさんあると思う。少なくとも私は数が多い、少ないがその動植物の価値を決めるのではないと思う。すべての動植物はそれぞれの価値を持っているのは生態学が明らかにしてきたことである。
もうひとつは各分野の専門家がばらばらに「いる、いない」の調査をすることにどれほどの意味があるか疑問に思うからである。生き物は野外でさまざまなつながりを持って生きている。その生きている事実を見ないで、「いる、いない」だけをリストにするだけでその動植物を理解したことにはならない。そういう作業だけから、動植物への「リスペクト」は生まれない。このリスペクトは、敬意というのとはやや違い、愛おしさという感情も含まれ、動植物の生きていることのすばらしさを讃えるという感覚である。ありふれた動植物であっても、つながりをもった生き方を知れば、そのすばらしさを実感することができる。レスペクトをもつことは動植物を守るために最も重要な動機付けになるはずである。その意味で、ただのリスト作りは、価値がないとはいわないが、十分なものとはいえないと考える。
こうしたことを考えたとき、私は玉川上水の咲く花に昆虫が訪れるのを観察し、記録することは大きな意味があると思う。花は進化の過程でさまざまな工夫をして受粉をするようになった。イネ科の植物などは風によって花粉を受粉させるから「風媒花」と呼ぶ。バラ科やマメ科に代表されるような色彩豊かな花は昆虫によって受粉してもらうから「虫媒花」といい、このような昆虫は「訪花昆虫」という。花粉は英語でポーレン(pollen)といい、受粉をポリネーションといい、訪花昆虫はポリネーターという。
玉川上水は現在ではかなり立派なコナラやクヌギ、イヌシデなどの林になり、その結果、林床が暗くなって、開花する植物は少なくなっている。そのことを憂慮して管理されるようになったのが「野草観察ゾーン」であり、実際、春にはニリンソウ、夏から秋にはツリガネニンジン、シラヤマギク、ワレモコウなど多くの虫媒花が咲くようになった。
虫媒花は実に多様で、花の色、形によって利用する訪花昆虫も違う。どの花に、どの訪花昆虫が訪問するかを知ることは、上記の動植物のつながりを理解することそのものである。
私が目指しているもうひとつは、この調査をいわば訓練を受けた専門家や大学院生などがおこなうのではなく、ごくふつうの人ではあるが、玉川上水に関心をもつ人、動植物に興味をもつ人がおこなうということである。そのために、得られるデータなどには一定の限界があるが、一方で市民参加型の調査でも自然を理解することができることを示すことができれば大きな意味がある。もし、こうした試みがうまくうけば、参加者が動植物にさらに関心をもち、上記の「ふつうの動植物でも、つながりを理解すればそのすばらしさがわかる」ことにつながるであろう。そして、こうした活動の意味が理解されれば、ほかのグループでもこのような活動を採用する可能性があり、そうした期待もある。
「野草保護観察ゾーン」に着く
やや急ぎ足で「野草保護観察ゾーン」まで行く。ここは玉川上水を「保護」する、つまり、コナラやイヌシデの木を育つように育たせたため、地面が暗くなり、野草がなくなって来たと感じた人たちが、東京都と小平市を説得して、この範囲だけでよいから上の木を伐って明るくし、もともとあった野草をもどそうという活動をしている場所である。
玉川上水は江戸時代に、江戸市民の飲料水を確保するために造成された運河、つまり「上水」である。上水であるからゴミはいうまでもなく、枯葉などが入ってはいけない。そのため上水の沿岸は伐採と刈り取りを繰り返し、大きな木や藪がないように管理されてきたのである。ところが上水の機能を終え、水もながされなくなり、玉川上水とは「憩いのための緑地」になった。そして木を伐採することなく育つままに放置されるようになった。この「放置」が遺跡保存である。それはコナラやイヌシデには好都合だが、明るい場所に生える草本類には不利となる。そこで有志が野草をとりもどすために木を伐る必要を説得したというわけである。木を伐ることが「保護」で、遺跡を「保存しない」というのは皮肉だが、植生遷移を考えれば当然のことである。植生管理には「群落をどの状態にするか」のビジョンが不可欠であり、ブナ林の保護には伐採はしてはならないが、ススキ群落は逆に刈り取りを繰り返すことが不可欠である。玉川上水の「野草保護観察ゾーン」はススキ群落に生える植物の復活を目指しているから、そのための管理が必要なのは当然のことで、ここで「木を伐るのは自然破壊だ」という「自然保護」を持ち出すのはまちがっている。
私は少し前に下見をかねてここを訪れて、ツリガネニンジンやシラヤマギク、アキカラマツ、センニンソウなどが咲いているのを確認していた。そして観察会で訪花昆虫の調査をしてもらうことにした。訪花昆虫というのは文字通り花を訪れる昆虫で、花の蜜を吸いに花を訪れ、体に花粉をつけて別の花に行って受粉をする昆虫のことである。英語で花粉のことをポーレンpollenといい、受粉することをポリネーション、受粉する昆虫をポリネーターというから、訪花昆虫はポリネーターということになる。こうして昆虫に花粉を受け渡ししてもらう花を虫媒花という。「昆虫に仲人(媒酌人)をしてもらう花」という意味である。ということはほかにも仲人がいるはずだが、何だろう。熱帯や亜熱帯にはコウモリが受粉する「コウモリ媒花」もあるが、これはかなり特殊なものといえる。それより、ごく一般的なもので「風媒花」がある。ヨモギなどのキク科やイネ科に多く、スギやハンノキなどの木の花にも多い。そう考えると、ごく当たり前のことに思い当たる。花がきれいなのは昆虫を魅きつけるためなのだと。その言い方は正しくない。きれいというより華やかあるいはカラフルというべきであろう。というのはイネ科の花など実に「美しい」からだ。カラフルやデコレーションが豊富という意味の華麗さはないが、洗練された機能美という意味ではイネ科の花は実に「美しい」。ススキの穂に夕日が当たるのを見ればイネ科の花の美しさに打たれない人はいない。
虫媒花にもどれば、華やかな美しさの花は人が愛でるが、花からすれば人が眺めることになんの意味もない。花は受粉のために昆虫を魅きつけるための宣伝効果を狙ったものなのである。イネ科やヨモギの花が地味なのはその必要がないからである。宣伝効果を狙うにはどうあるべきか。そのありとあらゆる工夫が虫媒花に集約されている。紅一点というのは緑の中に補色である赤があれば目立つことをいうが、虫媒花は赤だけでなく、黄色、紫、青と目立つ色である。正確にはヒトの目にも目立つが、花にとっては昆虫に目立たなければ意味がない。花の中に違う色の点々があれば、「この奥に美味しい蜜がありますよ」というシグナルである。
ノイバラというバラの原種に近い野生のバラがあるが、この花は白で、白も緑の中でよく目立つ色である。花びらは5枚が皿のような形をしている。その中心部に蜜があるから、よくハエなどが来ている。これに対してツリフネソウという花がある。船を吊り下げたような花という意味だが、細長い筒状の花が細い柄でぶらさがっているので、風が吹けばブラブラと揺れる。この花の作りは複雑で、全体は濃いピンク色だが、筒の部分は白く、そこに濃い紅色の点々があり、左右にはオレンジ色の模様がある。筒部は奥で急に細くなり、一番奥の部分でくるりと一回転する。花の蜜はその中にあるから、短い棍棒状の吻(口のこと)を持つハエやアブは花の中に入っても蜜にはありつけない。チョウは細長いストローのような吻をもつが、ツリフネソウの奥まで届く吻をもつものはいないだろう。では誰が入るかといえば、マルハナバチの仲間である。ツリフネソウの花筒はちょうどマルハナバチの胴体の大きさである。ハチは中に入って奥に進む、そして思いがけないほど長く伸びる吻を伸ばして奥にある蜜を吸う。ツリフネソウの雄しべは入り口の上の部分にあり、もぐり込むマルハナバチの背中につく。こうしてツリフネソウはもっぱらマルハナバチを魅きつけて確実に受粉させる。
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ノイバラ
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ツリフネソウ
このように花の形が違えば来訪する訪花昆虫が違う。したがって、多様な花があれば、それを利用する昆虫も多様になり、そこに複雑な動植物のつながりが形成されていることになる。では市街地を流れる玉川上水にはどういう虫媒花と訪花昆虫のつながりがあるのだろうか。これをこの調査の目的とした。
この日は十数人の人に訪花昆虫の記録をしてもらうことにしていたので、どの花の前に立ってもらうかを決めないといけない。咲いていた花で一番多かったのはシラヤマギクで、ほかにアキカラマツ、センニンソウなども場所によってまとまって咲いていた。そうしていると、反対側から二人のご婦人が歩いてきて、私たちをみて
「ツルフジバカマが咲いていますよ、見てくださいね」
と言ってくださった。
ツルフジバカマ、オミナエシ、それにカリガネソウは限られた場所にしかなかった。こういう植物が市街地にあるのは驚くべきことだろう。とくにカリガネソウはそうどこにでもある草ではない。それがまとまってあったので、ぜひ観察をしてもらいたいと思った。
記録のしかたを説明する
そこで、記録のしかたを説明した。まず、記録する花を決める。それは具体的な場所に行って私が「この花をお願いします」ということにした。対象が1株の場合もあるし、数株、また複数種のこともあった。観察する花に昆虫が来たら時刻と昆虫の名前を記録してもらった。昆虫の名前はむずかしいので、以下の7群とした。
ハエまたはアブ、ハチ、チョウ、ガ、甲虫、アリ、その他
ハエとアブは印象は違うが、同じ双翅目で、ハエの大きいのがアブにすぎない。この仲間にはハエに擬態したものもいるので、ハチとの区別だけはしっかりするように念を押した。ヒラタアブはアブだが、胴体に黄色と黒の段だら模様があって、一見ハチに見える。ハチはマルハナバチや腰のくびれたのはすぐにわかるが、ミツバチのようなものにはハエのように見えるものもいる。だが、頭に折れ曲がる触覚があるので、ここをよく見るように指示した。
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訪花昆虫
記録は10分間とし、各人のつごうで自由に開始してもらい、一休みしてから、次の記録をとってもらった。
観察対象とした花はシラヤマギク、オミナエシ、キンミズヒキ、ツルフジバカマ、カリガネソウ、アキノタムラソウ、ツルボとした。
結果は?
全体としては12時半から1時間ほどのあいだに、各自を持ち場に据え、説明をしたりしたので、記録をとる10分間のセッションは2、3回程度だった。遅く始めた人には1回しかとれなかった人もいたが、全体として39回分がとれた。その後17日に私が追加的なデータをとって合計47セッションになった。
お昼休みに記録を写させてもらった。それをもとに表を作り、グラフを描いてみたら、次のようなことがわかった。
一人が観察した花の数は大きく違うので、観察された訪花昆虫の数は花あたりの数字ではないが、記録数をもとに10分あたりの訪花昆虫数をみると、オミナエシが最も多く、シラヤマギク、ツルボがこれに次ぎ、カリガネソウは非常に少な かった。訪花昆虫のうち、チョウはキチョウの 1 例を除き、ほとんどがセセリチョウ科であった。ガはクサギにオオスカシバがきたほか、ツルフジバカマに小型のガが来訪した。 甲虫にはハムシ科とハナムグリ類であった。
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図2 訪花昆虫数(10分あたりの平均値)
オミナエシ
オミナエシは訪花昆虫数はほかの花に比べて飛び抜けて多く、毎秒1匹以上の訪花昆虫が訪問していたことになる。来訪したのは小型のハチが多く、ハエ、アブも来ていた。
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図 3(1) オミナエシへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
シラヤマギク
シラヤマギクも訪花昆虫が多く、平均すると 3 秒に一度の訪問を受けていた。最も 多いのはハエ、アブで、少ないながらハチ、チョウも訪問した。
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図 3(2) シラヤマギクへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
センニンソウ
センニンソウも訪花昆虫が多く、そのほとんどはハエ、アブであった。
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図 3(3) センニンソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
キンミズヒキ
キンミズヒキに来たのは大半がハエで、チョウも少し来た。
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図 3(4) キンミズヒキへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ツルボ
ツルボは草丈が低く、草本群落の縁に咲いていた。訪花昆虫の大半はハチだったが、観 察時間以外ではヤマトシジミなどチョウや、ハエ、甲虫(ハムシ科)も観察された。
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図 3(5)ツルボへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
アキノタムラソウ
アキノタムラソウはススキの葉陰に目立たない状態で咲いていた。訪花昆虫はほとんど がハエ、アブでアリも来訪した。
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図 3(6) アキノタムラソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ノハラアザミ
ノハラアザミは花期をすぎ、綿毛状の果実が風に飛んでいるものも多かった。セセリチ ョウがよく訪問しており、ハチも見られた。
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図 3(7) ノハラアザミへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
クサギ
クサギは観察した唯一の木本であった。花期はすぎていたが、観察時間の一部でガ(オ オスカシバ)が現れ、高頻度に訪問した。同じ日ではないが、8 月下旬に同じ木をアゲハ チョウが訪問しているのを観察した。
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図 3(8) クサギへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
ツルフジバカマ
ツルフジバカマへの訪花昆虫は少なかったが、ガが来訪したほか、アリが見られた。
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図 3(9) ツルフジバカマへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
アキカラマツ
アキカラマツへの訪花昆虫は少なかったが、多くの虫媒花がハチ、アブまたはハチある いはガなど特定の昆虫群に偏ることが多かったのに対して、アキカラマツの場合はハチ、 甲虫(ハナムグリ類)、その他(カメムシ)など、多様な昆虫群が来訪していた。
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図 3(10) アキカラマツへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
カリガネソウ
カリガネソウは観察時間中まったく訪花昆虫が来ないセッションがあったが、クマバチ が訪問すると、短時間につぎつぎと近くにある花を訪問した。9 月 17 日にはチョウ(キタ キチョウ)が来訪した。
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図 3(11) カリガネソウへの訪花昆虫の数(10 分間の回数の平均値)
<花の数と昆虫の数>
調査地にある花の数は種ごとに大きな違いがある。9 月上旬であればシラヤマギクが非 常に多かった。またアキカラマツやセンニンソウなどは局所的に集中的にあったから、面 積あたりの花数を平均的に代表しない。そのようなこともあるし、キキョウのように茎の 先端に少数の花をつけるものから、シラヤマギクやアキカラマツ、キンミズヒキのように 花穂に多数の小花をつけるものもあるから、昆虫の数はそのことにも影響を受けているは ずである。オミナエシへの訪花昆虫数の多さは、オミナエシの株がごく限られている(記 録をとったのは 1 箇所だけ)ために、この花を好む昆虫が集中したのかもしれない。また シラヤマギクでの訪花昆虫数が多かったのは、単に花数の多さを反映しているにすぎない のかもしれない。つまり訪花昆虫の数は花の「人気」を表しているのではなく、もしそれ を評価するのであれば、花数あたりの訪花昆虫数を求めるほうがよいが、この調査ではそ れはしていない。
一方、花の数が多いのはその植物の形態的特徴で株あたりの花数が多いということだけ でなく、その植物が生育地に適していて、多くの株が生育できているためでもある。そう であれば、「人気」があろうがなかろうが、一定面積に花がたくさんあること自体に意味が あり、花あたりの訪花昆虫数が少なくても、トータルに多くの訪花昆虫を引きつけていれ ばそれでよいという考えもありうる。
利用する昆虫の側からすれば、ごく少数あって非常に美味しい蜜を出す植物を探して吸 蜜するという昆虫もいれば、さほどおいしくはないが、ある程度満足できる味の蜜があり、 それがたくさんあるほうがよいという昆虫もいるであろう。ある場所での訪花昆虫の数と は、そうした植物と昆虫の集団どうしの関係が展開されていると見ることができる。
そのように考えれば、9 月上旬のこの調査地にはシラヤマギクが豊富にあり、草丈が 2 メートルもある大きな株に多数の花が咲いており、そこに多数の訪花昆虫が来ていたこと は、この場所の昆虫群集にとってシラヤマギクがもっとも魅力的な花蜜供給源になってい るとみてようであろう。そのシラヤマギクにはハエがもっとも多く来訪したが、ハチやチ ョウも来ていた。これに対してカリガネソウは訪花昆虫が少なく、ほぼクマバチだけであ ったし、クサギはガ(オオスカシバ)が独占的であった。
<花の形と昆虫>
観察した 11 種の花を整理してみた(表1)。
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分類学的にはキンポウゲ科、キク科、クマツヅラ科が2種あったが、それ以外は違う科 に属し、多様なグループをカバーしている。クサギを除けばすべて草本である。
花の形は多様で、類型も複雑になるが、ここでは訪花昆虫との関係から皿状の花と筒状 の花に大別した(図4)。
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図4. 訪花昆虫を調べた花.上の5種が皿形,下の6種が筒型
皿状の花は蜜が得やすく、ハエ、アブのような舐めるタイプの昆虫でも吸蜜可能である。実際、キンミズヒキとセンニンソウにはおもにハエ、アブが来訪していた。皿状であることは吻の長い昆虫が利用できないことを意味しない。実際、アキカラマ ツ、オミナエシ、ツルボにはハチが来訪していた。アキカラマツにはハナムグリが来訪し ていたが、ハナムグリは吸蜜ではなく花粉を食べていたと思われる。
筒状の花はハエ、アブを排除し、チョウやハチと特殊化した関係をもつと考えられる。 そのうち、カリガネソウにはクマバチが来た(図5)。この花は典型的なハチ媒花であり。 細長い花筒の奥にある蜜はハエ、アブは吸蜜できない。
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図5. カリガネソウに来たクマバチ
クサギにはオオスカシバが来て、ホバリングしながら吸蜜していた。クサギの花筒は 20 ミリほどあり、大型のチョウやガしか吸蜜できない。ノハラアザミにはチョウ(セセリチョ ウ)とハチが来訪していた。しかしアキノタムラソウとシラヤマギクは筒状の花であるにもかかわらず、ハエ、アブがよく来訪していた。アキノタムラソウは観察した花も少なく、ビギナーの1例しかないので、結論は保留としておきたい。シラヤマギクは筒型の花であるが、ハエ、アブも多く来訪していた。
ここで、同じキク科であるノハラアザミとシラヤマギクの比較をしてみたい。これらの 花は頭状花と呼ばれ、ツボ状の総苞のも中に筒状の花がたくさん集まっている。アザミの 場合は筒状花の先端に縦にのびる花びらがあり、その中から雄しべ、またはめしべが飛び 出している(図5)。筒の部分の上部は長さ3mmほどでやや広く、下部 は狭くなっており長さは 10mm ほどある。
これに対してシラヤマギクの場合、頭状花の淵の部分に白い舌のような花弁(「舌状花」) がある。コスモスやマーガレットなどよく知られたキク科は舌状化をもち、「野菊」も同様 である。筒状花では花弁は2mm 程度と短く、筒の上部は2mmほどの長さで、下部もアザ ミよりはよほど短く3mm ほどしかない(図6)。
私は実際に筒のどの部分に蜜があるのかを知らないが、シラヤマギクのほうが浅いこと はまちがいないはずで、アザミの筒の一番下だったらハエはまったく利用できそうもない。 太い部分の基部であっても難しいだろうが、シラヤマギクであればなんとかなりそうだ。
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図6. ノハラアザミ(左)とシラヤマギク(右)の筒状花.格子の間隔は 5mm.
ノハラアザミに来たセセリチョウの写真をみると、確かに長いストローのような吻を伸 ばして吸蜜している(図7)。こうした花の構造と昆虫の吸蜜についてもっとつっこんだ調 査をする必要がある。
表1のうち、筒型の花はほぼチョウやハチのような吻の長い昆虫に利用され、例外がシ ラヤマギクだが、この例外は花筒が短いという点で、筒型であることで吻の長い昆虫専門 になっていないということであるようだ。
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図7. ノハラアザミを吸蜜するセセリチョウ
この整理によってうかがわれることは、これまで漠然と「さまざまな花にさまざまな昆虫がきている」としか見ていなかったが、花の形に着目すると、皿形の花にはハチなどだけでなく、ハエやアブも利用できるが、筒型の花には基本的にチョウやハチしか来ないという違いがあることがわかるようになるということである。つまり、昆虫を利用する花が構造を違えることによって訪問者を広く集めたり、制限を加えたりしていることが見えてきた。それは、ただ「花や虫にもいろいろあるなあ」とはまったく違う「見え方」といえる。
次に、データを整理して、左側に花を、右側に昆虫群を並べて、そのつながりの程度を 線で結んでみた(図8)。皿状の花を上半分に、筒状の花を下半分に配置した。太い線ほど 訪花頻度が高かったことを示す。
これを見ると全体に太い線が上にあることがわかる。つまり皿状の花がハエ、アブ、ハ チに頻繁に訪問される傾向があるということである。皿状の花で訪花頻度が低かったのは アキカラマツとキンミズヒキだったが、その理由はよくわからない。そしてその花は 2 群 または 3 群の昆虫群の訪問を受けていた。シラヤマギクは筒状だが、すでに述べたように花筒部が浅いのでハエ、アブでも訪問できた。これを除くと筒状の花は 2 群の昆虫群に低 頻度で訪問されていた。この図では表現されていないが、これらの多くは量的には多くないので、その花の前で待っていても、たまに特殊な昆虫が来て集中的に吸蜜しては、また飛び去るという印象であった。この中でノハラアザミだけは植物体も大きく、群落を作っていて、花がまとまってあり、訪花頻度は低いのだが、群落面積が広いから、かなりの数の昆虫が訪問しているという印象がある。
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図8. 9 月の玉川上水で観察された虫媒花と訪花昆虫のつながりのネットワーク
繰り返しもあるが、まとめてみたい。秋の日の野草観察ゾーン、文字通りいろいろな野 草の咲く草原にはブンブンとあるいはプーンと羽音をたてて昆虫がいて花を訪問していた。 音もなく訪れる昆虫もいた。この季節にはハエ、アブが多く、彼らは棍棒状の吻で蜜を舐 めるので、蜜が舐められる皿形の花によく来た。皿形の花をもつオミナエシやセンニンソ ウ、ツルボなどがときどきあり、そこによく集まっていた。シラヤマギクがとくにたくさ んあったが、この花は皿形ではなく、筒型なので、ふつはハエ、アブは吸蜜できないのだ が、花の筒が浅いのでハエ、アブもたくさん来ていた。ほかの筒型の花はところどころに しかなく、ハエ、アブはほとんど来なかった。例えばカリガネソウ、クサギ、ツルフジバ カマなどには、ときどきあまりみないクマバチやオオスカシバ、ガの一種などが来て集中 的に吸蜜しては飛び去った。ノハラアザミは筒状の花の中では量が多く、おもにチョウが 来たが、ハエ、アブも来ていた。
<観察活動について>
日曜日の午前中に集まって昼ごろの1時間を観察に使った。それにより39セッションの データがとれた(その後ひとりで 8 セッションを追加)。初心者を対象としたので、昆虫の類型は粗くした。双翅目(ハエ、アブ)とハチの区別は説明したが、小さいハチ擬態の双翅目が瞬時に訪花して飛び去った場合、誤認して「ハチ」とした例がないとはいえない。 また、私の説明が十分でなかったため、同じ昆虫が同じ花を複数回訪問した場合、1 回として記録した人があった。これらの点は改善したい。
しかし、まったくの初心者が1時間ほどの時間を花に向かい合って昆虫の記録をするこ とで、興味深い結果が得られたことは、観察会としてよかったと思う。それはよくある、 散歩しながら花の名前を確認するだけの観察会とは明らかに違うものといえよう。普段は美術を学ぶ学生や、悠々自適の年配者が、日常的にはしたことのないこうした体験をすることで、これまで何気なくながめていた草花に昆虫が来ること、その来かたが、花の形によって違うことなどを知れば、今後はそれまでと違う気持ちで草花を見るようになるだろ う。この観察はその契機になると思う。
われわれが観察した場所はすぐ脇を五日市街道が走っており、自動車がひっきりなしに 往来している(図9)。
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図9. 訪花昆虫を観察する参加者。背後の五日市街道には多数の自動車が往来している。
そのような場所にたくさんの野草があり、それに多数の昆虫が来訪している。そのこと 自体の意味は、都市における自然保護や、自然観察についても改めて考えることがあるこ とを示唆しているように思う。
協力者: 岡村有紀、楠本未来、小林昭文、佐々木彩花、関野吉晴、棚橋早苗、寺尾 葉、成瀬つばさ、根岸まりな、松山景二、水口和恵、宮嶋和貴子、宮元伸也、望月禅観、和田七海
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